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「ごめんね。待たせちゃって」


「あの人有名な『噂好きさん』じゃない。知り合いなの?」


「マルクスの家のお得意様よ。だから無下にもできなくて」


「私の事、黙っててくれたんですね。ありがとうございます」


「言ったらサクラちゃんの所に押し掛けたわよ。今朝からマルクスの所に行ってたらしいし」


ルビーさんがうんざりしたように言う。


休憩室に入ったら、ローズさんの追求タイムが始まった。


「私は何も知らないし、先に帰っちゃったけど、強盗犯の1人がここで捕まったって本当?」


ルビーさんと顔を見合わせる。


「ローズになら良いんじゃない?」


「言いふらさないでしょうしね」


2人で頷き合う。ルビーさんが話し出した。


「私達も詳しいことは知らないわよ。サクラちゃんのお迎えにトキワ様が来なくって、マルクスも一緒に待ってたのよね。結構待ったと思うんだけど、外で何か物音が聞こえて、怒鳴り声とガタガタって音がして、その後王宮騎士様が『お騒がせしました』って入ってきて、サクラちゃんを見つけたのよね。で、トキワ様を呼んで、帰るとか、送ってくとかのやり取りが……フフフっ」


ルビーさんが笑い出した。そんなに面白かったかな?


「何よ?」


「ごめんごめん。ちょっと思い出し笑い。面白いって言うか、ほのぼのしてたわね」


「どんなやり取りだったの?」


「そんなに面白かったですか?」


「トキワ様がもう遅いから送ってくって言って、サクラちゃんが仕事中だからって止めたのよね。それでサクラちゃんが1人で帰るって言ったからトキワ様が心配だからって言って、サクラちゃんが迷いませんって……サクラちゃん、あのやり取りってどう言う事?」


「私、どうやら方向音痴らしくって、この前の神殿からジェイド商会までもコリンさんに何度も教えてもらわないとたどり着けなかったんです。大和さんは気が付いてたっぽいから、家までもう何度も通ってるから迷わないって言ったら『そっちの心配じゃない』って言われて『じゃあどっちの心配ですか?』って聞いたら『暗いからそっちの心配』って言われて……ローズさん?」


