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異世界転移って本当にあるんですね   作者: 玲琉
3年目 芽生えの月
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芽生えの月、第2の闇の日。今日は私は休み。


新施療院の要望は待合室に少人数での話が出来る小部屋と、ニッチが欲しいと伝えておいた。ニッチは壁を凹ませた飾り棚で、壁龕(へきがん)、エクセドラ、アプスともいう。そこにローズさんの言うミニ花馬車を飾れるかな?って思って言ってみた。


そうしたらその翌日、築舎屋(コンクラーウェ)さん達が来てくれた。ニッチの幅や高さ等の要望を聞いて、水の月には出来ると請け負ってくれた。花の月末には街壁が、風の月初めには街門が出来る予定なんだって。主要施設はその後の着工になるらしい。街壁や街門が出来ないと、万が一魔物が現れると大変だもんね。中にはミエルピナエ()のように友好的な魔物も居るけど、トレープール()ウルージュ(赤熊)が現れないとは限らない。


大和さんは王都に戻って早々に闇の日の出勤だ。出勤と言っても3の鐘までは巡回見回り、3の鐘からは闘技場で弓の練習らしい。ロープで花びら入りのくす玉を吊って矢を当てて割る事が出来るかの実験だって言っていた。出来なければ代替案に切り替えないといけないし、可能性があるなら練習をすると言っていた。


紐で吊っただけの不安定な的に弓矢を当てるなんて、かなりの難易度だと思う。提案した人の顔が見てみたいと、毎朝会う副団長さんに言ったら、なんと提案者は王妃様だった。それは誰も文句は言えませんね。


今日は私は神殿にお邪魔する事が決まっている。エリアリール様からのお呼び出しがあったのだ。ゴットハルトさんが一昨日伝えてくれた。その話を施療院でしたらローズさんが一緒に行くわと言ってくれた。


ちょっと雲が多いけど、それほど悪くはない天気を寝室の窓から確認して、着替えてからダイニングに降りる。気温はそれほど低くない。暖炉はどうしようかな?一応火を入れておこう。一次発酵が終わったパン種を食料庫から取り出して、ガス抜きと成形をしてパンを焼く準備を進めていく。ユーゴ君のお配り用のミニパンにはアフル(リンゴ)フリュイ(ジャム)を入れてフリュイ(ジャム)パンにする。少し多く焼いて、ローズさんやエリアリール様やスティーリア様にも召し上がっていただこう。施療院のみんなには食べてもらったんだけど、これに関しては「レシピ登録を」とは言われなかった。王都内のいくつかのパン屋では天然酵母じゃなくてイースト菌を使ったパンも少量ながら売っているし、好評ではあったけど珍しいものじゃないって事なのかな?


「咲楽、ただいま。あれ?暖炉を入れてるの?」


「ただいま帰りました、サクラ様」


「ただいま、天使様。うわあ、良い匂い」


「おかえりなさい、大和さん、カークさん、ユーゴ君。今から地下ですか?」


「うーん。庭で剣舞を再開しようかな?と思っていてね」


「分かりました。終わったら行きます」


大和さん達が庭で準備をしている内にパンが焼き上がった。オーブンから出して網に乗せて冷ます。暖炉の火を始末して急いで庭に出たら、大和さんがちょうど舞台に向かうところだった。


「咲楽、良いタイミングだね」


「お待たせしました」


大和さんが構えをとる。手に持つのは2本の剣。『秋の舞』か『冬の舞』?


舞われたのは『秋の舞』。ユーゴ君が凝視している。


私の眼には、鮮やかな黄色に染まった林と、舞い落ちる黄葉。その林をゆっくりと歩くナイオンが見えた。四神相応でいうと秋は白虎だと大和さんが以前に言っていたけど、ナイオンは秋の林によく似合うと思う。


大和さんが舞い終わると、カークさんとユーゴ君が家に入った。


「咲楽、今日、闘技場に来る?」


「えっと?」


ぎゅっと抱き締められながら、大和さんがそんな事を言うものだから、とっさに理解が出来なかった。今日は大和さんはお昼から闘技場なんだよね?フルールの御使者(みつかい)の演出の練習で。行って良いの?秘密じゃないの?


「行って良いんですか?」


「うーん、どうだろう?」


「大和さん?」


「何となく大丈夫な気がする」


「何となく、も、気がする、もダメです。許可が出ていないなら、行く訳にはいきません」


「許可があれば良いの?」


「特別扱いじゃない許可ですよ?」


「分かった。聞いてみる」


家に入りながら話をしていた。家に入ると大和さんはシャワーに行った。私は朝食と昼食を作る。今日は大和さんとユーゴ君がお弁当。大和さんが休日出勤という事は、カークさんもそれに着いていくのかな?と、いう事は、カークさんのお弁当も要るよね?


