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36

しばらくそうしていたんだけど、突然大和さんが立ち上がった。


「いい雰囲気の時に……」


「誰か来たんですか?」


「プロクスとリリア嬢とゴットハルト?もう一人居るけど……」


「もう一人?」


「あの時のリーダーの男かな?」


そう言って玄関に向かう。


「何故我々が来たのが分かるんですか!?」


男の人の声が聞こえた。ゴットハルトさん?


「そんな感じがしたからだ」


大和さんと4人が入ってくる、その少し前にナイオンが側に来た。


「ナイオン、大丈夫よ」


撫でてやると足元に伏せる。


「シロヤマさん、お夕食のお届けよ」


「ありがとうございます」


「虎!?」


ゴットハルトさんが驚いてる。


「ナイオンって言います。預かってるんです」


「預かるって……」


「騎獣屋から預かった。あっちが大変そうだし、ナイオンも懐いてるしな」


「でも虎だろう?怖くないのか?」


「全然。可愛いです」


「可愛い?」


「ナイオン、そこにいられると、座れないんだが?」


ナイオンがさっきの位置に戻った。


「あれ?もう暖炉を入れてたんですか?」


「ちょっと慣らしをな。必要はないだろうけど。それより座ったらどうだ」


「皆さん、紅茶、飲みます?」


「シロヤマさん、私が……」


「この位させてください。お客様にさせられません」


「させてやって下さい。運ぶのはしますから」


大和さんも言ってくれた。


「大和さんも紅茶でいいですか?」


「うん、紅茶で」


と、言いながら大和さんがキッチンに来る。カップとソーサーを出してくれた。


「ありがとうございます」


紅茶を入れてサーブするとあの時のリーダーの人が立ち上がった。


「黒き狼様、天使様、昨日はすみませんでした」


そう言って頭を下げる。


「頭を上げてください。謝罪はもう受け取っています」


大和さんがそう言って頭をあげさせていた。


「まず名乗ってからだろう」


ゴットハルトさんが言う。


「僕……私はダニエル・アジュールです。えっと、ハルト兄さん、後、何を言ったら……」


「年齢とか」


「年は18歳です……後は?」


「自分で考えろ」


「ダニエルと言ったか?」


大和さんが話しかける。


「そんなに緊張しなくてもいい。こう言ったことに慣れてないんだろ?ちゃんと謝罪は受け取った。今はどうしてるんだ?」


「アイツ等と冒険者になりました」


「良かったな。入門料を借りたんだろ?少しずつでも返せよ。無理しないように」


「はい。ありがとうございます」


「俺が怖かったか?」


「はい。あ、いえ、あの……」


「怖がらせた自覚はあるから。彼女を狙われて怒ってたしな。馬に乗って離れたら咲楽ちゃんに話しかけてたから、俺を怖がってるだろうと思っていたし」


「黒き狼様は……」


「悪い。トキワかヤマトで呼んでくれ。あぁ、こっちも名乗ってなかったな。ヤマト・トキワだ」


「サクラ・シロヤマです」


「どっちで呼んだら良いですか?」


「どっちでもいい。ゴットハルト、えらく純真なやつだな」


「慣れてないんだよ。元々ヘリオドール家は子爵だが貧乏領地だし、アジュール家は男爵だが爵位とか関係なくやってるような土地だから。黒き狼なんて有名な人間と話すだけで緊張するんだろう。トキワ殿は上に立つ者、という感じがするし」


「そうか?家でも……まぁそうかもな。上に立つ者かどうかは別にして」


「どんな家だったんだ?」


「少し長く続いてるだけの家だ。プロクス、ちょっと……」


あ、どこまで話すかの確認かな?


「ご機嫌を損ねてしまったでしょうか」


ダニエルさんが泣きそうになってる。


「そんなこと無いです。気にしない方がいいですよ」


「でも、昨日は天使様を狙って、今日は押し掛けてって迷惑しかかけてません」


「私も天使様って止めて貰っていいですか?」


「お嫌ですか?僕にそう呼ばれるのは」


「えっと、貴方だけじゃないんです。みんなに呼ばないでって言ってて、でもみんな、止めてくれないんです」


「待たせた……どういう状況だ?」


「トキワ殿が話を途中で止めてリシア殿と行ってしまっただろう。ダニエルが気にしたから天……シロヤマ嬢が気にしない様言ってくれたんだが、天使様って言ったら、そう呼ばないで欲しいって言われてダニエルが落ち込んだ」


