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異世界転移って本当にあるんですね   作者: 玲琉
3年目 星の月
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「どうしたんですか?」


「これっ。ここの文章、繋がったんだよ。意味が繋がった」


「おめでとうございます。良かったですね」


3の鐘が鳴って、食堂に移動する。トニオさんはずっと興奮していた。


「まさかね、並び替えで文章が繋がるなんて思わなかったよ」


「ほぉ。文章が繋がりましたか」


大和さんがトニオさんに聞く。


「一単語毎に飛ばしていって、それを読んだら意味が通じてね。回数制限の撤廃も出来そうだよ。トキワ殿はどこをいじればとか、分かってるんだよね?」


「そうですね。場所の特定とどういう文字にすれば良いかは、分かっています」


「トキワ殿が魔道具の方に進まないのが、不思議なんだけど」


「理由としては、今は魔道具に眼を向ける訳にいかないというのが1つ、これ以上中途半端な技能を増やしたくないというのが1つですね」


「眼を向ける訳にいかない?もしかして奉納舞の?」


「そうです。今は自分の望むままに時間を使えないので」


「時間を使えない?」


「今までは自分の事だけで良かったのですよ。今は違います。何よりも咲楽を1番に考えてしまいますから」


「大和さん、好きな事をしてください」


ツンツンと大和さんの服を引っ張って言う。


「それが出来ないんだよ。時間が空いたらこれをしようじゃなくて、時間が空いたら咲楽と居たいって考えちゃうんだよ。もう少し時間が経てば別なんだろうけど」


「あら、惚気(のろけ)?」


「今は彼女と居たいという欲望が大きいですからね」


「サクラちゃん、愛されているわね」


うふふっと、トリアさんにからかわれた。


「魔道具って、やっぱり複雑なんだな」


セント様が呟く。アイビーさんも隣で頷いていた。


「同じような道具って無かったんですか?」


施術室に戻ってから、アイビーさんに聞かれた。


「『対の小箱』はどうでしょう?メールとかかな?不特定多数の人物とやり取りを出来たりって、そんな道具もありましたけど」


「不特定多数?冗談でしょ?」


「本当です。世界中の人とやり取り出来ました」


「世界中?」


「他国ともほぼ時間差無くやり取り出来ました」


「後は?撮影の魔道具は無かったでしょ?」


「有りましたよ?その場を切り取るだけじゃなく、音声付きで動画を撮影してそれを他国に送れたりとか」


「なんだか酷く自分達が遅れている気がするわ」


「でも、結界具は有りませんし、怪我を短時間で治すことも出来ません」


「私達には魔法があるけど、あちらには無かったのよね?」


「代わりに科学という物がありました」


「カガク?」


「はい。凍った物を短時間で溶かしたり、氷魔法が使えなくても物を凍らせたり出来ましたよ」


「スゴいね」


「開発にはお金もかかりますし、先人の知恵に感謝です」


「じゃあ、こちらは過ごしにくくない?」


「それ、私達の事を知った人達から結構聞かれるんですけど、そうでもないんですよね。無ければ無いなりに過ごせていますし、大和さんなんかそういった事は関係なく動いていますし。私は料理や手芸が出来れば文句は無いので」


移動は馬車か徒歩だし、情報は遅いし、魔物は居るし、その辺りはいかんともしがたい事だけど、日常生活に不自由はない。それに元々市外に出る事もそう無かったから、どこかに行きたい等の欲求もあまり無い。大和さんと海を見たいという望みはあるけれど。


お昼から雪が降ってきた。


「雪ね」


「そうだね」


「積もらないと良いんですけど」


ターフェイア領は王都より北に有るから、王都より雪が降りやすい。雪合戦はしてなかったらしいけど、雪で遊具を作って遊ぶ事はしていたようだ。ただし、それは子どもの話。大人達は雪に倦厭しているらしい。分からなくはないけど。


王都の家は三角屋根の家が多かったけど、ターフェイアではあまり見かけない。ほとんどが平屋根だ。何故かというと、屋根の雪下ろしが危険だから。斜めだと足を滑らせて転落する事故が多発するというのが理由らしい。それって耐重量とかどうなんだろう?


