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「あら?トキワ様、いつから居らしたの?」


「ずっと咲楽ちゃんと居ましたよ」


「見せてもらいましたよ。今まで見た剣舞の中で一番美しかった」


「花畑が見えたのだけど?あれは何?」


「花畑なんて見えなかったけど?」


「何を仰るの、ライル様。幻のように見えましたわよ」


「見える人と見えない人が居るようです」


「そうなんですの?サクラちゃんは見えたの?」


「はい。私にははっきりと見えています」


「不思議ね」


いつの間にか居なくなっていた団長さんが呼びに来た。


「そろそろ良いか?トキワ殿、行くぞ。シロヤマ嬢も一緒にいかがですか?」


「団長が居なくて良いのですか?何かやっているのでは?」


「神殿の見学と、エリアリール様のお話だな。ここには来ないから安心しろ」


「何人か後をついてきてましたけどね」


「気付いてたか。だろうな。ちゃんと話をして帰ってもらった」


「咲楽ちゃん、どうする?」


「飲みにってどこに行くんですか?」


「食堂兼酒場ですね。あそこは女性が居ないので」


「なら、行きたいです」


「サクラちゃん、また明日ね」


「はい。失礼します」


団長さんと一緒に神殿を出た。


「ヤマト、で良いか?」


「呼び名ですか?」


「改まった席ではちゃんと呼ぶが、俺はこういうのが苦手でな」


「言いましたよ。お好きなようにお呼びください、と」


「ヤマト、と呼ばせてもらう。トキワと言うのは家名だろう」


「そうですね」


「シロヤマ嬢にも家名が付いているが、元の世界で貴族だったとか?」


「いえ、元の世界では全員家名を持っています。我々が生まれる前、150年程前に公式に名乗れるようになりました」


「あれ?名字って無かったんじゃなかったでしたっけ?」


「江戸時代は名乗ることが禁じられていただけで、ちゃんとあったよ。でないと不便でしょ」


知らなかった……。


「さっきトキワ殿は28代と言っていたが?」


「父が28代目ですね。兄が29代になっているでしょう」


「ずいぶん続いているな。剣の腕もあるがそちらもやっていた?」


「そちらも、と言うより、『剣を使った舞なのだから、実際の動きも理解できていないといけない』と戦えるように鍛練していました」


「なんというか、大変だな……」


団長さんがしみじみと言う。


少し奥まった所にある家の前で、団長さんが止まった。


「ここだ。他のはもう着いてるはずだが……」


普通の民家のような家のドアを開けると、受付っぽい台があった。


「おぉい、アラクスだ。入るぞ」


大声で奥に呼び掛けると頑固そうなおじさんが出てきた。


「他のはもう()ってる」


そう言って大和さんを見て固まった。


「え?」


「入るぞ。気にするな」


団長さんがどんどん奥に入っていく。


「お邪魔します」


大和さんが挨拶をすると、おじさんが復活した。


「黒き狼?」


「そう呼ばれますが、呼ばないでいただけるとありがたいですね」


「あぁ、失礼した。こちらへ」


おじさんに案内されて奥に進む。


「トキワ殿、こっちだ」


「シロヤマさん、こっちよ」


それぞれに呼ばれて別のテーブルについた。


「ここはね、お料理が美味しいの」


「お酒もあるけど、どちらかと言うとお料理よね」


「でもここの蜂蜜酒(ミード)は飲んでおいた方がいいわ」


「自家製で美味しいのよ」


「何か食べる?おすすめはスジ肉と野菜の煮込みね」


リリアさん、コリンさん、ミュゲさんに一斉に言われて、コーナー席に押し込まれた。


「あの、私は分からないので、お任せして良いですか?」


その一言で何故かにんまり笑った3人に、お料理と飲み物を勧められた。


「美味しいですね」


お肉は柔らかくて味が染み込んでて、野菜もしっかり味があるんだけど濃いって感じじゃなくて、すごく美味しかった。


3人のお勧めのミードって言う飲み物を飲んでいたら、フワフワしてきた。


「これ、おいしーれしゅ」


「そうでしょ。こっちはね、果実が漬け込んであるのよ」


