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翌朝、起きたら良い天気だったけど、少し風が強い。


今日は朝から少し忙しいから、急いで着替えてキッチンに行く。


蓋付きの容器を2個用意して乾燥豆と干キノコをそれぞれ水に浸けて、魔空間へ。幾つかの野菜を切ってこれも蓋付きの鍋で煮ていく。6食分って言ってたけど、多分10食分くらいあると思う。野菜に火が通ったらきっちり蓋をしてこれも魔空間へ入れる。


こういう時、魔力量が多くて良かったと思う。魔空間の大きさは魔力量に依るって言ってたから、私のは相当大きい空間だと思う。


異空間も練習しないと。でも、時間経過がない空間って何をイメージしたら良いんだろう?


考えながらキッチンで準備をしていたら、玄関からアッシュさんが入ってきた。


「おはようございます、サクラ様」


「おはようございます、アッシュさん」


「頼みがあるんですが」


「頼み?何でしょう?」


「昨日の肩なんですが、やはり痛みがあって。もう一度診ていただけませんか?」


「打撲ですからしばらく痛むでしょうね。炎症を押さえておきましょうか」


「昨日の事ですが……」


「私は何も聞いていませんよ」


「すみません」


そこにゴットハルトさんが入ってきた。


「シロヤマ嬢、すみません。帰ってきてから痛みを訴えたんですよ」


「大丈夫ですよ。アッシュさんも、我慢しちゃダメですよ」


肩だけを露出してもらって薄い水の膜を張り、風魔法で少し温度を下げる。闇魔法で痛みを押さえる。


「シロヤマ嬢、いったい何属性あるんですか?」


「えっと、5属性です」


「5属性ですか……」


「出来たら内緒にしてくださいね。シィーですよ」


口に人差し指を当てると、ゴットハルトさんが真っ赤になった。アッシュさんは困った顔をしている。


「シロヤマ嬢、それは男性にしちゃいけません」


朱い顔でゴットハルトさんが言う。


「そうですか?そろそろどうでしょう?」


「あまりの衝撃で忘れてましたけど、楽になってきました」


「衝撃って……まぁ、分からないでもないが」


男性2人で何か言ってる。


「庭に出ませんか?」


「そうしましょうか」


なんだか疲れた顔でゴットハルトさんが言う。


「ゴットハルトさん、大丈夫ですか?」


「えぇ大丈夫ですよ」


ホントに大丈夫かな。


庭に出ると大和さんが瞑想をしていた。


「おはようございます、サクラ様」


「おはようございます、皆さん」


ブランさんがアッシュさんの側に寄っていって、気遣ってる。


「今日はエスターさんはみえないんですね」


「そうですね。もうすぐみえますよ」


エイダンさんが教えてくれた。


もうすぐ?


「おはようございます」


エスターさんが姿を見せた。


「おはようございます、エスターさん」


「いやぁ、トキワ殿は速い。皆も速いよ」


「お前が遅すぎるんだ」


ゴットハルトさんが呆れた様に言う。あ、もしかして一緒に走ってて、遅れて今着いたのかな?


