7
朝起きていつものように窓を開ける。
常磐さんはいつもの鍛練。今日の剣術の相手は?居ない。と思ったら細身の剣を持って振り回して……?これ剣舞?凄い、綺麗。
気が付いたら庭に出ていた人達がみんな見ている。常磐さんは集中しているようで気にならないみたい。
5分強くらいだったと思う。気が付いたら終わってた。
とたんに周りから拍手が起こった。常磐さんは一礼すると、こっちに歩いてきた。そこにプロクスさんが走ってきた。
「トキワ殿、凄いな。私も朝の鍛練の途中だったが、見とれてしまった」
「ダメだな。しばらくやってないから鈍ってる。あれでは満足はできないよ」
え?あれでダメなの?
「すごくかっこ良かったです。綺麗で、そこだけ違う景色みたいだった。なんか背後に桜の大木が見えた気がしました」
「あぁ、あれは『春の舞』だからな。一応四季があるんだぜ。昨日見たそうにしてたからやってみた」
私の為?うそ、嬉しい。
「って言うか桜が見えた?そこまでには達してなかったんだけど」
「見えましたよ。一瞬でしたけど。枝垂れ桜かな。大きな桜でした」
「聞いて良いか?サクラって木なのか?どんな木なんだ?」
プロクスさんが言う。そういえば桜はこの世界にないかも。
「桜ってのは俺たちの国の代表的な木だ。春になると薄ピンクの小さな花を枝に満開に咲かせる。一輪一輪は小さくて可憐なのに、まとまって咲くと華やかで俺は好きだけどな」
「サクラか。見てみたいなそう言えばシロヤマ嬢もサクラって名前だな。それより早く汗を流さないと、朝食に間に合わないぞ!!」
「ヤバい!!咲楽ちゃん、ちょっと待ってて。急いで行ってくる」
常磐さんとプロクスさんは行ってしまった。
そっか、常磐さん、桜が好きなんだ。刺繍はあと少しで終わる。今日中には無理かな。明日にはできるかな。常磐さん、喜んでくれるかな。
常磐さん達は15分位で戻ってきた。急いでた為か常磐さんの髪がまだ濡れてる。
「常磐さん、まだ髪が濡れてますよ」
「大丈夫。そのうち乾くから。それとも拭いてくれる?」
「あはは、残念。背が足りません」
その会話を聞いてプロクスさんが呆れてた。
水魔法に「ドライ」って言うのがあるらしい。今日教えてもらえるかな。パパッて髪を乾かせちゃったりするのかな。やってみたい。
今日は魔法の授業2日目。今日も練兵場で魔法の練習。私はローズ先生と、常磐さんは団長さんとペアになって練習していく。最初は風から。昨日の生活魔法はそよ風程度だったけど風で不可視のバリアを張ることもできるし、風を使って攻撃もできる。
「イメージさえしっかりしていれば、何でもできるわよ。熟練者になると空も飛べるし」
空、飛べるの?
「ホントはね、シロヤマさんは練習なんて要らないのよ。生活魔法であれだけしっかりとしたイメージができていれば、あとは応用だもの。魔力が見えるって聞いたけど、それは大きなアドバンテージね。トキワ様の方は、剣に属性の魔力を纏わせてるみたいね。あっちは練習が必要」
あ、そうだ。
「ローズ先生、髪を乾かす魔法があるって聞いたんですけど」
「あぁ、「ドライ」ね。髪を乾かすなら風と少しの火が必要ね。昨日みたいな地面を乾かすなら水か風だけでいけるんだけど。髪を乾かすなら熱で水分を飛ばして風で吹き飛ばす感じかな。生活魔法の組み合わせで出来るわよ。あ、そうそう。生活魔法の魔空間も練習しましょうか。これはちょっとイメージが難しいのよね」
「えっと、見えない箱とかイメージしたら良いですか」
「そうね。ん~。ちょっと違うかな。自分の側にひとつ空間があるイメージ」
あれだよね。青いネコ型ロボットの四次元ポケット。
「難しいからね。焦らなくて良いよ。ゆっくり練習……」
「こうですか?」
持ってた紙を入れてみる。あ、成功?
