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異世界転移って本当にあるんですね   作者: 玲琉
3年目 花の月
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花の月、第1の闇の日。


今日は風が強い。いつもに比べれば、だけどね。今週火の日にリディー様は学園に戻っていった。出発は1の鐘。ローズさんと見送りに行った。ローズさんはずっと「眠い~」って言っていて、一緒に着いてきてくれた大和さんとカークさんが笑っていた。本当はローズさんはヴェルーリャ様も誘いたかったらしいんだけど、対の小箱も無いし、連絡が出来なかったから諦めたと言っていた。ライルさんも同様。


リディー様は見送りをとても喜んでくれた。学園に着くのは5の鐘過ぎ。だから馬車の中で勉強する予定なんだって。凄いなぁ。過保護ぎみなお兄様が付いているからやらざるを得ないんだって笑っていたけど、その向こうでお兄様が「違う違う」と首を振っていた。


起きて着替えてキッチンに降りる。パン種を食料庫から出して、成型を始める。この前鍛治屋さんに食パンの型を作って貰ったから、それを使って食パンを焼く。焼いている間に昨日焼いておいた食パンを異空間から出して切っていく。パン切り台も作って貰ったから、均一の厚みに切れるのが嬉しい。私は6枚切り位、大和さんは4枚切り位の厚みのパンを食べるんだけどね。しかも多い時で3枚。お昼のサンドイッチも5枚切り位ので作っている。1回に食べる量が多いから食パンの型も大きいし、型も5個あるんだよね。鍛治屋さんが面白がって作ってくれたから。


パンを切り終わって庭に出る。ちょうど大和さんが帰ってきた。カークさんとユーゴ君は今週の光の日から、ランニングを終えたらそのまま家に帰っている。


「ただいま、咲楽」


「おかえりなさい、大和さん」


「今日はテスト飛行の日だね」


「はい。私はまだ飛べていませんけど」


「でも、ちょっと浮いたって聞いたけど?」


「その後バランスを崩して、転倒した事も聞いていますよね?」


「うん。ライル殿からね」


ストレッチをしながら大和さんが言う。


「支えてあげるから、やってみる?」


「剣舞は良いんですか?」


「今日は良いよ。咲楽の方が面しっ……大切だから」


「面白いって言いかけましたね?」


大和さんが立ち上がって私の手を握る。仕方がないから足に魔力を纏わせて、風属性のストラール(噴射)を発動した。威力が強くならないように、集中して調整していく。


グラッと身体が揺れた。


「おっと」


大和さんが後ろから抱き締めて支えてくれた。


「役得だね。施療院では支柱に掴まってたんだっけ?」


「はい。大和さんみたいに支えてもらうっていうのは、無理ですもん」


「そうだろうね」


大和さんに離してもらって、もう一度やってみる。強すぎず弱すぎず調整していく。


「ルビーさんへの出産祝いは結局、どうしたの?」


急に大和さんに話しかけられた。


「ちゃんとっ、ヴィクセンにっ、ローズさんとっ、一緒にっ、きゃあぁ!!」


「おっと、危ない」


大和さんが支えてくれた。


「集中している時に話しかけないでくださいよ」


「慣れれば大丈夫になりそうだけどね。そろそろ中に入ろうか」


「はい」


家の中に入ると、大和さんはシャワーに行った。朝食を作らなきゃ。今日はみんなお休みで昼食は要らないけど、一応サンドイッチを作っておく。テスト飛行にカークさんも着いていくって言っていたし、どの位の時間がかかるか分からないし。ユーゴ君は冒険者ギルドの人達とどこかに行くと言っていた。


