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異世界転移って本当にあるんですね   作者: 玲琉
眠りの月
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「すごく細かいのね。よくこんなの作れるわね」


「あの子はこういうの、得意なのよ」


「見事なものじゃのう」


「シロヤマさんに似合うよね。可愛いけど可愛すぎないっていうか」


「そうよね。ダフネって子、分かってるわね」


「ここまで精密にするには相当な努力をしたんだろうね」


「あ、それと、綺麗な石を見つけることもあったわ」


「綺麗な石?」


「赤とか青とかオレンジっぽいのとかの半透明なのが、石に埋まってるの。まだ南が安全だった頃、たまに連れていって貰って拾ってたわ」


「それって、どうしたの?」


「石から取り出して、そのまま仕舞ってあるわよ。私の部屋に。綺麗だったしね」


「原石じゃなかったんですか?」


「原石って宝石の?まさかそんな事……」


「見てもらった方がいいわ。なんならオーガ族の方を紹介するわよ」


「ねぇ、嘘よね。だって拾った石よ」


「サクラちゃんはそういうの、知ってるの?」


「私が知ってるのは、石に原石が埋まってることがあるって事と、石だと思っていたらそれが原石だったって事があるってだけです」


なんだかショックを受けているルビーさん。どうしたんだろう。


「ルビー、どうしたの?」


何かを言いかけて、止めてを繰り返して、何かを決めたように話し出した。


「さっき拾ったって言ったでしょ。たまたま知り合った竜人族の子に貰ったのがあるのよ」


「竜人族って宝石を送って愛情表現するんじゃなかったっけ?」


「ライル様は知っていたのね。その話を思い出したの。違うわよね」


「その子とはそれ以来会ったことは?」


「ないわ」


「なら良いんじゃないかな。竜人族って約束は絶対に忘れないらしいから」


「そうじゃな。竜人族は恩義や約束は忘れない。友人に1人おるが、律儀に年に数度は連絡して来るのう」


「竜人族の方って見た事無いんですけど」


「里から出てくる人数が少ないからね」


「出てくるのは変わり者じゃと、あやつも言っておったのう」


ルビーさんはまだ悩んでる気がするけど、診察時間が迫っていた。話を切り上げて診察室に向かう。


お昼からの診察が始まって、10人ちょっと診たところでナザル所長に呼ばれた。


「シロヤマさん、済まんの」


そこに居たのは王宮魔術師の方。車イスの説明をした人だ。


「お久しぶりです天使様」


そう言ってニヤッと笑う。嫌な笑い方じゃなくて、からかっているのが分かる笑い方だったから、そのままスルーしてこちらも挨拶をした。


「お久しぶりです。どうされたんですか?」


「あれ?天使様って言って『止めてください』がなかった。おかしいな」


「悪ふざけもいい加減にせんか。試作品を持ってきたんじゃろ?」


「もう、もうちょっと楽しませてよ」


「楽しみに来る所じゃないわ」


「久しぶりなんだからさ、反応とか見たいじゃない。天使様は相変わらず可愛いし」


「いい加減にせんか。追い出すぞ」


「待って待って。短気なんだから」


何を見せられて聞かされてるんだろう。お友達同士のじゃれあい?ちょっと呆れてしまった。


「済まんの、シロヤマさん。こやつはこんな奴じゃが、道具はちゃんと作るんじゃ」


「そうそう、車イスの試作品を持ってきたよ」


魔空間から取り出されたのは、ダイニングの椅子の座面が布になってる形に、車輪が付いた物。ちゃんと手すりもついてる。


「もうちょっと振動を何とかしたいんだけどね」


「振動ですか……。バネとか?」


「それはやってみた。かえって揺れが酷くなったよ」


「あ、そうですね。何か無いかな?」


椅子と車輪を繋ぐ縦棒に、何かするって聞いたことあったんだけど。


「今すぐ思い付きません」


「だよね。とにかくこういう風に作れたって知らせに来たんだ。何か思い付いたらまた教えて」


「はい」


「シロヤマさんでも思い付かないかの」


魔術師さんが帰っていってから、所長に聞かれた。


「車イスの構造は分かるんですけど、振動を和らげる手段はちょっと分かりません」


「あちらではどうなってたんじゃ?」


「タイヤと言うものがありました。弾力のあるゴムという物に空気を入れてあるんです」


「空気か。風属性の魔法を閉じ込められたら、良いかもしれんな」


「何かあった気はするんですけど。お役にたてず申し訳ありません」


「いやいや、また思い付いたら教えてくれれば、あやつに知らせるからの。呼び出して悪かったの」


「いいえ。失礼します」


自分の診察室に戻る。ショックを和らげるもの、何だったっけ?ダメだ。全く分からない。


何人か患者さんを診た後でどこかで見たことのある女性が入ってきた。名前の欄にはシャルロッテとしか書いてない。


「こんにちわ。天使様」


「はい。今日はどうされましたか?」


「あの、少し相談がございまして」


話し方が貴族令嬢のようだ。


「相談ですか?」


「天使様は闇属性も持ってらっしゃるとお聞きしたのですが、本当ですの?」


「はい。持っていますよ。それが?」


「闇属性は精神的に作用するんですのよね」


「はい」


「あの、(わたくし)の愛する方も闇属性持ちですの。それで悩まれてみえて、天使様が闇属性を持ってらっしゃるとお聞きして、ご相談に参りましたの」


この人、貴族令嬢だって隠したいんだろうけど、話し方がどんどんご令嬢っぽくなってきてる。慣れてないんだろうけど。


「あの、どなたかご一緒にいらした方は?」


「お忍び……いえ、黙って抜け出して参りましたので、居りませんわ」


「シャルロッテ様、何をお聞きになりたいんですか?」


(わたくし)はただのシャルロッテですわ。様など付けないで下さいまし」


「お言葉遣いが貴族様の()()になっていますよ」


「あ、あら?おかしいですわね」


ダメだ。隠せてないのを気が付いてない。


「お聞かせください。何をお聞きになりたいんですか?」


「闇属性って、その、怖くはございませんの?」


「精神的な作用を怖いと仰るのですか?」


「無意識に闇属性を使ってしまうとか、人を操ったりだとか、そういった事はございませんの?」


「操る、ですか?たぶん私には無理です。でもそういった方は知っています」


「やはり恐ろしいのですね」


「その人は興奮してしまって制御を手放した、と仰っていました」


「まぁ、興奮されましたの?」


「後で聞いたんですが、どの属性でも意識をせずに魔法を出現させようとしたら、かなり体に負担がかかるそうです。だから小さい頃から魔力制御を練習しますよね」


「そうですわね。魔力量の少ない庶民でもそうなんですの?」


「そう聞いています」


「では闇属性だからと言って怖がることはないと?」


「シャルロッテ様が闇属性を怖いと思うのは、何故ですか?」


「教えてくださる方がおりましたの。闇属性は悪い属性だと」


誰?そんな悪意のある事を言ったのは。それにシャルロッテ様、素直すぎる。


「私の考えを聞いていただけますか?」


「えぇ、天使様」


「光の中では人は活動的になれます。何かをしようとして暗闇の中でしか出来ないことってそう多くはないですよね。代わりに光の中では人は休めません。お日様の燦々と照らされてる中でお昼寝ならともかく、何刻も眠れませんよね」


