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次の朝も日の出頃に目が覚めた。窓を開けるとやっぱり常磐さんが型らしき事をやっている。昨日はアレを「身体をほぐしてた」って言ってたけど、何かの武道の型なのかな?空気がそこだけ違う気がする。


次に剣を持って、確かプロクスさんだったかな。昨日の騎士さんと向かい合った。昨日みたいに模擬戦のようなことをするのかな?しばらく打ち合って、またプロクスさんと話をして、あ、こっちを見た。


見ていたのは昨日同様気が付かれているんだろうなぁ。と、思っているとやっぱりこっちに来た。


「おはようございます。いつも早いですけど、どのくらい前から起きているんですか?」


「おはよう。だいたい1時間くらい前かな。もう習慣になってて、それくらいの時間になると目が覚めるんだよね」


私の挨拶にそう答えてくれた。え?1時間位身体を動かしてるの?


私が戸惑っているとプロクスさんが笑いながら挨拶をしてくれた。


「ずいぶんと鍛えてらっしゃるようですからね、トキワ殿は。おはようございます。よく休まれましたか?」


「おはようございます、プロクスさん。よく休めました。ありがとうございます」


私が挨拶を返すと、プロクスさんが聞いてきた。


「今からトキワ殿と汗を流してきますのでお待ちください。朝食はどちらで摂られますか?」


「出来れば食堂でお願いできますか。持ってきていただくのは申し訳ないので」


そう言うと『分かった』と頷いて常磐さんと行ってしまった。そういえば昨日も『汗を流してくる』って言っていたけど、朝からシャワーでも使っているのかな。


この神殿には魔道具のシャワーがあって昨日はシャワーを使わせてもらったんだよね。まだ魔力操作がうまくいっていないから、シャワーは出せないし、灯りを点けることも出来ない。だから誰かにお願いしないといけないんだけど、どうしてるのかな?


20分位待ってると二人が戻ってきた。ちょうど1の鐘も鳴ったので食堂に移動……しようとすると、昨日の衣装部のコリンさんが歩いて来るのが見えた。


コリンさんはまっすぐ向かってくると私に話しかけてきた。


「おはようございます。今朝は食堂で食事をされるのですね。ご一緒しても?」


コリンさんに聞かれたのでプロクスさんと常磐さんに了解をとって了承した。


「昨日はごめんなさいね。久し振りにドレスが作れるってなって、みんな張り切っちゃって。お部屋まで押し掛けたのは迷惑でしたよね。本当にごめんなさい。でね、衣装の採寸を今日のお昼御飯の後にやってしまいたいんだけど、ご都合はどうかしら?」


プロクスさんが答えてくれた。


「確か今日も2の鐘から3の鐘辺りまで授業のはずです。昼食の後は予定は無かったと思いますよ」


と、言うことは、午後は衣装部って事で良いのよね。スティーリアさんにも予定を聞いておきたいけど、食堂で会えるかな?会えると良いなぁ。


食堂には昨日より多くて30人位の人がいた。夜番の人も朝食を食べているからお昼より多くなるんだって。朝食のメニューは昨日と同じパンとスープと果物。私はやっぱり量を減らしてもらった。3人は他の人と同じ量を食べてる。コリンさんに「量が少ない」と言われたけど、そんなにたくさん食べられない。


そこにスティーリアさんがやって来た。スティーリアさんは朝食はもう食べ終わったんだって。今日の予定は昨日と同じだと教えてくれたので、昼食後衣装部に行くことを伝えた。


