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異世界転移って本当にあるんですね   作者: 玲琉
3年目 酷熱の月
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酷熱の月、第2の闇の日。


今日も朝からお日様が元気だ。こう暑いと何もしたくないって気になっちゃうね。


今日は大和さんも私もお休みだけど、私は王都薬師協会にお呼びだしされている。いうまでもなくあの時ローズさんと作った炎熱病の薬湯についてのお話だ。


その前に大和さんに瘢痕改善薬を飲んでもらわないと。あれから傷痕の確認をしていないんだよね。大和さんも見せてくれないし。


今日の薬師協会へはカークさんも一緒に行く。カークさんにも瘢痕改善術をかけたいし、その為には瘢痕改善薬を飲んでもらわないといけない。でも、手元には大和さんの分しかない。だから一緒に行ってもらうことにした。もちろんカークさんの了解はもらっている。


起床して着替える。階下に降りて、朝食と昼食を作ったら帽子を被って庭に出る。庭の水やりと花壇の水やりを済ませたら、離れを開ける。風を入れたらお掃除をする。ここには掃除の魔道具は無い。雑巾で綺麗に拭いていく。魔法でやっても良いんだけど、久しぶりに雑巾を使いたくなったんだよね。薬草部屋にはマルクスさんに作ってもらった薬箪笥がある。そこに粉末状にした薬草や調薬器具を仕舞ってある。灯りは行灯風の物を使っている。もちろん明るさは行灯とは桁違いだ。雰囲気はバッチリだと思う。


「ただいま、咲楽」


「おかえりなさい、大和さん」


「掃除してたの?」


「はい。久しぶりに雑巾で掃除をしました」


「今日は王都薬師協会だったね?」


「はい」


「なんの呼び出し?」


「たぶん炎熱病の薬湯についてだと思います」


「炎熱病の薬湯?許可が降りたんじゃないの?」


「許可も降りて実際に作ってますよ?」


「じゃあ、いったいなんの為に?」


ジッと見られる。やっちゃった事は言ってないから、気まずくて目をそらした。


「まぁ良いや。シャワーに行ってくる。後で聞くからね」


「はい」


後で聞くから、かぁ。でもでも、あれは私がヤラかしたんじゃなくて、偶然だもんね。と自分を誤魔化しても問い詰められるであろう未来が変わる訳はなく……。


掃除を終えて、趣味のハーブティー(薬草茶)の調合をする。薬師用の天秤ばかりがあると、調合しやすいなぁ。(グラム)単位が簡単に計れるんだもん。ハーブティー(薬草茶)はある程度の大きさには切るけど、粉砕はしない。した方が良いハーブ(薬草)も有るけど、私の持っている物には粉砕する物は含まれていない。


「咲楽、ずいぶん熱心だね。始めるよ」


「はい」


いけない。夢中になっていたら忘れていた。大和さんは舞台に上がっている。今日は何の舞だろう?


大和さんが手にしたのは1本のサーベル。構えを取る。とたんに大和さんが炎に包まれた。実際には炎じゃないんだけど、どうしてもそう見えてしまう。ヒポエステスのようにフィールドを縦横無尽に駆ける人が見える。膨れ上がる熱狂の渦。押し寄せる興奮。音は聞こえないのに沸き上がる歓声が感じられた。


