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異世界転移って本当にあるんですね   作者: 玲琉
3年目 星の月
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星の月、第3の緑の日。


光の日にトニオさんに、『対の小箱』の紙以外を送る方法が分かったと言ったら、物凄く落ち込まれた。「あっちの世界の文字かぁ。分かるわけ無いよ」って。『対の小箱』に関しては、魔道具師達も謎の言語として、今でも研究されているんだって。どうやら『対の小箱』は魔道具の中でも特殊らしくて、文字は魔術文字じゃないから魔道具師の中でも原理が分からない謎の道具だったらしい。回数制限の撤廃はまだ出来ていないけど、クッキーは問題なく送れて、施術室のみんなで顔を見合わせた。でも、この結果は迂闊に広められない。どうやって発見したことにするか、みんなで根拠を捏造中だ。私達は魔道具師じゃないし、魔法文字の研究をしているわけでもないからね。


今日は曇っている。雪は降っていないけど、今にも降りそうだ。もしかしたら、雨かもしれないけど、お天気は崩れると思う。


着替えてキッチンに降りて、暖炉を入れてから薬湯を煎じる。


「ただいま、咲楽」


「おかえりなさい、大和さん」


「薬湯は煎じた?」


「はい」


「4階に行こうか」


「はい」


「悩んでるねぇ」


「回数制限の撤廃と根拠の捏造ですね」


「捏造……」


「地球の言語だって言えないじゃないですか」


「俺は思い付くけどね」


「考えてみます。大和さんに助言を貰ってばかりだと、進歩しませんから」


「良い心がけだね」


「頼りたいんですよ?」


「分かってるよ」


4階で大和さんが瞑想を始めた。ソファーに座って薬湯を飲みながら大和さんの瞑想を眺める。今日の瞑想の色は躑躅色(つつじいろ)。『冬の舞』だ。


ゆっくりと薬湯を飲んでいると、大和さんが立ち上がった。


「咲楽、聞きたいんだけど、緋龍(ひりゅう)はどうなってる?」


緋龍(ひりゅう)ですか?相変わらず大和さんに巻き付いています。『夏の舞』では眼を開けていますけど、その他の舞いでは閉眼しています」


「開眼してるのは『夏の舞』だけか」


「何か?」


「そこも謎だな、と思ってね」


剣を持って大和さんが舞い始める。『冬の舞』の景色が一瞬で目の前に広がった。一面の雪原。つむじ風に雪が舞い上がる。その中心に立つ大木が、背後からの金の陽光に照らされる。銀に煌めく雪原と蒼穹の対比が美しい。


今日は生物が見えないなぁ、と思っていたら、大きな影が雪面を横切った。鳥?にしては影が大きいけど。


「咲楽、どうしたの?」


大和さんの剣舞はいつのまにか終わっていて、大和さんが私を覗き込んでいた。


「大きな影が……」


「影?」


「今日の動物は、どうやら鳥だったようで。かなり大きい影が雪面を横切っていきました」


「それって本当に鳥だったの?」


「姿は見ていませんけど、空を飛ぶ生き物って鳥しか思い浮かばなくて」


「ここは異世界だよ?ワイバーンとかだったりして」


「ワイバーンですか」


「ドラゴンの一種と言われている、ファンタジー生物だね。飛竜とか翼竜とかもいわれているけど」


「ドラゴンは飛べないんでしょうか?」


「翼を持っているとされているけどね。ドラゴンは炎を吐き、蛇の尾、鳥の翼と魚の鱗を有するハイブリッドな動物らしいよ。とかげ型とヘビ型で書かれることが多いね」


「西洋龍と東洋龍ですね」


「一般的に西洋竜はとかげ型で、悪者扱いされることが多いね。東洋龍はヘビ型で徳の高い世に現れるとか、善性の幻獣とされることが多い。東の海に龍王様がお住まいになっていると言われているらしいから、この世界ではどちらだろうね」


