55
翌日起きたらミュゲさんとルビーさんに引っ付かれてた。
今日は闇の日だから私達はお休みだけど、大和さんはお仕事だよね。
今、何時だろう。朝から走るって言ってたけど、ゴットハルトさんはちゃんと起きれたのかな。
昨日お風呂上がりに着させられたワンピースに着替えて上着を羽織る。
キッチンに行って朝食の材料を……何人分?
スープは結構たくさん仕込んであるから大丈夫そうだけど、んー。とりあえず大和さんでしょ、私にミュゲさん、ルビーさん、ゴットハルトさん……5人?でいいのかな。
ハムと卵を出して、パンの用意。その頃にルビーさんとミュゲさんが起きてきた。
「おはよう、早いのね」
「おはようございます。今から庭に出るんですけど、一緒にいきますか?」
「何があるの?」
「大和さんの剣舞の練習を見るんです」
3人で庭に出ると座り込んでいるゴットハルトさんと心配そうなダニエルさん達がいた。
「おはようございます、サクラ様」
「おはようございます。ゴットハルトさんは大丈夫ですか?」
「あの水を頂けますか?」
ゴットハルトさんの声が下から聞こえた。
私の『ウォーター』の水ですね。コップを取ってきてお水を渡す。
「はい。どうぞ」
大和さんは瞑想の真っ最中。
「ねぇ、トキワ様は何をして居るの?」
「剣舞の前の精神集中だそうです」
「あれ、本当にトキワ様?雰囲気が違うわね」
「はい」
大和さんが瞑想を解いて、剣舞の準備をする。ゴットハルトさんが私から離れた。
「あら?どうしたの?」
「すみません。お2人も少し離れた方がいいかも」
2人から少し離れる。剣舞が始まった。
「綺麗ね」
ルビーさんが呟く。
2人にはフラーの景色は見えてるんだろうか。私には今日も、広大な花畑に立つ枝垂桜が見えている。
ミュゲさんが目を擦っている。ミュゲさんには見えたのかな。
剣舞が終わると、大和さんがこっちに歩いてきた。
「咲楽ちゃん、おはよう。お2人もおはようございます」
大丈夫だと思ったけど、大和さんにぎゅっと抱きついた。
「咲楽ちゃん?」
「大丈夫だとは思ったんですけど」
「誕生日は本当は今日だったね。おめでとう」
大和さんが私の頭を撫でてくれた。大和さんに頭を撫でられるのは好きだ。気持ちいい。プレゼントをもらった気分だ。
「朝から何なのかしら?」
「いつもの光景よ」
ミュゲさんとルビーさんに呆れたように言われてしまった。
「中に入りましょうか」
大和さんに促されて家に入る。
ゴットハルトさんがソファーに寝転んでぐったりしている。大和さんはシャワーに行った。
「宿酔ですか?」
「酷くはないんですよ。ヤマトは何故あんなに元気なんだ?俺より飲んだのに……」
「仕方がないわね。ちょっと触りますよ」
ルビーさんがゴットハルトさんの肝臓の辺りに触れた。
「あれ、何をしてるの?」
「多分体内のアルコール分を急速分解してるか、アルコール分を抜いてるかです」
ルビーさんの処置が終わった。
「これで大丈夫なはずよ」
ゴットハルトさんが起き上がる。
「楽になってます。ありがとうございます」
お水を差し出した。
「飲んでおいてください。アルコールを排出しないと」
「そうね。飲んでおいた方がいいわ。家で父が酔っぱらうのよ。そのときに覚えたの」
「サクラちゃんは大丈夫?」
「はい。大丈夫ですけど、ローズさんのお兄さんと話をした辺りからあまり覚えてません」
「甘えるサクラちゃんが可愛かったとだけ言っておくわ」
「可愛かったわね。トキワ様はいつも通りだったけど」
何だかみんなの目が優しい。
「朝食にしましょう。ゴットハルトさんの分もありますよ」
「移動します……」
「ヨレヨレだな、ゴットハルト」
「ヤマトが強すぎるんだ。何でそんなに動けるんだよ」
「さあな」
大和さんが楽しそうに言う。
私が朝食の仕上げをしてる間に大和さんが客室から椅子を持ってきた。朝食プレートにハムと卵とパンをのせて、スープを添えて完成。
「大和さん、コーヒー、どうします?」
「あぁ、淹れる。ゴットハルトもいるよな」
ケトルにお湯を沸かす。
「コーヒーって前に言ってた南方の苦い飲み物?」
「はい」
「サクラちゃんも飲むの?」
「飲まないです」
「ほら、ゴットハルト」
大和さんがゴットハルトさんにコーヒーを渡す。
「何だか目の保養ね」
はいっ!?ルビーさん?