「カークさん、今日のご予定は?」


「冒険者ギルドの方がお休みですので、トキワ様に着いて参ります」


「分かりました。お弁当を用意しておきますね」


「ありがとうございます」


温野菜ソテーとオムレツをお皿に乗せて、冷ましてあったパンを一緒に出す。スープもカップに注ぎ分けて、待ってくれていたカークさんに渡す。


「天使様、先に食べて良い?」


「はい。どうぞ」


「ユーゴ、今日は出勤か?」


シャワーから出てきた大和さんが、ユーゴ君に聞いた。


「うん。今日は魔物素材の整理とその見分け方を教えてもらうんだ。臭いがキツいって言われたけど、頑張る」


「これ、使ってみる?」


そっとマスクを差し出してみた。


「何これ?」


「マスクっていうの。少しは臭いが軽減できると思うよ」


マスクの付け方を教えてから、朝食を食べる。


「カーク、今日はどうする?」


「冒険者ギルドの仕事が今日は休みなのです。ですからお伴いたします」


「そうか」


「何かございましたか?」


「いや、ちょっとな」


私を見ながら言う。さっき言っていた事かな?闘技場に見に来るか?って。


食べ終わったユーゴ君にお弁当とミニパンを渡す。


「ありがとう。行ってくるね」


「いってらっしゃい。気を付けてね」


玄関まで見送ってダイニングに戻ると、大和さんが席を立った。


「咲楽、聞いておくね。OKだったらカークに伝えてもらうから」


「お任せください」


私が朝食を食べ終わると、カークさんが食器を下げてくれた。


「今日は私が休みですから、洗いますよ」


「すぐに終わりますから。サクラ様はそちらでお寛ぎください」


「カークさんは、絶対に私に洗わせてくれないんですね」


「サクラ様にはお食事を作っていただいているのです。後片付けくらいはさせてください」


どうしても折れてくれないカークさんに、ため息を吐きながらダイニングで座っていると、着替えを終えた大和さんが降りてきた。


「何を不貞腐れてるの?」


「カークさんが食器を洗わせてくれないんです」


「咲楽は食事を作ってくれているじゃない。後片付けくらいは任せたら?」


「大和さんにまでそう言われちゃったら、私の味方がいません」


「落ち着かないんでしょ?」


10年以上やってきたから、確かに落ち着かないっていうのはある。


「カーク、そろそろ出よう。咲楽、行ってくるね」


「はい。いってらっしゃい」


玄関まで見送る。頬にキスされた。


「いってきます」


大和さん達を見送って、ダイニングに戻る。今日のお夕食用のポトフを仕込んでおこうかな。お出掛けの準備はほぼ出来ている。後はリップを塗って、上着を着たら出掛けられる。ローズさんが来てくれるから、待っているけど。それにせっかく覚えた神殿までの道が、少し自信が無くなっている。


掃除を終えて、2の鐘が鳴った頃、結界具に反応があった。


「サクラちゃん、来たわよ。開けて?」


ローズさんだ。


「はい。少々お待ちください」


玄関を開けると、ローズさんが笑顔で立っていた。


「神殿ではダフネも待っているわ。早く行きましょ」


「ダフネさんも?」


施錠しながら尋ねる。


「ダフネは別の用事なんだけどね。あの子がサクラちゃんが来るって聞いて、大人しくしている訳無いじゃない」


「そういえば王都に戻ってきてから、お会いしていない気がします」


「そうなのよ。サクラちゃんが帰ってくる3日前に仕入れに行っちゃったの。昨日帰って来たのよ」


神殿に向かいながら話をする。


「今日は神殿にお呼び出しなのよね?何の用事なの?」


「私にもよく分からないです。一昨日夕方にゴットハルトさんから伝言を貰いました」


「ヘリオドール様からねぇ。何かしらね?心当たりはないの?」


「一応有るんですけど、もしそれならずいぶん早いなって感じです」


「ふぅん。もしかして結婚の日取り?」


「はい。この一年以内でないと時間的に余裕が無くなりそうだからって、エリアリール様に言われました。良い日を選んでおきましょうか?って言ってくださって。ローズさんももうすぐですよね?」


