35
「大和さん、エタンセルを戻して、その後は?」
「リリア嬢が一緒だったら市場でも、って思ってたんだけど、来ないな」
「市場に行って良いんですか?」
「体調も良さそうだしね。行きたいって言ってたし」
そんな会話をしてエタンセルとナイオンの所にいると、リリアさんが走ってきた。
「待たせたかしら。ごめんなさい」
「大丈夫です。大和さんがエタンセルを戻した後、市場に行っても良いって」
「どういう心境の変化かしら?」
エタンセルとナイオンを連れて、神殿を出る。私はやっぱりナイオンに乗せられた。
「別に。咲楽ちゃんの体調も良さそうですし、気分転換に良いかな?と思っただけですよ」
にっこりと笑う大和さん。それを見たリリアさんは何故かひきつってる。
「リリアさん、どうしたんですか?」
「なんでもないわ。そうね。気分転換に良いわね。香りのお店、行ってみる?」
「でも、テーブルランナー、作ってません」
「明日以降も時間はあるわよ」
「そうですね。色も決めましたし……あ、コルドが決まってない」
「それは他のを作ってるときに考えたら?」
「はい」
騎士団の馬の管理場に行くと、ピガールさんが待っていた。
「オソカッタナ。エタンセルヲオマチカネダ」
「遅くなってすみません。ですがお待ちかね?」
「アア、カレダ」
「部隊長、何してるんです?」
そこにいたのはパーシヴァルさん。エタンセルに手を伸ばしては、ブルルっと怒られているような……。
「あぁトキワ殿、遅かったですね。そろそろ戻るだろうと、朝から待っていたのですよ」
「朝からって。まぁ、少し事情があってかなり遅れましたが」
「事情?」
「用があって神殿に行ったら捕まったんですよ」
「模擬戦ですか。今日は何人ですか?」
「6人です」
「勝ちましたか?」
パーシヴァルさんが嬉しそうに聞いている。
「一応は。最後は少し怪しかったですが」
え?そうなの?
「それで、その虎は?」
「ソノトラ、シロヤマジョウヲ、マモッテイルナ」
「守っている?まぁ、確かに離れなかったりしていましたが」
「カノジョハ、スコシ、ヨワッタリシテイタカ?」
「昨日、少し気分を悪くしました」
「ソノトラハ、イヤソウトシテイル」
「癒そうって、ナイオン、そうなの?」
「オソラクハ、ココチイイノダロウ」
「じゃあ舞の後にじゃれつかれるのは?」
「ソノ『マイ』トハ、シンセイナモノカ?」
「そうですね。普段舞っているのは、まだ修練の状態ですが」
「ソノジョウタイデモ、ウレシイヨウダナ」
「嬉しい、ですか」
「ジブンヨリウエト、ミトメテイル」
ナイオンはずっと私の側にいてくれてる。癒そうとしてくれてるんだって思って嬉しかった。
「エタンセル、今日からまたここでいてくれ」
エタンセルは大和さんに顔を擦り付けていた。その後、ナイオンに顔を近付けていた。
「何か会話をしてるみたいだな」
大和さんがそう言って笑う。
「トキワ様、そろそろ市場に行かないと」
「市場?今からですか?一緒に行って良いですか?」
パーシヴァルさんが言う。
「見るのは女性物ですが、一緒に行きます?」
「是非!!」
満面の笑みを浮かべるパーシヴァルさん。4人で市場に向かって歩く。私はナイオンの上だけど。
「奥さまにプレゼントでも?」
と大和さん。
「まぁ、休みにも馬を見に来てますから、ちょっとご機嫌取りと言うか、お詫びと言うか。彼女も私が馬が好きと言うことは知っているのですが、やっぱりねぇ」
「そうねぇ。ちょっとねぇ。でも何をプレゼントするつもりなんですか?」
「無難に花か、ハンカチか、小物か、って思ってるんですけどね」
「ハンカチに刺繍しましょうか?」
「咲楽ちゃん……」
「それは嬉しいのですが、無理させてませんか?貴女の状態はトキワ殿から聞いてますが、調子を崩されていたと……」
「だいぶ戻ってきたんです。良ければやらせてください」
「トキワ殿、良いんでしょうか?」
「咲楽ちゃん、絶対に無理しないって約束できる?」
「はいっ!!」
「嬉しそうな顔ね。止められないわよ、トキワ様」
「奥さまの好きな物はなんですか?」
「好きな物ですか?そうですね。可愛い物は好きなようですが、花とかでしょうか?」
「曖昧ですね。知らないって言ってるのと同じでしょう」
リリアさんが辛辣な意見を言う。
「リリアさん、市場に花屋さんってありますか?」
「あるわよ。あぁ本人に花を選ばせようって事?」
「はい。部隊長さんが選んだって方が良いかなって」
「花のパターン集とか持ってくるんだったわね」
市場に着いた。ナイオンは市場入口の待機場にいてもらう。
「ナイオン、ちょっと待っててね」
ナイオンは私に体を擦り付けると、少し奥に行ってそこで座っていた。
「よろしくお願いします」
待機場の係員さんに挨拶をして市場に入る。
「まずは小物を売ってるところに行きましょうか」
リリアさんは迷うことなく進んでいく。少し奥まったところにそのお店はあった。
「ここは神殿の衣装部で良く来るのよ。良い物が置いてあるから」
「あら、いらっしゃい、って貴女、なんて方を連れてくるの!!」
来ちゃいけなかったの?
