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異世界転移って本当にあるんですね   作者: 玲琉
大和と咲楽 wedding
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蜜月 ①

結婚式の翌日。朝の7時頃に王都を出た。護衛として冒険者さん達が一緒だけど、みんな「自分達は本当に必要か?」と言っていた。大和さんが居るしね。大和さんが「もしもの事があったら咲楽を離脱させてくれ。その為の同行だ」と言っていた。何かあったら戦うのは自分が引き受けるから、安全な所まで私を離脱させろという事らしい。自分1人だけ安全に守られているのなんて嫌なんだけど、私は攻撃魔法を上手く使えない。施療院のみんなに教えてもらったんだけど、どうしても躊躇してしまって攻撃の威力が上がらない。


キュアノス領までは馬車で2日。キュアノス領はコーラル領への通過点だ。コーラル領は深い入り江のようになっているから、1番賑わうコーラル領の中心部までは更に2日かかるらしい。キュアノス領は同行してくれた冒険者さんによると、知る人ぞ知るという感じの漁師町で、海沿いに土産物店が並んでいるそうだ。


乗っている馬車はキュアノス領経由のコーラル領行き。気軽に旅行に行けないこの世界だけど、観光業のようなものはある。馭者さんは各地を廻ってその土地の話を集めているんだそうだ。地方民話って感じかな?それを本にして売っていると言っていた。大和さんが「じゃあ、俺達の事も?」って笑いながら聞いたら、「お客様の事は絶対に書かないと決めている」と言っていた。信用を失うからって。


しばらく森の中を走る。黄葉の森で、空気まで黄色に染まっている気がする。


「階上の男共は何をしているのかしらね?」


「騒いだ声が聞こえるじゃない。きっと黒き狼様と一緒で、はしゃいでいるんでしょうよ」


護衛の冒険者さんは6人。男女3人ずつのパーティーだ。


馬車内は広くて、なんとトイレまで付いている。そして2階建てだ。2階は厚手の防水布で屋根を付けられるけど、基本的にフルオープン。元々は見張りや射手の為の場所らしい。走り出す前に1度上に上がらせて貰ったけど、階上も結構広かった。でも、揺れるし高くて怖かったからすぐに降りた。大和さんは嬉々としてあちこち見ていたけど。


