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異世界転移って本当にあるんですね   作者: 玲琉
3年目 眠りの月
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眠りの月、第5の木の日。今日は星見の祭(ステラフェスト)だ。今週は大和さんが神殿派遣されていたから、騎士団内で大和さんを見る事がなくて、少し寂しかった。お昼にも居ないから、セント様が気を使ってくれて大和さん達の出発時の様子とか話してくれた。ダメだなぁ。アイビーさんにも気を使ってもらった。


トニオさんとトリアさんにも気を使ってもらったらしい。食欲が落ちていないかとか、やたら聞かれたもの。


もちろん大和さんも毎朝毎晩、私を構ってくれた。おかしいな。王都に居る時は1ヶ月毎にこの状態だったはずなのに、たったの1週間で寂しいとか……。


スケート靴について聞いてみたところ、地球のようなブレードは無かった。でもよく似たラウフェンという道具が有って、自分の靴に取り付けて滑る事が出来る。金属製で靴カバーのソールが山型に出っ張ってる感じ?カポっと取り付けて紐で結んで楽しむらしい。


今日は時々白い物が窓の外で舞っている。着替えてから窓の外を見て、思わずため息を吐いた。キッチンへ降りて、暖炉を入れて、薬湯を煎じる。


「咲楽、ただいま」


「おかえりなさい、大和さん。雪ですね」


「うん。星見の祭(ステラフェスト)は雪でも決行だけどね」


「ずらせませんよね。天体ショーですし」


「今日は神殿だよね?」


「はい。街の施術院の方と一緒だと伺いました」


「咲楽、1人?」


「トニオさんも一緒です」


薬湯を持って、4階に上がる。大和さんが瞑想をしている間に、薬湯を飲む。『春の舞』の為にリュラ(竪琴)を出してセットした。


「咲楽、行ける?」


「大丈夫です」


大和さんが構えを取る。それを見てから弾き始めた。


舞散る花びらは変わらない。でも、闇の日の特訓の成果か無視する事は出来ている。闇の日には大和さんが、休憩を挟みながらお昼までに10回位舞ってくれた。「まだ大丈夫。まだ行ける」って言う大和さんに、もういいからって説得するのは大変だった。諒平さんもそんな感じだったらしい。後で大和さんに謝られた。


「大丈夫そうだね。来週からはたまににしようか」


「他の舞もしていくってことですね?」


「そうだね」


2階に降りて、大和さんはシャワーに、私は朝食の用意。


今日は和食の日だ。トラウト(マス)の塩焼きに卵焼き、お味噌汁にホカホカご飯。まずはご飯を炊いて、トラウト(マス)を焼いて、お味噌汁にジャン(味噌)を溶いて、卵焼きを焼く。ずっと洋風の朝食だったから、たまの和食が美味しくて嬉しい。


「今日は和食?」


「はい。食べましょう」


残念ながら和食器は無い。ご飯とお味噌汁はスープボウルに盛り付けてある。


「こうなったら緑茶も欲しいね」


「この国の紅茶の産地ってどこですか?」


「南の方だね。山岳地帯で領地としては貧しい方だと思う。ツァイロン領とプッセラワ領が主な産地だね。どちらも男爵領だよ」


「南ですか」


「同じチャノキの葉だけど、製法が違うしね。こればかりはねぇ」


「野生のチャノキでもあれば良いんですけど。といっても、製法は分かりませんけど」


「蒸して冷まして乾かして揉んでいく。これで出来るはずだけど」


「簡単に言いますね」


「俺は知識として知っているだけだから」


「自慢になりません……。なりますね。実際に作るのは人任せなんですね?」


「作ったことはないしね」


「私なんか、作り方も知らなかったんですけど?」


「いやぁ、この味噌汁、旨いよね」


「分かりやすい話の逸らし方ですね」


朝食を食べ終えると、着替える。いったん騎士団に行ってから神殿に行くから、少し早く出る。


「王都ではけっこう早く行って準備していたけど、ターフェイアでは良いの?」


着替えにクローゼットに入ってきた大和さんに聞かれた。


「はい。準備は民間の施術院の施術師さん達がするって言っていました」


「誰が?」


「トニオさんとトリアさん」


「へぇ」


「去年まではトニオさんとトリアさんも、準備に駆り出されていたらしいです。今年も知り合いが来るらしくて、紹介するって言ってくれました」


「交代とかあるの?」


「私と民間の施術院の施術師さん1名がお昼までメインで、トニオさんともう1人の施術師さんがお昼からメインです。5の鐘位から別の民間の施術院の施術師さん2名が受け持つそうです」