「天使様と黒き狼様よね。どうしよう」
「お願い。いつも通り接客してあげて。2人共大袈裟なのは望んでいないのよ」
「いつも通り?頑張るわ」
「頑張るって。練り香水はどんなのがある?」
「そうねぇ。天使様にならちょっと甘めのこんなのとか、どうかしら?」
最初に出されたのはローズ系?でも思ったより強くて甘い香りだ。
「あまり強くない香りが良いんですけど」
「ブレンドしてあげてよ」
「天使様、どんな香りが好きですか?」
「柑橘系とか、でしょうか」
「柑橘系ならオレンジと、やっぱり甘めなのは入れたいわね。ん~。ネロウかしら」
手早く軟膏状の物を混ぜ合わせていく店主さん。甘くてフレッシュな香りが広がる。
「出来たわ。こんな感じでいかが?天使様」
「すごい。良い香りです」
「黒き狼様は何かブレンドしましょうか?」
「申し訳ない。嗅覚の邪魔になるので付けたくないのですよ」
「嗅覚の邪魔?」
「説明するのは難しいのですが」
「残念ですけど仕方ありませんね。そちらの方は?」
「ハンカチはありますか?」
「えぇ。女物ですけど。プレゼントですか?」
「こちらの方ね、奥さまにプレゼントしたいのですって。で、ハンカチを買って、そこに刺繍でも、って話になってね。刺繍はこの天使様がするからハンカチとそれを入れる箱が欲しいのよ」
「プレゼントのハンカチね。奥さまは何色がお好き?」
「淡い感じのピンクとかオレンジとかそんな感じです」
「暖かい色ですね。じゃあ、こんな感じのはいかが?」
見せられたのはパステルカラーのイエローのハンカチ。
「これでお願いします」
パーシヴァルさんも希望の物が買えて満足そうにしてた。
「じゃあ、次は花屋さんですか?」
「あの、小さい花を花束みたいにしたらどうでしょう。ハンカチの色が薄いイエローでしたし」
「細かくなるわよ?大丈夫?」
「その辺は大丈夫です。あ、でも、本とか見たいです」
「じゃあ花屋さんでちょっと花を見て、本屋?」
「少し離れます。部隊長、少しだけ頼んでも?」
「大和さん、どこに行くんですか?」
「ちょっと用事。すぐ戻るよ」
大和さんが行っちゃった。
「心細そうね。あら?」
男の人が2人近寄ってきた。
「天使様。騎士の兄さんに言われてきました。あれ?でもこっちの人も、ですよね?」
「ジャンさん、もう大丈夫なんですか?」
「すっかりとはいきませんが、不自由はないですよ」
「完全に治してあげられなくてごめんなさい」
「何を言うんです?あの怪我で死ななかったんですよ。冒険者を続けられるんです。感謝してるんですよ。腕一本、捨てる覚悟もしてたんです。ちょっと、天使様、泣かないで下さい」
「シロヤマさん、ずっと気になってたの?トキワ様にも言われたでしょ。助けられたことを誇れって」
「咲楽ちゃん」
「大和さんっ!!」
大和さんが見えたら安心して余計に涙が溢れてきた。大和さんに抱き寄せられる。
「ジャンが元気にしてるって見せたら元気になるって思ったけど、逆だったかな?」
「ジャンさんが元気にしてるのは嬉しいんです。でもやっぱり気になっちゃうんです」
「困ったな。このまま花屋とか本屋とか行ける?」
「無理そうじゃない?」
リリアさんが言う。
「花屋でどれにするか見て、本は明日届けるわ。部隊長さん、行くわよ」
「ベン、付いていってやってくれるか?ジャン、どこか休める場所はないか?」
「あ、はい。こっちに飲み物の屋台とか集まってます」
