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異世界転移って本当にあるんですね   作者: 玲琉
2年目 芽生えの月
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騎士団対抗武技魔闘技会 1日目 ①

今日は騎士団対抗武技魔闘技会だ。去年と違って団体戦となる為、予選が初日に行われる。場所は王宮騎士団練兵場と闘技場。総当たり戦ではなくトーナメントだ。すでに近隣の領でのブロック予選のようなものは済んでいるらしい。「らしい」というのはブロック予選は遠方領地のみだからだ。来るのに馬車で1週間とか掛かる領もあるから、領主と王宮でのみ使用できる長距離通信装置で協議済みなんだそうだ。


必然的に近くの領は王都での予選となる。「近くの領」の定義付けは私には分からない。ターフェイア領は近いよね。馬車で2刻だし。


久しぶりの王都の家のベッドで目覚める。大和さんは居なかった。走りに行ったのかな?カークさんと、夕べは盛り上がっていたし。ユーゴ君は学門所があるからって友達と帰っていった。昨日はその友達の家に泊まるって言っていた。


着替えてダイニングに降りる。家の中はシィンと静まり返っている。そのまま庭に出てみた。舞台は荒れている。庭に雑草がチラホラ見られたから、樹魔法でお久しぶりの除草をやっておいた。舞台は地属性で整地する。


「サクラさん、おはようございます」


「おはようございます、アイビーさん」


アイビーさんは宿舎に女性を放り込むわけにいかないからと言って、強引に家に泊まらせた。施術師は騎士団のメンバーには入らないから、宿舎に泊まらせるわけにいかないしね。セント様はかなり残念がっていた。


「早いですね」


「そうですか?いつもこの位ですよ」


「サクラさん、あの建物は何ですか?」


四阿(あずまや)という休憩所です。ここに座ると庭が見渡せるんです」


「へぇ。あれ?昨日の人とトキワ様は?」


「たぶん走りに行っています。もうすぐ帰ってきますよ」


アイビーさんと庭を見てまわる。当たり前のように水属性で水やりをしていたら、アイビーさんにため息を吐かれた。


「多属性って事、隠す気無いですよね?サクラさん」


「アイビーさんが話さなければ良いんです」


「開き直らないでくださいよ」


「昨日の人、カークさんは知ってますよ。私達の事も」


「そうなんですか」


水やりをしながらアイビーさんと話をしていたら、大和さん達が帰ってきた。


「ただいま、咲楽、アイビー嬢」


「ただいま戻りました、サクラ様、アイビー嬢」


「ただいま、天使様、アイビーじょう?」


「ユーゴ、アイビーさんで良いと思うぞ」


「だってさぁ、慣れてないし」


「おかえりなさい、大和さん、カークさん、ユーゴ君」


「アイビー嬢、口は固いかな?」


「言うなって言うなら絶対に言いません」


「大和さん、舞台は直しておきました」


「ありがとう」


ストレッチを終えた大和さんが瞑想を始める。大和さんは『夏の舞』のスランプ以降、春、秋、冬をローテーションして舞ってきた。今日は何を舞うんだろう?


「サクラ様、何かあったのですか?」


「スランプのようです。春、秋、冬は大丈夫みたいなんですが、夏だけ感覚が戻らないと言ってました」


「焦らなくても良いのでは?披露するわけではないのですし」


「そうなんですけどね。当たり前に出来ていた事が出来ないって苦しいですよ」


「その気持ちは分かりますが」


瞑想する大和さんの回りを、赤い靄が取り巻いている。


「春、かな?」


「トキワ様の舞を見るのは久しぶりです」


「2ヶ月ぶりですか」


大和さんが立ち上がって、舞台に上がった。手にした剣は1本。


「サクラさん、何が始まるの?」


「大和さんの剣舞です」


「剣舞?」


「今までに見たことのないような、素晴らしい剣舞が見られますよ」


「見たことのないようなって、剣舞自体あまり知らないんですけど」


舞われたのは『春の舞』。一面の花畑と、遠くに霞んで見える、枝垂桜の大木。優しい暖かい風景だ。


アイビーさんが息を飲んだのが分かった。


「お見事でした」


「色々と納得は出来かねる舞いだがな」


カークさんが大和さんに声をかける。ユーゴ君がアイビーさんを促して家に入った。気が付けば庭に私と大和さんだけが取り残されていた。


「咲楽、おいで」


両手を広げて待つ大和さん。その腕に身を寄せる。


「フラーに『春の舞』を舞えた。それを咲楽に見せられた。次に進めそうな気がするよ」


「次に?」


「次はアウトゥに『秋の舞』かな?」


「私は急ぎませんよ。ゆっくり楽しみにしています」


大和さんの手が頬に触れて、ゆっくりと唇が重ねられた。


「中に入ろうか」


「はい」


大和さんがシャワーに行っている間に、朝食の準備をする。今日はスープ無しの朝食だ。パンはヴァネッサさんのパン屋さんの物を、カークさんが買ってくれてあった。オムレツを仕上げて、朝食プレートを完成させる。


