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「サクラちゃん、また明日ね」


ルビーさんと別れてジェイド商会に向かう。大和さんはライルさんと話していた。


「サクラちゃん、朝の事だけど、可哀想って思われたくないって言ってたじゃない?」


「聞こえてたんですか?」


「ギリギリ、なんとかって感じね」


「聞かれたくなかったです」


「ごめんね。で、可哀想って言われたことあるの?」


「けっこう普通に言われましたよ。虐められてて可哀想。そんな風に生まれてきて可哀想って」


そう言った途端、ローズさんの顔が歪んだ。


「サクラちゃんが虐められてた、って聞いたとき、可哀想って思っちゃったの。ごめんね」


「謝らないで下さい。ローズさんは思っても言わなかったじゃないですか。簡単に可哀想って言われるのが嫌なだけです」


「でも……」


「お嬢さん方、その話題はもう終わり。商会も見えてきたし」


大和さんの声が割って入った。


「大和さん」


「ほら、2人共、そんな顔しないで。商会の人が心配するよ」


「トキワ様って、こう言う気遣いが出来ちゃうのよね」


「悪かったね。出来なくて」


ライルさんが拗ねたように言ってその場はみんなが笑ってたんだけど……。


「咲楽ちゃん、後で甘やかすからね」


って、こそっと言われた。聞こえてたんですね。あ、思い出した。朝みんなが見ていたことも、聞かなきゃ。


商会に着いたら、ネリウムさんと、もう1人薪の時対応してくれた下のお兄さんが出てきた。


「兄様達、どうなさったの?」


ローズさんも戸惑ったように言う。


「この間は申し訳ございませんでした」


きっちり腰を折って、謝罪するお2人。


えっと?


「お気になさらないで下さい。あれはハプニングです」


大和さんだけが把握できてる感じ。


「大和さん、どう言うことですか?」


大和さんの服の裾を引っ張って聞いてみた。


「ん?多分咲楽ちゃんが酔っぱらっちゃったことを、謝罪しているんだよ」


「何故ですか?」


「あのお酒を渡したのがネリウム殿だったでしょ?責任を感じてるんだと思うよ」


「確かに渡されましたけど、飲むって決めたのは私ですよ。それに美味しかったし」


「酔った咲楽ちゃんは可愛いかったしね」


「覚えてません」


「普段はしないような甘え方で可愛かったのに」


「知りません」


「また飲んでみる?」


「飲みませんっ」


「その辺にしておいて頂けないかしら。すぐにラブラブ空間を作るんだから」


ローズさんがため息と共に言った。


「兄様達もとりあえず、中に入れて下さらない?それからサンドラはまだ居る?」


「この場で一番強いのはジェイド嬢だね。と言うことで、僕は帰るよ」


ライルさん、絶対に逃げたよね。


商会の中に入れてもらって、アレクサンドラさんのところに行く。


「シロヤマちゃん、待ってたわ~。トキワ様も来てくださったのね」


「アレクサンドラさん、毛糸が欲しいんですけど」


「サンドラって呼んでって言ったのに。毛糸ね。用意してあるわよ」


用意されていたのはパステルカラーのピンク、オレンジ、モヘアっぽいのや極太の毛糸達。極太の毛糸はフワフワで手触りが良い。色はパールホワイト?少し黄色がかった白とごくごく薄いライトグレー。


「こっちの黄色っぽいのがいいです」


「そっち?そうね。そっちの方が合うかもね。ところで何を作るの?」


「スヌードって言って、端が繋がったマフラーです」


「へぇ。面白い事を考えるのね。そうだ。ねぇ、シロヤマちゃん、手袋要らない?」


「普通のは指の長さが合わないんです」


「あぁ言葉が足りなかったわね。新しく入った子の、まぁ最終試験っていうかね、これに合格すると一人前なのよ。でも、手袋ってそう換えないじゃない。誰かいないかな?って探してたの。作らせてあげてくれないかしら」


「私でいいんですか?」


「えぇ、もちろん。引き受けてくれる?」


「こちらこそお願いします。あ、こちらもお話があるんです」


「あら、なあに?」


私に椅子を薦めてくれながら、アレクサンドラさんが聞く。


「知り合いの人なんですけど、裁縫の仕事をしたいって言ってて、でもどうしていいか分からないって相談にいらっしゃったんです。でも、私もそう言った関係で知ってるのがアレクサンドラさんと神殿の方々しかいなくて。どうしたらいいですか?」


