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「シロヤマさんが一緒に暮らしてる人よ。王宮騎士団にいらっしゃるの」


少しして大和さんがローズさんに案内されてきた。大和さんは今朝は着ていなかった黒っぽいコートを着ていた。


「嘘?!黒き狼様?!」


アレクサンドラさんが驚いて声をあげた。


「サンドラ、こちらトキワ様。サクラちゃんの婚約者ね」


「黒き狼様の婚約者って、シロヤマちゃんは天使様?!」


「知らなかったの?」


「知らないわよ!!でも良い男ねぇ。鍛えられてるし、ちょっと脱いでみてくれません?」


「サンドラ!!止めてよ!!」


「咲楽ちゃん、このおネエさまは?」


「えっと、ジェイド商会服飾部の責任者でアレクサンドラさんです」


「脱げってそういう意味じゃないよね」


「多分……」


「そこは否定して」


コリンさんはずっと笑ってる。


「ヤマト・トキワと言います。お名前を伺っても?」


「貴方も逃げないのね。アレクサンドラよ。サンドラって呼んでね。惚れ惚れするわね。シロヤマちゃんと並ぶとお似合い。そうだわ。この2人なら……」


「サンドラ!!いい加減に止まって!!」


「今の内に帰った方がいいわよ。サンドラはああなると長いから」


こそっとコリンさんが言ってくれた。お言葉に甘えてお暇する。


「ナイオンを連れてきます」


「どこにいるの?」


「商会の裏手に預かってもらってます」


裏手に回って声をかけると、あのお爺さんが出てきてくれた。


「虎ですか?貴女なら呼べば来ませんかな?」


ナイオンを呼ぶと直ぐに出てきた。お爺さんが若い人に言い聞かせてる。


「虎と言うのはプライドが高い。無理に言うことを聞かせてはいかん」


若い人は真剣に聞いている。


「ありがとうございました。お世話をかけました」


お礼を言って辞するとお爺さんが手を振ってくれた。


「今日は何をしてたの?」


大和さんに聞かれて一日の事を話す。


「プロクスさんのご両親にお会いしました」


「そうか。いい人達だっただろ?」


「知ってたんですか?」


「走ってるときに会ったから挨拶した」


「ズルいです」


ちょっと拗ねてそう言ったら、大和さんに笑われた。


「このまま騎獣屋さんですか?」


「そうだね。このまま行ってみようか。ナイオン、行くぞ」


ナイオンは元気がない。


「さっきまで元気だったのにな。それより、ナイオンに鞍をつけているけど、どうしたの?」


「神殿に行く途中でちょっとあって、団長さんにアドバイスをもらいました」


「なるほど」


「大和さん、そのコート、今朝は着てませんでしたね」


「コルドの支給品らしい。もっと寒くなったらマフラーとかしても良いって」


「マフラーも支給されるんですか?」


「そういう人もいるし、自分のを使う人もいるらしいよ」


「毛糸、買ってくれば良かった」


「編んでくれるの?」


「マフラーは簡単ですから。何色が良いですか?」


「派手でなければ何色でも。でも、狼の模様はやめてね」


「先に言われちゃいました」


「するつもりだったの?!」


「大和さんが嫌がるからしません。言ってみただけです。肉球柄とかも考えましたけど、絶対に大和さんに合わないし」


「ふぅん。咲楽ちゃん、調子が戻ったね」


大和さんがにっこりと笑う。


「えぇっと……ごめんなさい」


家を通りすぎて騎獣屋さんに向かう。


「大和さん、今日気が付いたんですけど、私って方向音痴だったみたいです」


「今日、気が付いたの?」


「神殿からジェイド商会までの道を何度か間違えて、コリンさんに修正されました。あっちでも葵ちゃんに『独りではどこにも行くな』って言われてたことを思い出しました」


「それって方向音痴ってだけじゃない気がするけどね」


「だけじゃないって?」


「変な奴が目を付けるかもって事」


「え?」


「友達の葵って子はそれを分かってたんだろうね」


「……でも、待ち合わせとか普通にしてましたよ。こっちに来たときも葵ちゃんと待ち合わせしてたし」


「考えすぎかもしれないけどね」


騎獣屋さんに着いた。


「こんばんは」


挨拶をするとレベッカさんが出てきてくれた。奥からギャアギャアと鳥の騒ぐ声が聞こえる。


「どうですか?」


大和さんが聞く。


「少しは落ち着いてきたんだけどね。私達が聞いたときには『飛行タイプの騎獣を手に入れたが、制御が効かないからもう少し躾をしないと』って感じだったんだけどね。あちこち傷があるのに手当てもできなくてね」


怪我してるのに手当てができない?