「うそ、ホントに出来てる。え?どうやったの?」
あはは。あのアニメをどう説明しよう。
「えっと、何でも入る箱をイメージして、それが違う世界の空間にあるって感じで、でもその空間はここと繋がってる、ですかね」
「ん?よく分かんないわね。でも、出来たわね。凄い」
ローズ先生に頭を撫でられた。や~め~て~!!
そのあといろんな質問をしたり、私の生活魔法の「ウオーター」で喉を潤したり、してその日の授業は終わった。
そこへスティーリアさんがやって来た。
「いかがですか?」
「シロヤマ様はあとは練習して感覚をつかんで慣れていくだけですね。イメージがすごくしっかりしていて、あっという間に出来てしまいました」
日本人はイメージチートですから。
「トキワ殿もほぼ出来てますね」
「そうですか。ではこれで授業は全行程終了ですね。お疲れさまでした。そうそう。明日からマナーとダンスの講習が入ります。本当は今日からだったんですけど、衣装部の猛反対にあいました」
あぁ、今日は常磐さんの仮縫いだから。私も行かなきゃなのかな?
昼食の時にミュゲさんに言われた。
「トキワ様、今日はよろしくお願いしますね。シロヤマ様もお待ちしております」
刺繍を仕上げてしまいたいんだけど。
「あの、ミュゲさん、刺繍を仕上げてからでも良いですか?もう少しなので」
「じゃあ、咲……白山さんが終わったら一緒に行きますよ」
「トキワ様……過保護では?まぁ、よろしいです。お待ちしておりますね」
部屋に戻って常磐さんをジト目で見てしまった。
「常磐さん、着せ替えの事私から聞いてたから私を引き合いに出して予防線を張りましたね」
「悪いな。やっぱり聞いていると色々とな」
「まぁ、いいです。刺繍を仕上げてしまいますね」
刺繍にとりかかる。常磐さんは私の部屋のソファーに座って、刺繍する私を見ていた。
静かな時間が流れる。刺繍を仕上げたときには多分1時間くらい経ってた。
「お待たせしました。出来ました」
「これは凄いな。綺麗だ」
「ありがとうございます。衣装部へ行きますよ」
「やっぱり行かなきゃか」
刺繍した布地を持って衣装部へと急ぐ。
衣装部に着くとミュゲさんが待ち構えていた。
「お待ちしておりました。トキワ様はどうぞこちらへ」
「あの、ミュゲさん、これ出来ました。こんな感じになりました」
私から布地を受け取ったミュゲさんは「キレイ」と呟いて動きを止めてしまった。
その様子に衣装部の人達が寄ってくる。
「これ、シロヤマ様が!?」
リリアさんもそう言って動きを止めている。
「ミュゲー、リリアー、誰か手伝ってよー」
コリンさんの呼び声にハッとした感じで動き出す衣装部の人達。
「これは今バラしちゃダメよ。当日まで隠し通してトキワ様をビックリさせましょう。良いわね」
ミュゲさんの声に頷く人達。
「シロヤマ様、トキワ様の衣装、見ていくでしょ。そのあとはお楽しみタイムね」
お楽しみって皆さんが、ですよね。
「二人のバランスを見たり、動きを見たり、色々あるのよ」
いや、お楽しみタイムって言ってたじゃないですか。誤魔化さないで下さいよ。
結局5の鐘直前まで色々着替えさせられて、私と常磐さんはふらふらになってしまった。
衣装を身に付けた常磐さんは文句なしにかっこよくて、ドキドキしてしまったけど、私は8cmヒールを履かされ、ダンスのポジションを取らされたり、二人で並ばせられたり、スティーリアさんが何故か見に来たり、騎士団長さんも見に来たり、常磐さんが不機嫌になってきたところで、5の鐘が鳴ってやっと解放された。
夕食を食べて部屋に戻ってからも常磐さんは不機嫌で、「俺は見世物じゃねぇ」ってぶつぶつ言ってたけど、男の人が着せ替えさせられるのは、やっぱり嫌なんだろうな。
6の鐘がなる頃、常磐さんが部屋を出ていった音がした。どこに行ったんだろう。