「ここで働きたいって言うわけじゃないのね?」


「どうしていいか分からないって相談です」


「一応、正規の道としては、街の洋服屋での修行からね。どこかで修行してた子なの?」


「その辺は聞いてないんです。でもどこかで奉公していた、って言ってました。そこの上司の人にバカにされて裁縫に自信を失くしてたみたいなんです」


「バカにされた?よっぽど下手なの?」


「いいえ。縫い目も細かくて丁寧です」


ブランさんの作った小銭入れを見せる。


「本当ね。これでバカにされた?おかしいわね。ん~。ワタシが出ると驚かれちゃうわね。神殿の方に話は行ってるの?」


「まだです」


「コリンちゃんに話をしてみるわ。ワタシよりいいと思うし」


「神殿衣装部のミュゲさんはその人の事を知ってます」


「分かったわ。どこかで修行するにしても、伝手があるのと無いのじゃ違うからね。その子の名前は?」


「ブランさんです」


アレクサンドラさんとの話を終わって、手形を取って貰って、ジェイド商会を出る。


「咲楽ちゃん」


大和さんに手を差し出された。その手を取ると恋人繋ぎにされて、コートのポケットに入れられた。


市場(バザール)に寄って、今日のお夕飯と明日のパンと鳥肉、ミルクとバターを買う。作るって言ったんだけど、何故か大和さんに押しきられた。


家に着いたら買ってきたお夕飯で食事を済ませる。食事が終わったらソファーで大和さんが呼んだ。


「咲楽ちゃん、おいで」


大和さんが私を呼ぶ声が、好きだ。優しくて側に居てくれるのを感じるから。


隣に座ろうとすると、膝に座らされた。


「大和さん?」


「咲楽ちゃん、ゴットハルトが謝っておいてくれって」


「謝る?何をですか?」


「咲楽ちゃんの事を『弱い』って思ってた事をね」


「やっぱり弱いって思われてたんですね」


「芯がしっかりした女性だって言ってた」


「買いかぶり過ぎです」


「でも咲楽ちゃんは弱いだけじゃないでしょ?」


「だけじゃない?」


「守られてるだけじゃなくて支えようとしてくれる。いつも人の事を優先して動こうとする」


「私はずっと守られてたから、それをお返ししているだけです」


「本当に弱い人間はお返しなんて考えないよ」


そう言って頭を撫でられる。


「大和さん、降ろしてください。ここは落ち着きません」


「俺は落ち着くけどね」


笑って隣に座らせてくれた。


「そうだ、大和さん。今朝けっこうたくさんの人が見てたって、知ってましたよね?」


「そうなんだ。知らなかったなぁ」


「大和さん、棒読みです」


そう言うと笑って返された。


「まぁ、気付いてはいたよ」


「そうですよね。大和さんは気が付いてましたよね。ってそれは良いんです。良くない気もしますけど。それで、これって知ってました?」


ヴァネッサさんから貰った新聞?を見せる。


「なんだこれ?」


「朝市で売られてるそうです」


市場(バザール)のお得情報とか載ってるね」


「そこじゃなくてこっちです。この大予想ってコーナー」


「なにこれ?」


「常連で来てくれている患者さんが言ってたんですけど、このところ、毎朝ゴットハルトさんが一緒じゃないですか。それってけっこう有名で、大和さんとゴットハルトさんが私を取り合ってる、って思われてるみたいです。で、私が最終的にどっちを選ぶかって事らしいんですけど」


「どっちを選ぶの?」


「どっちをって……」


「どっち?」


「大和さん、です」


小さな声で言ってみた。


「ん?聞こえなかった。もう1回言って?」


聞こえてる。絶対聞こえてる。


「大和さん、耳が良いから聞こえないってこと無い癖に」


「本当に聞こえなかったんだって。ほら、もう1回言って?」


声に楽しんでる感じが混ざってきた。


「大和さん、です」


「もっと大きな声で」


「楽しんでますね?」


「そんなこと無いよ」


「ゴットハルトさんって言ったらどうします?」


さっきくらいの小さな声で言ってみた。


「ゴットハルトはとりあえず潰しておく。咲楽ちゃんは閉じ込めて外に出さない」


「やっぱり聞こえてるじゃないですか。それに犯罪です」


「『私の為にそこまで』ってならない?前にラノベで読んだんだけど」


「なりません。何ですか?それ。普通に怖いです」


「だよね。普通に怖いよね。自分で言ってて考え方が犯罪者だって思った」


「言ったのは大和さんですからね。えぇっと、そうじゃなくって、これって予想が当たったら景品があるみたいなんですけど、その景品が『天使様の結婚式にご招待』らしいです」