「診せてください!!」


気が付いたらそうお願いしていた。


「危ないよ。相手は魔物だ。しかも飛行タイプで鉤爪もある。お嬢さんが怪我しちゃうよ」


でも放っておきたくない。


「少しだけで良いです。お願いします」


「レベッカさん。咲楽ちゃんはこうなったら聞かないので。危ないと思ったら引き離します。お願いできませんか?」


「見るだけだよ」


レベッカさんはしぶしぶ中に入れてくれた。


ナイオンが先に歩いていく。


「?ナイオンってどこにいるか知ってましたっけ?」


「知らないはずだよ。それに不思議だね。少し落ち着いた気がするよ」


確かにさっきまでギャアギャアと煩く鳴いていたのが、落ち着いた気がする。


檻の中にいたのは真っ赤な鳥。大きい。でも所々羽が抜けて痛々しい。


「痛そう。怪我を治したいの」


そう言ったとたんに嘴でつつかれそうになって目を瞑る。いつまでたっても衝撃は来ない。目を開けると私の前に立つ大和さんとその側で低く唸るナイオンが居た。大和さんはただそこに立っているだけなのに大きく見えた。


「レベッカさん。中に入れてください」


大和さんが言う。


「あ、ああ。どうぞ」


何かに気圧されたようにレベッカさんが檻を開けた。


「咲楽ちゃんは少し待ってて。ナイオン、来い」


大和さんが檻の中に入る。


鳥から視線を逸らさずに大和さんが鳥に話しかける。


「咲楽ちゃんはお前の怪我を治したいと思っている。そのままじゃ治せないから、レベッカさんに傷を見せてくれないか?悪いようにしないから」


ギャアギャアと鳴いてた鳥が大人しくなった。


「レベッカさん。良いですか?」


レベッカさんが檻に入る。そのまま鳥を調べ始めた。


「酷いね。何をどうしたらこんな怪我をさせられるのか分からないよ」


レベッカさんがため息を吐いた。


「咲楽ちゃん、この子って血液の浄化はできるかな?無理しないように」


「やってみます」


浄化が広がるように。苦しみ、痛みがなくなるように。光魔法と闇魔法を使う。


鳥はそのまま寝てしまった。


「今は怪我の治療は出来ないね。しばらく眠らせておくよ」


大和さんとレベッカさんとナイオンが外に出る。


「あんたが天使様だったんだね?」


「黙っていてすみません」


「何を謝るんだい?で、兄さんが黒き狼か。そりゃあナイオンも懐くし、あのバトルホースも認めるわけだ。とにかく助かった。礼を言うよ」


「ナイオンはどうしましょう?」


「檻の前から動かなそうだね。あの鳥も落ち着いたし、今日はこっちに居て貰うよ」


「ナイオン、見ててやってくれるか?」


大和さんがナイオンに言うと、ナイオンは尻尾を振って返事をした。


「明日の朝、また来ます」


大和さんが挨拶をして騎獣屋さんを出る。


「大和さん、あの時何をしたんですか?」


「咲楽ちゃんがつつかれそうになったから、焦って威圧しただけ」


「威圧?」


「そう。俺に従え、って態度で示したの」


「いつもより大きく見えました」


「怖かった?」


「いいえ」


「なら良い。遅くなったね。早く帰ろう。あ、とっさに魔法を使わせたけど大丈夫?」


「はい。魔力量は見えませんが」


「もう暗いしね。怖くない?」


「大和さんが居るから怖くないです。それにお月様が綺麗です」


「うん。そうだね。意味とか……いいか……」


空には満月が並んでいた。


家に帰ってお夕食の支度。


「大和さん、パスタで良いですか?」


「うん。手伝えないのが悔しいね」


