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異世界転移って本当にあるんですね   作者: 玲琉
酷熱の月
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酷熱の月、第4週の光の日。今日から表向きは、施療院にカークさんは付いてきてくれない。私には内緒で来てくれるらしいけど、頼れないって事だ。昨日の夕食時に「大丈夫ですからね。ナザル所長もいらっしゃいますし、マクシミリアン様もいてくださいます。サクラ様なら、大丈夫ですよ」って、カークさんが言ってくれた。それはもう何回も。大和さんには「あまり何度も言うと、悪い方に予感が的中するぞ」、ユーゴ君には「カークさんって、天使様のお母さん?」って笑われていた。何度も言われると、フラグが建っちゃうよね。


今日も良い天気だ。着替えてダイニングに降りる。庭に出るから、もちろんしっかり帽子は被ってます。


庭に出て花壇の水やり。雲状に水蒸気を広げるこの水撒きの仕方も慣れてきた。所長に披露したら、遠い目をして「シロヤマさんじゃしのぉ」と言われた。ライルさんは呆れた顔をしているし、マックス先生は大笑いをしていた。


水やりが終わったら、四阿(あずまや)を変形させる。シャワー室を3つ作って、チェックしていたら、大和さん達が帰ってきた。


「ただいま、咲楽ちゃん」


「おはようございます、サクラ様」


「おはようございます、天使様」


「おかえりなさい、大和さん。おはようございます、カークさん、ユーゴ君」


「天使様の今日の格好、いつもと違うね」


「あまりにも暑いから、少し短いのを穿いてみました。変じゃないですか?」


「変じゃないよ」


「似合ってるよ。咲楽ちゃん」


「お御足が……」


「カーク、何を言いかけた?」


「なんでもありません。お御足が素敵だなどと思ってもおりません」


「カーク、俺を見て言ってみようか」


ダラダラと汗を流しながら、明後日の方を見るカークさんと、ニヤニヤしながらその視線を追う大和さん。


「シャワー、浴びないのかな?」


こっそりユーゴ君に聞かれた。


大きな水球を大和さん達の頭上に展開して、一気に落下させる。


「シャワー、浴びてくださいね」


「天使様、それ、気持ち良さそう。僕にもやって?」


「シャワーの最後にね」


ユーゴ君が大喜びで、シャワー室に入っていく。大和さん達も入ったのを確認して、水を流す。ユーゴ君にはリクエスト通り、最後に水球を落とした。きゃあーと大喜びの声が聞こえた。


「咲楽ちゃんのさっきの水球、地属性のトゥール(陥没)ピットホール(塹壕)で四角くして、デューロゥ(硬化)で固めた中に入れたら、プールにできそうだね」


「水遊びには良さそうですね」


「作ってみる?」


「水着はどうするんですか?」


「着衣水泳かな」


「泳ぎにくくないですか?」


「後は下着のみ?男だけになるけどね」


四阿(あずまや)を元に戻していると、大和さんに聞かれた。


その後、瞑想を終えた大和さんが舞台に上がる。カークさんとユーゴ君も舞台に上がった。学園に行っての剣舞の為の通しての稽古だ。


舞台中央で大和さんが胡座(あぐら)を組む。その手に2振りの剣を捧げ持つ。


『只今より、常磐流(じょうばんりゅう)第28代が2子、常磐 大和(ときわ やまと)、神々に舞を(たてまつ)る。どうぞ御照覧(ごしょうらん)あれ』


大和さんが立ち上がるとカークさんとユーゴ君が舞台中央に行って、大和さんの持つ剣の鞘を持つ。カークさんは左側。ユーゴ君は右側。カークさんの持つ鞘から右手でユーゴ君の持つ鞘から左手で、大和さんが腕をクロスさせて剣を抜く。鞘を剣立てに置いて、カークさんとユーゴ君は舞台から降りた。


剣舞が終わると、カークさんとユーゴ君が再び舞台に上がって、大和さんから剣を受け取り鞘に納める。カークさん、ユーゴ君の順に舞台を降りて、最後に大和さんが降りる。それが終わったら、大和さんがカークさんとユーゴ君に何かを言って私の方に来た。


「何を言っていたんですか?」


「細かい修正点。カークもユーゴも初めてなのに、ちゃんと俺のやり易いようにしてくれているから助かる」


私を抱き締めながら、大和さんが言う。ちなみにこの時には、カークさんもユーゴ君も家の中に入っている。


「中に入りませんか?」


「暑いしね」


家に入ると、冷風装置のお陰で涼しい。カークさんかユーゴ君が付けておいてくれたんだと思う。


「さっきのだが……」


大和さんがカークさんとユーゴ君に何かを言っているのを聞き流しながら、朝食の支度をする。今日は昨日作っておいた野菜の冷製スープ。氷を入れて冷たくする。後はオムレツとウィンナーとパン。


