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明けましておめでとうございます。輝かしい新年をお迎えの事と存じます


この一年が憂い無き一年となりますようにお祈り申し上げます


本年も『異世界転移って本当にあるんですね』をよろしくお願い致します



「ここで居ます」


「咲楽ちゃん、おいで」


「ごめんなさい。無理です」


平気になってきたとはいっても、4人の男性の中に入るのが怖い。みんな知っている人だし大丈夫かと思ったけど、紅茶をサーブする時に怖くなってすぐに離れた。


大和さんが側に来た。


「集団になると怖い?」


「ごめんなさい。慣れてきてるって思ったんですけど」


「謝らなくていいよ。部屋に居たら?」


「ダイニングでいます」


「たぶん理由を聞かれると思うんだけど、言ってもいい?」


「はい」


大和さんが戻っていった。多分、理由(わけ)を説明してるんだろうな。何故、っていうのはともかく、「男性が怖い」っていうのは多分言ってると思う。


ダイニングの椅子に座って本当は刺繍でもって思ったんだけど、そんな気分じゃなくなった。何かをしてるっていう事が出来ない。


慣れてきたと思ったのに。みんな良い人だって分かってるのに。大和さんも居て、安心できるはずなのに。


こんな風になってしまう自分が嫌だ。良い人って分かっている人達にも恐怖を感じる自分が情けない。何より大和さんが怖いって思う自分が嫌い。好きな人が怖いなんておかしい。


いつの間にかプロクスさん達は帰ったらしい。大和さんがダイニングの入口に立っていた。


「咲楽ちゃん、大丈夫?」


その声は優しくて、暖かくて縋ってしまいたくなる。でも私は自分が許せなかった。大和さんまでも怖いと思った自分がどうしても許せなかった。


「大和さん、ごめんなさい」


「何を謝ってるの?」


「ごめんなさい」


「咲楽ちゃん?」


「ごめんなさい。ごめんなさい」


情けなくて、謝るしかできなくて、謝り続けた。


「どうしたの?謝らなくていいよ。何があったの?」


答えられずに俯くしか出来なくて。そんな私に近付いた大和さんは黙って抱き締めてくれた。


「リビングに行こうか」


そういわれても動けない。大和さんが抱き上げて運んでくれる。


「ごめん、なさい」


「謝らなくていい」


いつもと違う口調に怒らせてしまったと思った。


「ごめんな……」


「謝るな」


黙るしかなかった。聞いた事の無い命令口調。


「何があった?」


「……」


「答える気はない、か」


答えたいと思うんだけど、声が出なかった。黙って首を振った。大和さんはソファーに私を抱いたまま座る。


「咲楽ちゃんが男性が怖いって事は知ってる。まだ俺も怖い?」


「こわ、くない、です」


「やっとごめんなさい以外を言ったね」


「ごめん、なさい」


「謝るなって言ったでしょ。どうしたの?」


「急に、怖く、なって。みんな、良い、人って、分かって、いる、のに、怖くって、大和、さん、まで、怖く、って、好き、な、人まで、怖く、なった、自分が、許せな、くて」


途切れ途切れにしか話せない私の話を、大和さんは黙って聞いてくれた。


「大丈夫だから、咲楽ちゃんが許せなくても俺が許すから」


「だって、大和さん、まで、怖く、なって……」


「今は?」


「怖くない、です」


だんだん普通に話せるようになってきた。


「大和さん」


「ん?」


「もう、少し、このままで、いて下さい」


「OK」


大和さんはずっと私を抱き締めていてくれた。


6の鐘が聞こえた。


「大和さん、お風呂行かないと」


「ちゃんと話せたと思ったら、それなの?」


「時間が気になって……」


「一緒に入る?」


「無理です」


「冗談だよ。でも1人で大丈夫?また考えすぎたりしない?」


「がんばります」


「頑張らなくて良いからね。刺繍とか、気を紛らわしたほうがいい」


「はい」


心配そうに私を見ながら、大和さんはお風呂に行った。


刺繍の道具を出して、いつもの倍以上の時間で一針づつ刺す。絶対に平穏じゃないと思うから、ゆっくり丁寧にを心掛ける。


刺繍を始めた時のような緊張感で、丁寧に。今刺しているのは、主神リーリア様の金色。大和さんの奉納舞の時に見た神々しい金の光。眩しいだけじゃなくて、優しい光だった。


大和さんがお風呂からあがってきた。


「咲楽ちゃん、どう?」


いつも通りの優しい声。頼りになる穏やかな大和さんの声だ。


「大和さん」


「少しは落ち着いた?」


「多分、落ち着けました」


「多分、か。まだ心配だけどね」


暖炉の火の始末をした大和さんが私を横抱きにする。


「大和さん、自分で歩きます」


「駄目。大人しくしてて」


そのまま部屋まで運ばれる。


「着替え、取っておいで」


もしかして取ってきたら、また運ばれる?


