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異世界転移って本当にあるんですね   作者: 玲琉
2年目 氷の月
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祝 1周年!!

皆様の暖かさで、1年間、書き続けてこれました。感謝いたします。


これからも大和と咲楽をお見守りくださいませ。

着地点は決まっているのに、そこまでが長い……。

リビングダイニングのソファーに座っていると、大和さんがお風呂から出てきた。


「行っておいで、咲楽」


「はい」


浴室は石造りの浴槽に、シャワーが付いていた。洗い場は無い。最初の頃に大和さんに、浴槽で体を洗うんだって教えてもらった。脱衣室には洗濯箱。スツールと楕円形の鏡と洗面台があった。


お湯の温度はちょうど良い。西洋と東洋では浴槽の使い方に違いがあるって聞いたことがある。東洋では、というか、日本では、入浴はリラックスの手段として長時間浸かる。西洋では浴槽は湯を受けるための場所らしい。私はゆっくりと湯に浸かりたいから、いつも身体と髪を洗ったらお湯を溜めて、ゆっくりしている。大和さんはそこを分かってくれているけど、ローズさん達には驚かれた。


お風呂から出ると、大和さんの服が変わっていた。


「さっき、トゥリアンダ様からの使いの人が来てね。5の鐘に領主館に来て下さいってさ」


「5の鐘ですか。時計を持ってきておいて良かったですね」


「欲を言えば24時間計が欲しいけどね」


「私もそう思います。長さは細かい所まであるのに、時間だけ1刻3時間って不便です」


「こっちの人達は、それで平気なんだろうね」


「懐中時計とか、腕時計とか欲しいです」


「懐中時計って、渋いね」


「祖母の家にあったんですよ。祖父の物だったらしくて。文字盤の上のガラスが壊れていましたけど、祖母がその懐中時計は自分が死んだら咲楽にあげるって言っていたんですけど、祖母が亡くなって、その後、誰もその懐中時計を見た人が居ないんです」


「不思議だね」


「そうなんですよね。誰かに捨てられちゃったのかなぁ?」


「その懐中時計ってどんなの?」


「直径は7~8cm位でしょうか。全体色はシルバーでした。上に竜頭が付いていて、機械式っていうんですか?竜頭を回すタイプでした。ガラスの覆いの上にシルバーの蓋が付いていました」


「完全に男性用だね」


「そうですよね。でもその懐中時計がお気に入りだったんです」


「こっちで出来ないかな?」


「大和さん、内部構造は分かりますか?」


「ある程度だね。俺の知識じゃ作れないと思うよ」


「そうですか。私は内部なんて分からないし、難しいでしょうか?」


「どうだろうね。誰かが作ってるかもしれないよ?魔道具だってあるんだし」


「魔道具だと魔石の大きさがネックだって、カークさんとダフネさんが言っていました」


「3人で何をやってるの?」


「熱の月に地属性の習熟で金属で形を変えるって、ダフネさんを先生に私とカークさんでやってて、その時にちょっと調子に乗って作っちゃいました」


「それで動かすにはって話になったの?」


「はい。魔石に術式が刻めないんじゃないかって、カークさんが言っていました。魔石が小さすぎるんじゃないかって」


「腕時計は小さいだろうね。懐中時計ならどうだろう?」


5の鐘近くになったので、大和さんと領主館の住居部分のホールに行く。


「まぁまぁ、いらっしゃいませ。お待ちしておりましたわぁ。こちらへどうぞぉ」


にこやかに声を掛けてきたのは、ふくよかなおば様。えっちらおっちらと階段を登るおば様の後に続くと、大きな食堂に出た。


「奥様、いらっしゃいましたよ。背の高い男性の方と可愛らしい黒髪の女性の方」


「いやぁね、ソフィー。ちゃんとお名前はお教えしたでしょう?シロヤマ様、トキワ様、失礼いたしました。彼女は古くから勤めてくれているメイド頭のソフィーですの。おおらかというか、悪気はございませんのよ」


