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異世界転移って本当にあるんですね   作者: 玲琉
4年目 星の月
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「そうじゃと思う。(むご)い事じゃ」


男性の両足首に付いた擦れたようなアザ。色素沈着してしまっているから、拘束の跡だと思ったんだけど。


「サクラ先生、この男性2人が目覚めた時に飲ませるスープをお願い出来るかの?」


「分かりました」


給湯室で簡単なスープを作る。るい(そう)が酷いから、飢餓状態かもしれない。最初はお水から、だよね。リフィーディング症候群(シンドローム)が怖いし。長い間飲食してないとすると、誤嚥も怖い。トロミ付きの経口補水液を用意しておく。


「サクラちゃん、お昼休憩よ」


「えっ?もうそんな時間ですか?」


「何を作っていたの?」


「スープとトロミ付きの経口補水液です」


先にローズさんに休憩室に行ってもらって、所長の診察室に行く。


「サクラ先生、あの2人は療養室に移したよ」


所長の診察室の手前でマックス先生に会って、知らされた。


「まだ目覚めてないんですか?」


「まだだね。今はフォスが看てるけど」


「顔を出しても良いでしょうか?」


「行ってあげて。フォスもどうして良いのか分かってないようだから」


「私も分かってはないんですけどね」


療養室に行ってノックすると、フォス先生が顔を出した。


「サクラ先生、来てくれたんですね」


「お2人はいかがですか?」


「寝てます」


「そうですよね」


目覚めたらフォス先生がそう言ってくれるはずだもん。


「フォス先生、お昼を食べてしまってください」


「サクラ先生はどうするんですか?」


「その後で食べますから」


「約束ですよ」


「信用がありませんね、私は」


「そういう訳では無いんですけどね」


フォス先生が食べている間に、男性2人に洗浄魔法をかける。


「こ、ここは?」


私の食事が終わって、そろそろお昼からの診察が始まる頃、1人が目覚めた。フォス先生と交代で療養室に居てくれたダンテ先生が飛び出していく。所長に連絡しに行ってくれたようだ。


「ここは王都の王立施療院です。今、所長が来てくださいますからね。お名前を教えていただけますか?」


何度か声を出そうとして失敗した男性に少しずつトロミ付きの経口補水液を飲んでもらう。


「アレクシスといいます」


声が出るようになったようだ。名乗ってくれた。


「アレクシスさんですね」


ノックの音がして、所長が入ってきた。所長を見たアレクシスさんが起き上がろうとする。


「そのままで大丈夫ですぞ。ご気分はいかがですかな?」


「悪くありません」


「お腹は空いていませんか?」


「そういった感じはしません」


「最後に食事をしたのはいつですか?」


「確か5日前?もっと前だったかな?水で誤魔化していたから。一緒に男性が居ませんでしたか?」


「隣のベッドで横になっていますよ」


「良かった。ジョルジュ様」


「ジョルジュ様?」


行方不明になっている神官様が、確かジョルジュ・トレィヴァー氏だったはず。


お昼からの診察時間になったので、所長を残して診察に戻る。所長にはトロミ付きの経口補水液とスープを渡しておいた。診察室に戻る途中で神官様と騎士様が、療養室に行くのとすれ違った。


診察室で朝からのカルテ整理の纏めをする。カルテは粗方選別して運び出してもらっていた。魔力抜きはフォス先生とダンテ先生がやっているし、雨が止まないからか患者さんも少ない。誰か1人が診察すれば手が足りてしまう。