「皆さんはキュアノス領には行った事があるんですか?」


「年に1度、必ず行くわ。元々がキュアノス領の出身なのよ。今回のもどうせ行くからと引き受けたら、依頼主が黒き狼様と天使様でしょ?ビックリしちゃった」


「依頼表に書いてあるんじゃないんですか?」


「受付の子が言っていたんだけど、依頼主が黒き狼様と天使様って知られると、希望者が殺到しかねないからって『詳細は面談の上』となったって言っていたわ」


「だから面接があったのね。ギルド長とカークさんが一緒だったから驚いちゃった」


「カークさんって冒険者ギルドを辞めたって聞いたのに、何故か居たものね。魔物の事とか教えてもらおうと思ったのに、すぐに居なくなっちゃったし」


「でも、調査部でしばらく居たらしいわよ」


「カークさんって遠巻きにされてたって聞いていたんですけど」


「静かにギルドの隅のテーブルで何かを読んだり書いたりしていたからね。それに前の副ギルド長の用事もしていたし。なんとなく近寄りがたくて」


「聞いたら分かりやすく教えてくれるんだけどね。なんというか、話しかけて良いのか迷っちゃっていたのよね」


「でも、あの子は上手くやったわよね」


「リンゼでしょ?最初っから分かりやすかったわ。あれは絶対に惚れてるわねって女性達の間で言っていたのよね」


「結婚秒読みらしいじゃない。羨ましいわ」


「あ、でも、あの子はどうするのかしら?」


「あの子?あぁ、ユーゴ君」


「心配要らないんじゃない?ギルド職員として立派にやってるじゃない」


「そうよね。あの子も若手冒険者に人気なのよね」


「若手というか、未成年の子達よね。見ていると面白いわよ。ユーゴ君が受け付けに立つとその前に行列が出来るの」


「そんなに人気なんですか?」


「丁寧に対応してくれるって評判なのよ」


そうなんだ。立派に仕事をしていると知れて、なんだか嬉しくなった。


馬車は快調に進む。もうすぐ最初の休憩所という所で、外を見ていた女性冒険者さんが緊張した声を上げた。


「ねぇ、そろそろじゃない?」


その声と同時に階上から声が降ってきた。


「窓を閉めてくれ。天使様の側に1人残って後は馬車を守れ」


何が起きたの?馬車の速度が落ちる。魔道具の灯りが点された。馭者さんが中に入ってくる。2人が出ていって、少し遠くでぎゃあっ!!という悲鳴が聞こえた。


「咲楽っ。馬車と馬を囲むように結界を!!」


大和さんの大声が聞こえて馬車が揺れた。急いで結界を張る。味方は入れるように、こちらを狙う矢や剣や魔法は弾くように。光属性を行使する。


剣戟の音がする。悲鳴が聞こえる。冒険者さん達と大和さんが怪我をしませんように。祈っていると、程なくして剣戟の音が止んだ。


「終わったよ。もう大丈夫」


大和さんのその声に残っていた冒険者さんが少し窓を開ける。安全を確認した後、窓を全開にした。結界を解除する。


「トキワさん、あれはいったい?」


「地属性だ。ロックバレット(岩弾)ピエレバル(石弾)を高速で打ち出した」


「高速で?そうか。だから貫通したのか」


馬が興奮していた為、休憩場所までゆっくり進んで休憩する。その時に大和さんが質問されていた。貫通って、もしかして銃のように使ったの?


「膝を砕いただけだよ」


抱き締めていた私の視線に気が付いたのか、大和さんがそっと囁いた。野盗の襲撃なんて慣れてないだろうから、と冒険者さん達が気を利かせてくれて、私は今、大和さんの膝に座らされている。隣でも良かったんじゃない?冒険者さん達の温かい眼が恥ずかしい。


襲撃を受けた場所はよく野盗が出るポイントで、戦闘不能にした野盗は捕縛して休憩所の管理人さんに預けた。良くある事だからって管理人さんも当然のように預かっていたけど、こんな状況が良くあるの?


「街道沿いだから基本的に魔物は出ないけど、野盗はよく出るのよね」


「そうなんですか。皆さんは何度もこのような事に遭遇したんですか?」


「そうねぇ。何度か遭遇してるわ。野盗は基本的に男は殺せ、女は犯せだから、躊躇していられないのよ」


「今回は黒き狼様が居てくれたから、怪我もなく返り討ちに出来たけど、いつもならもう少し苦戦してたわね」


「大丈夫なんですか?」


「冒険者になるって決めて、その時に覚悟も決めたわ。ラルジャ()ランク()に上がる前に再度覚悟を聞かれたもの。ラルジャ()ランク()になると野盗の討伐も依頼に入ってくるから」


「そうなんですね」


私には、対人戦なんて無理だ。対魔物でも躊躇しちゃうのに。


私と話しているのは主に女性冒険者さん達。男性冒険者さん達は武器の手入れをしていた。時折笑い声が上がる。どうして笑えるんだろう。命を狙われてやり返してってこんな状況の後で。


「咲楽、大丈夫?」


「大丈夫です。すみません」


「謝らなくて良いよ。ショックが強かったんじゃない?」


「そうなんですけど。すみません。私だけ守られていたんですよね」


「それが彼らの仕事だよ。俺は戦う為の力があるから共に戦ったけど、咲楽は攻撃魔法を行使しないから。気にすることはないよ」


「はい」


とは言ったものの、完全に割り切れた訳じゃない。


馬車に戻って再出発してから、女性冒険者さん達が話し出した。


「さっき、黒き狼様が『共に戦った』って言ったけど、助けてもらったのは私達よね」


「戦っている時に死角から襲ってきた野盗を引き受けてくれてたし、的確に指示もしてくれたし」


「物凄くやり易かったわよね」


「剣は使ってなかったけど。全て魔法よね?」


「地属性を使いこなしていたわよね。野盗だけが足元を崩したりしてたもの。あれも地属性でしょ?」


「索敵もしてくれていたでしょ?凄いわよね。地属性がハズレ属性って言われていた時から鍛えていたって言うじゃない。索敵って難しいのよね」


「貴女も地属性だったわね」


「そうよ。さっきの『ロックバレット(岩弾)ピエレバル(石弾)を高速で打ち出した』っていうのも、思い付かないわ。きっと常に考えてらっしゃるのね」


「欲を言えば剣技が見たかったわ」


「そんな場合じゃなかったでしょ」


「そうね。ごめんなさい」


馬車の中での彼女達は穏やかだ。さっきまで戦闘をしていたというのが信じられないほどに。


「天使様、大丈夫?」


「もうすぐ昼食用のポイントよ。無理そうなら言ってね」


「大丈夫です。すみません」


「謝らないで。私達は天使様を守る為に居るのよ」


「そうそう。遠慮なんかしないでね」


本来はさっきの休憩所には立ち寄らない予定だったらしい。それを変更したのは野盗達を預ける為と、私がショックを受けている感じだったから。


ああいった野盗に情けは要らない。やらなければやられるんだから。それは理解しているけど、想像と実際とじゃ全く違った。聞こえる悲鳴や剣のぶつかる音。実際に見た訳じゃない。私は守られていて外を見ていないけど、それでも争いの空気は分かったし、いつ乗っている馬車まで攻撃を受けるのかと怖かった。