「サクラさん。いつもこんな朝食なの?」


「そうですね。大体こんな感じです」


「サクラ様の朝食も久しぶりです」


「天使様のは美味しいから、苦手な物でも食べられちゃうんだよね」


大和さんがシャワーから戻ってきてコーヒーを淹れたら、みんなで揃って朝食を食べる。


「ターフェイアでの暮らしはどうですか?」


「楽しいですよ。アイビーさんも居てくれるし、特に困る事はないです。例の事以外は」


「ターフェイアの騎士団は領城からまっすぐでしょうに」


「その他にも色々行きたいじゃないですか」


「ねぇ、天使様、簡単な地図を描いてもらったら?」


「余計に分からなくなります」


「そうなんだ」


「そうなんです」


朝食を食べ終わったら学門所に行くユーゴ君を見送る。


「明日の決勝は仲間と見るんだ。闘技場だよね?」


「そうね」


決勝はお昼からだから、お昼までの用事があるらしいユーゴ君達も、見る事が出来る。


元気に駆けていくユーゴ君を見送って、ダイニングに戻る。


「サクラさん、施療院のみんなと合流って言っていたけど、どこで合流するの?」


「今日は王宮ですね。その手前で合流です」


「私、お邪魔じゃない?」


「施術師として参加できるようにしてくれたみたいですから、大丈夫ですよ」


今日は王宮で、明日は闘技場で施術師のお手伝いという名目で、観戦できるようにサファ侯爵様が取り計らってくれたらしい。ターフェイア領騎士団本部の施術室にいきなり要請書が届けられてビックリした。


「咲楽、着替えておいで。アイビー嬢も着替えるなら、どうぞ」


アイビーさんと2階に上がって着替える。施療院のマーク付きの腕章は、アイビーさんの分も作ってあるし、準備はOK。


ダイニングに降りてアイビーさんを待つ。アイビーさんが降りてきたら、王宮に出発する。カークさんは今日も所従として大和さんに付くらしい。


「カークさん、サクラさん達ってこっちでもあんな感じだったの?」


「えぇ。大変仲睦まじく、王都では皆さん暖かく見守っていましたよ」


大和さんと手を繋いで歩き出すと、後ろでそんな会話が聞こえた。


「ターフェイア領でも仲は良いけど、こっちでもそうだったのかぁ」


「アイビー嬢はご予定はないのですか?」


「ご予定って、結婚?まだ予定は無いけど……」


「おや、好い人がいらっしゃると?」


「うー。カークさんはどうなんですか?結婚してるとか?」


「まだ結婚はしていませんよ。相手はいますけどね」


「えっ。私と一緒に居て大丈夫?誤解されたりしない?」


「トキワ様とサクラ様が一緒ですから、おそらく大丈夫でしょう」


「おそらくって……。離れていた方が良い?」


「あぁ、居ますね。彼女ですよ。私のお相手です」


リンゼさんが見えた。ブンブンと手を振っている。


「カーク、浮気?」


「ヤキモチですか?」


「サクラさん、久しぶり」


カークさんのニヤニヤ笑いを丸っと無視して、リンゼさんが挨拶してくれた。


「リンゼさん、おはようございます。お久しぶりです」


「カークと一緒に居るのって、ターフェイア領の施術師さんかな?」


「お分かりですか?アイビーさんといいます」


「はっ、初めまして。アイビーです。あのっ、カークさんと話をしていたのは、浮気とかじゃなくて、その……」


「あぁ、大丈夫、大丈夫。カークがそんな甲斐性があったらもっと早く誰かと結婚していたと思うよ。それにそういうのって何となく分かるしね」


「リンゼさんはこれから依頼ですか?」


「うん。薬草採取の護衛だね」


「気を付けてくださいね」


仲間の方の所に走っていったリンゼさんを見送って、王宮に向かって再び歩き出す。


「サクラちゃん、久しぶり。そちらが、アイビーさんね。よろしく。私はルビー、こっちはフォスさんとマクシミリアン先生よ」


「初めまして。よろしくお願いします」


ルビーさん達と王宮への分かれ道で合流する。深々と頭を下げるアイビーさんにマックス先生が声をかける。


「そんなに緊張しなくて大丈夫だよ。今日はよろしくね」


王宮に向かうのも久しぶりだ。


「カーク、今の内にクエイム(暗示)を掛けてやってくれるか?王宮前に人が集まってる」


「分かりました」


カークさんがクエイム(暗示)を掛けてくれる。でも人が集まってる?