「しっかりとした交代で良かったね」


「はい。そういえば、待ち合わせ場所って?」


「結局見つからなかった。フィガロ殿が神殿側に頼もうか?って言ってくれたけど、それは断ったよ」


「良かったです。特別扱いはして欲しくありません」


「ただね、神殿長のナタリーさんが、咲楽と話をしたいって言っていた」


「神殿長って、あの案内してくれた人ですか?」


「そう。派遣された挨拶に行ったら、雰囲気が全然違うって驚かれちゃったよ」


「あぁ、あの時は大和さんは何かを唱えていましたよね?少し後ろを歩いていて、空気が変わったのが分かりましたもん」


「空気が?」


「清澄になったというか、清冽になったというか」


祝詞(のりと)は唱えていたけどね。唱えただけでそんなになった事はないんだけど」


塔を出て出勤する。


「今日は1日一緒かな?」


「王都の星見の祭(ステラフェスト)の時と同じですね」


「昼までは咲楽ともう1人がメインって言っていたけど、残りの2人は何をしているの?」


「救護室に来られない方の治癒を行ったり、私達の手伝いとか、いろいろです。基本的には何をしていても良いそうです」


「じゃあ、咲楽は昼から何をするの?」


「お手伝いですよ。決まってるじゃないですか」


「咲楽、最近ワーカホリック化してきてない?」


「してませんよ。私は休む時は休みます」


「例えばここで怪我人を見たら?」


「それとこれとは話が別です。もちろん施術します」


「放っておく事はしないだろうと思ったけどね」


「私にはその力があるんです。それなら行使する事に迷いはありません」


「分かってるよ。それが咲楽だ」


「大和さんも道すがらに犯罪行為を見つけたら、放っておかないでしょう?」


「当たり前でしょ。騎士として見過ごせない」


「同じですよ」


「同じねぇ。納得いかないけど」


仕方がないなぁって顔で、大和さんに頭をポンポンされた。


騎士団本部にはいつもより早目に着いた。大和さんは騎士待機室に、私は施術院に向かう。


「おはようございます」


「おはよう、サクラちゃん」


「おはよう、シロヤマさん。早いね」


「トニオさん、今日はよろしくお願いします」


「うん。よろしくね。知り合いの施術師に今日の星見の祭(ステラフェスト)の派遣されるだろう施術師を聞いておいたよ」


「ありがとうございます」


「昼間に派遣されるのは、ビビアナ施術師とエミディオ施術師。ビビアナ施術師は50歳台のベテラン施術師だね。エミディオ施術師はアイビーさんと同い年の成り立ての施術師。ビビアナ施術師は知っているけど、穏やかな人だよ。エミディオ施術師は人柄を知らないんだよね」


「おはようございます。サクラさん。5の鐘過ぎにトリアさんと一緒に神殿に行きますからね」


「おはようございます、アイビーさん。待っていますね」


「エミディオ施術師なら私が知ってるわ。自信満々の未熟な坊やよ。矯正されたって主人が言っていたけど」


「矯正?」


「ホルガー施術師にきっちり矯正されたって」


「あの冷血施術師に?」


トニオさんが物凄く嫌そうな顔をした。


「冷血施術師ですか?」


「患者にはそうでもないんだけどね、礼儀知らずのヤツには容赦なし。ネチネチ説教をかますわ、口は出すけど手は出さないで施術させるわ、それで治せないとイヤミの嵐。関わりたくないね」