食料庫からベーコン、キャベツ、ニンジンを出す。お湯を沸かしてる間にキャベツ、ニンジンはパスタ位の千切りにする。ベーコンも出来るだけ細く切る。


「そうだ、大和さん、明後日のお昼、どうします?」


「温めるだけっていうのも自信がない。市場(バザール)で何か買うよ」


「でも、ゴットハルトさんが来るんですよね。今朝言ってたのってなんだったんですか?」


「今朝は本番同様に舞ったよね。日本でもそうしながら修正していくんだけど、プロクスもゴットハルトも呆けたようになってた。あんなことは無かったんだ。だから、なぜそうなるのか確かめたい」


「結界って関係ないですか?」


「閉じられた空間だったからってこと?」


「はい。日本には結界って無かったじゃないですか。だからって事はないですか?」


「そうかもしれない。ゴットハルトに協力してもらって確かめてみるよ。ありがとう」


あ、ちょうどパスタが出来た。


「大和さん、パスタが出来ました」


「早いね」


「簡単な物ですから」


「簡単な物が簡単に見えないんだけどね」


大和さんがお皿を運んでくれながら言う。


「ナイオンがいなくて淋しい?」


「淋しいけど大和さんがいます」


「分かった。今日は甘やかすね」


「甘やかすって……」


「何をして欲しい?」


「……髪の毛を乾かさせてください」


「乾かしてください、じゃなく?」


「最近してないから……ダメですか?」


「駄目じゃないよ。ちょっと意外で驚いた」


「後、大和さんの話を聞きたいです」


「俺の話?話せることならね」


「話せないこともあるんですか?」


「話したくない事って誰にでもあるでしょ」


食べ終わったお皿を洗ってくれながら大和さんが言う。


「なるべくリクエストには応えるよ。こっちにおいで」


大和さんがソファーで呼んでくるのも、久しぶりな気がする。


「こうやって呼ばれて座るのって久しぶりな気がします」


「そうだっけ?呼ばなくても来てくれるようになったしね」


「最初は緊張したんです」


「そうだったね。あの時はいきなり抱き着いてごめんね」


「私は大和さんの支えになれてますか?」


「いつも言ってると思うんだけど、咲楽ちゃんが居てくれるだけでいい。咲楽ちゃんの笑顔を見たいんだよ。咲楽ちゃんはいつも「大丈夫」って言う。でもね、苦しい時は苦しいって言ってくれていいんだよ」


そう言って私を抱き寄せる大和さん。最初は緊張したけど、恐怖はなかったような気がする。今は大和さんの腕の中が安心できる場所になってる。


「大和さんの腕の中って安心します」


大和さんは何も言わずに、抱き締める腕に力が入った。


どのくらい時間がたったのか、6の鐘が鳴った。


「いつまでもこうしていたいけど、風呂にいかないとね」


大和さんはそう言って腕を解く。


「何か聞きたいことがあったんじゃ無かったの?」


「あったんですけど、今は良いです。後で聞きます」


「後で……分かった。覚悟しとく」


大和さんはそう言って立ち上がる。


「風呂に行ってくるね」


大和さんが行ってしまうと、リビングは静かになった。こんなに静かだったっけ?しばらくナイオンが居たからそう思わなかったけど、ナイオンが居たのってこの1週間くらいなんだよね。


1人でリビングにいると淋しくなっちゃうから自室に行く。あぁ、そうだ。テーブルランナーの刺繍をしなきゃ。


コルドの白い布と買ってきた白っぽい刺繍糸を出す。


どの辺りにどういう刺繍をしよう。その辺も決めなきゃ。刺繍はもう少し後かな。先にテーブルランナーに下書きをしてしまおう。コルドだから雪の結晶と、雪だるまは子どもっぽいかな?