パジャマを持って廊下に出ると、やっぱりお風呂場まで運ばれた。


「出るまで待ってるからね」


「ここでですか?」


「ダイニングで。見えないから大丈夫でしょ」


確かに見えないんだけど。


「早く行っておいで。中まで連れていこうか?」


ブンブンと首を振ったら、笑われた。


あの時のあの感情はなんだったんだろう。こっちに来て一番最初にあの部屋で大和さんに肩を支えられた時には、少し怖かったかもしれない。でも、一緒に暮らしはじめてもう1ヶ月経つ。その間に大和さんの優しさとか、大和さんが心に抱えてる重荷を知って、支えたいって思ってきた。


大和さんの事は好きだし、初めてキスした時も嬉しかった。プロクスさんやゴットハルトさん、エスターさんも優しく接してくれる。怖いなんて1度も思ったことはないのに。


あの時何故、怖かったのかが分からない。以前、ゴットハルトさんとエスターさんと一緒に出勤した時も怖くはなかった。


不安なのかな。明日からは大和さんは神殿勤務で、一緒に出勤できる日も限られてくる。私自身の事なのに、私自身がよく分かっていない。


考えても結論が出ないのはいつもの事なんだけど、本当は結論を出しておきたかった。


お風呂を出たら、大和さんが待っていた。当然のように抱き上げられて寝室に運ばれる。


「咲楽ちゃん、無理してない?」


「してないです」


「なら良いんだけどね」


私をベッドに降ろして、大和さんが後ろに回ると、抱き締められた。


「キツい言葉を使ってごめんね」


「キツい言葉?」


「謝るなって命令したでしょ。怖くなかった?」


「怖いっていうか逆らえないっていうか、従うのが当然というか、そんな感じでした。でも、ああ言ってくれたから、謝罪の言葉を止められたんです」


「何があったの?」


「自分でも分かりません。4人が話しているのが視界に入ったら怖くなりました」


「思い出したくないかもしれないけど教えて?最初に追いかけられたっていうのは何人に?」


「覚えてないです。3人は居たっていうのは、あの時何度も話したから、覚えてるんですけど」


「閉じ込められたっていうのは?」


「あの時……は……4~5人でした」


「嫌な事、思い出させたね。ここにはソイツ等は居ないから大丈夫。不安ならずっと俺が抱いているから」


「何か分かったんですか?」


「確信は持てないよ」


「教えてください」


「駄目。教えない。あのね、咲楽ちゃんは日本にいた時の事で、自分が思うより深い傷を負ってる。更に今日は知っている人を怖いって思ってしまった事に、ショックを受けてる。そんな状態の咲楽ちゃんに教えられない」


「でも、自分の事です。またあるかもしれないんです。お願いします。教えて下さい」


「いつかは教えるよ。でも、今は駄目。教えられない。それに推測にすぎないから」


「それでも良いんです。教えて下さい」


「咲楽ちゃんの傷を広げたくないから教えたくない」


そう言われると何も言えない。大和さんは私の事を気遣って、恐らく当たってるであろう推測を話そうとしない。どこまでも私を傷つけないように護ってくれる。


「護ってくれるのは嬉しいんです。でも護られているだけじゃいけないんです」


そう言うと、大和さんは困った顔をした。


「何者からも護りたいっていうのは俺のわがままだ。わがままだって分かってても、それでも譲れない。特に今はね。咲楽ちゃんは自分の傷より人の傷を優先するから」


そう言って、そっと私の頬に手を伸ばす。


「『護られてるだけじゃいけない』っていうのは大事だと思うよ。それでも今は護られて欲しい」


「大和さんが護ってくれるのは嬉しいんです。いつかは話してくれますか?」


「もちろん。自分の事が分からないって自覚しちゃうと、気持ち悪いからね」


「ありがとうございます」


私を抱き寄せて、大和さんはずっと頭を撫でていてくれた。


「大和さん、今日のアッシュさんの話なんですけど、1つ分からないことがありました」


「何?」


「なぐさみものって何ですか?」


大和さんの手が止まった。


「意味としては慰める為のモノだけど、アッシュの言っていた事から考えたら『一時的に弄ぶ対象』だね。何人かでブランを性の捌け口としようとしてたんだと思う。アッシュがキレてもおかしくないね」