大和さんが立ち上がって舞台に移動する。


『只今より、常磐流(じょうばんりゅう)第28代が2子、常磐大和、神々に舞を(たてまつ)る。どうぞ御照覧あれ』


「あのトキワ殿の言っているのは、何を言っているのですか?」


「言葉の意味って事ですか?」


「意味は分かります。そうじゃなくてなんのために言っているのか?と思って」


大和さんはなんて言っていたかな?あぁ、そうだ。


「神々に今から始めます、って言う挨拶だそうです」


「なるほど」


「剣舞というのは1度、小さい頃に見たんですが、全然違いますね。小さい頃のは見世物でしたが」


ゴットハルトさんが言う。隣でエスターさんが頷いてた。


「大和さんのは神々に捧げるものだと言っていました」


「見せる対象が違うのか。だからあんなに綺麗なんですね」


「私は大和さんのしか知らないんですけど、そんなに違うんですか?」


「そうですね。いかにびっくりさせるか、みたいなところがあったと思います」


大和さんの剣舞しか知らない私には、分からないけど、やっぱり違うのかなぁ。


大和さんの剣舞が終わった。ゴットハルトさん達は玄関から家に入る。


「咲楽ちゃん、おはよう」


「大和さん、おはようございます」


「アッシュはどうだった?」


「どこかでぶつけたみたいです。打撲でした。炎症を押さえておきました」


「ぶつけた?」


「はい」


「すぐに言えば良かったのにね」


「そう言っても依頼中だったとか、事情があるかもしれませんし、なんとも言えません」


「そうなんだけどね。痛みはすぐに処置しないと、後々どうなるかわからないでしょ?」


「たしかにそうですけど、来てもらえなかったら、私には何も出来ません」


「咲楽ちゃんを責めてる訳じゃないからね」


「分かってます」


そう言うと頭をポンポンされた。大和さんと一緒に家に入るとゴットハルトさんとエスターさんがダイニングに居た。


「シロヤマ嬢、アッシュには今日必ずもう一度、施療院に行くように言いました。お願いします」


ゴットハルトさんが頭を下げてお願いしてきたけど、来てくれるかな。


施療院と言う場所は、病院と一緒で、来る、来ないは苦しみのある本人に委ねられる。いくら苦しくても痛くても、本人にその気がなければ来ないことが多い。


曖昧に頷きながら、朝食の支度を進める。大和さん達のスープは施療院の簡易キッチンを借りれるように昨日所長に頼んでおいたから、そこである程度仕上げるつもりでいる。


異空間さえ使えれば時間経過なく持ち運べるのに。異空間のイメージは、いまだにわからない。魔空間は青いネコ型ロボットだったんだけど、時間経過がないって言うのがどうしてもイメージ出来ない。よくラノベにあるインベントリをイメージしてみたんだけど、うまくいかなかった。