「咲楽ちゃん、お風呂空いたよ」


大和さんの声がした。あ、大和さんが出てきちゃった。


「はい。行ってきます」


着替えを持って自室を出ると大和さんが居た。


「ビックリした!!どうしたんですか?」


「甘やかそうと思って」


そう言って横抱きにされる。


「大和さん、行けます。降ろしてください」


そのまま浴室まで運ばれた。脱衣室で降ろされる。


「早く入っておいで」


大和さんが2階に上がったのを確認してから、座り込む。甘やかそうって……確かに『甘やかすね』って言われたけどっ!!不意打ち過ぎる。


シャワーを浴びながら思い出した。大和さんの髪の毛を乾かさせて欲しいって言ったはずなのにさせてもらってない。もしかして私が刺繍の下書きをしていたから?あれ?


お風呂からあがって髪の毛をざっと乾かす。大和さんに乾かして貰いたいって思ったから。


寝室に行くと大和さんがベッドに横になっていた。


「お帰り。あれ?髪の毛が濡れてる。ここ座って」


そう言って大和さんの足の間に座らされる。


「大和さんの髪の毛を乾かしたかったです」


そう言うと、ちょっと苦笑しながら答えてくれた。


「一旦咲楽ちゃんの部屋の前まで行ったんだけどね。こっちに来る気配がなかったから自分でやった。ごめんね」


「私がテーブルランナーの下絵に夢中になっていたからですね。ごめんなさい」


「それで?聞きたい事って何?」


私の髪の毛を乾かしてくれながら大和さんが聞く。


「今日、昼間に色々考えちゃって。葵ちゃんに会いたくなって。大和さんはそういう事、思わないのかな?って気になったんです」


「たまには思うよ。会いたいって言うより、どうしてるかな?って気になるって感じだけど。言ったよね。自分の事も人の事もどうでも良かったって。学生の頃は人の繋がりとかの意識が自分の中で曖昧で、家族も『一族の中でも生活を一緒にしてる人』で、諒平は『世話を焼きたがる人』だった。海外に出て少し変わったけどね」


「どんな風に変わったんですか?」


「家族は余り変わらないけど、諒平は友人って思えるようになったかな」


「今もですか?」


「そうだね。だけど今は、咲楽ちゃんが一番大切で、一緒にいたい。そっちの方が強いね。俺を頼ってくれて、俺に頼らせてくれる咲楽ちゃんを大切にしたい」


思わず振り返る。


「頼らせてくれる?なんだか私ばっかり頼ってる気がするんですけど」


「今は咲楽ちゃんが俺の中にいるよ。どんな時でも咲楽ちゃんがいなかったら意味がない。俺が今の俺でいられるのは、咲楽ちゃんのお陰だよ」


私の中の大和さんの印象は、最初から「頼りになる格好良い人」だった気がする。


「今の大和さんって頼りになる格好良い人ってことですか?」


「それが咲楽ちゃんの俺の印象?そんな風に見えてる?嬉しいね」


「いつもは優しくて側にいると安心できて、剣舞の時は真剣で凛々しくて格好良くて綺麗です」


「なんだか全ての誉め言葉を言われた気がする」


大和さんが照れてる。それを見てたら私も照れ臭くなってきた。


「咲楽ちゃんまでどうして照れるの?」


「釣られました」


「釣られ……って言った方が照れないでよ」


「でも、さっき言ったのは本当です」


「ありがとう。明日は咲楽ちゃんの職場復帰だね」


「頑張ります」


「無理しないようにね。そろそろ寝る?」


「もう遅いですよね」


2人でベッドに横になる。大和さんがお布団を掛けてくれた。


「咲楽ちゃん、おやすみ」


「おやすみなさい」



ーーー異世界転移28日目終了ーーー

大和は傭兵時代におネエさまからも迫られて、何度か逃げている設定です。

あまりにしつこかったのは、物理的兼精神的にOHANASIして撃退してました。


ゲイやバイを否定はしない(自分に関わらなければ)、その人の自由だ、というスタンスです。

大和はノーマルですが、人に関心が薄く、自分さえも大切にしない人だったので、自分に迫ってくる人が理解できなかったようです。

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