朝食を食べ終えて一旦部屋に移動すると、部屋の前に誰かいる。


こちらを見て駆け寄ってくると礼をして話し始めた。


「初めまして、お客様。私は清掃部のリア、後ろにいるのがこちらからアミル、ルチル、フィンです。お部屋のお掃除にうかがったのですが、よろしいでしょうか?」


清掃部?昨日は勝手に掃除をしちゃったけど、悪いことしたかな。


「お願いします。あの、昨日は勝手に軽くお掃除しちゃったんですけど、すみません」


謝るとリアさんが慌て出した。


「こちらこそ申し訳ありません。昨日は間に合いませんで。今日はシーツ等も換えさせていただきます。何も不都合はございませんでしょうか」


不都合?無いけど。


「触って欲しくないものなどございませんか?」


持ち物なんて、こっちに来たときに持っていたバッグだけだし、特にないかな。あ、一応持って出ていた方が……。


「触って欲しくないものは持って出ていた方がいいのかな?」


常磐さんが聞いてくれた。


リアさんによると持って出てもらっても、指示だけくれても良い。心配なら持って出てください、とのこと。


今日はバッグを持って外に出ていることにした。私はバッグを持って出たんだけど、常磐さんは何も持っていない。聞いたらポケットに財布とスマホを入れてきた、と笑った。


中庭のベンチに座って話をする。


「昨日、財布の中を調べたんだが、こんなものが入っていた」


常盤さんの手には見たことのない硬貨があった。


「これがこちらの硬貨になるんだと思う。紙幣は無かったから、こちらでは流通していないか、一般には使われていないんだと思う。スマホは当然というべきか、圏外だった」


そう言えば私はそんなこと考えなかった。頼ってばかりだ。最初の話も聞いてくれたのは常磐さんだし、何も役に立っていない。こんなに何も出来ないなんて、自分が情けない。


「そんなに落ち込まないでくれ。知らない場所に行ったら荷物を調べるのが、習慣になっているだけだよ。これから助けてもらうことは一杯あると思うから、そこで助けてくれれば良い。俺じゃなくて、周りの人でも良い。自分がやれることを精一杯やれば良いんだ」


「ありがとうございます」


常磐さんはいつも優しい。こんな私にも気を遣ってくれる。自分がやれることを精一杯、か。うん。ちょっと前向きになれたかも。


と、目の前に誰かが立った。顔を上げるとデルソルさんだった。今日は騎士様の格好をしていない。


「デルソル、今日は私服か?」


常磐さんが聞く。


「あぁ、トキワ殿、今日は休日だよ。実家から帰ってこいってうるさくてな。それより、シロヤマ嬢を泣かせていたのか?」


デルソルさんが答えていた。


「違うんです。常磐さんは色々考えて行動しているのに、私は自分の事で精一杯で、情けなくて……」


「いきなり知らない場所に来て、何も出来ないのは当たり前だと思うけどな。帰りたいって周りを困らせてる訳じゃないし、スティーリア様に伺ったところ、授業もしっかり受けていると言ってたし。トキワ殿が落ち着きすぎなんだよ」


デルソルさんはそう言って笑った。


あぁ良いな。こっちに来てから周りはみんな笑ってくれてる。笑顔でいてくれる。それが今、すごく嬉しい。


周りに笑顔が溢れている、なんて、いつぶりだろう。あの時以来無かった気がする。あの時から私の周りはピリピリした空気になることが多かった。


「ほら、デルソルが変な事を言うから……」


「私のせいですか!?」


なんだか慌てたような会話が聞こえる。


俯いていると、不意に頭をポンポンと叩かれた。驚いて顔を上げると困り顔の常磐さんとデルソルさんがいた。この優しい人たちを困らせてしまった。その事に余計に情けなくなる。今出来る事、それは少しでも『自分は大丈夫』と伝えることかも?私は笑顔を作る。


そこにさっきの清掃部のリアさんが来た。


「お待たせいたしました。お部屋のお掃除が終わりました」


その声をきっかけに常磐さんと私は部屋に戻り、デルソルさんは行ってしまった。


やがて2の鐘の鳴る少し前になったので、昨日の教室に移動する。


鐘が鳴ってスティーリアさんが教室に来た。


「あら?案内無しでここまで来られたのですか?お迎えに上がろうと思ってたのですが」


常磐さんが笑って言う。


「方向感覚や空間把握には自信がありますので」


実際にここまで来たのも、常磐さんにさりげなく誘導されての事だ。私も屋内を何度も行き来すれば迷わないと思うけど、流石に1~2回の往復では自信がない。


今日の授業は『この国の硬貨について』『この国の生活について』だった。


この国のお金の単位は『キャラ』。ただ、ほとんどの人が「銅貨○枚」等の言い方をしていると言う。貨幣には小銅貨、大銅貨、小銀貨、大銀貨、小金貨、大金貨とあり、10枚単位で上の硬貨になる。