「シロヤマさん、食べさせてあげるわ。はい、あーん」


「こっちもどうぞ」


途中で大和さんが来た気もするけど、あまり覚えていない。


「飲ませましたね?」


「可愛いんだもの。そっちは、あら?全員潰したの?」


「冗談でしょ」

…………。


気がついたら、家のベッドで寝ていた。


「あれ?」


ドアが開いて、大和さんが入ってきた。


「起きた?」


「え?」


「今はどの位かな。6の鐘は鳴っていないね」


「もしかして……」


「3人のお姉様方に飲まされて、見事に酔っ払ったね」


「……すみません」


「迷惑のかかる酔い方じゃないから、大丈夫。咲楽ちゃんは、酔うと甘えて、すぐに寝ちゃうね」


「あれ、お酒だったんですか?」


お水を貰いながら聞いてみた。


蜂蜜酒(ミード)って言って蜂蜜から出来てるお酒だね。地球にもあるよ」


「そうなんですか……」


しばらくぼーっとしてたけど、はっと気がついた。さっき大和さんは6の鐘は鳴っていないって言ってたよね。


「大和さん、お夕飯は?」


「さっきの所でテイクアウトしてきて食べた。咲楽ちゃんの分もあるよ」


「すみません」


「さっきから謝ってばかりだね。気にしないでね。酔った咲楽ちゃんは可愛かったし」


ベッドから降りてダイニングに行く。


テイクアウトのお料理をテーブルに並べて大和さんが聞いた。


「温めましょうか?」


「出来るようになったんですか?」


「やってみたら出来た」


「すごいです」


温めて貰ったお料理を食べていると、大和さんがじっと私を見ていた。


「どうしたんですか?」


「今度は2人きりの時に飲もうね」


「飲んだら酔っちゃうじゃないですか」


「酔わせたい、かな」


「やめてください」


「可愛かったのに」


「覚えてません」


「甘えるネコみたいだったよ」


「大和さんはネコ派ですか?」


「ネコにはモテてたね」


「いいなぁ」


「咲楽ちゃんは?」


「私は犬の方に懐かれてました。どっちも好きなんですけど」


「俺は犬には避けられてた」


そうなんだ。それって避けられてたって言うよりもボス扱いだったんじゃ……。


お夕飯をいただいて、少し休んでる間に明日のスープの仕込み。


「今日のスープ、美味しかった。ありがとう」


「良かったです」


何か言わないといけなかったんだけど……あ。


「大和さん、あの、アッシュさんなんですが」


「アッシュ?どうしたの?」


「昨日、診察にみえました。それで、話を聞いて欲しいって言われて」


「それって俺は聞いて良いの?守秘義務とか」


「アッシュさんが、大和さんにも聞いて欲しいって言っていました」


「俺にも?構わないけど。咲楽ちゃんはある程度聞いたの?」


「肝心なところはぼかして話してましたけど。アッシュさんの胸に大きな傷があって、ブランさんと逃げてきた日に付けられたって」


大和さんは黙って聞いてくれてた。


「ブランさんと一緒の所で働いてて、えっと、裏の仕事をさせられてた、って言ってました」


「裏の仕事、ね」


「最初にみえたとき、ずっと私に赦して欲しいって言ってたんです。言うのは簡単でしたけど、言ってしまったらアッシュさんがそのまま居なくなってしまいそうで、言えなかったんです。打撲で痛みが、って言うのも話を聞いて欲しくてって感じで。痛みがあるのは本当のようですけど。打撲の痛みも傷を治さなかったのも、今の生活の代償だって言ってて」


しばらく黙り込んでた大和さんは、顔をあげた。


「分かった。話は聞くよ。でも聞くだけだよ。俺は何もしない。咲楽ちゃんもそれで良いね?」


「はい」


「よく黙ってられたね。苦しかったんじゃない?」


「でも、言ってしまうのも違うって思ったから」


「咲楽ちゃんは優しいね。アッシュが話し出したきっかけって何だったの?」


「依頼での事故で肩をかなり酷くぶつけたらしくって、現場の人が連れてきてくれたんです。診察しようとしたら治療拒否されてしまって。その後、3の鐘前にもう一度みえて、『赦すと言ってください』って言われて。身体の治療が先ですって言ったんですけど、『治療は必要ない』って言われてしまって」