「あぁ、緊迫した後にほのぼのが来たのね。それは笑うわね」


ローズさんまで笑いをこらえて言う。


「そのやり取りの後、マルクスと帰ったんだけど」


「その後はちゃんと帰れたのよね。誰か送っていったの?」


「ダニエルさんって冒険者の方たちです」


「お知り合い?」


「はい。今朝のゴットハルトさんの親戚筋の方で、ゴットハルトさんを『ハルト兄さん』って呼んでます」


「どこで知り合ったの?」


「街門の外の草原でおそわ……知り合いました」


「サクラちゃん?襲われたって言いかけなかった?」


「言ってません」


ジィっと見つめられて、目を逸らす。


「サクラちゃんって分かりやすいわね」


「でも言わないってなったら、絶対に言わないわよ」


「トキワ様かヘリオドール様に聞くしかないんじゃない?」


「ねぇ、サクラちゃん、それって貴女が休んでる間の話?」


「知りません」


「神殿の友人に聞いてみるわ」


「絶対に何かあったのよね」


個人的に疲れた昼休みを終えて、お昼からの診察。朝が嘘のように暇だった。


「朝の内に仕入れた話題で喋っているんでしょ。あのおばさま方は」


「ご近所の情報網って侮れないわよね」


ローズさんとルビーさんが私の診察室で寛いでる。


ライルさんはナザル所長と何か作業をしていた。


時間が空いたから魔空間から編みかけのマフラーを取り出して、続きを編んでいく。


「それってマフラーよね?トキワ様の?」


「はい」


「ずいぶん長くない?」


「私は『マフラーの長さは身長くらい』って教わったんです」


「トキワ様って身長何cm?」


「確か192cmとかって言ってた気がします」


「ひゃくきゅうじゅうに?ずいぶん高いわね」


「後50cm位ですから、明後日にはできます。ローズさん、今日か明日、商会にお邪魔していいですか?」


「良いわよ。何が欲しいの?」


「太めの毛糸です。私のスヌードを作ろうと思って」


「スヌードって?」


「端と端がつながって輪のようになっているマフラーです」


「端と端が繋がっている?よく分からないわね」


「太めの毛糸ね。サンドラに相談しておくわ。何色とか希望はある?」


「特に無いです。あ、濃いピンクは止めてください。淡い色合いがいいです」


「ピンク、似合いそうなのに。そういえばサクラちゃんってそういう色は着ないわね。もっとフリフリのとかも似合いそうなのに」


「フリフリとかは苦手です」


「サクラちゃんがそういう格好をしてたら、変なのが寄ってきそうよ。この前のみたいなのとか」


「そうね。サクラちゃん、商会には明日以降でいいかしら?」


「はい」


「それにしても、暇ねぇ」


「暇してるなら書類整理を手伝って貰えないかな?」


あ、ライルさん。


「私は用事を思い出したわ」


ローズさんが逃げた。


「診察室の片付けをしなくっちゃ」


ルビーさんも逃げた。


「書類整理?見ていいものですか?」


ライルさんに聞く。


「シロヤマさんは逃げないの?」


「出来ることならお手伝いします」


編みかけのマフラーを魔空間にいれて、ライルさんの後を着いていく。


「えっと、カルテ庫なんだけど、ちょっとドアは開けておくからね」


「ありがとうございます」


5年前のカルテを少しづつ整理して、来年のが入るスペースを作っているんだとか。


ライルさんがドアに椅子を置いてドアストッパーにしてくれた。背もたれには「カルテ整理中」の文字。


「こうしておかないとたまに閉じ込められるんだよね」


ライルさんが言ってたけど、それは真剣に遠慮したい。


カルテ整理をしていたらライルさんが話しかけてきた。


「今朝のヘリオドール殿っていつからの知り合い?」


「えっと、私が休んだときに神殿に行って、そこで知り合いました」


「来月から神殿騎士だっけ?」


「そう聞きました」


「アルフォンスが出て、ヘリオドール殿が入るのか」


「アルフォンスさんは異動ですか?」


「そう聞いたよ。自分から希望した、って言ってたけど。なんでも勝ちたい相手がいて、その為に地方騎士の中でも厳しいところを希望したって」


「本人から聞いたんですか?」


「彼は友人でね、酒に誘われて聞かされた。勝ちたい相手って、トキワ殿でしょ?」


「多分……」


「何があったかは酔っても話さないんだけどね。少し前に一目惚れの相手ができたって言ってたけど、もしかしてその相手ってシロヤマさん?」


「初対面の時に色々話しかけられましたけど、その後は普通にしてくれてますよ」


「小柄で守ってやりたいって言ってたけど」


「そう言われても……」


「黒き狼って二つ名のトキワ殿に勝ちたいっていうのは何か知ってる?」


「知ってるのは模擬戦の事だけです」


「もしかして、トキワ殿が勝ってる?」


「連勝させて貰ってるって言ってましたけど」


「1度に何人?」


「えっと……最低で3人、多いと5~6人って言ってたような……?」


「シロヤマさんは分かってなさそうだから言うけどね、その人数とやって、連勝って普通じゃない。トキワ殿って何してた人なの?」


「剣術と体術の道場の手伝いって言うか指導をしてたって、この前言ってました」


「指導者って、あの若さで?」


「大和さんは30歳越えてますよ」


「25~6歳だと思ってた。えっ?シロヤマさんはいくつ?って女性に歳を聞くのは失礼だね」


「別に構いませんけど。もうすぐ22歳です。何歳に見えました?」


「15~6歳だと思ってたよ。ごめんね。そういえばもうすぐ誕生日って言ってたっけ」


「向こうでも年より幼く見られましたから。気にしてないです」


そんな話をして粗方片付いた頃、ローズさんが顔を出した。


「進み具合はどう?」


「見ての通りだよ。シロヤマさんが頑張ってくれた」


「せっかく手伝おうと思って来たのに。手伝いはいらない?」


「そういうなら手伝ってもらおうか」


ローズさんが慌て出した。この後、何をするの?