小銅貨1枚=1円

大銅貨1枚=10円

小銀貨1枚=100円

大銀貨1枚=1000円

小金貨1枚=10000円

大金貨1枚=100000円


と言った具合だ。その上の単位になると紙幣が使われる。


紙幣には、この国の象徴である水晶の大きな結晶が描かれている。紙幣も流通はしているけれど、庶民は必要な場面が少ないので、ほぼ使わないんだって。使うのは大きな商人さん。


庶民が紙幣が必要な位の大きな買い物、例えば土地や家を買うときには硬貨を紙幣に両替してもらうらしい。


この世界にも銀行と同じ機能を持つ商人ギルドがあって、不動産や移動手段の手配などを引き受けてくれるらしい。


ここは魔物がいる世界だから、冒険者ギルドもちゃんとあるみたい。国民には国民証が配られ、みんなブレスレットやネックレスにして持ち歩いているらしい。スティーリアさんが自分の国民証を見せてくれた。スティーリアさんの国民証はネックレスで、これは簡単な手続きで変更ができる。「簡単な」と言ってもそこはやはりお役所仕事。だいたい3日はかかる。


ただ、国民証を持たずにこの国に住んでいる他国民やスラム民も一定以上居る。他国民の移住者は、申請があればこの国への貢献度や住んでいる年数等の審査を経て、国民となれる。永住権みたいな物かな。


私達は国王陛下への謁見の後、国民証が貰えるらしい。ただ国民証を貰うと納税の義務が発生するのはどの世界でも同じだね。


冒険者となった人は他国へ行く機会も多いことから全世界共通の「ギルド会員証」があって、これが身分証明になる。冒険者ギルドは仕事の斡旋、冒険者のランク決め、冒険者が稼いだ報酬の各国の貨幣への両替をしてくれる。ギルド貨幣で買い物ができるのは、ギルド直営店か協力店だけになるらしい。


異世界ファンタジー、と言う感じだね。


今日の授業はこれで終わった。


授業の終わりに常磐さんが質問をした。


「ちょっと聞きたいんだが、この授業と言うのは後どのくらい続くんだ?」


「そうですね、貴族についてと、神殿の役割、魔法についてですから、後5日位でしょうか。どうかなさいましたか?」


「いや、そろそろ本格的に身体を動かしたくてな。なんとかならないかな?と思って」


少し考えてスティーリアさんは言った。


「それでは騎士の訓練に混ぜてもらうように手配しましょうか?今日は衣装部に行かれるとの事ですから、明日からでも。シロヤマ様は何かしたいことはございませんか?」


聞かれたけどしたいことなんて……あ、それなら。


「何か手仕事、刺繍とか小物作り、それから本が読みたいです」


「刺繍や小物作りは衣装部で話してみると良いでしょう。本は、何冊か見繕いましょう」


スティーリアさんは頷くと、そう言ってくれた。


3の鐘が鳴ったので食堂に移動する。


昼食を食べてから衣装部に案内された。


衣装部に入ると昨日のミュゲさんとリリアさんが出迎えてくれた。


壁際には沢山の巻かれた布地と色とりどりの糸、そのそばには騎士さんの衣装やシスターの衣装のお直しらしき事をして居る人たちが居る。


ミュゲさんとリリアさんに案内され、採寸のための部屋に案内される。そこには4人の女の人が待ち構えていた。


常盤さんとは別の部屋に案内されて採寸が始まった。


「細いわね~。色も白いし、これは少しボリュームのあるデザインの方が良いんじゃない?」


「それは昨日話したでしょ。シロヤマ様のご希望はシンプルな物。工夫するならレースや刺繍よ」


「さっきのトキワ様の色を入れるのも良いわね、髪が焦げ茶で、瞳は黒だったかしら」


「それならアクセサリーで茶系統の物を探してみましょ」


「相手の色を纏うのは当然よね」


何が当然なの?