朝食は目玉焼きとチーズを乗せたトースト。ハムも乗せている。ベースにはトマトソースを塗っているから雰囲気的にはピザトーストだ。野菜は別添えなんだけどね。


「サンドイッチを作ってるの?」


大和さんがシャワーから出てきて、キッチンを覗き込んだ。


「お昼用です。時間が分からないので」


「適当で良いのに」


「適当ですよ。朝食を食べましょう」


「おっ。こっちはピザトースト」


「雰囲気だけですけどね。ハムと目玉焼きが乗っけてあります」


「ハムエッグトーストだね」


「……ですね」


「咲楽のパンって美味しいよね」


「ありがとうございます」


「どうしたの?」


「飛べないな、って」


「筆頭様も来るみたいだから聞いてみたら?」


「そうします」


「後はteleportationだね」


「そっちは不安が大きいんです。一部分だけ移動しちゃったらどうしようとか」


「時空間魔法のteleportationが分解と再構築だったら、確かに怖いね。でも、最初にジェイド嬢は出来るって言っていたんだから、見た事があるんじゃないの?」


「教科書知識じゃないですか?」


「学園で習ったという事か」


「時空間魔法って使い手が少ないって事でしたし、図書館にも時空間魔法についての本って少なかったんですよね」


「時間があったら図書館に行く?」


「はい」


朝食を食べ終わってお出掛けの準備をする。絶対にパンツスタイルでないとダメだよね。髪の毛は三つ編みで纏めよう。


準備が出来たら階下に降りる。大和さんも着替えて降りてきた。


「ん。可愛い」


「大和さんも格好いいです」


「そろそろ出ようか。カークも来るだろうし」


庭に出て待っていると、カークさんが走ってきた。


「お待たせしてしまいましたか。申し訳ありません」


「時間はあるだろう?そこまで急がなくても良いんじゃないか?」


3人で東門に向かう。


「今日のメンバーは聞いているか?」


「トキワ様、サクラ様、オスカー、筆頭様、サミュエル副ギルド長、アーロンですね。アーロンは魔道具師です」


「カークを入れて7人か。誰がテストをするんだ?」


「サミュエル副ギルド長です。筆頭様がごねていましたが」


「あのお人は自力で飛べるだろうに」


「新しい物を試したかったようですね」


「そういえば、空を飛ぶ魔物は居ないのか?鳥類じゃなくて」


「鳥類ではない?フォコネール(雷風鳥)は鳥類ですし、グラースパピヨン(透明蝶)とかでしょうか?」


グリフォン(鷲獅子)とかは?」


「グリフォン《鷲獅子》ですか。居ますよ。霊獣ですね」


「霊獣?」


「私は実際に見た事はないのですが、高山を棲みかとする霊獣で、雲を集め、嵐を呼ぶと言われております。さる国では保護区を作って保護していると。ユニコーン(一角馬)はセプタヘムス国の保護霊獣です。上層部が馬車を牽かせております。ユニコーン(一角馬)も霊獣ですが、セプタヘムス国では神獣という扱いです」


「居るのか。見たいな。霊獣ともなると簡単にはいかないだろうが」


「そうですね。全体数が少ない上に生息地が隠されていますので」


「国をあげて隠していれば、発見もなされないか」


「コラダーム国の保護霊獣はペガソス(有翼馬)ですよ」


「見てみたいです」


「保護区域は秘密ですよ」


「そりゃ、そうだろうな。各国でいろんな保護霊獣が居るわけか」


「居ない国もありますが」


東門前に筆頭様とマックス先生が居た。何か言い合いをしている。言い合いというか、マックス先生が何かを頼んでる?


「おはようございます。どうかなさいましたか?」


「トキワ君。僕も一緒に連れていってよ。面白い事をするんでしょ?さっきからヒットウサマに頼んでるのに断られるんだよ」


「ヒットウサマという呼び方を止めろと、何度言えば良いのかな?実力行使が必要かい?」


「ミシェルが良いか?それともエルスタッド?」


「ヒットウサマでなければ何でも良い」


「じゃあ、ミシェル。一緒に着いていって良いか?」


「却下」


「トキワ君、頼むよ」


「私の一存ではどうにも答えられません。筆頭様がお断りになられている、その理由はお聞きになりましたか?」


「聞いたけど、危険だから、って言われた。シロヤマちゃんも一緒なんだから、そこは大丈夫でしょ?」


「彼女には何かあったら即座にピットホール(塹壕)ヴィンドヴァードゥ(風の防壁)イードルヴィンド(風刃)を使えと言ってありますよ」


「使うと思う?」


「使って欲しいですね」


すみません。使う気はあるんです。とっさに判断が出来ないだけで。


2人の生温い視線に誤魔化し笑いをするしかない。


「仕方がないね。マックスも連れていこう。危なくなったら囮にしよう」


「ちょっと、ミシェル!!」


少し待つと、オスカーさんとサミュエル副ギルド長さんが、細身の男性を連れて東門にやって来た。細身の男性がアーロンさんらしい。大和さんはアーロンさんと知り合いらしく、挨拶をして話をしていた。その時に私も紹介された。


「アーロンと言います。魔道具師をしています」


「はじめまして。サクラ・シロヤマです。施術師です」


「うわぁ。本当に闇神様の髪に新緑の眼だ。あ、失礼しました」


「いいえ。飛行装置の魔導回路を担当されたんですよね?」


「そうですね。空を飛ぶというのは夢でしたから」


「夢ですか?」


東の草原に向けて歩きながら話をする。


「魔術師筆頭様が飛んでいるのをたまたま見たんですよ。風属性を持っていないと飛べないと聞いて、それなら作ってみようと、本業の合間を縫って研究していたんですけどね。サミュエルに声をかけられて、トキワ様に話をうかがって、ようやく形になりました。これまでに5回程失敗していますので、これ以上の失敗はしたくないですね」