ターフェイア領より北の地域では、コルドになるとスキー出勤する人も登場するとトリアさんが言っていた。短くて太いスキー板で出勤するらしい。楽しそう。やってみたいと言うよりは、その人を見てみたい。


トニオさんとトリアさんは子どもが生まれるまで、あちこちを転々としていた。いうまでもなくご実家から逃げる為だ。実際には追っ手などはかけられていなかったし、セレスチャル家内にも情報提供者がいて、お父様が動いて2人が滞在する領に赴任する時には、知らせが来ていた。だから、今までセレスチャル家に知られること無く平穏に暮らしてこられたらしい。


「でも、家内に情報提供者って、実際は知られていたって事ですよね?」


「うーん。情報提供者って弟と執事長とメイド長なのよ。母は知っていたらしいけど、あの4人が結託すれば、父が知ることはないわ」


「そういうものですか」


「元々、父は母に頭が上がらないからね。たぶん上手くやってくれていたんだよ」


良いご家族だと思う。今ではセレスチャル伯爵様以外のご家族と、連絡を取り合っているらしい。


「王都に行ったら、母に子どもの顔も頻繁に見せてあげられるし、トリアの家族が来ても、交流出来るからね」


「伯爵様だけ仲間外れですか?」


「そうなるね」


「楽しみだわ」


「貴族様ってコワい……」


その会話を聞いたアイビーさんが漏らした一言に同意すると共に、バレた時のセレスチャル伯爵様が可哀想になってきた。


トニオさんは自作の小箱を出して、術式を書き込んで、何かを実験し始めた。良いですけどね。人数は足りているし。


「トニオ、後にしなさい。今は業務時間内よ?サクラちゃんに迷惑をかけるなら、私にも考えがあるわよ?」


「ひぇっ!!分かった分かったから。ごめんなさい」


トリアさんの言葉に顔を引きつらせながら、トニオさんが謝罪してくれた。何があったんだろう?


「回数制限の撤廃なんですけど、その『対の小箱』の回数の文字をこう変えてみるのはどうでしょうか?」


トニオさんに『(無限大)』のマークを見せる。


「なぁに、これ?数字の8を横にしたの?」


「使われているのが地球の文字なら、このマークにも力はあるはずです。このマークは無限大といいます。無限、つまり回数制限が無いという事です」


他にも英語では「infinity(インフィニティ)」「unlimited(アンリミテッド)」と呼ばれることは知っているけど、いろんな国の文字が使われているのなら、マークで良いと思う。


「サクラちゃんとトキワ様で、新しい魔道具を開発しそうね」


トリアさんが呆れたように言っていた。


5の鐘になって、大和さんが迎えに来てくれた。


「トキワ殿、ここの文字をこう変えたんだけどどうかな?」


一緒に帰りながら、トニオさんが大和さんと話をしていた。


「あってます。が、(無限大)なんてよくご存じでしたね」


「そこはシロヤマさんに教えてもらったよ」


「咲楽?」


「いろんな国の文字が使われているのなら、マークも有効かな?って思って」


「後は消費魔力の問題かな?」


「消費魔力?あぁ。送る物が大きいと、出力も増えますからね」


「そういう事。手紙を同時に複数人に送るって事も出来れば良いけどね。今の所、それは出来ないから、たくさんの『対の小箱』が要るんだよね」


「アイデアはありますが、今は無理ですね」


「良いのよ、トキワ様。トニオの事は放っておいても」


「ヒドいな、トリアは」


仲良く言い合いをしている2人を見ていると、アイビーさんにツンツンと突つかれた。


「私は携帯出来る冷風装置が欲しいです」


「それは私も欲しいですけどね。携帯出来る送風装置は形状が思い付くんですけど、それをどうすれば良いのかが分からなくて」


「前にサクラさんが言っていた、携帯出来る時計は売り出されましたよね?」


「ポッシュ時計ですね。魔人族の方の作品ですよ」


「私も手に入れましたよ。領内でも時の鐘が聞こえない所もありますから、便利です」


「サクラさんも持っているんですか?」


「はい。これですね」


私の懐中時計(ポッシュ時計)を見せると、アイビーさんが怪訝な顔をした。


「サクラさんのポッシュ時計ってどうして刻みが多いの?」


「こちらの方が馴染みがあるので。本当はもっと増やしたいんですけどね」


「もっと増やす?」


「刻みと刻みの間に4つ刻みが欲しいんです。でも、この大きさだとそれは無理なので」


「無理でしょうね」


「だからこれで良いんです。このままでも十分ですから」


4人と別れて、大和さんと塔に帰る。


今日のお夕飯は朝から仕込んでおいたホワイトシチュー。後は味を調えれば完成にしてある。


塔に着いたら、まずはお風呂。暖炉を入れてくれた大和さんが、先に入りに行った。その間にシチューを仕上げる。


『対の小箱』の術式が解明されたことは良かったと思う。トニオさんも大喜びしていたし、もしかしたらもっと他の物も送れるようになるかもしれない。そういえば、王都にいた時に、転送装置の研究をしていて、ドログリエ(大山猪)を誤作動で送っちゃった魔人族の方が居たなぁ。私は直接見ていないけれど、大和さんが魔人族だって言っていた。エチオピア人って感じの美男美女のカップルだったって。エチオピア人ってどういう感じなのかは知らないけど、ヨナーシュさんとティーナさんも美男美女のカップルだよね。