結局常磐さんが帰ってきたのは、7の鐘が鳴ってからだった。
ーーー大和視点ーーー
いつものようにいつもの時間に起きる。今日は剣舞の予定だ。上手く行くかは分からない。最後にやったのは半年程前か。
プロクスと一緒に走る。走っている時にプロクスに今日は剣の手合わせはしない事、ちょっとやりたいことがあるから、細身の剣を貸してほしい事を伝える。ランニングを終え、太極拳のような動きをしながら、動きを確かめる。途中で咲楽ちゃんが顔を出した。借りた剣を持ち集中する。大丈夫。動きは身体が覚えている。
最初はゆっくりと、性急にならないように。徐々に速くしていき、でも隅々まで神経を使って。駄目だな。動きがまるでなっていない。
最後に桜の花びらを表現して舞を終える。
とたんに周りから拍手が起こった。俺は一礼すると、咲楽ちゃんの元に向かう。そこにプロクスが走ってきた。
「トキワ殿、凄いな。私も朝の鍛練の途中だったが、見とれてしまった」
「ダメだな。しばらくやってないから鈍ってる。あれでは満足はできないよ」
「すごくかっこ良かったです。綺麗で、そこだけ違う景色みたいだった。なんか背後に桜の大木が見えた気がしました」
咲楽ちゃんが言う。
「あぁ、あれは『春の舞』だからな。一応四季があるんだぜ。昨日見たそうにしてたからやってみた」
咲楽ちゃんが嬉しそうにする。
「って言うか桜が見えた?そこまでには達してなかったんだけど」
「見えましたよ。一瞬でしたけど。枝垂れ桜かな。大きな桜でした」
見えたって言われても。
「聞いて良いか?サクラって木なのか?どんな木なんだ?」
プロクスが言う。そういえば桜はこの世界にないかもな。
「桜ってのは俺たちの国の代表的な木だ。春になると薄ピンクの小さな花を枝に満開に咲かせる。一輪一輪は小さくて可憐なのに、まとまって咲くと華やかで俺は好きだけどな」
「サクラか。見てみたいなそう言えばシロヤマ嬢もサクラって名前だな。それより早く汗を流さないと、朝食に間に合わないぞ!!」
何だって!?
「ヤバい!!咲楽ちゃん、ちょっと待ってて。急いで行ってくる」
俺とプロクスは走ってシャワーに向かった。
ザっと汗を流し戻ってきた。大体15分くらいか?髪がまだ濡れてるがそのまま戻ってきてしまった。
「常磐さん、まだ髪が濡れてますよ」
咲楽ちゃんが言う。
「大丈夫。そのうち乾くから。それとも拭いてくれる?」
「あはは、残念。背が足りません」
その会話を聞いてプロクスが呆れてた。
朝食を食べ今日の授業。昨日団長が言ったように、今日は剣に属性を纏わせる訓練だ。これってあれだよな、いわゆる魔法剣ってやつ。なかなか難しい。剣を自分の腕の延長と考えて、魔力を剣まで延ばせって言われても。
剣を自分の腕の延長と思うのは分かる。剣術の基本だしな。少なくとも俺はそう教わった。が、魔力を延ばすのが難しい。剣の途中までしか延びない。
咲楽ちゃんはジェイド嬢と何やら楽しそうに笑っている。あの娘の笑顔はいいな。人をホッとさせる。惚れた欲目だけじゃない、と思う。
スティーリアがやって来た。魔法の訓練の様子を聞かれる。どうやら合格はしたらしい。「もう少し練習すれば」って団長が言っているが、ホントかよ。結構大変だぞ。団長は苦もなくやっているように見える。スティーリアが言う。
「そうですか。ではこれで授業は全行程終了ですね。お疲れさまでした。そうそう。明日からマナーとダンスの講習が入ります。本当は今日からだったんですけど、衣装部の猛反対にあいました」
衣装部の猛反対ね。昨日咲楽ちゃんが「今日は仮縫い」って言ってたしな。行きたくはないが。
明日からマナーとダンスの講習か。講習自体は良いけどな。ダンス、ねぇ。
「最初だし、覚えるのは簡単なワルツからだろう。ステップさえ覚えれば後は早いぞ」
と団長が言ってきた。やっぱり面白がっているな。
昼食の時にミュゲに言われた。