『夏の舞』だ。この頃『夏の舞』の時に景色がぼんやりと見える事がある。


舞い終わった大和さんが舞台を降りた。立ち止まって目を瞑って動かない。しばらくするとふぅぅーっと大きく息を吐いて、ウッドデッキに上がってきた。


「咲楽」


声をかけられて抱き締められる。


「大和さん、大丈夫ですか?」


「ちょっと無理かも」


「えっ?」


顎を掬われてキスされた。


「んっ……。大和さん」


「いいね。(いろ)っぽい」


私を抱き締めたまま、大和さんがもう1度キスする。大和さんの眼に危険な光が見えた気がした。慌てて身を(よじ)る。


「悪い」


私が身を離したタイミングで大和さんに謝られた。


「いいえ。大丈夫ですか?」


「ちょっと危なかった」


「少し怖かったです」


「ごめん。怖がらせたね」


「大和さんは大丈夫ですか?」


「俺は大丈夫だよ。この衝動は内に向く物じゃないから。むしろ危険なのは周りの人間。特に咲楽は危険だと思う」


「私ですか?」


「俺が初めて執着した女性(ひと)だからね。そうならないように抑えているけど、咲楽が欲しいって想いが溢れそうになる。『夏の舞』の後は特にね」


離れの戸締まりを終えて、母屋に向かう。


「襲うかもって言ってましたね、そういえば」


「余裕だね」


「まだ心臓はバクバクしてますよ?」


「確かめられないしね」


「心拍数なら脈拍で大体分かりますよ?」


「さすがに胸に触りたいなんて言う気はなかったけどね、今は」


「今はっ?!」


「お望みなら今すぐでも良いけど?」


「お望みじゃないですっ!!」


慌てて大和さんから距離を取るとクククっと笑われた。揶揄(からか)われた?少し落ち着かないと大和さんと顔を合わせて朝食を食べられない気がする。朝食をテーブルに並べて私は小部屋に逃げ込む。


「あ、逃げた?」


「少し落ち着かないと、朝食が食べられません」


「俺も落ち着いてくる。冷水を浴びたいんだけど、お願いしても良い?」


「冷水ですか?」


「うん。氷水が理想」


「理想なだけですよね?」


浴槽に水を溜めていく。同時に氷を出して浴槽に入れる。早く溶けるようにクラッシュアイスにしてみた。


「溜まりましたよ」


浴室を出て大和さんに声をかける。大和さんがちょっと手をあげて浴室に入っていった。


私も落ち着こう。私の場合は裁縫や料理でいつも落ち着いてきた。朝食、昼食はもう作っちゃったし、サシェを作ろう。スライム液で固めたドライフラワーの飾り盾も綺麗に出来ている。でもまだ残っているんだよね。ドライフラワーの花弁が。刺繍をした小袋にポプリを入れてサシェを作っていく。