「是非とも、とかげさんでお願いしたいです」


階段を降りながら、話をする。


大和さんがシャワーに行って、私は朝食を作っていた。今日はミルクスープだから野菜入りのオムレツ。パンを暖炉の上に置いてオムレツが焼ければ出来上がり。


「そういえば、今朝のランニングの途中に初めて見る魔物が居たよ」


「初めて見る?どんな魔物ですか?」


「全身真っ白なムササビ」


「ムササビ?」


「こっちではエキュルイエールって言うらしい。翼を持つリスって感じかな」


「見てみたいです」


「滅多に現れない、珍しい魔物だって言っていた。だから幸運を呼ぶって言われているらしいよ。ムササビなら夜行性ってだけだと思うんだけどね」


「ムササビってお腹は白かったですけど、背中は茶色じゃなかったでしたっけ?」


「アルビノ種かもしれないね。目が赤かったし」


「あぁ」


アルビノ種は有名だと思う。動物学において、メラニンの生合成に関わる遺伝情報の欠損により先天的にメラニンが欠乏する遺伝子疾患がある個体の事だ。実は逆の存在ともいえるメラニンが過剰生成されてしまう個体も存在する。メラニズムという。メラニズムとはメラニンが過剰に産生される状態の事だ。私たちの髪の毛、肌、虹彩はメラニン色素で色がついている。一般的な日本人は、髪の毛は黒で、虹彩は黒から茶色、肌はベージュの色をしている。私のような目の色の日本人も居るけれど、大抵は黒や茶色の眼をしている。世界的にみると、人種によって肌や髪、目の色は違う。これは、メラニン色素の量が違うからだ。このメラニン色素が過剰に産生されると、肌も髪の毛も真っ黒になってしまう。アルビノは劣性遺伝、メラニズムは優勢遺伝らしい。


アルビノ種の画像は神秘的だけど、メラニズム種は格好いい。「メラニズム 人」で画像検索すると有名な日本人が出てくる。あの人はメラニズムじゃないと思うんだけど。真偽は別にして、あの人はメラニズムだと言われているらしい。大学にいる時に友人が検索して見せてくれた。


「ムササビは日本の固有種なんだよ。齧歯(ネズミ)目リス科リス亜科ムササビ属だね。ムササビ属でいうなら、世界にも居るんだけどね」


「はい?固有種じゃないんですか?」


「固有種だよ。ムササビの仲間はアフガニスタン辺りからインドを経て東南アジア諸国、中国、朝鮮半島、日本の他、フィンランドからロシアにかけて幅広く分布しているけど。新世界では北アメリカからメキシコ、ホンジュラスなどにも分布していて、数多くの種が知られている」


「ムササビという生物は日本にしか居ないけど、ムササビの仲間は世界中に居るって事ですか?」


「そうなるね」


「よく似た動物というと、モモンガさんとか?」


「生物学的にはムササビはモモンガの1種だよ」


「あれ?じゃあ、さっきムササビって言ったのは、どうしてですか?」


「大きかったから。ムササビは猫くらいのサイズなんだよ。モモンガは手乗りサイズ」


「ムササビってそんなに大きいんですか?」


「大きいんだよ」


「そんなに大きいんですか。知らなかったです」


朝食を終えて、大和さんが食器を洗ってくれる。その間に着替えにクローゼットに上がった。


雪はまだ降ってない。道端には積もった雪が残っているけど、大通りは雪は無くなっていたのに。数日は泥濘(ぬかる)んでいて歩きにくかった。大和さんによると早朝は凍っていて、ザクザクしているのが楽しかったらしいけど。


「まだ降ってないね」


「そうですね」


大和さんがクローゼットに入ってきて言った。


「後数時間って感じかな?」


「どちらが降りそうですか?」


「上空の気温が分からないから断定はできないけど、雪だと思う」


「雪ですか」


「北の方に下側の輪郭がはっきりしない乱層雲があったからね。空中に舞っている雪がヴェールのように見えて、輪郭が(ぼけ)るのが雪雲の特徴なんだよ」


「さすが気象予報士」


「ただの観望天測だよ。気象予報士は関係ない」


「その観望天測が出来ない人間からすれば、どちらもスゴいです」


着替えをして、出勤の為に2人で塔を出る。


「風が冷たいですね」


「仕方がないよね。コルドだし」


「あ、そうだ。大和さん、雪が積もっても雪像は作らないでくださいね」


snow man(雪だるま)は作って良い?」


「そこまでは止めませんけど」


「見習い達と雪が積もったら、みんなで作ろうって言っていたんだよね」


「雪だるまを?」


「うん。後はかまくらかな?大きなのを作ろうって言っていたんだよ」


「何を話しているんですか」


「雑談だよ」


「それは分かってます」


「庭に作ったような大きいのは作らないよ。あれは雪がたくさんあったから、調子に乗っただけだし」


「大和さん、楽しそうですね」


「まぁね。傭兵時代は雪山に放り出されて帰還訓練をさせられたり、同じく雪山で3日間サバイバルとかさせられたから、命の危険の無い雪は楽しい。ある程度を越えると、命が危険になるからね」


