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異世界転移って本当にあるんですね   作者: 玲琉
3年目 熱の月
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今回、初めてテレパス(念話)での会話が出てきます。通常会話は「」、テレパス(念話)は〈〉とさせていただきます。

熱の月、第4の緑の日。


昨日、夕方に雷雨があった。夜中まで降り続いていてバケツどころかバスタブでもひっくり返したような雨だった。その雨の音に負けじとフードゥル()まで鳴っていて、大和さんが何発か落雷したようだと言っていた。


その所為(せい)で緊急呼び出し装置で呼び出された。大和さんも騎士団に呼び出されていた。


騎士団は隊長より上のクラスの騎士のみが緊急呼び出し装置を支給されていたから、集まったのは隊長クラスと寄宿舎に居る騎士様だけだったらしい。私達施術師は避難場所になっている闘技場直接に向かった。持ってて良かった、レインコートとレインパンツ。ビニールなんて無いから、防水布で作ってある物だ。それでも雨は染み込まなかった。


闘技場のすべての部屋を使って避難してきた人を受け入れる。落雷による火災で火傷(やけど)をした人、煙を吸い込んで喉に炎症を負った人、落雷に驚いて転倒した人。原因は様々だけど、騎士様達が救助して連れてきてくれた人を次々に施術していく。終わったのは7の鐘を過ぎていて、そのまま闘技場で休ませてもらった。


「サクラ様、起きていらっしゃいますか?」


ノックの音と共にヴェルヘルミネさんが顔を出した。


「おはようございます、ヴェルヘルミネさん」


「おはようございます。ヤマト隊長が呼んでいらっしゃいます」


「え?大和さんが?」


ヴェルヘルミネさんに着いていく。時間は1の鐘前。何の用だろう?


「ヴェルヘルミネさん、こんな早くから起きていたんですか?というか、昨日こちらに居ましたっけ?」


「私は文官の宿直でしたから、命じられて8の鐘半にこっちに来たんです」


「文官さんも宿直業務があるんですか?」


「あるんですよ。7の鐘を過ぎれば仮眠していい時間になりますけど、女性ばかりだとまず寝ませんね、お喋りしていて。昨日もそんな感じで上司に『そんなに元気なら炊き出しでも手伝ってこい』って、闘技場に寄越されました」


「あらら」


ヴェルヘルミネさんに案内されたのは階段を登った最上階のさらに上。普段は闘技場に日除けのタープを張る為のロープが置いてあったり、ロープを繋ぐ為の支柱が有る所だ。


「ヤマト隊長、お連れしましたよ」


「ありがとう、ヴェルヘルミネ嬢」


ヴェルヘルミネさんが階段を降りていくと、大和さんに手招きされた。


「凄いですね。王都が一望だ」


「これを見せたくて呼んでもらった」


「大和さんがここに居たのは何故ですか?」


「被害状況の確認にね。あぁ、あそことあそこに落雷したようだね」


「お家が崩れてますね」


「貴族街にも被害が及んでる」


「皆さん、大丈夫でしょうか?」


「被害状況の報告をしないとね。でも、その前に」


「ちょっ!!大和さんっ」


肩を抱かれてキスされた。もぅ!!こんな所でこんな時に。


「カークだ」


「え?あ、本当だ。走ってきますね」


「咲楽、テレパス(念話)、出来る?」


「カークさんにですか?やってみます」


細く魔力の糸を伸ばす。繋がった。


〈カークさん、咲楽です。聞こえますか?〉


カークさんが立ち止まったのが見えた。


〈サクラ様?どちらに居られるのですか?〉


〈闘技場の上です。大和さんも一緒です〉


〈分かりました。すぐに向かいます〉


「大和さん、カークさんがすぐに来るそうです」


「OK。カークが来たら本格的に動ける」


10人程の魔術師さんが上がってきた。挨拶を交わして場所を譲る。魔術師さん達がロープを持って空中に浮かび上がった。そのまま反対方向に飛んでいく。次いで大きな布を持った魔術師さん達が戻ってきた。時々ホバリングして何かをしている。


「ロープに布を結びつけているんだよ。おはよう、シロヤマさん」


「おはようございます、筆頭様」


「結構被害が出てるね」


王都内を見渡して、筆頭様が言う。


「そうですね」


大和さんが答える。


「飛行部隊の出番かな?」


「王都外の被害状況の確認ですか」


「お願いするよ」


「準備をしてまいります」


大和さんが階段を駆け降りていった。飛行部隊?