「何を作ってるの?」


大和さんが浴室から戻ってきた。


「サシェを作ってました。朝食にしましょう」


朝食を改めて並べて、2人で食べ始めた。


「しばらく『夏の舞』は止めておこうか」


「止めちゃうんですか?」


「うん。少なくともアウトゥまでは」


「アウトゥまで?」


「結婚するまではね」


それって結婚したらそういう行為が解禁になるからって事だよね?黙り込んでいると、大和さんが話題を変えた。


「今日ね、飛行部隊の中でも飛行装置に不慣れな奴らが東の草原で自主練習するって言うんだけど、行く?」


「薬師協会の用事次第ですね。いつ終わるのか予想がつかないですから」


「飛ぶ事になると思うから、行くならパンツだね」


「最初からそのつもりで行った方が良いですよね?大和さんも行きたいんでしょう?」


「指導というか、あればかりは数をこなして慣れるしか無いからね。後は障害物回避の仕方とか」


「カヌー型もあるんですよね?」


「あぁ、カタマラン仕様に出来る飛行装置もある。そっちは訓練中だね」


「カタマラン?って何ですか?」


「双胴船だね。2つを連結して真ん中にも人が乗れるようにして、操縦は2人で行うんだよ。息を合わせなきゃならないから、ただいま訓練中」


「難しそうです」


「1人だとそこまででもないんだけどね。カタマラン仕様にするとあの音が2倍になるからね。飛行部隊にはヘッドホンが支給された」


「耳は守らないといけませんね。そういえば、万が一の脱出ってどうするんですか?」


「魔道具師がエアクッション内蔵のベストを作ったよ。後はヘルメットも。ヘルメットはフルフェイス型だね」


「フルフェイスってどうやって見分けを付けるんでしょう?」


「そこはやりようがあるよ。1番手軽なのはナンバリング。飛行装置にナンバーをペイントして、その番号で指示を出す。今やってるのはこれね」


「全体把握をする隊長さんが大変ですね」


「分かってくれる?みんなの習熟度が一定じゃないから大変なんだよ」


朝食を終えて、片付けを済ませて掃除をする。隣からカークさんがやって来るのが見えた。


「おはようございます。本日はよろしくお願い致します」


「カークさん、そんなに硬くならないでください」


3人で家を出る。案内はカークさん。大和さんは薬師協会がどこにあるか把握しているけど、カークさんに役割を与えた形だ。


「あ、そういえば、大和さんにももう1回飲んでもらわないといけないんだった」


「それね。必要ないかもよ?あれからじわじわと薄くなっていて、今じゃほとんど分からないんだよね」


「そうなんですか?」


「そうなんだよ。見る?」


「今すぐは見ません。往来ですよ?」


「ここで脱ぐ気はないけど?今すぐだなんて、何を考えたの?」


ニヤニヤしながら大和さんが言う。


「大和さんはイジワルです」


「すぐにそれと分かるように言ってるでしょ?咲楽をイジメて楽しむ気はないよ。こんなに可愛い恋人をイジメるなんてとんでもない」


「トキワ様、非常にいたたまれませんので、それ以上は私が居ない所でお願いします」


薬師協会は東街門の近くにあった。他の民家から少し離れている。


「お待ちしておりました。サクラ先生」


「やだ、やめてくださいよ、クルスさん」


「彼が?」


「カークと申します。よろしくお願いします」


「お願いするのはこっちだよ。入って。暑いから」


クルスさんに案内されて奥の会議室に行く。


「カークさんはこっちで施術を受けてね。トキワ様はどうしますか?」


「カークについていますよ。咲楽は1人でも大丈夫?」


「大丈夫です」


大和さんとカークさんが薬師協会所属の施術師さんと行ってしまった。


「緊張してる?」


「少しだけ。失敗談を話すわけですし笑われないかとか考えちゃって」


「サクラ先生のあれは失敗には入らないよ。過去には水と間違えてお酒を入れちゃったとか、薬草と毒草を間違えたとかもあったんだから」


「後のはやっちゃいけないと思います」


「それで出来上がった薬もあるからね。着いたよ」


クルスさんがドアを開ける。中に居た薬師協会の方々が一斉に私を見た。久しぶりの感覚に心臓が跳ね上がる。


「大丈夫?」


「少し時間をもらえますか?」


了解を得て、魔石を使う。カークさんの暖かい魔力が感じられて落ち着いた。


「それは?」


「闇属性を込めた魔石です」


待っていてくださった皆さんに一礼する。


呼び出された用件はやはり炎熱病の薬湯についてだった。結論から言うと薬効に変化は認められず。これからは経口補水液入りの薬湯を使っていく事になった。経口補水液のレシピは商業ギルドで販売されているけれど、それとは別に薬師さん達に無料配布した。


「このアウランティ(ライム)シトロン(レモン)は他の物でも良いの?」


「はい。他の柑橘類を使っても良いですし、ミントを少量入れてもかまいません」


チョウカ(マンゴー)とかアナナス(パイナップル)は?」


「私は試していません。アレンジは自由ですのでお試しください」


炎熱病の薬湯については以上なんだけど、話が瘢痕改善薬の方に移った。


「研究結果の途中報告を読ませてもらったが、材料のドリュアスの木の葉が貴重だからね。里の薬草園にもドリュアスの木はあるが、それを供給し続けると木が枯れてしまいかねん。どうしたものか」


「ドリュアスに無理を言うわけにいきませんしね」


「増やせないんですか?」


「挿し木で試したがうまく根が出なくてね。失敗してしまった」


他に方法があったと思うんだけど。えぇっと、あ、水差しで増やせないかな?


「植物の増やしかたに水差しってあったと思うんですけど、樹魔法と併用したら増やせませんか?」


「水差しねぇ。試してみる価値はあるな。サクラ先生も協力してくれんかね」


「はい」


プランターを作ってやってみよう。


会議室を辞して、カークさんの所に急ぐ。クルスさんも付いてきてくれた。


「失礼します」


「サクラ先生、カークさんですが、何ヵ所か痕が残ってしまいました」


「カークさんに使った瘢痕改善薬はどのタイプですか?」


「光属性のドリュアスの木の葉を使った物です」


お祈り入りじゃないし、私のドリュアスの木の葉でもない。


「カークさん、少しこのまま様子を見てもらえませんか?」


「それはかまいません。経過を報告した方がよろしいでしょうか?」


「週1位で良いですよ」


薬師協会での用事が終わったから、いったん家に戻って昼食にする。昼食の前に庭に出てドリュアスの木の先端を少し切ってカップにお祈り入りの水を入れて浸けてから樹魔法を発動した。しばらく浸けておいてプランターを作る。


「そのドリュアスの木、地植えしちゃ駄目なの?」


私の作業を眺めていた大和さんに聞かれた。地植えかぁ。大きくなっちゃったから移動できるかなぁ?


「この木を移動出来るかっていうのが課題です」


「やってみれば?庭は戻せば良いし」


フラワーポットを壊して、樹魔法を使って移動させる。あ、動いた。でも、なんだか不気味というか、木がワサワサ勝手に動くってちょっと怖い。


なんとか2本とも移動させて水差しして発根した物をプランターに植えていく。丈夫に育ちますように。それぞれ光属性、闇属性、風属性、地属性、水属性の魔力を込めたお水をあげた。火属性だけは大和さんに協力してもらう。ちゃんと育ってくれるかな?





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