「そうですわね。やはり暗闇でないと休めません……あら?」


「闇は心身を落ち着かせるんです。人が休もうとすると、必ず闇を求めます」


「闇属性は悪くないと?」


「えぇ。光と闇は表裏一体ですから。光の中で光は見ることはできませんし、闇の中で闇を見ることは出来ません。光を見るには闇が、闇を見るには光が必要なんです」


「本当ですわね」


シャルロッテ様はうんうんと頷かれている。


「シャルロッテ様のお好きなお方は、悪いことを考えるお方では無いのでしょう?」


「もちろんですわ」


「それならそのお方を信じればよろしいのです。光属性でも悪いことをしようとすればできてしまいます」


「どのようなことですの?」


シャルロッテ様がキラキラした目で聞いてくる。


「強い光を出せば、その光を見続ければ、目に障害を起こす可能性があります」


「恐ろしい事……」


「それを強く意識すれば出来る、と言うことです。人を害するのも癒すのもその人の心次第です」


「さすがに天使様ですわ。相談に来て良かったですわ」


シャルロッテ様はニコニコして帰られたけど、私は疲れてしまった。


「シロヤマさん、お疲れ様」


ライルさんが顔を見せた。


「シャルロッテ様をここに寄越したのは、ライルさんですか?」


「ごめんね。最初僕に相談が来たんだけど、僕には闇属性がないから、説得力がなくてね。でも分かりやすくて、聞いていて感心しちゃったよ」


「そうじゃのう。闇属性で悩んでいる者は多いからのう」


「所長も聞いていらっしゃったのですか?」


「私達も聞いていたわよ」


「みんな聞いてるってなんなんですか……」


「興味あったんですもの」


「どう言えばいいか分からなかったしね」


「でも分かりやすかったわ。ああいう風に言えばいいのね」


「診察はいいんですか?」


「気付いてなかったの?もうすぐ5の鐘よ」


「気付きませんよ……」


言ってる間に5の鐘が鳴った。


「終業じゃの。お疲れ様」


所長に言われて立ち上がる。着替えてローズさん、ライルさんと一緒に……。


「やっぱり付いてくるんですね?」


「だって見たいじゃない。トキワ様の神殿騎士姿」


「ボクも見たいなぁ」


ルビーさんとマルクスさんも付いてきていた。


王宮への分かれ道まで来たけど、大和さんはまだ来ない。


「どうしたのかしらね」


「いつものじゃない?」


「模擬戦かな?」


「王宮名物の?」


マルクスさんの言葉に、みんなが振り返った。


「王宮名物って何?」


「黒き狼と王宮騎士団の対決って言うか、対戦かな。1人も勝てないって言うのがね。噂では模擬戦が始まると王族の方まで、見にこられるとか」


「トキワ様が神殿騎士になったら、今度は神殿名物になるのかしら」


「あ、来たみたい……だ……よ……」


ライルさんの言葉が吸い込まれるように消えた。


「すごいわねぇ」


「似合うわね。似合いすぎね」


「独特の雰囲気があるって言うか……」


大和さんが笑顔で駆け寄ってくる。


「お疲れ様、咲楽ちゃん。皆さんはお揃いでどうされました?」


「サクラちゃんが惚れ直したトキワ様の神殿騎士姿を見に来たのよ」


「こういう見世物っぽいのは嫌でしょうけど。ごめんなさいね」


「いえ。咲楽ちゃんを心配してって言うのもあったでしょうから」


大和さんがそう言うと、ルビーさんとライルさんがそっぽを向いた。そうだったの?


「ありがとうございます」


「トキワ様の神殿騎士姿を見たかったのよ。それだけよ」


「はい。でもありがとうございます」


重ねてお礼を言うとルビーさんとマルクスさんは帰っていった。なんだかきゃあきゃあ言いながら。


「帰ろうか、咲楽ちゃん」


「はい。ローズさん、ライルさん、失礼します」


大和さんと手を繋いで家に帰る。


「咲楽ちゃん、何かあったの?」


「色々疲れました」


「話せる事?」


「ほぼ話せないです」


市場(バザール)寄ってく?」


「はい。パンが欲しいです」


ヴァネッサさんのパン屋に寄ると、ヴァネッサさんから手招きされた。


「天使様、これ持っていってくださいな。ネクタリン()のフリュイを入れて焼いてみました」


「あの後、作ったんですか?」


「えぇ。ジャボレー(さくらんぼ)のフリュイも入れたかったんですけど、亭主に叱られました。でも色々やってみますよ」


「本当に無理しないで下さいね」


何種類かのパンを買って、挽肉を買って、市場(バザール)を出る。


「今日はパスタでいいですか?」


「うん。咲楽ちゃん、大丈夫?」


「疲れたのは精神的にですから。お料理してたら回復できます」


「そう?無理しないでね。さっきのパン屋さんの会話って?」


「ナッツ入りのとベリーのパンが美味しかったって言ったら、何かアイデアは無いかって聞かれたから、ジャムパンのアイディアを話しただけです。菓子パンとか惣菜パンって無いじゃないですか」