「諦めなかったんですね。凄いです」


「えぇ。諦めが悪いのが長所ですから」


「飛行装置が終わったら、次は何を作るんですか?」


「そうですね。考えているのは音声保存でしょうか」


「音声保存。その場の音声を保存出来たら良いですよね。楽しみです」


「後は静止画保存はありますから、動いている絵を保存するのも考えています」


「動画保存ですか?大和さんの剣舞を残しておきたいです」


「そうですね。トキワ様の剣舞は是非残しておきたいですね」


「綺麗で、力強くて」


「ですよね。後世まで伝えるべきです」


2人で話していると、大和さんが大きく咳払いをした。


「その辺にしておいてくれ。聞いているとむず痒くなる」


「えぇぇぇ。大和さんの剣舞は絶対に保存しておくべきですよ」


「そうですよ。後継者は居ないのですか?」


「さぁな。本人にその気があれば後継となってくれると思うが」


「それならなおさらです。トキワ様の剣舞を是非とも残しておかないと、それはこの国の損失です」


「はいはい。アーロン、その辺にしておいて。音声保存と動画保存の術式は研究中だから」


「筆頭様、僕はどの属性を使うかも思い付いていないのですが」


「音声保存は風属性かな?動画保存は風と光?」


「音声は分かりますが、動画保存にはその2つだけで良いのでしょうか?」


「もしかして、他に何か思い付いた?」


「水属性とか。水面に影が移りますよね?」


「あぁ、そうだね。でも、鏡は反射だから光属性でしょ?それと同じじゃない?」


「それだと魔道具内に鏡を入れないと成り立ちませんよ」


「難しいね」


筆頭様とアーロンさんが難しい話をしている。ビデオの原理なんて知らないんだよね。カメラは大和さんがピンホールカメラの事を話していたから、何となく分かっている。確か小学生で習うんだよね。


東の草原に着くと、筆頭様が魔空間から大きな飛行装置を取り出した。砲弾型に"く"の字形の翼が付いている形状だ。


意気揚々とサミュエル副ギルド長さんが飛行装置を受け取って、魔力を注ぎ込む。下向きのジェット噴射が辺りの草をなぎ倒してフワリと機体が浮いた。それと同時にサミュエル副ギルド長さんが機体の上の椅子に座った。


「ここまでは前回も成功したんですよねっ」


「この後、バランスをどう取るかが課題だったけどっ?!」


「翼の両端からっ、ジェット噴射を出すようにしてみたんですがっ」


「うんうんっ。良い感じだねっ」


音が大きいから、筆頭様とアーロンさんが怒鳴り合うようにして話し合っている。


グォンとひときわ大きな音がして、サミュエル副ギルド長さんが前進した。結構速い。筆頭様が急いで追いかける。時々浮いてる気がするんだけど、気の所為(せい)


「浮いてるね」


「ですよね」


少し距離を置いたから、聞き取りやすくなった。大和さんと話し合う。


「ジェット機の側に居るかと思う音量だった」


「あの位だったんですか?」


「ヘリに乗り込む時には、プロペラも回ってるしね。音も凄いんだよ。風速もあの位だったと思う。もう忘れかけているけど」


私はヘリなんて乗った事はない。飛行機は修学旅行で乗るはずだったけど、中止になっちゃったんだよね。あれは何故だったんだろう?


「いやぁ、驚いた。かろうじて墜落しなかったけどね。気を付けてよ」


「悪い悪い。あの高さから落ちるのは怖かった」


前方からサミュエル副ギルド長さんと筆頭様が歩いてきた。


「どの位の高さだったんですか?」


大和さんが聞いた。


「5m位だったよ。トキワ君、乗ってみる?」


「5mですか?飛び降りるのは大丈夫そうですが」


「でも、下は地面ですよ?」


高さ的にはたぶん大丈夫だと思う。でも、心配な事には変わりがない。


「筆頭様、咲楽に風属性での飛行術を教えて貰えませんか?」


「良いよ。それが乗る条件?」


「そうですね。筆頭様がお乗りになるなら、その条件は無くなりますが」


「目の前であれを見ちゃうとねぇ。ちょっと怖じ気づくね」


筆頭様が魔空間から飛行装置を取り出して大和さんの前に置いた。



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