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異世界転移って本当にあるんですね   作者: 玲琉
3年目 氷の月
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コンソラットゥ・テーレでいただいたのはトラウト(マス)のパイ包み焼きとミネストローネ。私以外はパスタも頼んでいた。相変わらずどこに入るか分からない。みんなよく食べるなぁ。


「サクラちゃんは相変わらず少食ねぇ」


「私からみたら、皆さんあれだけの量がどこに入るんだろう?って不思議です」


「そうだわ、サクラさん。あの茶色のソース、料理人達がレシピを知りたいのですって」


セレスチャル夫人が一緒に食事をしながら仰った。アイビーさんはセレスチャル夫人に食事マナーを教わっているとかで、仲良く話をしていたりする。


「レシピ登録を迷ってるんですよね。見た目がやっぱり受け入れられないんじゃないかと思って」


「揚げ物によく合うソースですし、大丈夫だと思いますわよ?」


「登録、しておいた方が良いでしょうか?」


「えぇ。家庭では難しいのかしら?」


「難しいと思います。時間もかかるし」


「それなら使用者を店舗向けにしておけばよろしくてよ」


「あ、そっか。お店限定にすれば良いんだ。ありがとうございます」


「お役に立てたかしら?」


「はい」


「じゃあ、サクラちゃん、お昼から一緒に商業ギルドに行きましょう。男性陣はまた何かをするのでしょうし」


ちなみに男性陣はお昼までは放牧場の近くで冒険者達と魔物退治をしたり、馬に乗ったりして()()()いたそうだ。魔物退治が遊びなの?危なくないの?


私達はお昼から民族衣装保存館と繁殖場に行く予定だ。着せ替えをさせられそうな気配をひしひしと感じる。その前に商業ギルドに行くのね。


美味しい食事を済ませて、デザートを食べている間に料理人さんにレシピを渡した。お礼にたくさんのキャラメルを頂いた。一つ一つ紙に包まれている。この紙は丈夫な薄い紙に蜜蝋(セラアルバ)を染み込ませた耐水耐油ペーパーだそうだ。料理人さん達の間ではアルバ紙と呼ばれているらしい。セラアルバ(蜜蝋)紙だね。パラフィン紙みたいな感じかな?一般には売っていないんだって。良いなぁ。