「そうねぇ」
ミュゲさんまで!?
「まさかこんな所に……」
噎せこみかけた大和さんがブツブツ言ってる。
朝食を食べて、大和さんは着替えに行く。私がお皿を洗ってるとミュゲさんに聞かれた。
「トキワ様って今日、お仕事だったの?」
「はい。明日が休みかな?」
「あぁ、そうか、騎士様は闇の日って関係ないものね」
「今日はどこなの?」
「西市場ですよ」
大和さんが降りてきて言った。
「家の近くね。マルクスの家もその辺りよ」
「シロヤマさん、西市場まで行っちゃう?」
「マフラーだけ仕上げたいです」
「マフラーだけ?」
「はい。あと少しなんです」
「分かった。それだけね」
「あ、毛糸、忘れてた。昨日本当は毛糸を買いに行ったんです」
「そのままお誕生日パーティーにしちゃったものね」
「そろそろ出ますね」
「大和さん、いってらっしゃい」
「どこかに行くときは1人は駄目だからね」
「分かってます」
「お願いします」
大和さんはミュゲさんとルビーさんにお願いして出ていった。
「相変わらず過保護ね」
「ミュゲさん、過保護じゃないのよ。サクラちゃんの方向音痴のせいだから」
「そんなにヒドイの?」
「神殿からジェイド商会までを迷ったって言ってたわ」
「あぁ、コリンが言ってた。あれ、大袈裟じゃなかったの?」
「シロヤマ嬢、我々もそろそろお暇します。来られるならブランを寄越しますが、どうします?」
「えっと、騎獣屋さんの方に行った先でしたっけ」
「迎えに来てもらったら?」
「そうよね。その方が安心だわ」
「ブランさんってあの女性の方でしょ?」
結局迎えに来てもらうことになった。
家の中に3人っていつもより多いのに、さっきまでが多かったから、寂しくなった感じになる。
「シロヤマさん、騎士様用のマフラーよね。あれ、巻き方もあるから、大体2m位必要よ」
「そのくらい編んでます。私はマフラーは身長くらい、って教わったので」
「編み物って難しいイメージがあるわ」
「教えましょうか?簡単に編めるやり方」
「でも、時間かかるでしょ?」
「別に来年用でも良いじゃない」
2人が話してる間に大和さんの名前を編み込んでいく。
編み込む色はダークブラウン。
「サクラちゃんが難しそうなことをしてる」
「何を入れてるの?」
「大和さんの名前です。元の世界の字で入れたくて」
「どんな字なの」
「これです」
そう言って大和さんの書いた名前を見せたら2人が固まった。
「これが名前?何て読むの?」
「上の2文字が『トキワ』で下2文字が『ヤマト』です」
「これ皆が読めて書けるの?」
「はい。あ、書くのは覚えてないと、ですけどね」
「サクラちゃんのはどんな字なの?」
「私のはこう書きます。上の2文字が『シロヤマ』で下2文字が『サクラ』ですね」
「複雑ね。これだけで模様みたいに見えるわ」
ワイワイ言いながら私はマフラーを仕上げていく。
「出来た」
「長さも幅も良いんじゃない?」
「よくこんな複雑なこと出来るわね」
ルビーさんがぐったりしてる。
「後はジェイド商会へ毛糸を買いに行くのと、ヘリオドール様の家からブランちゃんが来るのを待つだけね」
「あ、お掃除だけしちゃっていいですか?シーツとか代えたいです」
「掃除と洗濯ね。それなら手伝えるわ」
ルビーさんが何故か張り切ったところで、シーツを剥がす。洗濯してる間にお掃除。窓を開け放つと風が気持ちよかった。
「サクラちゃん、こっちの部屋は?」
「そこは大和さんの部屋です」
「じゃあ、入らない方が良さそうね。どんな部屋なの?」
「武器が一杯です。用意されてたとか言ってました」
「それ、間違いなくペリトード団長の仕業だわ。使えないのはなかったの?」
「あったみたいです」
「でしょうね。あの方に意見できるのはやっぱり奥さまかしら。フフフ、言い付けてやるわ」
ミュゲさんが何かを企んでいます。恐いよー。
「ミュゲさん、落ち着いて」
「そうよ、落ち着いて。何か分かんないけど」
ミュゲさんを宥めるのに時間がかかった。
この世界の洗濯箱は、乾燥までしてくれるから、干す手間が要らない。掃除を終えて、シーツをかけ直した頃、来客があった。