シチューを仕上げて、暖炉に運ぶ。大和さんがお風呂から出てきた。


「咲楽、風呂に行っておいで」


「はい」


携帯出来る冷風装置かぁ。パッと思い浮かぶのは、ハンディ扇風機(ファン)。確か首掛け式もあったなぁ。団扇のような羽根をいくつか付けて、それを高速で回せば良いんだろうけど、どうすれば高速で回るのかが分からない。専門家に任せた方が良いんだろうけど、考えてしまうんだよね。


団扇やエヴァンタ(扇子)は有ることが分かってるけど、使っている人はあまり見ない。貴族様に会う事はあまり無いし、謁見の時は緊張しすぎて覚えていない。何人か持っていたんだろうな。ヴァイオレット様が持っていたのは覚えているんだけど。どんな物だったかは、はっきりと覚えていない。大和さんがものすごく似合っていたのは覚えているんだけど。


お風呂から出て、ダイニングに行くと、大和さんが食器を出してくれていた。


「おかえり」


「食器を出してくれたんですね。ありがとうございます」


「ついでに盛り付けようか?」


「いえいえ。私がやります。大和さんは座っていてください」


「ヒドいな。そんなに信用無い?」


「そうじゃなくて、私がやりたいんです」


焦って言うと、大和さんが笑っている事に気が付いた。


「座っててください。持っていきますから」


再度言うと、笑いながら席に着いてくれた。


シチューを盛り付けて、夕食を始める。


「『対の小箱』の制限が無くせそうで良かったね」


「はい。大和さんは単語の並び替えって気付いていたんですか?」


「分かったのはラテン語だって事だけ。ラテン語は読めないよ」


「読めないのにラテン語だって分かったんですか?」


「傭兵時代に熱心なカトリック司教様が居てね。その人に教わった。教わったって言っても、綴りといくつかの単語だけだけど。後はラテン語って学名に使われているからね。それで興味があったんだよ」


「今でも覚えていますか?」


「まぁ、覚えているけどね。単語だけだから、あまり役に立たない。あ、でも、tigris(ティグリス)が虎っていうのはこっちにもあるよね?」


「ナイオンがティグル様って呼ばれてましたね」


「そういうのも考えると面白いよね」


「大和さん、好きそうですよね」


「好きだよ。考えてるともっともっと知りたくなる」


大和さんは自分でも考察だとか好きだって言っていたし、やっぱりトニオさんと気が合うと思う。


夕食を終えると、2人で片付けをする。今日は私が洗って、大和さんが拭いて片付けてくれる。いつも大和さんが洗ってくれるから、交代してみた。かなり抵抗されたけど。


片付けが終わって寝室に上がる。


「咲楽、おいで」


「久し振りに呼ばれた気がします」


「この頃は呼ばなくても来てくれていたからね」


「慣れましたからね」


「最初の頃は警戒心むき出しだったもんね」


「仕方がないじゃないですか」


「うん。だから慣れてくれて嬉しい」


ギュっと抱き締められた。


「大和さん、携帯出来る扇風機って有りましたよね?」


「また色気の無い話題を」


「それを私に求めないでください」


「はいはいごめんね。咲楽はそのままで十分可愛いからね」


「大和さんもそのままで十分格好いいです。そうじゃなくてですね」


「ハンディ扇風機(ファン)でしょ?有ったよ。アイビー嬢に欲しいとか言われた?」


「どうして分かったんですか?」


「帰りに何か話していたでしょ?」


「聞こえていたんですか?」


「聞こえてないよ。何か話しているな、っていうのが分かっただけ。ハンディ扇風機(ファン)ね。羽根を高速回転させれば、風は得られるけどね。ミストを付ければもっと涼しくなるよ」


「ですよね。高速回転させるやり方で考えちゃって」


「色々あるよ。どうする?考えてみる?」


「考えてみます」


「今からは止めようね?眠れなくなるから」


「はい。おやすみなさい、大和さん」


「おやすみ、咲楽」


ハンディ扇風機(ファン)の高速回転の方法かぁ……。風魔法かなぁ。





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