「それね、トキワ君の事もあるよ。トキワ君がターフェイア領の監督として来るって事は知られてたから、シロヤマさんも来るんじゃないかって予測されたみたい」


「私の所為(せい)ですか」


「黒き狼様と天使様は王都では根強い人気だからね」


大和さん達とは王宮の入口で一旦別れる。王宮内に作られた施術室に向かう。去年と同じ場所、らしい。


「王宮の中って初めてです」


「うん。そうだよね。僕も初めてだよ」


「えっ?」


「僕はね、今年から王都の施療院に腰を落ち着けたんだよ。だから、初めてなんだよね」


「マクシミリアン先生って堂々とされていますよね」


「ダテに歳は取っていないよ」


施術室に入って、まずは掃除。この辺りはターフェイア領でもやっているから、アイビーさんも戸惑うことはない。


「今年は2手に別れないんですか?」


「状況を見てって言っていたんだけど、あぁ、魔術師達が来たね。ちょっと行ってくるよ」


マックス先生が魔術師様と話をしている間に、2手に別れる事になった場合の話をする。


「サクラちゃんとアイビーさんは同じよね。フォスさんはマックス様とって言われているわ。私はどうしようかしらね」


「ルビーさんはシロヤマさん達と一緒かなって、マックス先生が言っていましたけど」


フォスさんが遠慮がちに言う。


「あら、そうなの?それならそうしようかしら」


マックス先生が帰ってきた。


「今日は施療院組と魔術師組に別れるんだって。魔術師組は闘技場に向かうって言ってた。もしここが混んできたら、王宮内の施術室を増やすから、その時は……」


「その時は男女で別れる事になりますね」


「話をしていてくれたんだね。すんなりと話が通じて良かったよ」


2の鐘になって、王宮での予選が始まった。今日は平日だから、そこまで人出は多くない。対戦をしている騎士様達の怪我の方が多い。


「シロヤマさんはともかく、アイビーさんは手際が良いね」


「マックス先生、私はともかくって何ですか?」


「シロヤマさんはほら、天使様だから」


「意味が分かりませんし、理由になってません」


アイビーさんは自信さえ付けば1人でもやれるんだよね。今はまだ施術する度にちらっとこっちを見て確認を求めてくるけど。フォスさんが嬉しそうに確認している。頼られるのが嬉しいって感じだ。


数組の予選が終了した。次はターフェイア領の出番だ。大和さんは出場しない。指揮を取るのはセント様。


ドォンと始まりの合図が鳴らされた。相手チームはターフェイアチームに我武者羅に突っ込んでくる。セント様が落ち着いて弓持ちと槍持ちに牽制するように指示を出した。弓矢が相手チームに当たって次々と脱落していく。


と、相手チームの指揮官が前に出てきた。それ良いの?素人の私でも狙われるって分かるんだけど。


案の定、剣を突きつけられた相手チームの指揮官がギブアップした。相手チームを応援していた人達からブーイングが飛ぶ。


「なんの考えもなく突っ込んだね。あれは何というか……」


「王宮騎士団の練習を見たけど、あんなのじゃ無かったわよ?」


「ターフェイアは落ち着いていたね」


アイビーさんが嬉しそうにしている。でもまだ予選第1試合だからね?


相手チームの怪我人さんが入ってきた。「あんなのに勝てるか」とか、「誰か指導者を聞いてこい」とか、言っているのが聞こえる。


「黒き狼を見なかったな。ターフェイアに赴任したと聞いたんだが」


「ターフェイアの指導者って、黒き狼じゃないよな?」


私達も聞かれたけど、情報は教えられません。曖昧に笑って首をかしげておいた。


「団長もさぁ、自ら突っ込んでいくとか、辞めてくださいよ」


「何を言う。ああいうのはさっさと頭を潰すのが一番だ」


うわあ。脳筋発言。


「それをやって、さっさと潰されたのは誰ですか?」


「団長の所為(せい)で負けたんですからね」


言い争いがヒートアップしてきた。


「続きは控え室でやってくれるかな?ここは施術室だからね?」


マックス先生が優しいけど威厳のある声で、騎士様達に言って、騎士様達を諌めた。



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