この後は症例順に纏め、その症例の経過を纏めていくと言う面倒な作業だった。


面倒でも過去の症例と言うのは貴重だから、症例順に纏める事はやめないんだとか。何十年に一例といった珍しい症例も、このシステムで解決できた事があったんだって。ちなみに纏めた症例は研究機関に送られて、更に纏めたものが各施療院に届くらしい。医療情報紙みたいね。


「研究機関ってどこにあるんですか?」


「王領のどこかって言われてるけど、僕は知らないね」


「私達も知らないわ」


結局手伝ってくれているローズさんとルビーさんも知らないみたい。


「大体纏めた物も一旦王宮に送るしね。所長が」


「その先は知らないわよね」


5の鐘が鳴って、今日の作業は終わりとなった。この症例纏めが時間がかかるから、今からカルテ整理をやってるんだって。


「毎年霜の月一杯まではかかるからね。今年は早く終わりそうだよ」


ライルさんがニコニコして言ってた。ちなみに所長は先に魔力を抜いたカルテで症例纏めをしていた。お疲れ様です。


大和さんが迎えに来てくれたけど、ルビーさんとローズさんに捕まってた。


「トキワ様?ちょっといいかしら?」


「ダニエルって冒険者とはどうやって知り合ったのかしら?」


「サクラちゃんが襲われたって言いかけたんですけど?」


大和さんが困ったように私を見た。


「咲楽ちゃん……」


「すみません……」


「どうする?」


「って言われても……」


大和さんは少し考えてローズさん達に言った。


「彼女を連れて街門の外の草原に行ったときに絡まれました」


「絡まれた?」


「えぇ」


そう言ってまっすぐローズさん達を見る。


「言う気は無さそうね」


ルビーさんがため息を吐いてローズさんを見る。


「今は大丈夫なのね?」


「監督者が居ますから」


「万が一にも又絡まれるって事は?」


「彼等は咲楽ちゃんに心酔してますから」


「そう。今は安心なのね。危険はないのね?」


「危険があるようなら近付けていませんよ」


「そこは信頼しているわ」


「ご信頼いただけて何よりです」


大和さんが胸に手を当てて礼をする。


ローズさんが顔を真っ赤にして叫ぶ。


「不意打ちでそんなことをしないのよっ!!」


「やっぱり大和さんってそう言うの、慣れてますよね」


「仕方がないでしょ?」


大和さんが笑う。仕方がないでしょって言われても……。


「仕方がないわね」


「許してあげるわ」


2人からお許しが出た。


「咲楽ちゃん、帰りに市場(バザール)に寄る?」


「明日の分のスープの具材がほしいです」


「じゃあ寄ってこうか」


「はい。あ、皆さん、お疲れ様でした」


「えぇ。お疲れ様」


「あっという間にラブラブ空間ね。マルクス、帰りましょ」


「あれは見習いたいねぇ」


「無理しない方がいいわ。あれは真似できないし、されたくないもの。マルクスはそのままで良いわ」


「こっちも人の事言えないわね。ライル様、帰りますよ」


「はいはい」


後ろで交わされていた会話を私は聞いていなかった。大和さんには聞こえていたみたいだけど。


市場(バザール)でスープ用の野菜とベーコン、ハム、パンを買って帰る。


家に着いて、着替えをしたら夕食の準備。


スライスしたお肉の間にチーズを挟んで小麦粉をつけて揚げ焼きにする。それを幾重にも重ねたものを今日の夕食用にする。

明日のサンド用には挽肉にしてもらったお肉に炒めた玉ねぎを入れてハンバーグにしたものを用意しておく。中にチーズを入れてあるから、柔らかいはず。薄めにはしてあるから大丈夫だと思うけど。キャベツは一部を千切りにして、一部を粗ミジンにしておく、ニンジン、玉ねぎも粗ミジンにして炒めて火にかけておく。これは明日のスープ用。トマトのピューレがあったからそれでトマトスープを作る予定。

