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しばらくそうしていたんだけど、突然大和さんが立ち上がった。
「いい雰囲気の時に……」
「誰か来たんですか?」
「プロクスとリリア嬢とゴットハルト?もう一人居るけど……」
「もう一人?」
「あの時のリーダーの男かな?」
そう言って玄関に向かう。
「何故我々が来たのが分かるんですか!?」
男の人の声が聞こえた。ゴットハルトさん?
「そんな感じがしたからだ」
大和さんと4人が入ってくる、その少し前にナイオンが側に来た。
「ナイオン、大丈夫よ」
撫でてやると足元に伏せる。
「シロヤマさん、お夕食のお届けよ」
「ありがとうございます」
「虎!?」
ゴットハルトさんが驚いてる。
「ナイオンって言います。預かってるんです」
「預かるって……」
「騎獣屋から預かった。あっちが大変そうだし、ナイオンも懐いてるしな」
「でも虎だろう?怖くないのか?」
「全然。可愛いです」
「可愛い?」
「ナイオン、そこにいられると、座れないんだが?」
ナイオンがさっきの位置に戻った。
「あれ?もう暖炉を入れてたんですか?」
「ちょっと慣らしをな。必要はないだろうけど。それより座ったらどうだ」
「皆さん、紅茶、飲みます?」
「シロヤマさん、私が……」
「この位させてください。お客様にさせられません」
「させてやって下さい。運ぶのはしますから」
大和さんも言ってくれた。
「大和さんも紅茶でいいですか?」
「うん、紅茶で」
と、言いながら大和さんがキッチンに来る。カップとソーサーを出してくれた。
「ありがとうございます」
紅茶を入れてサーブするとあの時のリーダーの人が立ち上がった。
「黒き狼様、天使様、昨日はすみませんでした」
そう言って頭を下げる。
「頭を上げてください。謝罪はもう受け取っています」
大和さんがそう言って頭をあげさせていた。
「まず名乗ってからだろう」
ゴットハルトさんが言う。
「僕……私はダニエル・アジュールです。えっと、ハルト兄さん、後、何を言ったら……」
「年齢とか」
「年は18歳です……後は?」
「自分で考えろ」
「ダニエルと言ったか?」
大和さんが話しかける。
「そんなに緊張しなくてもいい。こう言ったことに慣れてないんだろ?ちゃんと謝罪は受け取った。今はどうしてるんだ?」
「アイツ等と冒険者になりました」
「良かったな。入門料を借りたんだろ?少しずつでも返せよ。無理しないように」
「はい。ありがとうございます」
「俺が怖かったか?」
「はい。あ、いえ、あの……」
「怖がらせた自覚はあるから。彼女を狙われて怒ってたしな。馬に乗って離れたら咲楽ちゃんに話しかけてたから、俺を怖がってるだろうと思っていたし」
「黒き狼様は……」
「悪い。トキワかヤマトで呼んでくれ。あぁ、こっちも名乗ってなかったな。ヤマト・トキワだ」
「サクラ・シロヤマです」
「どっちで呼んだら良いですか?」
「どっちでもいい。ゴットハルト、えらく純真なやつだな」
「慣れてないんだよ。元々ヘリオドール家は子爵だが貧乏領地だし、アジュール家は男爵だが爵位とか関係なくやってるような土地だから。黒き狼なんて有名な人間と話すだけで緊張するんだろう。トキワ殿は上に立つ者、という感じがするし」
「そうか?家でも……まぁそうかもな。上に立つ者かどうかは別にして」
「どんな家だったんだ?」
「少し長く続いてるだけの家だ。プロクス、ちょっと……」
あ、どこまで話すかの確認かな?