朝のスープを仕上げる頃に、大和さんがコーヒーを淹れ始める。


「今日は、施療院が終わったらローズさん達と王宮方面に向かいますね」


大和さんにそう言っていると、ゴットハルトさんから申し出があった。


「お迎えに上がりましょうか?」


「ローズさん達もいますから、大丈夫ですよ」


さすがにそれは悪い気がする。


朝食を食べ終えて、いつものように大和さんがお皿を洗ってくれようとすると、エスターさんが自分が洗うと言い出した。


「一緒に住んでいるなら頼むが、そうでない以上『お客様』だ。気を使わなくても良い」


大和さんのその一言でエスターさんは引き下がったけど、そう気を使われると、かえってやりにくい。


自室で着替えて、出勤の準備を進める。リビングに行くと大和さんとゴットハルトさんが待っていてくれた。


「エスターは帰りました。シロヤマ嬢、本当にお迎えに上がらなくても良いんですか?」


「ローズさんもライルさんも居てくれますし、大丈夫です。ありがとうございます」


ゴットハルトさんが再度言ってくれたけど、お断りした。


大和さんが結界具を作動させて家を出る。


「何だって今日に限って、やたらと気を使ったんだ?」


しばらく歩いて大和さんがゴットハルトさんに聞いた。


「昨日2人で話しててな。出勤前に色々な雑事の量を増やしているわけだから、何か手伝った方がいいんじゃないかと」


「気を使ってくれるのは嬉しいが、気を使われ過ぎるとかえって迷惑になるぞ。申し出は嬉しかったがな」


「迷惑、だったか?」


「迷惑と言うよりも困惑の方が強かった」


「お気持ちは嬉しかったんですよ」


ゴットハルトさんが思ったより落ち込んじゃって、大和さんと2人でフォローする。


そのまま無言の時間が流れた。


「何か出来ることは無いだろうか?」


「いつも通り、だな。それが1番ありがたい」


「いつも通りか。難しいな」


ゴットハルトさんが苦笑する。


「ゴットハルト、今日の夜から付き合ってくれるつもりなんだよな?」


「そのつもりだが。リシア殿も、そのつもりだぞ」


「なら頼みがある。俺が個人練習場を調えている間に、咲楽ちゃんからスープを受け取って、衣装を持ってきてくれないか?」


「衣装はどこから受け取れば良い?」


「神殿衣装部だ」


「あそこか。リシア殿に頼もう」


「今日は着せ替えはないと思うが」


そう言って私を見る。


「多分、私を着せ替えて楽しむつもりですよね」


「疲れないように、頑張ってね」


大和さんから激励を頂きました。


王宮への分かれ道にはいつもの3人の姿。


「おはようございます、アインスタイ副団長様、ライルさん、ローズさん」


順番はこれで良いのかな?ローズさんがちょっと不満げだけど。


「サクラちゃん?3人に挨拶するのは良いわよ。何故私が最後なの?」


「順番とか考えてみたんですけど、ダメでしたか?」


「昨日私があんな事を言ったから?」


「すみません」


「どう言うことです?」


アインスタイ副団長さんの声が聞こえた。


「えっと昨日、貴族の方には『様』を付けた方がいい、ってローズさんに言われて、なら言葉遣いとか直してみようって思ったんです」


「どう言うことです?」


副団長さんが大和さんに聞いた。大和さんが苦笑して答える。


「その、人に『様』と言う敬称を付ける習慣がなかったのですよ」


「トキワ殿は慣れてるようですが?」


「そう言う意識を持った人に覚えさせられましたから。彼女は学生でしたし、仕方ないと思いますよ」


「自由なところだったんですねぇ。シロヤマ嬢、貴族的に、というか、身分的に、と言うなら、合っているのでしょう。ヘリオドール殿をどうとらえるかで変わってきますが」


「私は騎士の身分です。それ以上でもそれ以下でもありません」


「シロヤマ嬢、そう言うことです。ここに居る人間は気にしませんから大丈夫ですよ」


「私はそう言うのが分からなくて。教えてください」


「そう言うことに1番詳しくて厳しいのは、ゴットハルトか?」


「ヤマトが教えたらいいじゃないか」


「俺のはしょせん偽物の物真似だ」


「完璧に思えるが?」


大和さんとゴットハルトさんが言い合ってる。私があんな事を言ったからだ。


「どなたが教えるかは話し合ってください。サクラちゃん、行きましょ」


ローズさんに手を引かれて歩き出す。


「はい。大和さん、いってきます」


「いってらっしゃい」


ライルさんが口を開いた。


「本来ならね、僕が『シロヤマさん』って呼ぶのもおかしいんだよ。ジェイド嬢は万が一、と言うことを考えて言ったんだ」


「私の事を思って言ってくれたのは分かってます。私はこういったことは分からないので、教えてくれるのは嬉しいです」


「トキワ様はどうして自然にできているのかしら?サクラちゃんと同郷でしょ?」


「えっと……」


「話しにくい事?」


「じゃなくて、身近にいた交渉担当の方の言動を教えられた、って言ってました」


「言い淀んだのは何故?」


「私自身が理解しきれてないっていうのがあるんです」


「トキワ様って特殊なお仕事をされてたの?」


「特殊……ですね。私達の世界で剣を使ったりって言うのはかなり特殊でしたから」


施療院に着いて、更衣室で着替える。


「ローズさん、帰りに大和さんに行き合うまで一緒に帰っていいですか?」


「良いけど、どうしたの?」


「今日から神殿に行くので。ちょっと忙しいんですよ。だから時間短縮のために、です」


「忙しいって何かするの?」


「肉類無しのスープを頼まれているんです」


「帰ってから作るの?」


「材料は持ってきてるので。昼休みに給湯室をお借りします」


「作るの?」


ルビーさんまで目をキラキラさせてる。


「そのつもりです」


診察室に向かう。待合室にアッシュさんがいた。


「アッシュさん?」


「サクラ様、すみません」


「肩が痛みますか?」


「少しです。けど、ダニエルさんに行ってこいって言われて」


「先に入ってもらったらどうじゃ?」


ナザル所長が言ってくれて、アッシュさんをつれて診察室に入った。


「ちょっと待ってくださいね。暖房を付けますから」


暖房を付けて振り向くと、アッシュさんが上半身裸になっていた。スキャンで見た胸の大きな傷が見えた。


「これが原因です」


ポツリ、とアッシュさんが話し出した。


「ごめんなさい、まだ傷跡は治せないんです」


「治して欲しいんじゃありません。聞いて欲しくて押し掛けました。話を聞いて下さい」


アッシュさんが頭を下げた。


「昨日も言ったように聞くことしか出来ません。それでも良いですか?」


「はい。俺はブランと同じ所に奉公に行っていて、そこで裏の仕事をさせられていました。本当はしたくなかったんです。人を脅したりってさせられて、あの日、ブランと逃げ出した日、人を傷つけました。この傷はその時に付けられたんです」


「手当てをしなかったんですか?」


大きな傷が痕になってるってことは、ロクな手当てが出来なかったってこと?


「最低限の手当てはしました。この傷の事はブランにも言っていません。出来ればトキワ様にもお話ししたいんです。お時間を作って貰えませんか?」


「大和さんに話しても良いんですか?」


「はい」


アッシュさんは何かを覚悟した顔をしていた。


「大和さんに言ってみます。でも、来週で良いですか?明日は大和さんの気持ちを乱したくないんです」


「ご迷惑をお掛けします」


アッシュさんは頭を下げて出ていった。


その後は通常の診察が始まった。


明日は休みだからって、常連さんもたくさん来た。


ヴァネッサさんが来ていつものように情報紙を取り出した。


「天使様、新しい予想コーナーです」


「今度は何ですか?」


「神殿の奉仕イベントで何がメインで出品されるか、と、そのメインの品の落札予想、ですね」


「神殿の奉仕イベント……?」


「天使様もやってみませんか?」


「これ、いつの事ですか?」


「『星見の祭(ステラフェスト)』の時ですよ。商品はメインの品を作った人に製作依頼が出来るんですって。大抵は孤児院の子の作品とかですけどね。時々びっくりするようなのが出されたりするんです」


「びっくりするようなの?」


「声を記録する魔道具とか」


「魔道具って言うと魔人族さんのですか?」


「違ったはずですよ」


ヴァネッサさんはいつもこういうお喋りを楽しんでいく。ほぼ外出しない私に色々教えてくれたりする。




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