大和さんに抱えられて移動する。
「咲楽ちゃん、何か飲む?」
黙って首を振る。
「オレ、買ってきます」
「これで頼む」
大和さんが渡したお金を持って、ジャンさんは走っていった。
「明日は付いていてやれないけど、大丈夫?」
椅子に座らされて聞かれる。
「大丈夫です」
「そう見えないから言ってるんだけどね」
ジャンさんが戻ってきた。誰か一緒だ。
「デリックも一緒だったか」
「シロヤマ様、どうしたんです?」
「ちょっとな」
「こっちが天使様のジュースです。で、こっちが騎士の兄さんのお茶です」
「ジャンとデリックのは?」
「いや、自分達のは……」
「これで買ってこい」
大和さんがお金を渡す。
「いや、でも……」
「頼むから買ってきて座ってくれ」
「はい。ありがとうございます。行ってきます」
買った飲み物を持って、ジャンさんとデリックさんが戻ってきた。
「咲楽ちゃん、せっかく買ってきてくれたんだ。頂こう」
「頂きます」
少し落ち着いてきた。今日はなんだか情緒不安定だ。
ジュースは甘くてオレンジっぽい味がした。
「美味しい……」
「良かったぁ。天使様はやっぱり笑ってた方がいいです。騎士の兄さんが……」
「ジャン、ちょっと待て、シロヤマ様が天使様なのはそう言われてるから分かる。トキワ様はなぜ『騎士の兄さん』なんだ?」
デリックさんがジャンさんに聞いた。
「最初会ったときには『黒き狼』って呼ばれてなくて、騎士様って呼んだんだけど、『様を付けないでくれ』って言われて。ベンと色々呼び名を出しあって、3人が納得したのが『騎士の兄さん』だったんだ」
「あの時は、最終的に部隊長までいらない呼び名を出してきてたな。思い出したくもないが」
他にどんなのが出たんだろう?でも絶対に教えてくれない気がする。
ゆっくり少しずつジュースを飲んでいたらリリアさん達が来るのが見えた。
「ここにいたのね。シロヤマさん、この人の希望の花って刺繍にしにくいわよ」
「刺繍にしにくい?どんな花ですか?」
「よりにもよって『ガラスの花』よ。あれは透明な花びらが七色に輝いてるから人気なんだけど、刺繍ってなると難しいわ」
「ガラスの花って名前なんですか?」
「それは通称ね。正式名は何だったかしら?やたらと長かったのは覚えてるのよ。花屋でも『ガラスの花』って売ってて、正式名なんか誰も呼ばないわね」
「可哀想です」
「え?」
「正式名、覚えてあげたいです」
「一応、図録は貰ってきたわよ」
リリアさんから図録をもらう。ガラスの花、ガラスの花……あ、有った。正式名も小さく載ってる。『フルールアルカンスィエルエフェメール』
確かに長い。え?どういう意味なの?
「儚い夢の虹の花、かな?」
大和さんが呟く。
「そういう意味なんですか?」
「たぶんね」
「綺麗な名前ですね。さっき花束って言ったけど、これなら1輪の刺繍の方が良さそうです」
「でも、難しいわよ」
「頑張ります」
「無理だけはしないで下さいね。貴女が無理するとトキワ殿が怖い」
「部隊長、何を言うんです?」
「大和さんが怖い?」
見上げると笑顔の大和さん。
「怖くないですよ?安心します」
「まぁ、天使様だから」
「安心するってシロヤマ様限定でしょうね」
「本当にこの2人限定の激甘空間になってるわね」
「天使様はどこまで行っても天使様ですね」
4人が口々に言ってるけど、大和さんは優しいのに、どこが怖いの?