「クリームパンは?」


「好きなんですか?」


「菓子パンの中ではあれが一番好き」


「カスタードは作れますけど、パンが焼けないです。やっぱり天然酵母を仕込まないとダメかなぁ」


「咲楽ちゃんの好きなパンは?」


「私の好きなパンですか?クルミとチーズの入ったパンが好きでした」


「何それ旨そう」


大和さんが顔を輝かせる。


「パン、好きなんですか?」


「慣れちゃったからね」


「無発酵のパンもありますけど」


「無発酵のパン?」


「ロティとかチャパティの平焼きパンと言われるものです。でもあれって、パンらしくないって言うか、パンとは別物って感じがして」


「確かにそうだね。さっきのヴァネッサさんに言って作ってもらえば?」


「クルミとチーズの入ったパンは思い付いたで大丈夫でしょうけど、クリームパンはどうしましょう」


「確かに好きだけどそこまで食べたいって訳じゃないよ。それよりクルミとチーズのパンを食べてみたい」


「ヴァネッサさんに話してみます」


家に着いて、着替えをしてからお夕飯の支度。


買ってきた挽肉と玉ねぎ、ニンジンなんかの野菜をミジン切りにしたものを炒めてソースを作る。ミートソースにしようと思って、トマトを買い忘れちゃったんだよね。これを茹でたパスタと絡めてチーズをかけたら完成。