「騎士と魔術師混合の飛行装置に乗る部隊だよ。この部隊の機体だけは上空30mまで上昇できるんだ。僕も乗りたかったんだけどね。風属性で飛行できる者は駄目だってさ。今回は地属性中心で飛ぶと思うよ」


フィールドに20人位が集まってきた。


「真ん中の布が空いているのは、だからですか?」


「大正解。飛び立てないと困るからね」


私と筆頭様はそのまま屋上に居る。何かあったら呼びに来てくれるそうだ。見ていると何台もの飛行装置が運ばれてきた。


「サクラ先生。おっと、筆頭様」


「ライルさん」


「何をして?って、あれは何?」


「飛行装置です」


飛行装置は2人乗り仕様になったらしい。1人で乗っている人もいる。筆頭様に聞いたら2人乗りの方はカヌーみたいになっているらしい。1人で乗っている飛行装置は以前試乗した物と同じだそうだ。乗る人がどちらか選ぶんだって。


「あぁ、あれが。サクラ先生、乗った事は?」


「無いです。私は自力で飛べ!!だそうです」


チラッと筆頭様を見たら違う方向を見られた。


「僕も飛びたいんだよね」


「まだでしたっけ?」


「コツが掴めなくてね」


「ふぅん」


筆頭様がライルさんの手を掴んで一緒に屋上から飛び降りた。


「筆頭様!!ライルさん!!」


慌てて下を覗き込む。うわっ。高い!!


「風属性を持っていて飛びたいって人にしかやらないよ」


数m下で浮かんだままの筆頭様が、のんびりと言う。ライルさんはその横でなんとか浮かんでいた。


「びっっくりしたぁぁぁ」


「ライルさん、大丈夫ですか?」


「大丈夫大丈夫。ビックリしたけどね」


筆頭様に補助されて、ライルさんが戻ってきた。


「これを繰り返せばコツなんてすぐに掴めるよ」


「ありがとうございますと言いたくないのは、何故だろうね」


ライルさんが笑いながら言う。


筆頭様も一緒に屋上階段を降りる。ライルさんは朝食が出来たと呼びに来てくれたらしい。でも私と筆頭様が何か話していたから、会話に加わったんだって。


闘技場の広い部屋に用意されたテーブルに並べられた朝食。何人もの人が朝食に舌鼓を打っていた。主に救援に駆けつけた王宮の文官や民間の施術師達だ。その人達に混じって朝食を頂く。


「所長と話し合ったんだけどね。サクラ先生、今から仕事とお昼から仕事、どっちが良い?」


「普通に1日お仕事をしても良いですけど?」


「じゃあ、他の日に1日休む?」


「えっと、昨日はちゃんと休ませていただきましたし、大丈夫ですよ」


「そういう訳にはいかないよ。勝手にこっちで休みを決めるけど良い?」


「はい」


ヴォンという大きな音がいくつも響いた。飛行装置の音だ。今から被害状況の確認に行くのかな?


「壮観だね。音は凄いけど」


「そうですね」


窓から飛行装置が浮き上がるのが見えた。そのまま上昇して飛び立っていく。


「サクラ様、本日はどうされますか?」


私を見つけて部屋に入ってきたカークさんに聞かれた。


「普通に仕事をしようかと思っていますが」


「トキワ様が無理をしないように、と心配をされていました」


「仮眠を取りましたから大丈夫ですよ」


「無理をしてるなと思ったら強制的に休ませるよ」


ライルさんにそう言われてしまった。強制的?


「フリカーナ様、よろしくお願いいたします」


カークさんは深々と頭を下げて行ってしまった。


「サクラ先生、着替えは?」


「持ってきています」


「じゃあ、着替えちゃって。女性の更衣室があるから。馬車で施療院に行くよ」


「はい」


女性文官さんに案内してもらって出勤用の服に着替える。リップを塗って出勤準備は完了。


「天使様、ご案内しますわ。こちらです」


再び女性文官さんに案内されて馬車(だまり)に行く。施療院の施術師全員が待っていた。


「ローズとフォスはこのままここで避難民に対応しなさい。2人は昼までの勤務じゃな。マクシミリアンとライルとサクラ先生は施療院で診療にあたる。1日仕事になるが無理はしないようにな」