「お分けしましょうか?」


料理長さんに聞かれてしまった。


「そこまでご迷惑をかけるわけにはいきません」


「トリア様にはよくお分けしていますよ。大丈夫です。お持ちください」


「ありがとうございます」


筒状に巻かれた結構な大きさのアルバ紙を頂いてしまった。魔空間に入れておく。


コンソラットゥ・テーレを出て、馬車の中でキャラメルをみんなに分ける。みんな5個位ずつしか受け取ってくれなかった。


「それはサクラちゃんがお礼にって貰った物でしょ?」


「サクラちゃんお姉さん、私達は時々貰っているのよ」


「遠慮なんてしていないからね」


「あ、このキャラメル、美味しい」


アイビーさんだけキャラメルを食べている。


「あ、本当だ。美味しいですね」


私も1つ食べてみた。生キャラメルに近い食感で滑らかで美味しい。


「これ、カイマーク(生クリーム)を使っているみたいですね」


カイマーク(生クリーム)?」


「はい。舌触りが滑らかで柔らかくなるんです」


「そうなのね。作ったことはあるの?」


「無いです。時間がかかるんですよ」


商業ギルドに着いて、みんなでぞろぞろと中に入った。


「いらっしゃいませ。本日はどのような……。えっと、お部屋をご用意致しましょうか?」


「ごめんなさいね。用事があるのはこの()だけなの。私達はこちらで待っているわ」


トリアさん達は待合室で待っていて貰って、私だけレシピ登録の手続きをする。


「ウスターソースですか」


「はい。材料を集めるのに時間がかかりますし、家庭向きではないと思うんですが」


「そうですね。それで店舗向けにですか」


「はい」


「分かりました。店舗向けですとレシピ使用料が最低大銀貨1枚(1000円)となりますが、シロヤマ様はいつも個人向けで登録されていますよね?」


「はい」


「登録料の振込みはいつもの口座でよろしいですか?」


「はい。それでお願いします」


登録を済ませて待合室に戻る。


「終わった?」


「はい。お待たせしました」


「じゃあ、民族衣装保存館に行きましょ。子ども達は機織りをしたいんですって」


「あそこって機織りの体験を出来たんですか?」


「出来たわよ?知らなかったの?」


「はい」


「じゃあ一緒に体験しましょ。私は見ているだけだけど」


「トリアは民族衣装が着たいのですわよね。子ども達は待っていたくないのですわ」


「アイシャさんはどうするんですか?」


(わたくし)?トリアに付いていろいろ止めないといけませんもの」


「いろいろ止める?」


「止めないといつまででも着替え続けるのですもの」


「トリアさんが?」


「だって素敵な衣装ばかりなんですもの」


モジモジしながらトリアさんが言う。やだ可愛い。


「トリアさん、可愛い……」


「アイビーちゃん、一緒にお着替えしましょうね」


ニッコリと笑って、アイビーさんが巻き込まれた。お疲れ様です。


民族衣装保存館に着くと、トリアさんがアイビーさんを引っ張って真っ先に入っていった。アイシャさんが慌てて追いかけていった。


「本当に楽しみなんでしょうね」


「あのね、サクラちゃんお姉さん、ママはいつもあんな感じなの。だから気にしちゃダメなのよ」


アンジェリカちゃんが諦めたように言う。


「だからね、私達は機織りをして待っているのよ」


ブリジットちゃんまで疲れた声で言う。トリアさん、何をやっているの?


入場料を支払って民族衣装保存館に入る。アンジェリカちゃんとブリジットちゃんはまっすぐに機織りコーナーに向かった。


「展示は見なくても良いの?」


「私達は何度も来ているの。だから見飽きちゃったのよ」


「何度も、ですか」


機織りコーナーには係員が待っていてくれた。機織りをしたい旨を伝えると、経糸(たていと)が張られている機織り機に案内してくれた。経糸(たていと)に色が付いている。青い糸だ。


「横糸はどの色になさいますか?」


「では、この緑色にします」


「やり方はご存じですか?」


「はい」


「ではお時間内でありましたら、お好きな所まででお声かけください」


「好きな長さまで織れるってことですか?」


「はい。ごゆっくり」


係員さんが離れていった。アンジェリカちゃんとブリジットちゃんはすでに織り始めている。(シャトル)に巻かれた緑色の糸を経糸(たていと)の隙間に通してトントンカラリと織っていく。この機織り機の綜絖枠(そうこうわく)は2枚。基本的な織り機だと思う。


制限時間は2時間程。大きな砂時計がそれぞれの前に置かれていた。砂が落ちきったら終わりの時間。私は50cm位織れた。夢中で織っていたからね。こういうのは楽しい。アンジェリカちゃんとブリジットちゃんはお喋りしながら、どちらが長く織れるかの勝負をしていたらしい。


「サクラさん、終わりましたか?」


「はい。トリアさんは?」


「満足したみたいです」


「アイビーさん、お疲れさまでした」


「あはは~。ありがとうございます」


「この後、繁殖場ですか?」


「はい。トリアさんとアイシャさんが待ってますよ」


アンジェリカちゃんとブリジットちゃんと一緒に入口近くに行くと、トリアさんがアイシャさんにお説教されていた。


「ママったら、また暴走したのね」


アンジェリカちゃんが子どもらしからぬため息を吐いて言った。


「何かあったんですか?」


「最初は普通に着せ替えをしていたんですけどね。そのうちにあれの上にこれを着て、とかめちゃくちゃやりだして、係員に『お客様、お止めください』って止められてました」


「トリアさん……」


「前にもやったのよ。ここに出入り禁止になるんじゃないかって言ったのに、ママったら忘れちゃったのかしら」


「あの時もお母様に叱られていたわね」


「アイシャさんってにこにこほんわかしているけど、怒ると怖いですね」


アイビーさんがしみじみと言った。


「トリアさん、アイシャさん、お待たせしました」


お説教が止まりそうになかったので、声をかける。


「サクラちゃん、いろんなお洋服をミックスしたい時ってあるわよね?」


「ありますけど、こういう所ではしませんよ。民族衣装というのはその国、その地域の誇りです。それをミックスしちゃうというのは、その誇りを踏みにじる行為です」


「サクラちゃんまでお説教?」


「お説教じゃありません。ただの迷惑行為だと言っているんです」


結局、繁殖場には行かずに、スタージョン湖のトリアさん達の別荘に向かった。


馬車の中ではお説教はしなかったけど、トリアさんはしょんぼりとしていた。考えて反省して欲しい。


スタージョン湖の別荘では男性陣がスケートをしていた。スタージョン湖は氷が15cm位になっていたそうだ。最近寒い日が続いていましたもんね。中心部はそこまで氷が厚くないそうで、みんな別荘の前で滑っている。