「サクラ先生、あの2人は?」


フォス先生とダンテ先生が診察室にやって来た。目覚めた事は知っているだろうけど、話を聞きたいんだと思う。


「お1人は目覚められました。もう1人の方はまだですね。今は所長が話を聞いていると思います」


「あの2人って神官ですよね?」


「そうでしたか?」


「神官が巡礼などに行く時の服に似ていたんです」


あぁ、だから神殿にも連絡が行ったのか。ライルさんが神殿に連絡をって言ったのはそれがあったからなんだ。


「そんな服装、あるんだ?」


「僕は親類に神官が何人か居るんです。だから知っているんですよ」


ダンテ先生がドヤ顔をする。


「ダンテ先生は神官に進まなかったんだね?」


「あははは……。僕が神官になれる訳がないですよ。朝早く起きて掃除して、お祈りをして野菜を育ててって、神官になるまでの修行が耐えられません」


そうかなぁ?私はけっこう出来そうな気がするけど。


「サクラ先生ならなれたと思うけど。サクラ先生は神官になるって考えなかったんですか?」


「私はもっと直接的に、患者さんの痛みを無くしてあげたいって思ったんです。神官になっても良かったんでしょうけど、施術師になるとしか考えてなくて」


「サクラ先生らしいですね」


患者さんが来て、フォス先生とダンテ先生は出ていった。


「サクラ先生、いつもすみませんね」


「ヴァネッサさん、どうされたんですか?」


「小麦の袋を持とうと思ったら、足を滑らせてね。あ痛たた……」


「膝ですか」


スキャンで診てみたけど骨折はしていない。酷い内出血はあるけど。


「骨折はしていませんね」


血液吸収促進と軽い痛み止めをかけておく。


「気持ちいいねぇ」


マッサージをすると、ヴァネッサさんのうっとりとした声が聞こえた。患者さんは居ないし良いよね。


「良かったです。でも気を付けてくださいよ」


「分かってるんですけどね。なんたってあんな所で足を滑らせたんだか?」


「濡れていたとか?」


「小麦を置いていますからね。濡れないようになっていますよ」


「ですよね」


原因は分からなかったけど、ヴァネッサさんと久しぶりにゆっくり話せた。


「サクラ先生、もう1人の男性が目覚めたよ。先輩がサクラ先生を呼んでる」


4時位にマックス先生が知らせてくれた。療養室に行くと、神殿の食堂のおばさんが来てくれていた。


「サクラ先生、すまんの。リフィーディング症候群(シンドローム)について説明してやってくれんか?」


「所長が説明されたんですよね?」


「そうなんじゃが、上手く伝わらなくてのぉ」


「どういう事なんだい?お腹が空いているのに食べさせちゃいけないって。可哀想じゃないか」


おばさんに気色ばんで言われた。怒ってる、よね。


「食べさせちゃいけない訳ではありません。お腹が空いている時に栄養たっぷりの食事を与えてしまうと、身体がビックリするんです。お腹を壊す位ならまだ良い方です。お腹にも血管が通っているから、血管を通して心臓までビックリしちゃいます。そうしたら命を落とす事になりかねません。少しずつ慣らしていって、もう大丈夫ってなったら、栄養たっぷりの食事をさせてあげてください。おばさんのお料理、美味しいですもんね」


「そうだったのかい?分かったよ。どうすりゃ良いんだい?」


「今晩はこのトロミ付きの経口補水液を飲ませます。明日からは少しずつ栄養のある物を。えっと?」


「アタシは独り身だからね。今日は面倒を見られるよ。明日になったら代わりが来てくれる。さっき所長さんには許可をもらったよ」


チラッと所長を見ると、頷いてくれた。


「では、明日の朝はこのスープを飲ませてください。かなり薄味ですので、あまり美味しくないですよ?」


覗き込んでいる神官さんに言ってみる。


「ワシも今日は泊まりじゃな」


「お願いします」


「サクラ先生、すみませんが頼まれてください。この手紙を王宮騎士団に届けてほしいのですが」


騎士様に手紙を渡された。


「はい。早い方が良いですよね?大和さん経由で送っておきます」


「お使いだてして申し訳ありません」


手紙を預かって、診察室に戻る。大和さんに『対の小箱』で送っておいた。


5の鐘になって、施療院を出る。


「サクラちゃん、あの2人はどうなるのかしら?」


「分かりません。私の仕事はあの2人の健康を取り戻すお手伝いをする事です。あ、でも、薬師さんに頼った方が良いかもしれませんね」


「そうねぇ。食事はなんとかなるかもしれないけど、薬師には1度診てもらった方が良いわね」


「大丈夫だよ。薬師協会には連絡しておいたから」


「良かったです」


「所長とマックス先生とフォス先生は今日は泊まりなのよね?」


「そう聞いています」


「こういう時に役に立てないのが嫌になってくるわ」


「でも、ローズさんがジェイド商会に言ってくれたお陰で、あのお2人の服装が整えられたんですよ」


「そうだけど。でも、それは家の力よ。私は連絡をしただけ」


「所長とサクラ先生が居ない時に頑張ってくれてたじゃない。診察も引き受けてくれてたし、苦手な症例纏めもしてくれて助かったんだよ」


「そうですよ。そういう事をやってくれる人って、貴重なんです。居なかったら気になっちゃって集中できません」


カークさんが走ってきた。


「サクラ様、トキワ様が遅くなるから先に帰っていてほしい、と」


「分かりました。カークさんは?」


「サクラ様をお送りしたら、騎士団に戻ります」


「送ってくれるんですか?」


ローズさん達と別れて家に向かう。


「カークさん、大和さんが遅くなるのって、お手紙の件ですか?」


「そうだと思います。私も分かってはないんですが」


「ですよね」


カークさんは大和さん宛の手紙を勝手に読むことはないだろうし、大和さんに宛てたとはいえ、あれは騎士団上層部に宛てたものだ。大和さんが教えない限りカークさんが知る事はない。