「おっ。ジェノベーゼだね」


「バジルは使ってないですよ?」


「スーゴ・アッラ・ジェノヴェーゼって言うのがこういうのだったはず。バジルを使ったのはペストゥ・ジェノベーゼって言ってた」


「イタリアの方がですか?」


「そうそう」


知らなかった。ジェノベーゼって言ったらバジルを使った緑のだと思ってた。


「それで、疲れたって何があったの?」


「地属性の事を教えてもらった時にルビーさんの問題が発覚したのと、車イスについてです」


「地属性の事って、俺にも関係あるね」


「ですね。金属も地属性で加工できるらしくて、ダフネさんは地属性であのブローチを作ったらしいです」


「すごく細かかったと思うんだけど、あんなことが出来るの?」


「所長が感心してました。相当な努力をしたんだろうって」


「ふぅん。すごいね。咲楽ちゃんもやってみたら?」


「彫金って事ですよね。やってみたいですけど、時間がありません」


「時間がネックだね。後は?」


「南の街門の方で、綺麗な石を拾ったって話です。まだ南の街門の外が安全だった時に、時々連れていってもらって、拾ったんだとか」


「綺麗な石?」


「石の中に赤とか青とかオレンジっぽいのとかの半透明なのが埋まってるって言ってました」


「それって宝石の原石?」


「そう思って聞いてみたんですけど、分からないって。オーガ族の方に聞いてみたらって、ローズさんが言ってました」


「貴石だったら凄いね」


「でもそれでルビーさんが悩んじゃって」


「何を悩む必要が?」


「1つ竜人族の子に貰ったのがあるみたいなんですけど、竜人族って宝石で愛情表現するらしくって、しかも、約束とかは絶対に忘れないんだそうです」


「プロポーズされてたんじゃないかって、悩んじゃったんだ」


「はい」


「マルクス殿が居るしね。でもそれから何も言ってこないのなら、放っといて良いんじゃない?」


「でもやっぱり引っ掛かるじゃないですか」


「その竜人族に聞いてみるしかないね。子どもだったら意味を知らずに渡したって可能性もあるし。本能的なものなら仕方ないけどね」


「そうなんです。しかもその後、1度も会ってないし、扱いをどうしようって悩んじゃって」


「さっき見たときには悩んでる感じはなかったけど」


「吹っ切れたんならいいんですけど」


「俺の神殿騎士姿を見に来たって言ってたけど、何だったの?」


大和さんがお皿を洗ってくれながら聞いてきた。


「朝、途中までローズさんが迎えに来てくれたんですけど、その時に大和さんの神殿騎士姿はどうだった?って聞かれて、似合ってた、って答えたら、見たいってなっちゃって」


「見世物になるのは勘弁してもらいたいけどね。彼女達もそれは分かってたようだしね」


「大和さんが嫌がるかもって言うのは伝えましたよ」


ソファーに座ってお喋りをする。


「ちょっと咲楽ちゃん成分の補充、させて」


肩を引き寄せられて、膝枕状態にされる。


「大和さんも疲れたんですか?もしかして、模擬戦?」


「その通り。誰かが予想してたの?」


「みんながそう思ってましたよ」


「皆がってマルクス殿まで?」


「大和さん、王宮でも模擬戦をしてましたよね。噂で『王宮名物の黒き狼と王宮騎士団の対戦』ってなってたみたいです」


「何それ」


「言葉通りでしょう。黒き狼の全勝だったって言うのが噂に拍車をかけたみたいです。マルクスさんが言ってました」


「マルクス殿なら、噂には詳しいだろうね」


「ですね」


「気持ちを切り替えなきゃだね。風呂に行って、もう寝るよ」


「明日って……」


「早番だね」


「朝はどうします?」


「食堂で用意されるって」


「分かりました」