「ダニエル、あのな、俺等は2人共、そう言った呼び方に慣れてないんだよ。特に咲楽ちゃんはな。俺は家が家だったから多少は免疫があるが、それでも慣れない」


「はい」


「想像してみろ。いきなり意図してない名前で呼ばれるんだぞ。それが望んだものなら受け入れるし、最近では少し慣れてはきたが、名乗った相手には名前で呼んで欲しい」


「分かりました」


「で?家が家だったってどう言うことだ?」


「ゴットハルト、お前もしつこいな。さっき言っただろ。少し長く続いてるだけの家だって」


「そこではなんて呼ばれてたんだ?」


「……若」


「若?トキワ殿は嫡男か?」


「いや、兄貴が居た」


「お家騒動か?」


「ずいぶん嬉しそうだな、ゴットハルト。違う。兄貴は次期様だったな。そう呼んでたのは周りの人間だけだったが」


「少し長くってどの位だ?」


「少し、だな」


「トキワ家って聞いたこと無いんだが」


「かもな」


「答えたくないのか、答えられないのか……」


「これ以上は神殿と王家に相談だな」


「訳ありか」


「訳ありって言っても後ろ暗いところはないぞ。知られても特に危険があるわけじゃない。ただ、話していいものか判断に迷うんだ」


「リシア殿は何故知ってる?」


「その場に居たからな」


気が付いたらナイオンが側に来ていた。ヤマトさんとゴットハルトさんの会話が怖い。私達が『異邦人』だということを話してしまえれば楽なのに。


「咲楽ちゃん、大丈夫?」


「大丈夫です」


「ナイオンが側にいて、撫でてるってことはストレスになってたんでしょ?会話が怖かった、とか?」


「大丈夫です」


「リリア嬢、申し訳ない。咲楽ちゃんを上に連れていってやって貰えないか?」


リリアさんに連れられて上に行こうとすると、ナイオンが付いてきた。


「ナイオン、お前はここにいろ」


大和さんがそういうとナイオンは私と大和さんを何回か見て、諦めたように部屋の隅で丸くなった。


「大丈夫?顔色、悪いわよ?」


「ごめんなさい。先に洗面所に行ってきます」


洗面所で少し嘔吐した。ストレス?私、こんなに弱かった?


気が付いたら大和さんが側に居た。


「言ってしまえれば楽なんだけどな」


「大和さん……」


「まぁゴットハルトの疑問も分かるしな。大丈夫だよ。咲楽ちゃんは少し休んでおいで」


「私は何も出来ませんか?」


「今はね。咲楽ちゃんは今、かなり弱ってる。ストレスはバカに出来ないでしょ?ゆっくり休んで今は体調を治して」


「私は迷惑しかかけられなくて……」


「そんなことはない。咲楽ちゃんが居てくれる。それだけで俺は救われてる。そんなに自分を追い詰めちゃダメだよ」


「今も何も出来てないです」


「天……シロヤマ嬢、大丈夫か?」


「ゴットハルト、何をしに来た」


低い声で大和さんが言う。


「これってオレのせいだよな」


「だから?」


「リシア殿から今はそっとしておいてくれと、忠告を受けた。悪かった」


「悪いと思うなら向こうに行っていてくれ!!これ以上咲楽ちゃんを追い詰めるな!!」


大和さんのこんなに怒った声を初めて聞いた。


「大和さん、大丈夫です」


「大丈夫には見えない」


大和さんに横抱きに抱き上げられる。


「プロクス、少し任せる」


そのまま寝室に運ばれた。


「咲楽ちゃん、側に居るから」


そのままベッドに寝かされる。


「気分は?」


「吐き気は治まってます」


「少し眠りなさい。何も気にしなくていいから」


大和さんがそう言って頭を撫でてくれる。


「大和さん」


「どうした?」


「ゴットハルトさんをあまり怒らないで下さい」


「咲楽ちゃんを傷付けるヤツは許さない」


「大和さん、お願い」


「咲楽ちゃん、俺が咲楽ちゃんのお願いに弱いって分かってやってる?」


「分かってやってます」


「悪い()だね」


笑って額にキスされる。


「さ、ちょっと眠った方がいい。側に居るから」


そう言われて目を閉じる。


「大和さん、手を握っていてください」


そうお願いすると手を握ってくれた。


そのまま眠ってしまった私は、その後どんな話がされたのかは知らない。


目が覚めたとき大和さんが側で眠ってた。今、何時くらいだろう?枕灯みたいな明かりをつけた。


ふと、気になって国民証を見る。魔力量は5割を少し越えた位。これってもしかして感情に左右されたりするのかな。


大和さんの寝顔を見てると安心できた。だからずっと見てたら大和さんが目を開けた。


「起きたの?」


そう言って顔を撫でられた。


「大和さん、あれからどうなったんですか?」


「王宮で相談して、ゴットハルトに話すかどうかをこっちが決めることにした。今回みたいなときに、こっちで判断できるように話を持っていくから。このままではゴットハルトも後味が悪いだろうしね」


「そうですか。黙ってるのって苦しいときがあって、それもストレスだったのかなって思いました」


「そっか」


そう言って大和さんが起き上がった。


「咲楽ちゃん、お腹空いてない?」


「あんまり空いてないです。あ、ナイオンは?」


「下で寝てる。上がろうとして大変だった。説得したけど」


大和さんがナイオンを説得してる、その光景を想像したら楽しくなった。


「楽しそうだね」


「大和さんがナイオンに話をしているところを想像したら、楽しくなりました」


「……寝ようか」


そう言って私を抱き締めて目を閉じる大和さん。私も目を閉じた。7の鐘がなった。



ーーー異世界転移25日目終了ーーー


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「答えたくないのか、答えられないのか……」 ゴッドハルトのこの発言、急に家に押しかけて来た人の発言にしては、礼を逸しすぎていませんか。とても失礼な人間ですね。何様かと思いました。
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