「えぇ。花の月の最終の闇の日よ」


「おめでとうございます」


「貴族家同士の結婚になるから、形式が大変。覚える事がたくさんあってね。今日はサクラちゃんと出掛けるからって久しぶりにのんびり出来るわ」


「ドレスはもう出来ているんですか?」


「今頃サンドラが頑張ってくれているわ」


「今の時期ってフルールの御使者(みつかい)の衣装とかで忙しいんじゃないんですか?」


「私の分はもっと前から取りかかってくれていたから、大丈夫だって言っていたわ。アクセサリーもダフネが作っていたわね」


「ローズさん、なんだか他人事(ひとごと)ですね」


「お母様とヴェルーリャのおば様が張り切って、私とユリウス様は完全にのけ者よ。何かあったら『はい。はい』って言われた通りに動くだけだもの。でもね、本番は私とユリウス様が主役でしょ?だから、そこは2人で必死に教えあってるわ」


「ヴェルーリャ様とローズさんってお似合いですよね」


「やだ、なぁに?サクラちゃんとトキワ様には負けるわ」


「マルクスさんとルビーさんも仲良しですよね」


神殿に着いて、エリアリール様に面会の申し込みをする。スティーリア様が出てきてくださった。


「シロヤマ様、ようこそいらっしゃいました」


「じゃあね、サクラちゃん。終わったら衣装部に来てね。待っているわ」


「はい。ありがとうございました」


スティーリア様に案内されて、エリアリール様のお部屋に向かう。


「シロヤマ様、何日か善い日をエリアリール様が選んでくださいましたわ」


「善い日ですか?」


「お2人の結婚式の日ですわよ?」


「あれからそんなに経っていないのに、もう選んでくださったんですか?」


「もちろんですわ。エリアリール様もそれは楽しそうに選んでおられました」


エリアリール様のお部屋に着いて、お話を伺う。


「シロヤマ様はフラーとホアとアウトゥとコルド、どの季節がお好き?」


「季節ですか?アウトゥかな?」


部屋に入るなり、エリアリール様に聞かれた。スティーリア様が呆れたような顔でソファーを勧めてくださった。


「そうですわねぇ。シロヤマ様とトキワ様がコラダームに来られたアウトゥに、お式をあげてもよろしいですわね」


「あ、でも少し忙しいかもしれません」


「あら?そうですの?」


「施療院の立ち上げもありますから」


「そうですわね。それでしたら実りの月、空の月、眠りの月辺りですかしら?」


「空の月には施療院の立ち上げが本格的に始まりますし、眠りの月には二次試験の立ち合いが有るんですが」


「それでしたら実りの月ですわね」


にこやかにエリアリール様とスティーリア様に告げられた。決まっちゃった感じなの?


「あの、大和さんにも相談しないと」


「あら。もちろんですわよ。こちらで選んだ日がこの10の日ですわね。お持ちくださいね」


「アウトゥにお式と決まりましたら、お衣装を決めないといけませんわね」


「スティーリアは張り切っているわね」


「あら。それはエリアリール様もでございましょう?」


「ホアにお式でも良いと思うのですけどね。シロヤマ様は暑さに弱そうですしねぇ」


「ジェイド商会のアレクサンドラ様はコルドのお式にして、ドレスをクルーラパン(カラーウサギ)のファーで飾って、雪の精のように、とも言っておりましたわね」


「フラーのお式ですと、花をたくさん飾るという案もありましたわよ?」


「そんなところまで話が進んでいたんですか?」


「雑談ですわよ。(わたくし)とコリンが話をしておりましたの。そうしましたらエリアリール様が……」


(わたくし)はシロヤマ様とトキワ様を見守りたいだけですよ。サファ侯爵様が後見人ということになっていますけど、後見人でなくても見守るくらいはよろしいでしょう?」


「ありがとうございます」


エリアリール様もスティーリア様も、私達を見守ってくださっている。


エリアリール様のお部屋を辞して、スティーリア様と衣装部へ向かう。


「天使様、会いたかったぁ」


衣装部にはダフネさんも居て、早速飛び付かれた。


「ダフネ!!いきなり飛び付かないのよ!!」


「良いじゃない、お嬢様。天使様が帰ってきた時、会えなかったんですもん。商談を放り出して帰ろうかと思っちゃったよ」


ローズさんも私に飛び付いているけど、それは棚の奥の方に投げ捨てたんですね?


「いらっしゃい、シロヤマさん。お話は終わった?」


「はい。コリンさんもお久しぶりです」


「季節だけでも教えて?」


「まだ決まってないですよ。大和さんとも相談したいですし」


「あれ?師匠は天使様のドレスは絶対に白だって言っていたよ。そういう決まりなんでしょ?」


「決まりというか、白が多かったのは確かです。時代によっても違いましたけど、主流は白ですね」










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