「性の捌け口って……」


「無理矢理ってことだろうね」


「ブランさんはその事……」


「知らないと思うよ。アッシュが悟らせなかっただろうしね。あいつも咲楽ちゃんと一緒で心に溜め込むのが得意だね。吐き出せば楽だって分かってるのにそれをしない」


「アッシュさんの胸の傷を治してあげたいです」


「アッシュがそれを望めば良いんだけどね。そんなに酷かったの?」


「ナイフで切られたって言ってましたけど、20cm位ありました。ちゃんと手当てをしなかったからだと思うんですけど、ケロイド状になってて」


「俺の傷痕みたいな?」


「大和さんのははっきり見た訳じゃないですけど、肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん)と呼ばれる物だと思います」


「同じじゃないの?」


「違う物です。肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん)は外傷後に、創面を修復しようと出来た線維組織が過剰に産生された、いわゆるミミズバレ状の瘢痕、傷跡です。ケロイドは外傷などで修復のための膠原線維(こうげんせんい)の生成が過剰に起こり、周辺より盛り上がった状態です」


「よく分かんないけど、違うっていうのは分かった」


「すみません。説明が下手で」


「違うって分かってるだけでスゴいと思うけどね。俺の傷痕は、無茶をしたからだね」


「無茶って何をしたんですか?」


「体を動かしたくて治りきらないまま退院して、翌日から鍛練してた」


「大和さん……」


「そんな呆れたような目で見ないでよ」


「お兄さんとか、止めなかったんですか」


「止められたよ。特に体術は殴って止められた。道場に入れてもらえなかったしね」


「こっちではその場で治せますけど、向こうでは違うんですから。無茶をしないで下さい」


「分かってるよ。無理、無茶はしない」


そう言って笑ったけど、大和さんは無理、無茶をしそうで怖い。


「話を戻すけどね、さっき咲楽ちゃんが謝り倒してたのって自分が許せないって感じ?」


「だって、大和さんまで怖くなって、私は大和さんが好きなのにって思って、大和さんは優しいのに怖いっておかしいって思って」


「おかしくないよ」


「だって……」


「自分を責めてしまったんでしょ?」


「そうなんでしょうか」


「聞いてるとそう感じるけどね」


分からなくなって黙ってしまった。大和さんはそんな私の頭をゆっくりと撫でてくれている。


「大和さん」


「ん?」


「どうすれば強くなれますか?」


「強くって、咲楽ちゃんは十分強いと思うよ。自分の弱さと向き合える。今日の事もそうだよ」


「私はずっと護ってもらっているんです。日本にいたときは葵ちゃんに、こっちに来てからは大和さんに」


「咲楽ちゃんはね、暖かくて優しい。包み込んでくれるんだ。咲楽ちゃんは包み込んでしまえる強さを持ってるんだよ」


「包み込んでしまえる強さ?」


「俺は剣舞をやっていて、どれも難しかったりするんだけど、『秋』ってね、しなやかさが求められるんだ。『夏』と『冬』は精神的にキツいけど、『秋』は身体のキツさで言ったら一番だと思う。柔らかくしなやかにって、難しいんだよ。何を言いたいかっていうと、跳ね返せる強さって考えなくても結構持てるものなんだよ。身体的には鍛えれば良いし、精神的な物は気にしなきゃ良い。でも、受け入れて包み込むってそう出来ることじゃない。包み込んでもそこが弱ければ破れてしまう。咲楽ちゃんは包み込んで安心や優しさを与えられるんだ。受け入れた事で悩んでも放り出すことはしないでしょ」


「そうありたいとは思いますけど」


「アッシュや、ダフネを見たら分かるよ。拒否されなかっただけじゃなく、受け入れてくれた。こんな俺も受け入れてくれてる。だから頼りたくなる。縋りたくなる。アッシュは咲楽ちゃんに縋りたかった。ダフネは受け入れて欲しかった」


「大和さんは?」


「頼りにされたい。拒否されたくない。ってトコかな」


「大和さんは頼りになりますし、大和さんを拒否するなんてできません」


そう言うと大和さんは本当に嬉しそうに笑う。


「咲楽ちゃんが優しいから、護ってあげたくなるんだよ」


そう言って横にされた。


「もう寝た方がいい」


「はい。おやすみなさい」


「おやすみ」



ーーー異世界転移47日目終了ーーー

新年早々、咲楽が少々不穏ですが、申し訳ありません。

咲楽には大和が居るので大丈夫ですが、過去と同じシチュエーションって、気が付かなくても結構トラウマを刺激してきます。


私の場合はスクーター。いまだに運転できません。

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