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異世界転移って本当にあるんですね   作者: 玲琉
3年目 花の月
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フルールの|御使者《みつかい》 ②

闘技場に着くと、大和さんと一緒に、演出の所定位置に着く。ローズさんも一緒に付いてきた。ちゃんと許可は取ってあるらしい。


3の鐘が鳴って、御使者(みつかい)達がフィールドに集合した。開会の声が終わると正面がチカっと光った。合図だ。闇の矢を大和さんの矢に添わせる。闘技場の四方八方から飛来した矢は、全てが的のくす玉に当たった。くす玉から光が溢れ出て、パカリと割れるとその中から花が降り注いだ。魔術師さんが風属性を使っているようで、闘技場が緑に染まる。歓声が聞こえる。グリーン、フォレストグリーン、オリーブグリーン、ターコイズグリーン。深い緑色から新緑のような緑色まで、さまざまな緑色が視界を占める。


「サクラちゃんの見ている風景を見たいわね。きっと綺麗だもの」


ローズさんが呟いた。


「ジェイド嬢は魔力が見えるから、魔法の適切なアドバイスが出来るわけではないのですか?」


「私には魔力は見えないの。でもね、魔法が行使されると、なんとなく感覚的に分かっちゃうのよ。こうすればこういう風に出来るって」


「それはそれで、凄い事なのでは?」


「そうかしら?」


大和さんとローズさんが交わす会話を、ぼんやりと聞いていた。目の前の光景が素敵すぎて、他の事が頭に入ってこない。


今日の大和さんは忙しい。すぐに場所を移動して花馬車周囲の護衛任務だそうだ。私とローズさんも大和さんに着いていくことにした。


「サクラちゃん、疲れたら言うのよ。今日はたくさん歩くんだから」


ローズさんが魔空間から籠を取り出して、私に1つ手渡しながら言う。


「はい。ローズさんも言ってくださいね」


「大丈夫よ。私はお姉様なんだから」


「トキワ様、私は闘技場内の片付けに参加いたします」


カークさんは闘技場内に残るらしい。


「なるべく人目が有る所に居ろよ?」


「心得ております」


御使者(みつかい)達が花馬車に乗って出てきた。大和さん達がその周囲を固める。花巡りをする人達の邪魔にならない位置からの護衛だ。5台の花馬車の後をみんなでゾロゾロと付いて歩く。


「サクラちゃん、結局結婚の日は決まったの?」


「まだです。あ、そうだ。ローズさん、アレクサンドラさんから何か聞いていませんか?」


「忘れていたわ。採寸をするからいらっしゃいって。花巡りが終わったら行く予定にしていたんだけど、良いかしら?」


「はい。忘れないでくださいよ」


花馬車から撒かれる花は、わざわざ拾わなくても、勝手に籠に入ってくれるほどたくさん有る。それに撒かれる花だけでなく、貴族街のお屋敷でも頂く予定だ。


貴族街に入ると周りを歩いていた人が散開した。どうやらお目当てのお屋敷があるようだ。


「こっちよ」


ローズさんに案内されて、路地に入る。路地といっても十分広い。横断歩道位の幅はあるかな?


「まぁまぁ、天使様、ローズ様。よくいらっしゃいましたわ」


優しげなご婦人に迎えられた。リディー様のお母様だそうだ。


「リディーももうすぐ戻ると思いますわ。こちらでお待ちになっていて?」


「ありがとうございます」


リディー様のお家は柵でしっかりと囲われた広い中庭があって、そこには整えられた植栽と花々、ガーデンテラスがあって、ゆっくりと寛げる空間になっていた。そこは完全プライベート空間のようで、紅茶とお菓子を出されて頂いていると、リディー様がこちらにパタパタと小走りでやって来た。


「リディー、走っちゃダメよ」


「ローズ様、天使様、もういらしていましたのね」


お母様の言葉を無視してリディー様が私達の隣に座る。


「ローズ様、天使様、(わたくし)もこのご近所だけでも一緒に廻りたいですわ」


「ご家族の了解が必要だと思いますよ」


ローズさんが丁寧に説明する。リディー様がお母様をじっと見つめておねだりを始めた。


この庭には噴水があって、さらさらと涼やかな音がする。ここだけ別世界のようだ。


「ローズ様、天使様、一緒に行って良いと許可が出ましたわ」


「うふふ。じゃあ、一緒に行きましょうか」


お母様が心なしかグッタリしているのは、気のせいだよね?