「物凄く実感がこもってますけど」


「僕じゃなくて、同僚がやられている場面に出くわしたんだよ」


「でも、礼儀知らずだったんですよね?」


「まぁね。でも言い方もあると思うんだよね」


「あ、そろそろじゃない?」


「では行ってきます」


「はーい。気を付けてね」


私とトニオさんは騎士団の馬車で移動する。騎士様達が待っていてくれた。


「用意はいいか?では出発する」


大和さんの掛け声で騎士団本部を出て、神殿に向かう。


「シロヤマさん、王都の星見の祭(ステラフェスト)って救護室はどうだったの?」


「救護室の隣に迷子預かりを作っていました。木工組合と鍛治師連も遊具を作ってくれていました」


「へぇ。良いね。迷子は必ず出るからね」


「後は絵本とか、オリジナルで作ったりとか」


「オリジナルで?凄いね」


「作れって言われたんですよ」


「お疲れ様だね」


「オリジナルって言ってもあちらのをアレンジしましたけど」


「完全オリジナルは大変だよね」


「はい。さすがに絵は本職さんに任せました」


「絵かぁ。僕は絵心を母上のお腹に忘れてきちゃったんだよね」


アハハと陽気にトニオさんは笑った。


神殿に着いて馬車から降りて、トニオさんに案内してもらって救護室に行く。


「おはようございます。本日はよろしくお願いします」


救護室に居た人に挨拶する。トニオさんったら救護室に入る直前にスススっと私の後ろに下がるんだもの。


「あらあら、まあまあ。可愛らしいお嬢さんね。あら?トニオ、お久しぶりね」


「お久しぶりです。ビビアナ先生」


「おほほ。そちらのお嬢さんを紹介してちょうだい?」


「こちら、ターフェイア領騎士団付き施術師のサクラ・シロヤマさんです」


「駄目よ。さん付けなんて。家名が付いてるってことは、貴族様でしょ?」


「サクラ・シロヤマです。家名が付いていますが、貴族ではありません」


ペコリと礼をする。


「あ、あら。そうなの?こちらも紹介するわね。私がビビアナ、こちらがエミディオ施術師よ」


「エミディオ。よろしく」


「こんな態度だけど、かなり丸くなったわよね」


ね?っとビビアナ先生に微笑まれて、気恥ずかしげにプイッとそっぽを向いた。これで丸くなったのかぁ。でも、ぶっきらぼうな割には気遣いをしてくれる。


お昼までは私とエミディオさんが担当になった。ビビアナ先生はトニオさんと何かを話していた。


「おまえ、いくつだ?」


「年齢ですか?23歳です」


「嘘だろ?年上かよ」


「こんな顔ですし、小さいし、痩せてるしで、いつも15~16歳に見られます」


「そんな感じだけどよ。なぁ、騎士団付きってどんな事をしているんだ?」


「騎士様達と騎士団内の職員の損傷処置と、健康管理ですね」


「全員?文官も?」


「はい」


「何人居るんだよ」


「158名です。あ、今、5名増えて163名ですね」


「全員の健康管理?何人で?」


「今は4名です。私が来年の芽生えの月に王都に戻りますので」


「戻る?」


「ターフェイア領に来たのは療養も兼ねてましたから、良くなりましたので戻ります」


「療養って何があったんだよ」


「えぇっと……」


「あ、悪い。病気ではないんだよな?」


「精神的な病気でした」


「精神的な……って……。いったい……」


「誘拐されました」


「誘拐って……」


「犯人は捕まったんですけどね」


「それなら安心だけどな」


エミディオさんはぶっきらぼうだけど、処置は丁寧だし、的確だ。


騎士様が飛び込んできた。


「40歳台女性、転倒したようです。頭から出血しています」


「シロヤマさん、動かさない方が良いんだよね?」


ガタッと音を立ててトニオさんが立ち上がる。


「はい。頭部の怪我ですから、必ず頭部と頚部のスキャンをしてください。頭部は出血しやすいので止血をしっかりとお願いします」


「分かった。無理だと思ったら連れてくるよ」


「了解しました」


トニオさんが騎士様と走っていった。


「驚いたわねぇ。シロヤマさんが施術室長なんですって?」


「はい。当時は私とアイビーさんしか居なくって、年長だからって決められちゃいました」


「でも、指示もしっかりしていたし、適任だと思うわよ」


「ありがとうございます」


「アイビーって?」


「今年、施術師になった方です」


「オレと同じか」


エミディオさんが呟いた。その時、トニオさんが戻ってきた。担架に乗せられた女性と一緒だ。


「ごめん、シロヤマさん、自信がないから連れてきた。意識はあるんだけど、なんだか受け答えがはっきりしなくて」


脳震盪かな?こちらの言葉には返答がある。ただ、トニオさんが言ったようにハッキリしない。頚部と頭部のスキャンをする。どちらも異状無し。脳出血も見られない。


「全身もチェックしたよ。特に異状はなかった」


両手の握力をチェックする。左右差無し。軽い脳震盪と判断して、休んでいただく。


「なぁ、打ったのは頭だろ?どうして首まで調べたんだよ?」


「頭って重いんですよ。首は7つの骨で構成されています。細い首で支えている頭に衝撃が加わって、痛めていないとも限りません。後で症状が出る場合もありますから」


「この骨格図よね。頭ってどの位の重さなのかしら?」


「体重の1割位って、聞きました」


「あら、誰に?」


「学者様です。物知りでいろんな事を教えてくれました。お名前は知りません。学者先生って呼んでました。お亡くなりになりましたけど」


「そうだったの。エミディオも言っていたけど、どうして首を調べたの?」


「頭の重さは体重の1割位って言いましたよね?その重さが前後に振られるんです」


「あぁ、骨がずれちゃったりを警戒したのね?」


ビビアナ先生が自分で頭を動かして確認しながら言った。





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