「はい」


施療院に向かう4人が馬車に乗る。


「サクラちゃん、無理はしないのよ?」


「はい。大丈夫ですよ」


「それじゃあ行こうか」


馬車が出発する。


「ローズとフォスは昼までの勤務。マクシミリアンとライルとサクラ先生は1日で良かったな。代わりの休みの希望はあるかの?」


「特に無いですね」


「僕は木の日かな?先輩、良いですか?」


「予定も入っておらんし、良いじゃろう。サクラ先生はどうじゃ?」


「私も特に希望は無いです」


「ライルとサクラ先生はこちらで調整するとしよう。ライル、今日は瘢痕改善術の依頼は?」


「有るのですが、その……」


「なんじゃ?」


「貴族でして」


「貴族?というと……」


「施療院で話します」


「なになに?訳アリ?」


「ですから、施療院で話します」


貴族様に消えない傷痕?考え事をしている間に馬車は施療院に着いた。


「辺境領の領兵なんですよ。依頼主は」


「辺境領から王都まで?」


「風属性で飛んで来るそうです。昨日帰ってきた父から、そう聞かされました。冒険者ギルド長を伴ってきましたから何事かと思いましたよ」


「しかし、辺境領か?早すぎやせんか?」


「どうやら陛下が知らせたようです」


陛下……。


「それでね、サクラ先生。身分の高い方もいらっしゃるらしくてね」


「身分の高い方ですか」


「そちらは僕が対応する。見下されるかもしれないって事だけ覚えておいて」


「辺境領って身分がどうのって言う人は少ないよ」


「一応ですよ、マックス先生」


始業時間になったけど、患者さんはほとんど来ない。昨日の後片付けとかあるのかな?


「サクラ先生、サファ侯爵様だよ」


お昼前にマックス先生が私の診察室に来た。


「えっ?サファ侯爵様がどうして?」


「すまないね。フリカーナの子息殿も一緒にいいかな?」


「サファ侯爵様、お久しぶりです」


「帰還の挨拶以来ですね。お元気そうで安心しました」


ライルさんがやって来た。


「入りなさい。まず来た目的を話しておきましょう。瘢痕改善術を使うのはこの2人で良いですね?」


「はい」


「今日の施術者については、何か聞いてますか?」


「辺境領の領兵とだけ。まさか、サファ侯爵様がいらっしゃったということは……」


「辺境領からの依頼は6人。いずれも辺境領で長らく国の守護として働いてくれていた者です。魔物に傷つけられた者、野盗にやられた者、皆この国の英雄だと思っています。お願いします。救ってあげてください」


「全力を尽くします」


「それで、施術を受ける者の内訳ですが、辺境領主子息と」


「えっ?」


「ご息女も含まれています」


「ご息女?えっ?女性?」


驚いていたら、サファ侯爵様が笑い出した。


「辺境領では女性も戦いますからな。ご息女は1部隊を率いておられる」


「凄い方なんですね」


「ときにシロヤマ嬢。貴女は眼を治せますか?」


「どのような状態ですか?」


ウルージュ(赤熊)にやられたそうで、顔に大きな傷痕が残っています。眼も傷付いたようでほとんど見えていないと」


「いつですか?」


「先々週ですよ」


「見てみないと分かりません。視力を戻すとなると……」


「本人に伝えましょう。そんなに緊張しなくて良いですよ。ご息女は令嬢という枠にはまらないお方ですが、決して身分をひけらかす方ではない。ご夫君と共に辺境を守っておられる方です。噂ではウルージュ(赤熊)の仔を保護したのは彼女だと」


「あぁ、辺境領のウルージュ(赤熊)。噂は聞いています」


「可愛かったそうですよ?」


「でも、ウルージュ(赤熊)ですよ?」


そう言いながら、脳内にクマのぬいぐるみがポテポテ歩いている姿が浮かんだのは、悪くないと思う。


「ご息女とご子息はシロヤマ嬢の事を知っています。直接見たいというのも王都に来る理由の1つのようですが。ご子息はトキワ殿を、ご息女はシロヤマ嬢を、ですね」


「見たい……って」


「年回りも同じくらいですからな」


「24~25歳って事ですか?」


「えぇ」


3の鐘になったから、先にお昼を頂く。なんと侯爵家の料理人の方がお昼を作ってくださったそうだ。ナイフとフォークを使うような物じゃない気軽なランチを頂く。さすが侯爵家の料理人さん。非常に美味しかったです。何?あのパンケーキ。フワッフワでしっとりしていて、甘さ控えめのフルーツソースと良くあっていて、一口食べてみんなが黙っちゃったもんね。美味しすぎて。ローストビーフサンドもお肉の歯応えはあるんだけど柔らかくて、美味しかった。


美味しい昼食を頂いて、私とライルさんは瘢痕改善術の準備をする。クルスさんが薬湯を持ってきてくれた。今日の薬湯はすべて(うち)のドリュアスの木の葉を使ってあるものだ。それにお祈りをする。どうか、皆様の傷痕が消えますように。苦しむ人が居なくなりますように。


「お見えになりましたよ」


サファ侯爵様が声をかけてくださった。施療院を訪れたのは黒いヴェールで顔を隠した女性2人と男性が8人。8人?


「すまぬな。護衛なのだよ」


「かしこまりました。護衛の方はどうなさいますか?同じ室内にと仰るならご一緒にどうぞ」


「そなたが天使様か?」


「そう呼ばれています」



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