「なんか、神殿が一枚噛んでそうな景品だね」


「集中してるときにこれを見せられたんですよ。力が抜けそうになりました」


「お疲れ様。でもさこれって日替わりで咲楽ちゃんが俺とゴットハルトのどっちかと仲良く話してた、とかだったら、予想も面白くなりそうだね」


「面白がらないで下さい」


「咲楽ちゃんは俺を選んでくれるんでしょ?」


「言わせたいんですか?」


「咲楽ちゃんの口から聞きたい」


大和さんの声が甘い気がする。


「私は大和さんが好きですよ。触れられて怖くないのは大和さんだけだし、自分から触れるのも大和さんだけです。仕事中は別ですけど」


「嬉しいね。俺も咲楽ちゃんが好きだし、咲楽ちゃん以外触りたくない」


そのまま静かな時間が過ぎた。


さっきけっこう恥ずかしい事を言っちゃった気がする。そっと大和さんを見ると目が合った。


「何を見てるんですかっ」


「1人で照れている咲楽ちゃんが可愛くて」


「そんなの見なくて良いです。お風呂行っちゃってください」


「追い出されるの?」


「追い出す……って……ちがいますっ」


「冗談だよ。行ってくるね。寝室で待ってて」


大和さんはそう言ってお風呂に行った。


寝室で待ってて、って言われても……。


明日のスープの仕込みだけしてしまおう。大和さんって今日1日、何をしてたんだろう。私の休みの時は、大和さんが色々聞いてくれるけど、大和さんの休みの時って何をしてるとか知らないよね。


スープの仕込みを終えて寝室に上がる。お風呂の準備だけしてスヌードを編み始めようとしたら、大和さんが寝室に入ってきた。


「言ってたやつ?今からするの?」


「作り目だけしておこうと思って」


フワフワの毛糸でさらに極太だから、今回はかぎ針編み。すっごく太い編み針をアレクサンドラさんに渡された。もちろん買いましたけど。


作り目だけして、お風呂に行く。シャワーを浴びながらさっきの大和さんの言葉を思い出した。


『ゴットハルトさんって言ったらどうします?』


『ゴットハルトはとりあえず潰しておく。咲楽ちゃんは閉じ込めて外に出さない』


本心じゃないよね。『ラノベで読んだ』って言ってたし。一瞬大和さんになら、って思った事は忘れよう。


あの台詞を聞いて『私の為にそこまで』って思う人って居るのかな?お芝居とかならありそうだけど。現実にはいないよね。


お風呂を出て寝室に戻ろうとしたら、リビングから戻ってくる大和さんに会った。


「あれ?どうしたんですか?」


「結界具を作動させたかな?って思って確かめてた」


あ、忘れてた。


「すみません」


「来月から神殿勤務で遅番とか早番もあるから、気を付けてね」


寝室に入って聞いてみた。


「遅番とか早番ってどのくらいの時間なんですか?」


「遅番が4の鐘から7の鐘まで。早番が8の鐘から3の鐘までだって。神殿って真夜中の3時間位は閉めるらしいよ。遅番の次の日は休みね」


「へぇ」


ベッドに上がって話を続ける。


「俺の場合は特殊だけど」


「特殊?」


「最初にプロクスが『神殿のシフトは早、遅、昼、公、自、式』って言ってたよね。昼勤の時に神殿地区の市場(バザール)の見回りがあるんだけど、これは一応班に別れる。俺はプロクス、ゴットハルトと一緒の班になった。主に土の日ね。エスターは別班。で、遅番の次の日が休みとは限らない。さすがに遅番の次が早番って言うのはないけど、遅番の次が昼勤ってのはある」