リディー様を連れて、お家を出る。この辺りの事はローズさんの方が詳しいらしく、次はここ、今度はこっちといろんなお屋敷でお花を頂いた。リディー様も小さな籠を持って、そこに入れていく。


「後2ヶ所寄るわよ」


「2ヶ所ですか?」


「そう。連れてこいって言われたの」


花馬車はもう見えない。たぶん西街の方に行っちゃってると思う。


まず連れていかれたのがフリカーナ邸。中に入ってというお誘いを固辞してお花とリボンとお菓子を頂いた。次はライルさんも一緒になってサファ侯爵邸へ。サファ侯爵邸は一般公開はしていないらしく、静寂に包まれていた。このお屋敷は前庭もあるしとても広い。門番さんが中に入れてくれて、奥様に歓迎された。お礼として侯爵様とヴィオレット様がお屋敷に帰ってきた後でリュラ(竪琴)の演奏をした。曲はFrühling(フリューリング)。この季節にピッタリだ。


サファ侯爵邸を辞して、王宮に向かう。頂いた花を加工してもらう為だ。ミニ花馬車の申し込みをして、タイプを選んだら、花籠を渡す。リディー様はドライフラワーの花束とレジンアクセサリーのように固めたブローチを、いくつか作ってもらっていた。学園のお友達のお土産にするんだそうだ。学園には領地が遠くて帰省できないお友達が何人か残っているんだって。一昨年はそういった方々をマソン邸にお招きしていたらしい。


出来上がったミニ花馬車は私が預かった。残った花を丸盾のように加工してもらって、それも各施療院に飾ることになった。壁龕(ニッチ)があるから飾れるだろうとライルさんからもお墨付きを頂いたからね。


ジェイド商会に寄って、アレクサンドラさんに採寸をしてもらう。ついでにロシャのベールも見せてもらった。


「縁飾りが凄いですね。綺麗です」


「シロヤマちゃんの結婚式で使うものよ。気に入った?」


「私の?」


「そうよ。ここに花を刺していくのよ。楽しみにしていて」


「はい」


「お式はアウトゥだったわね。腕がなるわ」


「お披露目会もね。是非にって人が多くて困っちゃうわ」


「あまり派手にしたくないんですけど」


「大丈夫よ。そこはちゃんと計画しているもの。兄様達が催事部を作るって張り切っていたわよ。王都内の知り合いに声をかけて、独自の結婚式に特化した部門を作るんですって」


「ウェディングプランナーですか。今までは決まった様式って無かったんですよね?」


「サクラちゃん、覚えてる?」


黙って首を降る。避けてたし、友人の話くらいしか覚えていない。


「有名だったのはブーケトスとかブーケプルズ?花嫁がブーケを持っていて、そのブーケを受けとると次の花嫁になれるという話だったはずです」


「ブーケプルズというのは?」


「私もそこは曖昧なんですけど、花嫁がたくさんのリボンを持っていて、女性の友人が1本ずつ選んで一斉にそれを引くんです。当たりが1本だけあって、ブーケに繋がっていて」


「それ、いいわね。招待制にして、その数だけお祝いの品を用意して、引いてもらうってどうかしら?」


話が千本引きみたいになっているけど、良いのかな?