「ブランさんでしょうか」
「サクラ様、ブランとアッシュです。お迎えに上がりました」
「あ、来てくれたわね。私達も良いかしら」
ミュゲさんが何故か確認をする。
「はい。ヘリオドール様からお2人も一緒に、と言われています?で良かったか?」
アッシュさんがブランさんに確認してる。
「なぁに?言い方?そんなに丁寧じゃなくていいわよ」
「冒険者だったら護衛とかもあるから、覚えておいた方がいいって言われて」
アッシュさんが言う。
結界具を作動させて、家を出る。
「サクラ様、こっちです」
あれ?方向が違ったみたいで早速軌道修正された。
「過保護じゃないわね、これは」
「そうね。危険だわ、色々と」
ご迷惑、ご心配をおかけします。
「この前神殿に1人で来たときは迷わなかったの?」
「ナイオンがいたので。もしかして誘導されてたんでしょうか」
「あの白い虎さんね」
「白い虎?どこかで聞いたわね」
ホンの少し、15軒くらい離れた家がゴットハルトさんが借りた家だった。
「ヘリオドール様、サクラ様とお客様です」
「アッシュ、それじゃ失礼だ」
ゴットハルトさんがそう言うけれど、ルビーさんは私が教えた『疲れがとれるおいしい水』をみんなに配って、ミュゲさんは勝手に窓の幅を計っている……。
「ヘリオドール様、カーテンはどうされるの?」
「今から外注します」
「あら。作るわよ」
「それは悪いです」
「させてちょうだい。こんな作りがいのある事ってないわ。布だけ選んでね。住むのは貴方だけ?」
「いえ、エスター・パイロープと共同なので」
「パイロープ様は?」
「自分の部屋にいますが」
「お呼びしてくださる?」
「シンザ、呼んできてくれ」
諦めたように、ゴットハルトさんがシンザさんに言う。エスターさんが部屋から出てきた。
「お久し振りです。パイロープ様、カーテンを作りたいので窓のサイズを確認させてくださらない?」
びっくりしているエスターさん。そりゃ、そうだよね。ただ、節約できる、ということに関しては喜んでいた。
西市場に行くことになった。ルビーさんが張り切ってる。
一応敷地内に結界具を作動させて市場に出発。結構な大人数だよね。
ルビーさんが近道を知っていた。私には使えない近道だ。覚えられないもん。
ミュゲさんはずっとブランさんと話している。
「着いたわ。ここが西市場よ。まずは何かしら?布?家具?小物?」
「ルビーちゃん、まずはお昼じゃない?」
「いいこと言うわ、ミュゲちゃん」
2人の呼び方が変わってる。
「天使様?」
あ、あの時の騎士様?私服だと分かんない。
「トキワ殿を見に来たんですか?」
「お買い物です」
「案内は?」
「地元の方がいらっしゃるので」
話していたら大和さんが来た。
「咲楽ちゃん?」
「大和さん」
「買い物?」
「はい。あの、カーテンとかの布とお昼ご飯とか……」
「ゴットハルト達の家か。案内もガードも沢山だね」
「大和さん、お仕事中では?」
「分かった。戻るね」
大和さんは部隊長さんと雑踏に紛れてった。でも背が高いから、いつまでも見えてる。
「トキワ殿は雰囲気があるのに、紛れるのが上手いですね」
エスターさんが感心したように言う。
「確かにちょっと目を離したら、見えなくなったわね」
ミュゲさんが大和さんを探しながら言う。
ルビーさんの案内で屋台が集まる所に行く。私はスープとサンドを、他の人はそれにプラスして2~3品を食べている。
10人位の集団が来た。大和さんもいる。騎士様達?他の騎士様に言われて大和さんがこっちに来た。
「一緒によろしいですか?」
「どうしたんですか?」
「花がないから誘ってこいと言われた」
騎士様達を見ると期待に満ちた目でこっちを見ている。
「見てますね」
「私は別に構わないわよ」
「そうね、私も構わないけど、ブランちゃんはどう?」
「あ、はい。構いません……ブランちゃん?」
「ダニエル達は?」
「僕……私達も構いません」
「ゴットハルトとパイロープ殿は?どうですか?」
「俺は構わない」
「私も大丈夫です」
みんなの了解をとった大和さんは騎士様達の方に行った。沸き起こる歓声。迷惑になっちゃわない?