「相手の色を纏うと言うのは恋人以上の関係だと言うことよ」


「えぇっ!!恋人って常磐さんは恋人じゃありませんよ」


話していると常盤さんの方の部屋から、ノックの音が聞こえた。


「いいかしら?シロヤマ様、ちょっと聞きたいことが……」


ミュゲさんが顔を出した。


「トキワ様と恋人じゃ無いって本当?あなたの瞳の色で刺繍をしようとしたんだけどトキワ様に「違う」って言われたんだけど」


「違います。恋人じゃありません。常磐さんに悪いですよ。そんな風に見られたら……」


「あら?違うの?本当に?お似合いなのに」


そんな勘違いをされていたの?こんな私じゃ常盤さんとは釣り合わないのに。


やがて採寸が終わると、私はそのままデザイン画を見せられた。どのデザイン画にも黒と焦げ茶の差し色が入ってるけど基本の色は青と緑。これは魔力属性の色?じゃあ常磐さんの衣装は赤か黄色なのかな。そう思って聞いてみる。


「あら、気になる?これがトキワ様のデザイン画よ。赤は使えないし黄色は騎士服には派手すぎるし、白か黒かで迷ってるのよね。でも黒かしらね。シロヤマ様の髪の色だし。ここにヘーゼルで刺繍を入れたら完璧だと思うのよ。どう?」


どう?って聞かれても……でも常磐さんに黒は似合うと思う。騎士服と区別するために赤か黄色のラインを合わせ目と袖口、裾に入れたらどうだろう。


「それ良いわね。それも案に入れておくわ」


あ、採用されたみたい。


私のドレスは上が淡い緑、裾に行くにしたがって濃い青になっていくグラデーションに決まった。裾には焦げ茶で刺繍が入るんだって。


でもこれ、本当に5日位で出来るのかな?


採寸とデザイン決めから解放された私は刺繍か小物作りをしたいとリリアさんに言ってみた。


「あら、刺繍をするのね、なら腕を見たいからちょっとこの模様をこれに縫いとってみて?」


練習用の布とパターン、使う糸を渡された。


「この部屋を使って良いわよ。じゃ、お願いね」


リリアさんは行ってしまった。後に残されたのは私とミュゲさんの弟子だと言うデイジーさん。

デイジーさんは最初に挨拶をしたあとずっと黙っていた。嫌われてはいないようなので、二人して黙々と作業を進める。

このデイジーさん、刺繍の手が早い。どんどんと花やポイントとなる模様を入れていく。


「あの、それって何に刺繍してるんですか?」


聞くと、ハンカチーフにする布だそうだ。シスターや司教様方が使うのだと教えてくれた。


「刺繍もこんなのばかりで。嫌な訳じゃないんだけど、もっと大きな物に刺繍をしたいんです。だからあなた達のお衣装が作れて、とても嬉しいんです」


デイジーさんは言ってくれた。


私の刺繍が終わると、デイジーさんはそれを持って衣装部に行ってしまった。

直ぐに足音が聞こえてドアが開く。


見ると興奮した様子のミュゲさんがいた。


「これ、あなたが刺したのよね。頼みがあるんだけど良いかしら?」


聞くと肩マントの裏地に刺繍をしてほしいと言う。もちろん了承すると深紅の布を渡された。


「これにあなたの世界の象徴を縫いとってほしいの。こういう風になるからこう一面に……出来る?」


象徴のデザインはお任せって、これ、常盤さんの、だよね?え?相談オッケー?ちょっと相談してみます。って返事はしたんだけど、こういうのって本人に聞くのは恥ずかしいんだよね。


その日の夜、常磐さんに相談すると笑って言ってくれた。


「日本の象徴か。ん~、やっぱり桜じゃないかな。あとは富士山とか。家紋だとウチはこんなのなんだけど」


結局、満開の桜の木と花びらが舞っている図案に決められた。案は出してくれたけど、デザインはお任せって、もう!!

ただ、これが常盤さんの肩マントの裏地になる事は、本人には言ってない。


デザインだけ図案化して、実際の作業は明日から。おやすみなさい。



ーー異世界転移3日目終了ーー


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[一言] 「そう言えば私はそんなこと考えなかった。頼ってばかりだ。最初の話も聞いてくれたのは常磐さんだし、何も役に立っていない。こんなに何も出来ないなんて、自分が情けない。」 もう一人が、しっかりし…
[良い点] ほのぼの展開も良いものですね。 この後は激動の展開も有るのかな? [気になる点] この後の展開が気になります。 [一言] まさかこの後は王道の展開が? ①王さまに魔王を倒してと言い寄られ…
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