ジェイド商会を出て、闘技場に向かう。ローズさんが馬車を出してくれて、一緒に乗っていった。


御使者(みつかい)様達は闘技場に帰ってきていて、すでに後片付けの時間になっていた。私達が闘技場に着くと、女性騎士様に手招きされた。


「はい。お嬢様方。プレゼントですよ」


「わぁぁ、綺麗。頂いていいんですか?」


「もちろん。お似合いです」


女性騎士様達って男装していらっしゃるから、麗しいんだよね。美人さんって男装していても綺麗だし、格好いいよね。男装の麗人っていう言葉もあるし。


「咲楽、帰ろうか」


「はい。ローズさん、今日はありがとうございました」


「良いのよ。こちらこそありがとう。リディアーヌ様のお見送りに行けないのが残念ね」


「時間って決まってなかったんですよね?」


「1の鐘前に出るって聞いたわよ?確かめておくわ。サクラちゃんの対の小箱もあることだし、知らせるわね」


「お願いします」


今日はお隣のみんなが引っ越し祝いをするというので招かれている。お隣に入るのは初めてだなぁ。


「大和さんは入ったんでしたっけ?お隣」


「ほぼ毎日入ってるよ。ダニエル達に寝起きドッキリを仕掛けている。シンザがなかなか起きなくてね」


「どうやって起こしているんですか?」


「くすぐったりとか、氷を首に入れてみたりとか。古典的な方法だね」


「殺気を向けた時もあったではありませんか」


「あれは失敗。起きなかったからね。殺気で起きないってどうなってるんだか」


「大多数の人は起きないと思います」


大和さんだったら起きるんでしょうけどね。カークさんはどうだろう?起きそうな気がする。私は無理だなぁ。


「私も何か持っていった方が良いんでしょうか?」


「みんなが用意していますので、お気持ちだけで」


「デザートとか」


「サクラ様のお料理は美味しいし嬉しいのですが、争奪戦になる未来が見えます」


「分かりました。次の機会にします」


本当は何か持っていきたいんだけどな。カークさんがこれだけ止めるんだし、何か訳が有るんだと思う。


「訳なんかないからね?今日はアイツ等が咲楽にご馳走したいんだって」


カークさんと別れて、家に入ってから大和さんが教えてくれた。


お風呂に入ってから大和さんに隣に案内してもらう。


「サクラ様、よくいらっしゃいました」


「今日はお招きありがとうございます」


ブランさんとリンゼさんが出迎えてくれた。2人は今、同じ部屋をシェアしているそうだ。リンゼさんはカークさんと一緒で構わないと言ったそうだけど、そこはカークさんがけじめをつけたかったらしい。結婚してからでないと、同居は出来ないって。ユーゴ君もいるしね。


カークさんの言い分によると、私達はどうなるんだろう。結婚してないけど、ずっと同棲していて、さらに同じベッドに寝ているんだけど。


「トキワ様とサクラ様は結婚しているとみなされていましたし、よろしいのでは?」


「そうは言っても、未婚の男女が1つベッドで寝ているって、おかしいんですよね?」


「そんな事はありませんよ。私の考えが古いのでしょう。最近では冒険者同士での一軒家の同居も増えていますし」


「そういえばハンネスさんも、パーティーみんなで住んでいるって言っていましたっけ」


「彼らは一緒に住んでいるのですか」


「えぇ。そう言っていました。1度お家にも伺いました」


「天使様、天使様のベールには私も刺繍しますからね。女将さん(おかあさん)から許可が出ました」


「その為に頑張ってきたんですよ、コイツは」


ブランさんが嬉しい申し出をしてくれて、それをアッシュさんが見ていた。大和さんとアッシュさんの傷痕を消すことはまだ出来ていない。ここは小説の世界じゃないから、傷痕を残さず消す『ヒール』等はない。出来た直後の外傷はシカトリーゼ(治癒)で綺麗に治せるけど、時間が経った傷痕は消せない。ラノベなんかだとヒールやパーフェクトヒールだのハイヒールだのって傷痕を残さず消す術があったけど。


楽しい時間が過ぎて、6の鐘になったから、家に帰る。


「何を考えていたの?」


着替えて寝室に落ち着いて、大和さんに聞かれた。


「大和さんとアッシュさんの傷痕を消せていないなって。ラノベなんかだと消せたのにって悔しくなっちゃったんです」


「まだ諦めてなかったの?」


「諦めません」


「無茶をしなけりゃ良いけど」


「無茶はしません。でも、諦めません」


「俺は気にしないんだけどね」


「私が気になるんです」


「初夜までに治す?」


「初夜……」


絶対に真っ赤になってると思う。


「結婚したら初夜でしょ?」


「あの、えっと、新婚旅行とか……」


「うん。どこに行きたい?」


「どこがって、知らないんですけど」


「候補としてはヘリオドール領、ターフェイア領、キュアノス領かな?」


「その共通点は?」


「王都から2日以内の風光明媚な土地」


「ヘリオドール領はゴットハルトさんの所ですよね?キュアノス領は?」


「ここから東南方向に行った海沿い。キュアノス出身者に薦められた。コーラル領ほど有名じゃないから、静かでゆっくり出来るって。アウトゥでも海水浴が出来るって力説された」


「海沿いっ!!行ってみたいです。でもヘリオドール領も行ってみたいです」


「ゆっくり悩んでいいよ。酷熱の月までに決めればいいから」


「大和さんはどっちが良いですか?」


「迷ってる。咲楽の希望を優先したいしね」


「この世界では、旅行って気軽に出来ませんしね」


「そういえば、飛行装置が出来たって言っていた。テスト飛行を闇の日にやるんだって。一緒に行く?」


「行きます」


「そこで認められたら、魔道具として登録されて、軍事転用されないように制約をかけてから生産に入るって」


「軍事転用の制約は必要ですね。高さの制限とか」


「咲楽は風属性の飛行練習をしないとね」


「そっちはいい先生が居ないんです」


「良い言い訳が出来ているね」


「言い訳じゃないです」


「機嫌直して?」


ぎゅっと抱き締められた後に、キスが降ってきた。朝のような少し長めのキス。


「大和さん……」


「もう寝ようね。おやすみ、咲楽」


「おやすみなさい、大和さん」



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