「咲楽」


1人だけスピードスケートかって勢いで滑っていた大和さんが、氷の上で手招きした。


「大和さん、暑いんですか?」


薄いシャツ1枚になっているから、聞いてみた。


「暑い。バーナードとトニオさんと勝負していたらね」


「そのお2方は?」


「少し前に別荘に戻っていったよ」


「ヤマト、休憩しないか?」


セント様が呼びに来た。


「そうだな。みんな、別荘に行くぞ」


「「「はーい」」」


トリアさんとトニオさんの子ども達が集まってきた。みんなで別荘に入る。


「ところで、トリアさんはどうしたの?妙に元気がないけど」


「民族衣装保存館でちょっと暴走しちゃって、アイシャさんにお説教されていました」


「お説教って何をやったの?」


「そこは本人の名誉の為に黙っておきます」


「あれでしょ?どうせ試着用の服で遊んだんでしょ?気を使わなくていいよ。いつもだから」


冷静な声で割り込んだのは、トリアさんの息子さんのジェイソン君。いつもなのね。


別荘の中は暖かかった。エペルロン(ワカサギ)が桶で何匹も泳いでいるんですけど、どうしたんですか?これ。


「スケート前のエペルロン(ワカサギ)釣りの成果。これは俺らの分」


「俺らの分って全部でどの位釣ったんですか?」


「50匹はいたと思うよ。もっとかな?各家庭で分けたから」


「凍らせましょうか?」


「それで異空間?いいね。お願いします」


桶に手を添えて、氷魔法を発動する。氷の塊の中に固まっちゃったエペルロン(ワカサギ)が泳いでる。


「芸術的だね」


「こういうの、ありませんでしたっけ?」


「有った気がするね」


この後食事を頂いて、みんなで送ってもらうんだけど、魔道ボートだと夜は危険だからと、先に送ってもらう事になった。ジェロームさんが魔道ボートを操縦してくれた。子ども達はジェロームさんにかじりついていた。寒くないのかな?


私達は船室に集まっていた。


「結局繁殖場には行かなかったのか」


「行けなかったのですわ。時間が無くなりましたの」


「ウチの奥さんが申し訳ない」


フランクさんに謝られた。


「お気になさらないで下さい。私達も楽しかったですし」


スタージョン湖の畔でトニオさんが待っていた。


「あれ?」


義兄(にい)さん、お疲れ様でした。ごめん。寒いから帰ってきた」


「遅かったかぁ」


「トニオ様、これを頂きました。サクラさんが凍らせてくれましたの」


にこにことアイシャさんがエペルロン(ワカサギ)の氷漬けをトニオさんに見せていた。


「シロヤマさん……。いいけどさ。隠す気、無いよね?」


「もう開き直りました」


「前向きになったって事でいいかな。うん」


何かを諦めた感じのトニオさん達に見送られて、大和さんと塔に帰る。暖炉に火を入れて、大和さんが先にお風呂に行った。


このエペルロン(ワカサギ)、どうしようかな。天ぷらにするしか思い付かないんだよね。ワカサギ料理なんてした事がないし。食堂のおば様とかに聞いてみようかな?


明日のスープを作りながら考えていた。エペルロン(ワカサギ)ってご飯に合うよね。


「咲楽、エペルロン(ワカサギ)の氷漬けを見つめて何してんの?」


「どう料理しようかな?って。お風呂に行ってきますね」


「行っておいで」


「はい」


今日は楽しかったな。機織りも楽しかったし、その前の紙布作りや紙布花作りも楽しかった。トリアさんがはっちゃけちゃったのは予想外だったけど、いつもの事らしいし、トリアさんって髪を整えたりお洋服を選んだり、そういうのが好きなんだろうな。普段からアイビーさんの髪の毛を整えたりしているし、たまに私もハーフアップにされたりするし。


お風呂から出てリビングに行くと、暖炉の火の始末をして大和さんが待っていてくれた。


「寝室に行こうか。疲れたでしょ?」


「はい。大和さんは疲れてないんですか?」


階段を登りながら聞いてみた。


「疲れてはいないね。ひたすら楽しませてもらった。訓練の事を考えずに、遊んだのは久しぶりだったから、余計に楽しかったな」


「良かったですね」


「そうだ。桜のブーケ、もう1度見せて?」


「はい」


桜のブーケを魔空間から出して、大和さんに渡す。


「綺麗に出来てるね。これ、結婚式に持つ?」


「ブーケトスをするなら躊躇しますけどね」


「こっちにもブーケトスってあるの?」


「聞いた事はないですけど」


「ブーケプルズとかクッショントスとか聞いた事があるけどね」


「考えておきます」


「その前に寝ないとね」


「そうですね」


大和さんが私を抱き込んで横になった。


「おやすみ、咲楽」


「おやすみなさい、大和さん」




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