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異世界転移って本当にあるんですね   作者: 玲琉
3年目 氷の月
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「シロヤマ嬢の異空間に箱を作って、感情の記憶を閉じ込めたんだよ。光と闇を持っていないと掛けられなくて。しかも、他人の領域に封印の箱を作るから、難しくてね。僕やシロヤマ嬢の魔力量なら大丈夫だけど、魔力量が20000は無いと、魔力量が足りなくて倒れるだろうね」


「そんな大変な術を?ありがとうございました」


「良いよ。僕としても気になっていたし、両陛下にも頼まれちゃったしね」


筆頭様が戻っていってすぐに、大和さんと副団長さんがこっちに歩いて来た。


「咲楽、カーク、お待たせ。昼から東の草原の女王様の所に行くよ」


「はい」


「ナイオンさんを連れてまいります」


「ナイオンさん……」


副団長さんが吹き出しかけていた。カークさんが待機場に走っていくと、副団長さんが言った。


「私も行きますからね」


「もしかして、騎士団のご用事ですか?私達もいて良いのでしょうか?」


「いえいえ。騎士団も多少は関係してきますが、トキワ殿に頼みがありましてね。的がある方が良いのでシロヤマ嬢達にもご協力を頼みたいのです」


「的?ということは、弓ですか?」


「はい」


副団長さんが私達と一緒に歩き出す。


「副団長さん、昼食は良かったんですか?」


「はい。私は今日は非番でしたから」


「朝から待ってたんだってさ。昼食はトラットリア・アペティートで用意されているらしい」


「えっと……?」


「シロヤマ嬢とカーク君の分も用意を頼んでいますよ」


「私もですか?」


王宮の待機所に着いた所だった為か、カークさんが驚いて声を上げた。


「もちろんです。トキワ殿が来るという事は、シロヤマ嬢とカーク君も一緒だと思いましたからね。ユーゴ君もかと思っていたのですが、姿が見えませんね」


「ユーゴ君は昨夜7の鐘まででしたから。夜勤の体験ですね」


「ははぁ。なるほど」


副団長さんが納得したように頷く。


4人でトラットリア・アペティートに向かう。ナイオンも一緒だけど良いのかな?


「心配しなくても大丈夫ですよ。トキワ殿とシロヤマ嬢が居れば暴れることも無いでしょう?」


「それはそうですけど」


連れていかれたのはトラットリア・アペティートの裏手。副団長さんが扉を叩くと、ジャスミンさんが顔を出した。


「あら、いらっしゃい。トラちゃんもようこそ。そちらに用意してあるわ」


示された所には個室のように作られた小屋があった。小屋といってもしっかりした、小型のトラットリア・アペティートといった風体だ。


「店員の休憩用に作ったんだけどね。誰も使ってくれないのよ。だから予約用にしちゃった」


お料理を持ってきたジャスミンさんがそう言って笑う。ナイオン用にも美味しそうなシチューを出してくれた。わざわざマイクさんの騎獣屋に行って、食べても良い食材を聞いてくれたらしい。


昼食を終えると、お礼を言って東の草原に向かう。街中を歩いていてもナイオンを見て驚く人はほぼ居ない。以前は2度見をされていたのに。


「ナイオンさんは、最近よく王都内を散歩していますからね。時間がある時には私もお供しています」


カークさんが楽しそうに言う。


「最初は何件か騎士団に通報が来ましたよ。白い虎が歩いていると。白い虎と聞いた受付の人間がシロヤマ嬢の連れていた虎じゃないかと判断して、3回ほど確認に行きました。その上で次の通報からは説明しています」


なんだか申し訳なさそうに見えるナイオンを連れて、東街門を出る。


「走りますか?」


門を出て数十m進んだ所で、大和さんが副団長さんに聞いた。


「トキワ殿には負けませんとは言えませんが、カーク君には負けません」


「私もですか!?」


ナイオンに騎乗用の鞍を着けて、私はナイオンに乗る事になる。大和さん達はクラウチングスタートの体勢を取った。この場合、私がスターターかな?大きくパンっと手を叩くと、全員が走りだした。ナイオンに私が乗ると、ナイオンはすぐ後を追いかけた。みんな速いよね。ナイオンは私を乗せているから、その分のハンデもある。それでも私が走るよりは断然速い。カークさんと副団長さんの後ろまですぐに追い付いた。