「暖かい歓迎、いたみいります」


「あっはっは。メイド頭なんて、長く勤めてるってだけですよ。(あたし)はこれで失礼しますね」


ソフィーさんは大きな身体を揺らしながら、行ってしまった。


「失礼をいたしました。どうぞこちらへ」


「ありがとうございます」


その部屋はシャンデリアのような灯りが灯された部屋だった。


「キャンドルですか?」


「えぇ。珍しいでしょう?このキャンドルはこの近くのミエルピナエ()の女王蜂から頂きましたの。ミエルピナエ()の森なんて言われている森がすぐ側にありますのよ」


「真っ赤な被毛の?」


「ご存じでしたの?」


「直接はお会いしていないのですが、王都の東の草原にいらっしゃるミエルピナエ()の女王様が、訪ねてみよと仰っていました」


「そうですの。明日、ご案内いたしましょうか?」


「ありがとうございます。お願いします」


トォリアンダ様とセオドア君もテーブルに着いて、夕食が始まった。


羊肉のシチューはお肉がホロホロで臭みもなくてとても美味しかったし、一緒に出されたラムチョップ?骨付きのステーキもジューシーでスパイスの香りはするんだけど、味付けは濃くなくて、食の細い私でもしっかり食べられた。


「いかがですか?ターフェイアの家庭的な料理なんですが、お口に合いましたか?」


夕食後、ホワイエ(団欒の間)に案内されて、サーシャ様とお話をさせていただいた。セオドア君はトゥリアンダ様と大和さんの方に行っている。


「美味しかったです。最初のシチューは、お肉が柔らかくて、是非作り方を教えていただきたいです」


「シロヤマ様はお料理がお得意と伺いましたけれど」


「好きでしているだけです。美味しい物を食べると、レシピが気になっちゃって、仕方がないんです」


「料理長に伝えましょう。羊肉は少し癖がありますでしょう?」


「気にならなかったです。羊肉のステーキも味が濃すぎずに食べられました」


「明日、ミエルピナエ()の森にご案内いたしますけれど、城下にも出てみますか?」


「良いんですか?是非お願いします」


「主人から聞いておりましたけれど、本当に可愛らしいお嬢さんですこと。楽しくなってきましたわ」


「私もです、サーシャ様」


お話が弾んで、領主館をお暇した時には6の鐘が鳴っていた。


「ずいぶん話が弾んでいたね」


「はい。明日、ミエルピナエ()の森に連れていっていただいた後、城下にも連れていっていただけるんです」


「良かったね。でも、城下か」


「どうかしたんですか?」


「民族衣装のモデルは回避しようね」


「それがありましたね。頑張ります」


大和さんはリビングのソファーに座って話をしている。私はキッチンに立っていた。ついでに今日飲んでいない薬湯を煎じた。1日分ずつ小分けにされたのを渡されたんだよね。朝でも夜でも良いから飲みなさいってクルスさんには指示された。


「そういえばここのセキュリティについても聞いたよ。領城の中だから、結界の魔道具は無いけれど、階段室の扉と塔の入口の扉の(かんぬき)で二重の構えになっているって」


「あぁ、大和さんが帰ってきた時にガチャンって鍵を掛けていた大きな南京錠みたいなのですか?」


「南京錠……。まぁ、そうだね。どちらも外からは開けられない仕組みになっている。だから安心してくださいって言われたよ」


「外出する時はどうするんでしょう?」


「この鍵を掛けたら立入禁止状態になるそうだよ」


「立入禁止状態?」


「入口が封鎖されて開かなくなるとか、窓なんかも閉鎖されるとか言ってた」


「ナニソレコワイ」


「片言になったね」


薬湯を持ってソファーに座る。


「領城内に不審者がって普通に考えると、あり得ないですよね」


「普通に考えるとね」


「普通じゃないのもあるんですか?」


「あったらしいよ。もう20年近く前らしいけど、ミエルピナエ()の森から侵入しようとしたヤツがいたらしい。ミエルピナエ()に攻撃されて、ボロボロになって領城に助けを求めてきたんだそうだよ」


「侵入しようとした領城に、助けを求めたんですか?」


「そうらしい」


薬湯をふうふうして冷ます。ふうふうしていたら、大和さんに聞かれた。


「それ、今日の薬湯?」


「そうです。食欲増進、体質改善は変わらないんですけど、クルスさんが味にこだわり出したらしくて、今日のも苦味が少なくなっています」


「薬効が変わらなけりゃ良いんだけどね」


「後は女性の魅力を上げるって、なんですか?これ」


薬効を書いた紙を読み上げると、大和さんにその紙を奪い取られた。


「……厳重に注意しておこう」


「クルスさんに?王都まで行くんですか?」


「芽生えの月の最後に行くでしょ?その時にね」


「注意って何を?」


「これ以上咲楽が魅力的になったら、抑えきれる自信がない」


「えっと、何を?」


「薬湯は飲み終わった?寝室に行こうか」


「はい。パジャマに着替えなきゃいけませんね」


「そうだね」


急に寝室にって言った大和さんを不思議に思いながらも寝室に行く。奥のウォークインクローゼットで着替えを済ませて、ベッドに座った。ここのベッドはセミダブルのベッドが2つ、ベッドサイドテーブルを挟んで置いてある。大和さんが早々にベッドサイドテーブルを除けて、ベッドを1つにしていた。