「カークさんも大変ですね」


「従者というのは主人の命令待ちでは駄目ですからね」


「そうなんでしょうけど、大和さんはあまり命令はしないでしょうし、表情も読みにくいでしょう?」


「そうですね。サクラ様もそう思われますか?」


「この頃は少しずつ感情を出してくれているんですけどね」


「それはサクラ様限定ですね」


「そうですか?」


家に着いて、私が施錠したのを確かめて、カークさんは戻っていった。覗き窓からカークさんを見送って、着替えをしに行く。お風呂に先に入っちゃおうかな。大和さんは遅くなるって言っていたし。


お風呂に先に入ってから、夕食を作る事にした。寒くなってきたから煮込み料理が美味しいんだけど何にしようかな?


あの2人の患者さんの身元は判明したんだろうか?最初に目覚めたアレクシスさんが色々と答えていそうだし、判明はしていると思うけど。それにもう1人の事を「ジョルジュ様」って言っていたよね。もう1人はやっぱりジョルジュ・トレィヴァー氏なんだろうか?南の孤児院の保護監督者だった人。カミル君とルプス君に見てもらえば分かるだろうけど、あの子達にさせたくないんだよね。しっかりしているけど、まだ子どもなんだから。そう言うと怒るだろうけど。


お風呂から出て、キッチンに入る。ヴァシューカ(黒牛)肉を使ってヴァシューカ(黒牛)シチューにしようかな?ブラウンソースを作って時間促進をかけて、暖炉に掛けておく。小部屋でユニット折紙を作っていたら、大和さんが帰ってきた。


「ただいま、咲楽」


「おかえりなさい、大和さん。お疲れ様でした」


「先に風呂に行ってくるね」


「はい。私は先にいただいちゃいました」


「良いんじゃない?待って遅くなるなら入っちゃった方が良いよ」


大和さんがお風呂に行ったから、お皿とパンを用意する。ヴァシューカ(黒牛)シチューだからハードパンの方が良いよね。


大和さんがお風呂から出てきたから、夕食にする。


「旨いね。ここに来た時に作ってくれたのとは違うよね?」


「違いますけど、似たような物ですね。あの時のは赤ワイン煮込み、これはヴァシューカ(黒牛)シチューです」


「つまりはビーフシチューだね」


「そうですね。時間促進を使えるから、短時間でも美味しく出来て良かったです」


ヴァシューカ(黒牛)肉がスプーンで切れるもんね」


ヴァシューカ(黒牛)肉でもヴァーモウ(肉牛)肉でもシチューは作れますけど、やっぱりヴァシューカ(黒牛)肉の方が美味しいです」


「肉質がしっかりしてる感じがする。赤身肉って感じだね」


ヴァシューカ(黒牛)肉もヴァーモウ(肉牛)肉もサシは入ってないんですよね。でも、固い訳じゃないし、程よく柔らかいんですよね」


「欧米の牛肉に似ている気がする」


「外国牛肉って赤身肉ですもんね。スジ肉を食べたいです」


「こっちでは食べないみたいだね」


「茹でこぼして煮込めば美味しいんですけど。コラーゲンがたっぷりなんですよね」


「肉屋で頼んでみれば?」


「ありますかね?」


「さぁ?」


夕食を終えると、寝室に上がった。


「あの2人は行き倒れ寸前だったらしいね」


「そうみたいです。運び込まれた時、私はカルテ庫に居たから様子は分かりませんけど。両足首に拘束の跡がありました」


「拘束の跡か」


「跡は瘢痕改善術で消えると思うんですけど、体力が落ちすぎてて、今は使えないんですよね」


「体力回復してからだね」


「あのお2人って……」


「まだ名前は言えないけど、1人は神官だよ」


「ダンテ先生が教えてくれました。巡礼などに行く時の神官服を着ているから、神官じゃないかって」


「神官があんな風になる事はそう無いんだよ。明日からしばらく騎士団の捜査査問官が施療院にお邪魔するよ」


「はい。何か分かると良いですね」


「そうだね」


そう言いながら、横になる。


「おやすみなさい、大和さん」


「おやすみ、咲楽」


あのお2人が元気になると良いなぁ。

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