パンを温めて、夕食の完成。


「大和さん、夕食ができました」


「今日のも旨そうだね」


テーブルについて食べ始めた。


「そういえば今朝の事なんですけど」


「腐女子の話題?」


「違いますっ。そうじゃなくて私とゴットハルトさんが大和さんの舞を見る時に『混ぜるな危険』の状態だって言ってましたけど、心象風景が混じっちゃったって結論ですか?」


「まだ推測だよ」


「大和さんって考察とか好きそうです」


「嫌いではないよ。推察した事柄が正解だった、って瞬間が好きなんだ。そこに至るまでの行程とかね。だから仕組まれていたっていうのは好きじゃない」


「サプライズとか?」


「仕掛けるのは好きだけどね」


「私はそう言うのは苦手です。『こうなんだ』って言われたら信じちゃいます」


「何て言うか、よく危ない目に……遭ってたね、そういえば。それ以上にならなかったってことは、周りが守ってくれてたんだね」


「はい。こっちに来てから実感しました。あっちでは葵ちゃん達に守られてたんだなって」


「良い友達だね」


「はい」


食べ終わって大和さんがお皿を洗ってくれる。


「大和さんも私を守ってくれてます」


「最初に自分に誓ったからね。咲楽ちゃんを護るって」


「私は支えられてますか?」


「支えてもらってるよ。いつまでも信じないね、咲楽ちゃんは」


大和さんは笑ってそう言うけど、私はその自信がない。


大和さんは何でもできる。お料理以外、だけど。優しくて、黒き狼なんて二つ名が付く位強くて、剣舞は綺麗で、格好良い。


剣舞でたくさんの人の心を動かすこともできる。


そんな大和さんの心を支えたいってずっと言ってきてるけど、圧倒的に私が支えてもらって、私が助けられている。


ソファーに座った大和さんの隣に座ると、大和さんが笑って言った。


「また見当違いに落ち込んでる気がする」


「だって、私の方が圧倒的に支えられてますもん。大和さんは強くて格好良いし、何でもできます」


「料理は?」


「それは……別問題です」


「分かってないね?料理って大事なんだよ?衣食住って言うでしょ?その内の2つに咲楽ちゃんは携われる。これって凄いことなんだよ」


「言いくるめられた気がします」


「言いくるめてみた」


あははっと笑って大和さんが私を抱き寄せる。大和さんの腕の中は安心できる。最初は抱き締められて緊張してたなぁ。いつの間にか安心できる場所に変わってた。


大和さんの胸に頭を預ける。


「咲楽ちゃん?」


「大和さんの腕の中は安心できます」


「嬉しいね。ドキドキしてほしい気もするけどね」


そう言って大和さんが笑う。


「ベッドに行く?」


「その言い方、イヤらしいです」


「俺もそう思った」


そう言って私を解放する。


「そろそろ風呂に行ってくるね」


「はい」


「今日は髪を乾かさずに出るね」


「あ、忘れてました」


「咲楽ちゃんのも、やっていい?」


「はい」


「咲楽ちゃんの髪って触ってると気持ちいいんだよね」


そう言って大和さんはお風呂に行く。ここで編み物をし始めたら絶対に時間を忘れるパターンだよね。


自室に戻ってお風呂の準備をしておこう。それで寝室で編み物かな。


準備をして、寝室で編み物する。残り20cm位の時に名入れを……縦書き?だよね。


改めて大和さんが書いた字を眺めてると、寝室のドアが開いた。


「髪が濡れてる大和さん、久し振りに見ました」


「ちょっと伸びてきたね」


大和さんの髪を乾かしながら言ってみる。


「長髪の大和さんも見てみたいです」


ちょっと想像してみた。似合わない、かな?


「1年位切らなかったら、想像した位になるかもよ」


「想像した位ってライルさんくらい?」


ライルさんは日本のサラリーマン位の髪型だ。


「想像したのはライル殿か。海外の時は長かったよ。後ろで結んでたし。そのうち鬱陶しくなって自分で切った。坊主にしようとしたら凄く反対されたけど」


「坊主は似合いません」


「日本でも反対されたね。そんなに似合わない?」


「似合いません。それより後ろで結べるくらいの長さがあったんですか?」


大和さんの髪を乾かし終わった。それでもなんとなく触っていたくて、髪を弄っていると、大和さんに笑われた。


「俺の髪なんか触って何してるの?」


「髪質が、最初と違う気がします」


とっさに言い訳する。


「髪質?」


「それに前より色が抜けてません?」


「そうなの?見えないから知らないんだけど」


「この世界って鏡が少ないですもんね」


「高価だって言ってたしね。欲しい?」


「あれば便利ですけど。身嗜みの時とか」


「咲楽ちゃん、メイクしないもんね」


「して欲しいですか?」


「そのままで可愛いから要らないんじゃない?」


頬に手が伸ばされる。大和さんの少しひんやりとした手が気持ちいい。


「咲楽ちゃん、いい雰囲気だからちょっと惜しいけど、お風呂行ってきたら」


そうですよね。


「行ってきます」


シャワーを浴びながら考える。長髪の大和さんかぁ。結べる位って結構長いよね。


私は男の人の長髪ってあんまり分からないんだけど、テレビでタレントさんとか長い人もいたよね。テレビってあんまり見てなかったけど。


想像するのがこっちの人達とかになってる。日本でのイメージが薄くなってる気がする。まだ1ヶ月位なのに。


急に怖くなってきた。このまま日本の事も忘れちゃうの?