「ナイオン、並走出来る?」


私が言うと、グンっとスピードが上がった。あっという間にカークさんの隣に並ぶ。カークさんがギョっとしてこちらをチラっと見た。


大和さんは先に待っていた。私とナイオンが東の草原に着くと、大和さんがミエルピナエ()の仔達に服を引っ張られていた。


「大和さん、何をやってるんですか?」


「さぁ?副団長、大丈夫ですか?カークも」


「ここまで、速く、走ったのは、久しぶり、ですよ」


膝に手をついて、副団長さんが言う。


「咲楽、先に行ってる?」


「はい」


副団長さんとカークさんにお水を渡して、先に女王様の所に行く。ナイオンも付いてきてくれた。


「ヨォ来タノ。待ッテオッタゾ」


「はい。戻りました。女王様」


ミエルピナエ()の巣を取り囲むイバラを抜けると、女王様が出迎えてくれた。


「ターフェイアハ、ドウジャッタ?」


「あちらの女王様にも親切にしていただきました。これを預かってきました」


ターフェイアの女王蜂に託された物を渡す。女王様はカパリとフタを開けて、何かを確かめはじめた


「フム。練リ方モ良サソウジャ」


「それは何ですか?」


「半身の紅ジャナ。アレハコウイッタ物ヲ作ルノガ前カラ苦手デノ。確カメテ渡シテクレトイウ事ジャロウ」


ホレ、と手渡される。反射的に受け取った。


「私のですか?」


使(つこ)ウテヤルガ良イ」


「はい。ありがとうございます」


「失礼します。女王様。少しこの先で弓を使わせていただいてもよろしいですか?」


「弓カ。良イ良イ。楽シソウジャノ。(わらわ)モ見二行コウ」


女王様も一緒に拓けた所に移動する。副団長さんが弓を手に待っていた。カークさんは少し離れた所で的を立ち上げている。でも、球形?球形というか、棒の上にボールが付いたような、そんな形。この形に何の意味があるんだろう?


「出来ればもう少し高い方が良いのですが」


「それですと、上から吊るすしか手はありませんよ。かといってミエルピナエ()達に手伝ってもらう訳にもいきませんでしょう?」


「矢が逸れると危ないですからね」


「紐ヲ付ケテオイテ、ソレヲ仔ラに持タセレバ良イノデハナイカノ?」


女王様までアイデアを出しはじめた。


「そもそも何の練習なんですか?」


「シロヤマ嬢はご存じありませんでしたね。フルールの御使者(みつかい)の演出です。球体の中に花びらを詰めまして、それを弓で割るのですよ。何人かの射手が狙うのですが、その内の2人が私とトキワ殿なんです」


ピニャータみたいだなぁ。あっちは棒で叩き割るんだけど。


「高い場所にある物に弓矢を当てて、それを割るんですか?安全対策が大変そうですね」


「そこまで飛びませんでしょう?上に向かって矢を放ちますし」


「あぁ、なるほど」


大きな紙で紙ふうせんを作りながら、副団長さんと話をする。


「ところで何をしているんですか?」


「紙ふうせんを作っています。球体の中にってことですから、これに紐を付けて持ってもらえば良いんじゃないかと思って。紐を長くしておけば、危険も少ないでしょうし」


「なるほど。1枚の紙から立体が出来るなんて、何の魔法かと思いました」


えっ?そっち?


「折紙といいます」


「咲楽、口をちょっと広げて、この結んだロープを入れて」


「はい」


大和さんに渡されたロープの端を紙ふうせんの中に入れる。反対側のロープの端をミエルピナエ()達が持って舞い上がる。紙ふうせんが5m位の高さで固定された。ミエルピナエ()達はホバリングして待っている。


「高さも良いですね。ありがとうございます」


大和さんと副団長さんが弓を手に紙ふうせんを狙いはじめた。矢を上に射るって難しいよね。ある程度の射出速度が無いと、届かずに放物線を描いて矢が落ちてしまう。


「これは闘技場で練習が必要ですね」


「しかも全員でやらないと、失敗の確率が高いです」


「何名かは地方の騎士団員なんですよね」


「先に王都入りをしてもらえませんか?」


「連絡を取ってみましょう」


その日の練習は終わったらしく、みんなで王都に帰ることになった。


「計画通りにはいきませんね」


「そもそもどなたの案なんですか?」


「最初はいつも通り籠に花びらを入れて、それを揺らして花を蒔くはずだったのですよ。どこでどう転がったのか、いつの間にかああいう形に決定していました」


副団長さんが疲れたように言う。


「弓で当てれば簡単だと言っていた者も居たらしいですよ」


「言うは(やす)し、行うは(かた)しですね」


王都に入って副団長さんとは別れた。今日の夕食を作らなきゃ。今日は何にしよう?