「一休み出来ましたし、そろそろ行きましょうか」
大和さんが声をかけて立ち上がった。
「咲楽ちゃん、他に寄りたいところは?」
「明日の大和さんのお昼の材料が見たいです」
「買っても良いんだけど?」
「作りたいです」
みんなで顔を見合わせている。
「良いんじゃない?気分転換になるでしょうし」
「買うものだけ決めてパッと買うって感じなら」
「いつもはどんな感じのお昼なの?」
「サンド系ですね。いつも取られてるのを見ていると」
「咲楽ちゃん、何が欲しいの?」
「野菜とお肉です。ローストビーフ風の薄切りのお肉を、たくさん挟んでも美味しいですよね」
「争奪戦が目に浮かびますね」
「そこだけ。野菜と肉、その2ヶ所だけ。良いね?」
「はい」
仕方ないかな。怠さはもう無いけど、体調が完全に戻った訳じゃないし。
移動するとジャンさん、ベンさん、デリックさんまで着いてきた。
「大移動だな」
大和さんが笑う。全員で7人もいるからね。
キャベツとレタス、塊肉を買った。こっちの野菜って名前が日本と一緒のものが多いから助かる。お肉の種類は相変わらず分かんないけど。もう牛肉っぽいの、豚肉っぽいの、鶏肉っぽいので良いや。
鶏肉っぽいのを見ながら思う。シチューが作りたい。ホワイトソースから作るの、好きなんだけど、言えない雰囲気なんだよね。
「大和さん、もう少し見てちゃダメですか?」
「咲楽ちゃん、そこだけって言ったでしょ。今日は我慢して」
「はい」
分かってはいる。みんなが気遣ってくれてること。無理はしていないつもりなんだけど、無理してるように見えるのかな。
市場から出てナイオンに乗せて貰って、家に帰る。パーシヴァルさんのハンカチは預かった。
「大和さん、ナイオンは家のなかに入れちゃダメですか?」
「夜とか寒いからって事?」
「はい」
「どうだろうな。ナイオンは頭が良いから家の中でも大丈夫だろうけど」
「暖炉の部屋にいて貰っても寒いでしょうか?」
「大丈夫じゃないかな?」
「あ、でも、ナイオンのご飯って……」
「ちゃんと預かったよ。なんかキャットフードみたいなの」
「そうなんですか?ちゃんとしたご飯をあげてるイメージだったんですが。昨日のってちゃんとしたご飯でしたよね」
「非常用とか、俺が料理できないって見抜かれたか……」
「えぇ?そんな訳無い……ですよね?」
そんな会話をしながら家に入る。ナイオンも家の中に入れた。
ナイオンはしばらくうろうろしてから暖炉の部屋の隅で丸くなった。
「ナイオン、寒くない?」
尻尾でパタパタと返事される。そこに来客があった。大和さんが対応してくれた。
お客様は入ってこず、大和さんと何か話して庭に回った。誰だろう?
大和さんが入ってきた。その手には薪?
「暖炉の薪が届いた。早速つけてみる?」
「私、暖炉って初めてです」
ちょっとワクワクする。大和さんが手早く薪を組んで火を付けてくれた。
チロチロと炎が上がってきた。
「綺麗」
そう言うと大和さんがソファーで私を呼んだ。
「咲楽ちゃん、そんな所で居ないで、座ったら?」
「大和さん、今日はすみませんでした」
ソファーまで行かずにその場で謝る。
「何を謝るの?」
「私、今日は泣いたり怒ったり、大和さんを困らせたから」
大和さんは立ってきて私の顔を覗き込んだ。
「それが普通だと思うけどね。調子の悪い時は、感情の制御なんて気にしない方がいいよ」
そのまま手を引かれて、ソファーに座らされた。
「泣いたり怒ったりってね、しない方がいい時って確かにあるんだけど、全てを抑える必要はないんだよ。特に調子の悪いときって、所謂負の感情は抑えない方が良いって俺は思ってる。泣いて怒ってってずっと続くと確かにどっちも疲れるんだけど、不安や不満を我慢して良いことはないし、溜め込んだ方が身体にも悪い。後で爆発した方が被害も大きいしね。自分の中で処理しきれない感情が表に現れたのが『泣いたり怒ったり』だよ。『自分が我慢すればいい』って思う人もいるんだけど、それをされると気付けないことも多いからね」
「大和さんもそんなことあるんですか?」