少し急いでお風呂から出て、寝室に行く。


「咲楽ちゃん」


大和さんの声が聞こえて、安心した。あれ?これって大和さんに依存してる状態?


「どうした?こっちおいで」


呼ばれてベッドに上がる。


大和さんが私の後ろに回って、髪を乾かし始めた。


「大和さんは日本の事って覚えてますか?」


「少しづつ薄れてってるけどね」


「寂しくないですか?」


「寂しいの?」


黙って頷いた。


「なんだか……」


しばらく黙ってた後、考えを言ってみた。


「なんだかこのまま忘れちゃうのかな?って思って、この前、名前を書いてもらいましたけど、大和さんに依存してるんじゃないかとか、色々考えてて、えっと……」


うまく言葉にできない。


「依存、ね。していいんじゃないかな。もちろんそれがないと、みたいな病的なのは問題だけど、心の拠り所って言うか、頼りたいものって誰にでもあると思うよ。俺は咲楽ちゃんだね」


「私、ですか?」


「咲楽ちゃんに会えなくなるって思ったら怖くなった、ってトレープール()の時に言ったと思うんだけど、咲楽ちゃんがいるから頑張れるし、剣舞も咲楽ちゃんに見せたいから、って思いから始めたし。多分俺の今の心の中って、咲楽ちゃんで一杯だよ。考えたらかなり重いよね」


「そんな事を言ったら、私も大和さんで一杯です」


「そう?それは嬉しい」


そう言って後ろから抱き締められる。


「大和さんって私を抱き締めるのって好きですか?」


「うん」


即答された。


「即答ですね?」


「咲楽ちゃんは嫌?」


「嫌ではないです。嫌ではないって言うか、安心します。けど……」


「けど?」


「ちょっと恥ずかしいです」


「まだ恥ずかしい?」


「はい。ってまだってなんですか?」


「慣れてくれないかな?って思って」


「2人きりの時には慣れてきました」


「後は人前か……」


「そこは慣れなくていいです!!」


「いいの?」


「大和さん、理性はどこに行ったんですか?」


「ちょっとおつかいに出した」


「戻してください」


「えぇ?」


笑って言う大和さんがなんだか可愛い。


「大和さんが可愛いです」


「男に可愛いってどうなの?」


「やっぱり嫌ですか?」


「人前でなかったらいいかな。格好いいの方がやっぱりいいね」


「でもさっきのは可愛かったんです」


「まだ言うの?」


「普段は格好いいです」


「ありがとう。咲楽ちゃんの方が可愛いと思うけどね」


「私はともかく、可愛いの種類が違うんです」


「可愛いの種類?」


「普段とのギャップって言うか」


「ギャップねぇ。やっぱり分からないね」


「えぇっと、ナイオンが怖かったりした人が、大和さんにじゃれついているのを見て、可愛いって思うのと一緒です」


「それってどうなの?俺はナイオンと一緒?そういえばゴットハルトにもナイオンと一緒にされたな」


「普段格好いい人の予想外の一面がってことです」


「咲楽ちゃん、一生懸命だね」


「理解して欲しいんですっ」


「分かった分かった」


笑って余計に抱き締められた。


「ほんとに可愛いね」


そう言ってほっぺにキスされた。


「そろそろ寝る?」


「ドキドキしてます」


「このまま抱き締めて眠る気だったんだけど?」


「このまま、ですか?後ろから?」


「前からの方がよかった?」


「どっちもドキドキは同じです」


「じゃあ前からにしよう」


そう言って大和さんの方に向き直させられる。そのまま抱え込まれて横になる。


「おやすみ」


平然と言わないでください!!


そのまま大和さんは離してくれなくて、落ち着かないまま、いつの間にか寝てしまった。



ーーー異世界転移32日目終了ーーー

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