「雪は重みがありますし、危険ですよね」


「後はホワイトアウト。あれは方向が掴めなくなる」


「地球でも経験したんですか?」


「帰還訓練やサバイバルの時に何度か経験した。凄いよ。上下左右の感覚が無くなるんだ」


「よく無事でしたね」


雪洞(せつどう)を掘って、そこでやり過ごした。迷子はその場を動かないっていうのは鉄則だからね」


「肝に命じます」


基本的に動けないけどね。だって元の位置に戻れる自信は無いし、正しい方向に進む自信も無い。


「今は地属性が有るから、地形の捕捉は出来るし方向も分かるから、大丈夫だけどね。咲楽には俺が居るし」


「地属性が有ってもそんな高度な技、出来ません」


「俺が付いてるよ。俺をコンパス代わりにすれば良い」


「頼りにしてます」


「任せなさい」


いつの間にか、騎士団本部の近くまで来ていた。


「ん?やけに職員が集まってるね」


「玄関前に何かあるんでしょうか?」


「あれ?アメリアちゃんがいる。咲楽、急いで」


入口に着くと、アメリアちゃんがお立ち台に立ってお出迎えをしていた。


「おはよーございます」


「おはようございます、アメリアちゃん。寒くないの?」


「さむいの。でも、おでむかえはアメリアのおしごとなの」


「そう。偉いね。でも、今日は寒いから、中でお出迎えをしてくれる方が嬉しいかな?」


「そうする」


物凄く素直に中に入ってくれた。お立ち台も職員さんが中に入れてくれた。


私が来るまで外でお出迎えを頑張っていて、文官さん達がハラハラしていたらしい。


「助かりました。自分達が何を言っても『ここでおでむかえをするの!!』って聞かなくて」


「ちょうど良い時に来たからじゃないですか?」


「お出迎えを止めさせられると思ったようです。今日はお出迎えをしなくて良いって言っちゃったんですよ」


「あらら」


「意固地になっちゃったみたいで、自分達の言う事は聞いてくれなくて」


ちょうど、セント様とアイビーさんが出勤してきて、アメリアちゃんの元気なお出迎えを受けていた。一緒に施術室に向かう。


「おはようございます。って、誰も居ませんよね」


「もうすぐトニオさんとトリアさんも出勤してくるでしょうし、お掃除だけしちゃいましょう」


「分かりました」


2人で掃除を始める。換気の為に窓を開けるとアイビーさんから抗議の視線が飛んだ。


「サクラさん、寒いです」


「でも、換気は必要ですよ」


「分かるんですよ。分かるんですけどね」


「おはよう」


「うわっ!!寒いねぇ」


「換気中です。もう少しお待ちください」


「分かってるわ。さっさと終わらせてしまいましょう」


掃除と浄化が終わったら、窓を閉める。アイビーさんがホッとした顔をしていた。


「シロヤマさん、解読しちゃおうか」


「業務時間中ですよ?」


「だってさ、なんだか悔しくてさ」


「根拠の捏造はどうしますか?」


「トキワ様は何か言ってた?」


「頑張ってね。ってニッコリされました」


「厳しいねぇ」


「いくつか思い付いているみたいなんですけど、教えてくれないんです」


「他言語って無いんですか?」


「魔術文字と古代文字と現代文字と……?」


「コザユ文字ってあったはずだよ。魔人族の一部で使われていたはずだけど」


「どんな文字なんですか?」


「上から書いて下から読むって聞いた」


「何ですか?それ」


アイビーさんがキョトンとして聞いた。


「それじゃ使えないですよね」


「だよねぇ」


「文字を並び替えてみたら?」


「やってみようか」


「上手くいくと良いですね」


4人で頭を突き合わせて考える。顔を突き合わせてって言っても、常に患者さんが来ないかは誰かしらが気にしている。専念しているのはトニオさんだけだ。トニオさんは4人の内一番魔道具にも詳しくて、言語も色々知っているらしい。


「いけるかもしれないよ、並び替え」


「記号みたいなのはどうするの?」


「対応表みたいにしてみようか」


「近い文字に置き換えてみるとか、どうですか?」


「良いね。そうしてみるよ」


しばらくトニオさん1人で作業をしていた。私達は患者さんの対応やカルテの整理なんかをしていた。


「サクラちゃん、ハーブの在庫確認は終わったわ。特に不足分は無しね」


「数日前に確認はしましたからね」


「サクラさん、こっちのカルテは終わりました」


「はい。分かりました。こちらに仕舞っておきますね」


「よっしゃあぁぁぁ!!」


突然トニオさんの雄叫びが施術室に響いた。


コザユ文字の元ネタは、オガム文字というものです。


~オガム文字(オガムもじ、アイルランド語: Ogham、オーム文字とも)は、中世初期に原アイルランド語および古アイルランド語の表記に用いられたアルファベット。アイルランド島と、アイリッシュ海周辺のウェールズ、スコットランドなどに残された碑文に見られる。4世紀またはそれ以前に発生したと考えられ、5-6世紀に盛んに用いられた。横線を基準としてその上下に刻んだ、縦または斜めの直線1-5本ほどで構成され、直線的で比較的単純な形をしており、線の数で音の違いを表現するなどの特徴がある。一種のアルファベットであることから、ラテン文字をもとにして作られたという考えが有力で、4世紀頃にアイルランドでキリスト教社会が成立した頃、ここでラテン文字の影響を受けて成立したともいわれる。またルーン文字と関係するとの考えもあるが、今は否定されている。


碑文は土地の所有者などについて記したものが多い。またドルイドによって神聖視され、祭祀に用いられたともいわれる。~ Wikipediaより引用


なかなか芸術的というか、どうやって読むのか、全く理解できません。

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