「トキワ様、今日はよろしくお願いしますね。シロヤマ様もお待ちしております」
「あの、ミュゲさん、刺繍を仕上げてからでも良いですか?もう少しなので」
咲楽ちゃんが言う。便乗して行くのを遅くしちまえ。
「じゃあ、咲……白山さんが終わったら一緒に行きますよ」
「トキワ様……過保護では?まぁ、よろしいです。お待ちしておりますね」
ミュゲに言われた。過保護か?そう見えるかもしれない。
部屋に帰ると咲楽ちゃんがジトっとした目で睨んでくる。そんな顔も可愛いだけだが。
「常磐さん、着せ替えの事私から聞いてたから私を引き合いに出して予防線を張りましたね」
そりゃあな。咲楽ちゃんにはバレてたな。
「悪いな。やっぱり聞いていると色々とな」
「まぁ、いいです。刺繍を仕上げてしまいますね」
咲楽ちゃんが刺繍にとりかかる。俺はそれを咲楽ちゃんの部屋のソファーに座って、見ていた。真剣な顔をしている。俺がいても気にならないくらい集中しているんだろう。
明日は何の舞にするか。春に向かう冬か?季節も何もないな。
しかし、「桜を見た」か。そこまで仕上がってた、訳じゃないよな。やっぱり彼女の眼か。理由付けるとしたら、だが。
「お待たせしました。出来ました」
考え事をしていたら終わったようだ、ってこれは……
「これは凄いな。綺麗だ」
「ありがとうございます。衣装部へ行きますよ」
「やっぱり行かなきゃか」
行かなきゃダメか。
咲楽ちゃんは刺繍した布地を持って衣装部へと急ぐ。
衣装部に着くとミュゲが待ち構えていた。
「お待ちしておりました。トキワ様はどうぞこちらへ」
コリンに別室に連れていかれる。コリン以外誰も来ないな。咲楽ちゃんの刺繍を見ているみたいだ。
「ミュゲー、リリアー、誰か手伝ってよー」
コリンが呼ぶ。咲楽ちゃんはやはり残されているな。着せ替え人形か。俺も巻き込まれるんだろう。これも付き合いってやつか?
結局5の鐘直前まで色々着替えさせられて、ふらふらになってしまった。
咲楽ちゃんはヒールの付いた靴を履かされていた。結構高さがあるけど大丈夫か?ダンスのポジションを取らされたり、二人で並ばせられたりしたが、これ必要なのか?スティーリアが何故か見に来たり、団長も見に来たりって、団長の他にも騎士達が何人かいるじゃねぇか。俺の着替えなんて見ても楽しくないだろうに。見世物扱いか?5の鐘が鳴ってやっと解放された。
駄目だ。冷静になれていない。俺は団長を訪ねると、どこか剣を振り回しても良い所はないか尋ねた。
「不機嫌そうな面だな。よく似合ってたぞ。なんだ、憂さ晴らしか?そうだな、練兵場は無理だが個人練習場がある。そこを使え」
団長が魔力で鍵を開閉する。ここの鍵は人が居なくなって魔力感知が出来なくなると、団長以外開けれなくなるんだとか。セキュリティバッチリだな。
「俺自身が鍵って訳だ。盗むようなものも無いけどな、剣以外。終わったらそのままドアを閉めたら鍵が自動で掛かるから満足するまでやってくれ」
団長は帰っていった。
礼を言い、まずは瞑想。座禅を組み、深く呼吸をする。意識を沈めていく。同時に感覚を広げる。空間が自らと一体となるところを感じろ。
この世界の自然がどのような物かはまだ知らない。だが教えてもらった感じでは、四季がある、と言うことだから、それぞれの季節が大きく認識と外れることもないだろう。なら、自分の世界で四季を作り出せ。
ある程度の集中が出来たところで舞の確認に入る。『冬の舞』は荒々しい舞だ。ともすれば自分もその世界に飲み込まれる。冬の厳しさが次の春の華やかさを引き立てるようにしなければいけない。
一通りなぞってみたが、まだまだだな。これでも咲楽ちゃんは冬の嵐を見るのだろうか。もう遅いな。帰って寝るか。
部屋に帰ると、咲楽ちゃんは横になっているようだった。寝たのか?
ーー異世界転移7日目終了ーー