「ご機嫌を損ねてしまったでしょうか」
ダニエルさんが泣きそうになってる。
「そんなこと無いです。気にしない方がいいですよ」
「でも、昨日は天使様を狙って、今日は押し掛けてって迷惑しかかけてません」
「私も天使様って止めて貰っていいですか?」
「お嫌ですか?僕にそう呼ばれるのは」
「えっと、貴方だけじゃないんです。みんなに呼ばないでって言ってて、でもみんな、止めてくれないんです」
「待たせた……どういう状況だ?」
「トキワ殿が話を途中で止めてリシア殿と行ってしまっただろう。ダニエルが気にしたから天……シロヤマ嬢が気にしない様言ってくれたんだが、天使様って言ったら、そう呼ばないで欲しいって言われてダニエルが落ち込んだ」
「ダニエル、あのな、俺等は2人共、そう言った呼び方に慣れてないんだよ。特に咲楽ちゃんはな。俺は家が家だったから多少は免疫があるが、それでも慣れない」
「はい」
「想像してみろ。いきなり意図してない名前で呼ばれるんだぞ。それが望んだものなら受け入れるし、最近では少し慣れてはきたが、名乗った相手には名前で呼んで欲しい」
「分かりました」
「で?家が家だったってどう言うことだ?」
「ゴットハルト、お前もしつこいな。さっき言っただろ。少し長く続いてるだけの家だって」
「そこではなんて呼ばれてたんだ?」
「……若」
「若?トキワ殿は嫡男か?」
「いや、兄貴が居た」
「お家騒動か?」
「ずいぶん嬉しそうだな、ゴットハルト。違う。兄貴は次期様だったな。そう呼んでたのは周りの人間だけだったが」
「少し長くってどの位だ?」
「少し、だな」
「トキワ家って聞いたこと無いんだが」
「かもな」
「答えたくないのか、答えられないのか……」
「これ以上は神殿と王家に相談だな」
「訳ありか」
「訳ありって言っても後ろ暗いところはないぞ。知られても特に危険があるわけじゃない。ただ、話していいものか判断に迷うんだ」
「リシア殿は何故知ってる?」
「その場に居たからな」
気が付いたらナイオンが側に来ていた。ヤマトさんとゴットハルトさんの会話が怖い。私達が『異邦人』だということを話してしまえれば楽なのに。
「咲楽ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫です」
「ナイオンが側にいて、撫でてるってことはストレスになってたんでしょ?会話が怖かった、とか?」
「大丈夫です」
「リリア嬢、申し訳ない。咲楽ちゃんを上に連れていってやって貰えないか?」
リリアさんに連れられて上に行こうとすると、ナイオンが付いてきた。
「ナイオン、お前はここにいろ」
大和さんがそういうとナイオンは私と大和さんを何回か見て、諦めたように部屋の隅で丸くなった。
「大丈夫?顔色、悪いわよ?」
「ごめんなさい。先に洗面所に行ってきます」
洗面所で少し嘔吐した。ストレス?私、こんなに弱かった?
気が付いたら大和さんが側に居た。
「言ってしまえれば楽なんだけどな」
「大和さん……」
「まぁゴットハルトの疑問も分かるしな。大丈夫だよ。咲楽ちゃんは少し休んでおいで」
「私は何も出来ませんか?」
「今はね。咲楽ちゃんは今、かなり弱ってる。ストレスはバカに出来ないでしょ?ゆっくり休んで今は体調を治して」
「私は迷惑しかかけられなくて……」
「そんなことはない。咲楽ちゃんが居てくれる。それだけで俺は救われてる。そんなに自分を追い詰めちゃダメだよ」
「今も何も出来てないです」
「天……シロヤマ嬢、大丈夫か?」
「ゴットハルト、何をしに来た」
低い声で大和さんが言う。
「これってオレのせいだよな」
「だから?」
「リシア殿から今はそっとしておいてくれと、忠告を受けた。悪かった」
「悪いと思うなら向こうに行っていてくれ!!これ以上咲楽ちゃんを追い詰めるな!!」
大和さんのこんなに怒った声を初めて聞いた。
「大和さん、大丈夫です」
「大丈夫には見えない」
大和さんに横抱きに抱き上げられる。
「プロクス、少し任せる」
そのまま寝室に運ばれた。
「咲楽ちゃん、側に居るから」
そのままベッドに寝かされる。
「気分は?」
「吐き気は治まってます」
「少し眠りなさい。何も気にしなくていいから」
大和さんがそう言って頭を撫でてくれる。
「大和さん」
「どうした?」
「ゴットハルトさんをあまり怒らないで下さい」
「咲楽ちゃんを傷付けるヤツは許さない」
「大和さん、お願い」
「咲楽ちゃん、俺が咲楽ちゃんのお願いに弱いって分かってやってる?」
「分かってやってます」
「悪い娘だね」
笑って額にキスされる。
「さ、ちょっと眠った方がいい。側に居るから」
そう言われて目を閉じる。
「大和さん、手を握っていてください」
そうお願いすると手を握ってくれた。
そのまま眠ってしまった私は、その後どんな話がされたのかは知らない。
目が覚めたとき大和さんが側で眠ってた。今、何時くらいだろう?枕灯みたいな明かりをつけた。
ふと、気になって国民証を見る。魔力量は5割を少し越えた位。これってもしかして感情に左右されたりするのかな。
大和さんの寝顔を見てると安心できた。だからずっと見てたら大和さんが目を開けた。
「起きたの?」
そう言って顔を撫でられた。
「大和さん、あれからどうなったんですか?」
「王宮で相談して、ゴットハルトに話すかどうかをこっちが決めることにした。今回みたいなときに、こっちで判断できるように話を持っていくから。このままではゴットハルトも後味が悪いだろうしね」
「そうですか。黙ってるのって苦しいときがあって、それもストレスだったのかなって思いました」
「そっか」
そう言って大和さんが起き上がった。
「咲楽ちゃん、お腹空いてない?」
「あんまり空いてないです。あ、ナイオンは?」
「下で寝てる。上がろうとして大変だった。説得したけど」
大和さんがナイオンを説得してる、その光景を想像したら楽しくなった。
「楽しそうだね」
「大和さんがナイオンに話をしているところを想像したら、楽しくなりました」
「……寝ようか」
そう言って私を抱き締めて目を閉じる大和さん。私も目を閉じた。7の鐘がなった。
ーーー異世界転移25日目終了ーーー