一斉に寄ってきてテーブルを寄せ始める騎士様達。
「大人数ですね」
元々10人いたところに更に10人増えたら、大変な事になっちゃうよね。
何人かの騎士様がブランさんミュゲさんに声をかけている。最初はルビーさんにも声をかけてたんだけど、ルビーさんに婚約者がいるって分かって、ショックを受けてた。
「王宮騎士の実態が……親しみやすい、って言い換えたらいいか」
って、ゴットハルトさんが笑ってた。
昼食を終えると挨拶をして帰っていく騎士様達。
「すみませんでした。大勢で押し掛けて」
謝ってきたのは部隊長さん。
「私達は構いませんよ」
ミュゲさんが言う。
大和さんは黙々とテーブルを元に戻している。ダニエルさんが手伝おうとして手を出しかねている。
「手を出すならちゃんと手を出せ」
ってゴットハルトさんに叱られてた。
「部隊長、そろそろ行きましょう」
大和さんが声をかけて、帰っていった。
「まずはカーテンとか布製品ね」
ここはミュゲさんの独壇場。希望の色を聞いてテキパキと買っていく。
敷物、カーペットとかが売っている所に来て思い出した。リビングに絨毯が欲しいと思ってたんだった。
「ミュゲさん、リビングに絨毯が欲しいんですけど」
「あそこだったらそうねぇ。こんな色はどう?」
提案されたのは深いボルドーの絨毯。
「いい色ですね。サイズってどうすればいいですか?」
「相談に乗ってくれるけど、「部屋を見せてください」とか言われちゃうのよね」
「部屋全体に敷く訳じゃないんですけど」
「そうよね」
「ねぇ、机のサイズに合わせたら?」
ルビーさんから提案された。
「我々は適当に見てますから」
ゴットハルトさんが、そう言ってくれた。
そういえばゴットハルトさん達のお家のカーテンとか見に来たんだよね。自分のに夢中になっちゃった。
と、言うわけでやってきました。マルクスさん家。ルビーさんが力説するんだもん。
「おや、ルビーちゃん、マルクスは上にいるよ」
「おじさん、こんにちわ。マルクスに会いに来たんじゃなくて、相談があるんだけど」
テーブルを見るだけって、失礼にならないのかな?ルビーさんはおじさんと話をしていた。
「なんだ、そんな事か。構わないよ、見ていきなさい。なんなら案内してあげるよ」
親切に言ってくれました。
「ありがとうございます」
テーブルの幅だとかを測らせてもらって、他の家具も見せてもらった。
「あの、踏み台とか折り畳めるものって無いですか?」
私がそう言ったら、職人さんがたくさん集まってきて、色々な意見を出しあってあっという間に作ってしまった。素早い。
踏み台は購入して絨毯のお店に戻る。ボルドーの絨毯を買っていたら、マルクスさんが走ってきた。
「来てくれてたって聞いて走ってきた。シロヤマさんに話があって」
「何でしょう?」
「ルビーにも相談させてもらったんだけど、診て欲しい人がいるんだ。本当なら連れていかなきゃいけないんだけど、歩けなくてね」
「おばあ様の事?そうね。サクラちゃんなら……あ、でもヘリオドール様達はどうしようかしら」
ゴットハルトさんを見つけて相談すると、私の治療を見たいと言われた。それはさすがに無理です。プライバシーの問題もあるし。私の光るところを見たいって、見世物じゃありません。そう言って断ったのに……。