「窓の鎧戸を閉めると真っ暗ですね」


「だから灯りに拘るのかな?デザインが見た事の無いタイプだ」


ガッジョー(卵鳥)のランプシェードはどうしましょう?」


「持ってきていたんだっけ?寝室にはこの灯りがあるしね」


「この灯りもシンプルだけど、好きです」


「どうしようか。4階に置いておく?」


「そうですね。そうします」


早速4階に持っていく。大和さんも付いてきてくれた。


「この部屋はどう使うつもり?」


「どうしましょう?まだ思いつきません」


「一部屋トレーニングルームにして良い?」


「構いませんけど、どうするんですか?」


「ダンベルもどきは持ってきたから、トレーニングベンチがあれば良いんだけど、無いからね。ステップ台はあるけど」


「ステップって事は踏み台ですか?」


「踏み台昇降運動も出来るよ。一緒にする?」


「鬼コーチになりませんか?」


「手取り足取り教えましょう」


「お願いします」


寝室に戻って、ベッドの上で話をする。


「眠くない?」


「まだ大丈夫そうです」


「じゃあ、もうちょっと話をしよう」


「話ですよね?」


「そうだよ?」


「大和さんの胡坐に乗せられているのは、何故ですか?」


「俺がしたいから」


「欲望に忠実すぎませんか?」


「別に?欲望に忠実になってたら、押し倒してる」


慌てて離れようとしたら、腰を捕まえられた。


「無理矢理はしないし、ちゃんと抑えてるから、そこは信用して」


「本当に?」


大和さんの腕の中から見上げたら、困った顔をされた。


「こうやって煽って理性を壊そうとするから、困っちゃうんだよ」


「困らせてますか?」


「そうやって涙目で見上げないで?結婚までは我慢するから」


「ごめんなさい」


「大丈夫だよ。他の事で発散させているから」


そう言われたら、何も言えない。私が大和さんに我慢をさせているのは分かるから。


「去年のフルールの御使者(みつかい)の時に、拐われていたら、考えすぎなくて良かったんでしょうか?」


「拐っちゃいたいって言ったこと?」


「はい」


「あれはその場の勢いでしょ?本心ではあったけど、キチンとお互いに話し合ってからじゃないと、後悔することになりかねない」


「でも、あの時は本気でそう思ったんです」


「うん。そこは嬉しかったよ。でも、結婚というのは勢いじゃ駄目なんだよ。勢いで上手く行くカップルも多いけど、そうじゃないカップルも多いんだから」


「生活を共にすることに繋がりますもんね。でも、私達は一緒に暮らしていますよ?」


「じゃあ、この1年でそういう事も話し合っていこう」


「はい」


「嬉しそうだね」


「大和さんと一緒に居られるのは嬉しいです」


「さしあたってはターフェイアでの生活からだね」


「基本的には変わりませんよね?」


「そうだね。俺は騎士として、咲楽は施術師として日々やっていく。そこは変わらないね」


「そういえば、トゥリアンダ様と何を話していたんですか?」


「ここの騎士団の事だね。騎士団長のルブライト殿にはお会いしたけど、他の騎士達には会っていないからね」


「そうですね。そういえばここの騎士団ってどこで訓練しているんでしょうね?」


「少し行った所にあるそうだよ。その辺もトゥリアンダ様に聞いていた」


「私も騎士団付きって事はそこに一緒に行くんですよね?」


「一緒に出勤になるのかな?騎士団本部も以前は領城内に有ったらしいんだけど、都市内の治安維持の面から都市の中心地に移したらしい」


「ん?私はどうなるんでしょう?」


「そこはまた聞くしかないね」


「そうですね」


「明日はミエルピナエ()の森か。どんな女王様なんだろうね?」


「被毛が真っ赤としか聞いていないですね」


「赤い被毛か。赤く見える蜂なら知っているけど、どうなんだろうね?」


「明日になれば分かりますよね?」


「そうだね」


大和さんの手が私の顎に添えられて、上を向かされた。そこにキスされる。


「アゴクイ?」


「なんとなくしたくなった」


「大和さんのテヘペロ?」


「需要無いかな?」


「可愛いです」


「咲楽も可愛い。もう寝ようか」


ぎゅっと抱き締められて横にされる。


「おやすみなさい、大和さん」


「おやすみ、咲楽」









実は懐中時計の話は作者の実話です。あの懐中時計、どこにいっちゃったんだろう?

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