「感情が制御出来ない事?あるよ。無い人間なんていないし、感情を完璧に制御できる人は人間じゃないって思う。そっちの方が怖い」
「怖い?」
「想像してみて。普段穏やかに笑ってる人が、その笑顔のまま怒ってる。凄く怖いと思わない?」
「確かに怖いです」
「でしょ?」
「でも大和さんはいつも笑ってくれてます」
「好きな人と一緒にいられて、その人の笑顔が見たいって時に、笑顔にならなくてどうするの?咲楽ちゃんといると幸せだし、咲楽ちゃんの笑顔を見るとホッとする」
思い出したのは衣装部に居たときのリリアさんの言葉。
『あの状態のトキワ様、怖いのよ。逆らっちゃダメって本能で分かるって言うか』
あの時大和さんは笑顔で、私は凄く安心できて、何故リリアさんや他の人が大和さんを怖いって言うのかが分からなかった。
「あの時……」
「ん?」
「怒ってたんですか?」
「いつの話?」
「今日、衣装部で、私が喚いてて、大和さんが落ち着かせてくれた時の後です。リリアさんが『あの状態の大和さんが怖い』って言ってたから」
「怒ってたって言うか不機嫌ではあったかな?主にドアの外で聞き耳を立てていた人たちに対してね。邪魔をするなって思ってたし」
「全然分かりませんでした」
「咲楽ちゃんにそれを悟らせるほど若くないよ」
「若くないって、あれ?大和さんって……」
「忘れてる?一応30越えてるよ、俺。咲楽ちゃんより10歳上だよ」
「そうでした……でも、私の周りに居た30代の人より絶対に若いです」
「それは嬉しいね」
「大和さんって茶髪ですよね。染めてた訳じゃなかったんですか?」
「もとは真っ黒だったけど海外生活で色が抜けた。たまにあるんだって」
「黒髪の大和さんも見てみたかったです」
「染めようか?」
「この世界って染めたりってあるんでしょうか?」
「さぁ?どうだろうね。そう言えばこの世界って髪の色って普通だよね。ラノベだったりだとピンク髪の子が出てきたりするんでしょ?青だとか緑だとかカラフルなのが。俺はそっち系は読んだことないけど」
「恋愛系ファンタジーだとありますね。乙女ゲームが題材のだと大抵ヒロインとして出てきます」
「乙女ゲームって何?」
「えぇっと、ヒロインの女の子が、攻略対象と呼ばれる男の子との恋愛を楽しむと言うか、そんな感じでしょうか」
「何それ?」
「私もよく分からないです。日本に居たときは男の人って怖いだけだったし、友達はやったことがあるみたいだったけど。逆ハーレムルートが~とか言ってました」
「逆ハーレム?それって絶対に上手くいかない気がする。ハーレムも纏めてる女性が大変そうだったし」
「ハーレムって行ったことあるんですか?」
「中東だったかな?スルタンに挨拶したとき見た。って言うか、自慢された。いちいちこの女は○○の出身で、とか言われてもどう反応すりゃ良かったんだか」
「美人さんばっかりじゃなかったんですか?」
「美人ばかりだったんだろうけど、その時はちょっと……」
「何ですか?」
「学生の頃からかな?周りの人間ってどうでもよかったんだよね。剣舞や鍛練ばかりやってて心配もされたんだけど、その心配も煩わしくてね。舞ってるときだけが自分になれる気がしてた。海外に行ったらますますそれが酷くなって、ゲリラを殺しても何も感じなかったり、死にたくないって感情が希薄になったりして、カウンセリングを受けたこともある。そんな時期だったから、なんか、どうでもよかったと言うか、自慢したいんだろうな、って思っただけだったな」
「今は?大丈夫ですか?」
「咲楽ちゃんがいてくれるからね」
「私?」
「そう。咲楽ちゃんがいるからここに居る」
そう言って大和さんは私を抱き寄せた。
「あの西の森で狼に食い付かれたとき、はじめて怖いって思った。咲楽ちゃんに会えなくなるかもって思ったら、怖かった。あんな感情は初めてだった。あそこから脱出できて、咲楽ちゃんの顔を見て、安心できている自分も初めてだった。咲楽ちゃんがくれた感情だよ」
そう言った大和さんは凄く哀しげで私はどう言葉をかけて良いか分からなかった。