「明日、俺は早番だけど、ゴットハルトとエスターは日勤だから。神殿の分かれ道まではたぶん一緒だと思うよ」


「普通に接することが出来るでしょうか」


「ゴットハルトとエスターは、咲楽ちゃんの男性恐怖は知ってるから。無理だったらそう言えばいい」


「はい」


大和さんはそう言ってお風呂に行った。ゴットハルトさんとエスターさんが知ってるって昨日の事だよね。大和さんが居るから普通に接することが出来ていたけど、居なかったらどうなるのか分からない。


悩んでも仕方がないのは分かっているんだけど。


お昼の分と2杯分のスープを作りながら考える。あの時何故急に怖かったのかは分かっていない。大和さんは推測も教えてくれていない。


普通にすれば良いって事は分かってる。ゴットハルトさんもエスターさんもいい人だ。私をどうにかってことは考えないよね、多分。


考えながら作ってたら、スープが完成しちゃった。異空間に入れて、どのくらい()つのか実験しよう。


朝食分だけをスープボウルに入れて、異空間に入れる。


今は……7時半頃かな?時計を見て、大体の時間を計算する。


いつも起きるのが、朝の6時過ぎだから、食べるのは11時間後。もうちょっと短い時間から始めたかったけど、仕方がない。冷めちゃってたら、もう1度温めればいいや。


「咲楽ちゃん、俺はもう寝るけど、暖炉はどうする?」


「私ももう、上がります」


そう言うと大和さんが暖炉の始末をしてくれた。


「お風呂だけ入っておいで。出てくるまでは寝ないから」


「はい」


パジャマを取ってきて、お風呂に向かう。


シャワーを浴びてたら唐突に思い出した。シャルロッテ様って王宮での謁見の時、翌日に居たご令嬢だ。あの時って上級貴族の方しか居なかったはず。って事はシャルロッテ様は侯爵令嬢か、伯爵令嬢ってことになる。ライルさんが相談を受けたって言っていたって事は、伯爵令嬢?


あの時は、緊張してたのといっせいに話しかけられた事で、お顔は見覚えがあるんだけど、名前は記憶していない。婚約者の方も名前は覚えていないし。覚えてるのはヴァイオレット様だけ。


お風呂から出て、寝室に行く。大和さんは横になっていたけど、起きていてくれた。


「お帰り」


「ただいま戻りました。ってお風呂に行ってただけですよ」


ベッドに上がって、大和さんの横で座る。大和さんの頭が乗ってきた。


「膝枕ですか?」


「俺が今から咲楽ちゃんを抱き締めて寝ちゃったら、咲楽ちゃんが困るでしょ?だから、ね」


「仕方がないですね」


大和さんの頭を撫でる。いつもと逆だけど、こうしていると落ち着いてくる。


「気持ちいいね」


「眠ってください」


刺繍もしなきゃだけど、大和さんの頭を撫でていたい。


少ししたらすぅすぅと規則正しい寝息が聞こえてきた。寝ちゃったかな?


でも多分まだレム睡眠だ。もう少しこのままでいよう。


大和さんの寝顔を見るのは久しぶりだ。整った精悍な顔。いつも優しい笑顔で、でもたまに厳しくて、剣舞の時は真剣で綺麗で。大和さんの寝顔を見たのって、大和さんが弱ってる時だけだったりする?いつも私が先に寝ちゃって、朝は大和さんの方が早い。


刺繍の道具を出して、刺繍を始める。大和さんを膝枕したまま。だって動かして起きちゃったら嫌だし、早番勤務の時って確か8の鐘からだったから少しでも寝ておいて欲しい。


静かな時間が過ぎる。もうすぐ金の背景が半分刺し終わる。でもそろそろ寝ないと6の鐘が鳴った。


そぅっと足を動かして、大和さんの頭を下ろす。ベッドから降りて灯りを消した。


「おやすみなさい」


大和さんに囁いて目を閉じた。



ーーー異世界転移48日目終了ーーー

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