「咲楽、ちょっとカークとユーゴの家に行ってくる。家に居てくれる?」


「分かりました。カークさんとユーゴ君の分もお夕食を用意しておきますね」


「いえ、私達は自分で何とかしますよ?」


「ミンチ肉を使いきりたいんです。ご協力ください」


「諦めろ、カーク」


「……分かりました。よろしくお願いします」


家に着くと、大和さんとカークさんはそのまま裏手に歩いていった。ナイオンと一緒に家に入る。


暖炉に火を入れて、ナイオンの足を拭いてあげた。ナイオンはそのまま暖炉の前に行ってゴロリと寝そべる。夕食の準備を始める。よし。今日は煮込みハンバーグにしよう。味付けをしなければナイオンも食べられるからね。


あ、その前に掃除しなきゃ。


「ナイオン、ちょっと待っててね。お掃除だけしちゃうから」


2階から掃除をしていく。シーツは纏めて洗濯箱に入れて、新しいのに替える。洗濯した物は畳んで仕舞っておけば良い。


洗濯と掃除が終わったら、煮込みハンバーグを作る。ナイオン用の味付け無しのハンバーグも作っておく。フライパンで焼き目を付けている間に煮込み用のソースを作る。薄切りにしたタマネギとキノコを炒めてトマトソースを入れる。ソースが出来たら焼き目を付けたハンバーグを入れて煮込んでいく。


「ナイオン、お待たせ」


小部屋で絨毯に直接座って、ナイオンを撫でたり抱きついたりしていたら、大和さん達が帰ってきた。


「ただいま、咲楽」


「おかえりなさい。すぐに夕食にしますか?」


「うん。良いかな?」


ナイオン用の器に味付け無しのハンバーグと、パンをミルクに浸した物を入れる。冷ましている間に自分達の分を盛り付ける。


「うわっ、美味しそう。いっただきまぁす」


ユーゴ君が真っ先に食べ始める。それを見てカークさんが苦笑いしていた。


ナイオンにご飯をあげてから、私も食べはじめた。夕食時の話題は私達が居なかった間の王都の事、騎士団対抗武技魔闘技会の事、フルールの御使者(みつかい)の事。大和さんは情報収集をしているのか、カークさんとユーゴ君にいろいろ質問していた。


夕食後に2人して食器を洗ってくれているのを、ユーゴ君と小部屋で見ていた。ナイオンは私の膝に顎を乗せてリラックスしている。


「ねぇ天使様、リュラ(竪琴)を弾いてくれないかな?」


リュラ(竪琴)を?」


「うん。『アキノマイ』を聞きたい」


「良いよ。間違ったらごめんね」


ちょっと笑ってリュラ(竪琴)を取り出した。指慣らしをしてから、『秋の舞』を弾く。リュラ(竪琴)を取り出してセットした時に私から離れて、床に寝そべっていたナイオンが『秋の舞』を弾いて少ししたら耳をピクッとした。


私の『秋の舞』はどういう風景が見えているんだろう?ナイオンには何か見えているのかな?


「なんとなく寂しいっていうか、これからコルドに向かうから、しばらくお別れって感じだよね」


「それがユーゴのアウトゥのイメージか?」


「ううん。違う。あ、でも合ってるのかな?分かんなくなってきちゃった」


「イメージが固まるまでは、双剣の使い方を練習だな」


「うん」


「数ヵ月で習得しろとは言わないから、安心しろ。双剣の使い方を習得するだけで、かなりの時間がかかるのは知ってるから」


大和さんの言葉にさらに考え込んだユーゴ君を促して、カークさんが帰っていった。


「風呂に行ってくるよ」


「はい」


大和さんがお風呂に行っている間に、明日のスープを作っておこう。明日はミルクスープかな。あ、パンも焼きたいんだった。天然酵母は食料庫に仕舞ってあるけど、早めに使いたい。


「咲楽、風呂に行っておいで……。何してんの?」


「パン種を仕込んでいます」


一次発酵は食料庫に入れて低温発酵にする。一晩経ったら良い感じなはず。


「お風呂に行ってきますね」


大和さんとナイオンに声をかけて、お風呂に行く。明日の朝にはパンが焼ける。酵母の元種も確保しておいたから、何度だって焼ける。以前にカークさんに貰ったレーズンはオイルコーティングしてなかったから、バザール(市場)でレーズンを探してみようかな。レーズンは天然酵母を作りやすいんだよね。


まずはバターロールかな?ただ丸めただけのパンでも良いよね。


ルンルン気分でお風呂から出て、すり寄ってきたナイオンにおやすみの挨拶をして、寝室に行く。


「ご機嫌だね」


「明日になったらパンが焼けるって思うと、嬉しくなってきちゃったんです」


「明日なんだけど、昼までちょっと出てくる。昼には戻れると思うから、その後、西街の頑固婆さんの所に行こう」


「分かりました。昼から西街のオババ様の所ですね」


「オババ様……」


「そう呼べって言われたんです」


「咲楽はクセが強い人に好かれやすいよね」


ベッドに横になって話をする。


「そうでしょうか?」


「俺も含めて」


「大和さん、クセが強かったんですか?」


「自分ではそうは思わないけどね。諒平にはよく言われたよ」


「そうなんですか?」


横になって話していたら、いつの間にか寝てしまった。








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