「大変じゃないですか?」


「睡眠時間はどうにでもなるけど、こうやって寝る前に一緒にしばらく話してるって言うのが、少なくなるかもね」


「大和さんの身体の方が大切ですから、ちょっと寂しい気もするけど我慢できます」


「それから眠りの月の最終の木の日に神殿主催で『星見の祭(ステラフェスト)』ってするらしくてね。この日は早番でいったん上がってから、5の鐘から7の鐘までの勤務が入る。だからこの日は送迎できないね」


「大丈夫です」


「本当に?」


「多分……」


「そこは断言しようよ。『星見の祭(ステラフェスト)』はエリアリール様とスティーリアさんと、数人の司祭が7神に祈りを捧げる、夜祭みたいな物らしい。この日は光の神と闇の神が同時に現れる特別な夜だって言ってたけど。一般解放もされるし催し物もあるみたいだね」


「あの時断ってなかったら、もしかしてまた剣舞を、とか言われたんじゃないですか?」


「その代わり数人と模擬戦がある」


「夜間にするんですか?」


「王宮魔術師の光魔法でライトアップするんだって」


「催し物の一環って訳ですか?」


「そうなるね。あぁ、闇の日に休みが少し増えるよ。って言っても3日になるってだけだけどね。まだ、シフトは渡されてないんだけど、最初の一週の勤務は覚えてきた。昼、早、巡回、遅、休、昼、だったかな。これは決定だけど、その他は変わるかもしれないって言われた」


変わるかもしれないんだ。でも、本当に睡眠時間とかが心配になる。


あ、そうだ。奉納舞の時にどうするか、って言わないと。


「今週末、奉納舞ですよね。色々考えたんですけど、神殿に泊めてもらおうと思います」


「そうする?そっちの方が良いかもね。あぁそうだ。咲楽ちゃんにお願いがあるんだけど」


「お願い?」


「奉納舞の時、野菜のみのスープを作って欲しいんだ」


「野菜のみ?バターは使って良いですか?」


「出来れば無しで」


「無しですか?ん~、難しいけど頑張ってみます。何食分ですか?」


「前日の夕食と当日の朝食分だから……」


「2食?」


「プロクスとゴットハルトも食べたいらしい」


「6食分ですね」


「お願いできる?」


「温めとかは……」


「ゴットハルトがやるって言ってた」


「あぁ、ゴットハルトさんは火属性があるんですね」


「火属性があると出来るの?」


「知りませんでしたっけ?熱だけを伝えるんだそうです」


「なるほど。まぁゴットハルトに任せよう。俺は集中したいし」


「丸投げですか?良いですけど。奉納舞が終わったら覚えてみたらどうですか?」


「咲楽ちゃんは何か覚えたの?」


「聞かないで下さい」


ちょっと拗ねてみせた。


「施療院で光と闇しか使ってませんもん」


「そうか、そうだね。俺も火属性は属性剣しか使ってない」


そう言って自然に抱き寄せられる。


「火属性はって地属性はどうなんですか?」


「防壁がバージョンアップした。後、石の剣(ストーンブレイド)みたいなのも作れるようになった」


「思いっきり攻撃に片寄ってますね。石弾(ストーンバレット)とかは?」


「それをやったら驚かれた。地属性は守りの属性って思われてて、攻撃には使われてなかってらしいよ」


「火属性にも守りってありませんでしたっけ?」


「俺が知ってるのは火壁(ファイアウォール)だけだね。あれを守りとするかは微妙だけど。その他になると炎属性とかにスキルアップしてからだったね」


「そういえばそうですね。インフェルノとかエクスプロージョンとか知ってますけど」


「それは多分俺には無理。魔力量が足りないね。それに普通に攻撃魔法だね」


なんだか眠くなってきた。特に何もなかったはずなんだけどな。


「眠くなってきました」


大和さんに頭を預ける。


「精神的に疲れたんじゃない?寝た方がいいよ」


そのまま横にされて抱き締められたまま眠った。



ーーー異世界転移35日目終了ーーー


念のため言っておきますが、大和の台詞

『ゴットハルトはとりあえず潰しておく。咲楽ちゃんは閉じ込めて外に出さない』

は大和の本心じゃありませんからね。


大和は咲楽の行動を制限したくありませんから。

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