「アッシュは咲楽ちゃんに縋りたかったんだろうね。咲楽ちゃんは暖かいから」


「私には何も出来ません」


いつの間にか、手が止まっていた。野菜を切る手を再開させて、話をすすめる。


「アッシュさんの話ですけど大和さんにも聞いて欲しいって事なんですけど、いつにしましょう?」


「ゆっくり聞いて欲しいって言うのなら闇の日だろうね。俺だけ聞けば良いなら木の日でもいいけど」


大和さんがキッチンに入ってきた。


「咲楽ちゃん、約束して。多分アッシュの話はかなりheavyなものになると思う。無理だと思ったら合図して。絶対に無理はしない事」


「ヘビーなもの?」


「騎士団案件になるかもしれない」


そう言った大和さんの顔は真剣で、私は頷く事しか出来なかった。


スープの仕込みをして居る間、大和さんは側に居てくれた。


「大和さん、お風呂は行ったんですか?」


「咲楽ちゃんが眠ってる時に行ったよ」


「じゃあ、行ってきますね」


パジャマは貰ったのを着ることに……どれにしよう。あのネグリジェみたいなのは無し。ストンとしたワンピース型だったけど、襟ぐりが広くて裾が短かったもの。一番長いのを選んだけど、それでも膝上だった。


後は着ぐるみパジャマかツーピースのパジャマ型。ツーピースの方はフリフリなんだよね。これも一番装飾の少ないのっていうか、どれもフリフリのリボンいっぱいだった。


着ぐるみパジャマはネコとウサギと狼だったかな?全部フードに耳が付いてた。ついでに尻尾も付いてる。


シャワーを浴びながら考えてたんだけど、結論は出なくて、悩んで悩んで、結局……。


「可愛いね。白ネコちゃんだ」


寝室に入った私を見た、大和さんの第一声がそれだった。


「どうしたの?それ」


「昨日頂きました」


「貰ったのってそれだけ?」


「後はツーピースのフリフリパジャマとワンピース型です」


フードを脱ぎながら答える。


「また着なさそうなものを用意してきたね。ワンピース型ってどんなの?」


「ちょっと丈が短くて……」


「それだけだったら……今の時期には寒い?」


「襟ぐりが広くて……」


「それはまた……」


「着れないです。一番丈が長いのを選んだんですが」


「セクシー系かな?着て欲しい気もするけど、無理強いはできないね」


手招きされてベッドに上がった。


「仔ネコちゃんだね。尻尾も付いてるとか。誰の発想?」


「聞いてないです」


胡座になった大和さんが自分の足をポンポンと叩いた。来い、と?


「よく、家のネコがここで寝てたんだよね」


「私はネコじゃありません」


「耳も尻尾もあって可愛い仔ネコちゃんだよ」


「大和さん、もしかして酔ってます?」


「酔ってないよ。因数分解でもして見せようか?」


奉納舞の終わった解放感がある気がする。緊張から解き放たれたっていうか。


「おいで」


おいでって言われても。


「警戒しなくてもいいよ、何もしないから。ほら。おいで」


ネコを呼んでるっぽい。


「大和さん、ネコを呼んでるみたいです」


「そう?」


結局引き寄せられて、大和さんの胡座の足に横を向いて頭を乗せさせられた。これって膝枕じゃないし、何て言うんだろう?


「緊張から解放されたんですか?」


「かもね。あっちで居たときはこんなことなかったと思う。奉納舞の独特な緊張感も好きだったし」


「こっちとは違いますもんね」


「咲楽ちゃんも居るしね」


大和さんはずっと私の頭を撫でている。ほんとにネコになった気分だ。


「大和さん、明日も走るんですか?」


「多分ね」


「舞の練習も?」


「それはどうしようか迷い中。見たい?」


「見たい気もしますけど、休んで欲しい気もします」


「明日の気分で決めるよ。そろそろ寝る?」


「えっと、このままですか?」


「ネコだったらこのままだけど、咲楽ちゃんだから、腕枕かな?」


「腕枕……」


「頭、あげてね」


足が抜かれて、代わりに大和さんの腕が頭の下に来た。


「はい。おやすみ」


腕枕ってハードル高いです!!とは言えなかった。いつも抱き枕状態だったし。そのまま目を閉じてたら、いつの間にか眠ってた。



ーーー異世界転移40日目終了ーーー


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