剣のぶつかる音なんて闘技場や練兵場で何度も聞いたし、剣を使った訓練も何度も見ている。それでもあれは訓練で安全が保証されていた。


「天使様、気にしなくていいわよ。私達冒険者ならともかく、護衛任務の対象の中にはああいう場面でパニックを起こしちゃって、大変な人も居るんだから」


「そうそう。女性だと気絶しちゃったとかね」


「気絶しちゃった方は大丈夫だったんですか?」


「少ししたら気が付かれたわ。大丈夫よ」


昼食の為に馬車が止まった。王都からの客は大抵ここで昼食を取る。簡易な露店を広げている人達も居て、そこで食べ物や食材を買ったりも出来る。私のように異空間を持っていると食材も生のお肉や野菜を持ってきたり出来るけど、一般の人は乾燥させた干し肉やパンに水だけで済ませる人も珍しくない。


今回はその辺りも体験したいと事前に言ってあって、食材は冒険者さん達にお任せした。もちろんお金は渡してある。


干し肉と乾燥させた野菜のスープとパンの食事を頂く。ちなみに今回の旅行中は、調理禁止令が大和さんから出されている。女性冒険者さん達が動いているのを見ているだけって、ウズウズしちゃう。私も動きたい。ソワソワと落ち着かない私を見て、大和さんが呆れたように半笑いになっていた。


昼食後は今日の宿泊先の宿まで一直線。幸いにもあれから野盗も魔物も出なくて、順調に宿に着いた。


今日は王都とキュアノス領の間にあるテイェラ領に宿泊予定。夕食もここで取る。宿場町だけあって小さいながらも歓楽街があると聞いた。歓楽街といっても健全なもので、娼館が3つと後は遊興施設が何軒か有るという感じ。娼館がある時点でそれは健全なの?という疑問はあるけど、大和さんや冒険者さん達によると健全なんだって。女性冒険者さんの話には出てこなかったけど、街をそぞろ歩きしている時に男娼館もあるという話を耳にした。


テイェラ領は河口が近いからか、淡水湖が多いからか、淡水パルレ(真珠)が売っていた。淡水パルレ(真珠)は地球のようにヒリオプシス貝と呼ばれる淡水貝から取れる。大和さんに言わせると、地球の物より大きいらしい。形は不定形。米粒みたいな形や三日月のような形まである。三日月のような形の淡水パルレ(真珠)は両端にチェーンを付けてそのままブレスレットになっていた。


部屋はツインタイプで、護衛の冒険者さん達とは別フロア。食事は部屋食も選べたけど、食堂で食べた。ワイワイガヤガヤ賑やかな食堂で、魚料理なんかもあってとても美味しかった。ここで出てきたのがソトリャクト。黄豆のピューレを固めた物だ。見た目は黄色味の強いお豆腐。マンドル(ネーブルオレンジ)キトルス(グレープフルーツ)アウランティ(ライム)シトロン(レモン)、ナツダイ等の柑橘と共にいただく。愛玉子(オーギョーチ)のような味のシロップを使ったスィーツ系だった。


美味しい夕食を終えて、部屋に戻る。冒険者さん達は今から屋台通りへ行くんだって。大和さんも誘われていたけど断っていた。


「疲れた?」


ここにはシャワーしかないから、順番にシャワーを浴びて、ベッドに座ったら大和さんに聞かれた。


「見るものが全部楽しくて、疲れてなんかいません」


「道中でイレギュラーは有ったけどね」


「あの野盗さん達はどうなるんですか?」


「どれだけの罪を犯しているかによるね。初犯なら刺青を入れて、半年ほど開墾作業に従事させるとかかな?重犯者なら、それ相応の処罰を受ける」


「でも、大和さん、膝を砕いたって……」


「それ位しても文句は言わせないよ。襲ってきた時点で敵だ。しかも命を狙ってきていた。俺は膝を砕いた位だけど、冒険者達は腕を切り落としたりしてたからね。優しい方だと思うよ」


私が甘いんだと思う。でも、命のやり取りが行われているという事が受け止められていない。


「咲楽のその優しさは美徳だと思う。でも、殺気を向けてきたその時点で、応戦しなきゃこっちが殺られる」


「分かってます。分かってるんですけど……」


「咲楽は気にしなくて良いよ。もう寝てしまいなさい。明日も早いんだから」


「はい。おやすみなさい、大和さん」


「おやすみ、咲楽。いい夢を見てね」



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