朝食プレートとスープとパンをテーブルに運んで、朝食にする。


「トキワさん、ジェイド商会のアクセサリー職人って知ってる?」


「ダフネの事か?他にも何人もいるが、直接知っているのは彼女だな。ダフネがどうかしたか?」


「昨日の冒険者依頼の時に、同じ学門所に通っている女子グループと、一緒になったんだ。その子達が言っていたんだよ。1人アクセサリー職人になりたいって子がいて、以前から教えてもらっているんだって。それで『黒き狼様と天使様と友人だ』って聞いたらしくって、本当なの?って聞かれた。僕がここに来ていることはみんな知っているし」


「本当だ。俺と咲楽ちゃんの共通の友人だな。彼女の地属性はすごいぞ。咲楽ちゃんのネックレス、ブレスレット、ブローチは彼女の作品だ」


「その細い鎖の?凄い……」


「他の職人さん達が感心してましたよね?」


「手袋の装飾だな。どうやってこんなに細く出来るんだ?って言っていたな」


詳しく聞いていたら、ユーゴ君が慌てて冒険者依頼に行っちゃった。お昼を渡して見送る。


「どうしたんでしょう?」


「あまり、突っ込んで聞かない方がいいよ」


「大和さんもカークさんも分かっているんですか?」


「一応は。誰もが通る道だな」


「そうですね。私はもう少し早かったです」


「俺は今かな?」


「トキワ様?」


「人に関心を持てなかったんだよ。だから、今」


「なるほど」


私は全然分かりません。何の事なんだろう?


カークさんが食器を洗ってくれている時に聞いてみた。


「カークさん、さっきのって何ですか?」


「あぁ、初恋ですね」


「初恋……」


「サクラ様は?」


「私も今でしょうか」


「え?今ですか?」


「お話ししましたよね?男性が怖いって。あれと関係してくるんです」


「そうですか」


「私の眼ってどう思いますか?」


「綺麗な色です。サクラ様によくお似合いです」


「元の世界では、この眼はあまり見ない色なんです。大体の人が大和さんのような黒い眼です。私はこの眼を持っていた為に虐められていました」


「そうだったのですか。お辛かったのですね」


「この眼のお陰で友人も出来ましたけどね」


「その方は、サクラ様の本質を見たのでしょう。見た目で判断せずにサクラ様自身を見た。だから友人となれたのですね」


「はい」


葵ちゃんの事を誉められると嬉しい。


「咲楽ちゃん、着替えておいで」


「はい」


キュロットスカートはこのままで良いかな。上だけ着替えて髪を纏める。


「お待たせしました」


「行こうか」


家を出ると、カークさんは反対方向に歩いていった。


「不安?」


「少しだけ」


「お守りの魔石は持っているんでしょ?大丈夫だよ」


大和さんはそう言って頭をポンポンしてくれる。それだけで少し不安が薄れた。


「大和さんに頭を撫でてもらうと、不安が薄れます」


「じゃあ、ずっと撫でていようか?」


「そっ、それはそれで恥ずかしいんですが」


そぉっと大和さんを見上げる。


「そんな可愛い顔しないの」


「可愛くないです」


「咲楽ちゃんは可愛いよ。一生懸命だし、穏やかだし、笑顔でいてくれるし」


「今は無理ですけど」


「それでも一生懸命前に進もうとしているでしょ?そんな自分まで否定しちゃ駄目だよ。俺にとって咲楽ちゃんはこの世で1番可愛い女性(ひと)なんだから」


「ありがとうございます」


大和さんのまっすぐな愛情が嬉しかった。


王宮への分かれ道でローズさんとライルさんが待っていてくれた。副団長さんも居る。


「サクラちゃん、おはよう」


「ローズさん、おはようございます」


「トキワ殿、良いかな?」


大和さんとライルさんが何か話をしている。


「気になる?」


「まぁ。私の事ですよね?」


「間違ってはいないけどね。それだけじゃないのよ。ルビーの結婚の後の事とか、アインスタイ領に行く話とか、色々あるのよ」


「来月ですもんね」


他人事(ひとごと)みたいに言っているわね」


ライルさん達の話は終わったらしく、ライルさんがこっちに来た。


「咲楽ちゃん、いってらっしゃい」


「はい。大和さんもいってらっしゃい。気を付けてくださいね」


大和さん達と別れて、施療院に向かう。


「サクラちゃん、学園に行ったら、リディアーヌ様に会えるわね」


「そうですね。学園にはリディー様がいらっしゃいますね。あちらではリディアーヌ様とお呼びしなければいけませんね」


「そうね。リディアーヌ様は落胆するでしょうけど。そうだわ。リディアーヌ様に手紙を書くわ。渡してくれる?」


「待った。それさ、施療院全員からって事にしない?」


「そうね。ライル様、所長に話しておいてくださいます?」


「患者には言わない方がいいよね。収拾がつかなくなりそうだし」


「結局、リディアーヌ様の二つ名はどうなったのかしらね?」


「知っているのはいるみたいだけど、話さないね。カーク君も言わないでしょ?」


「最近はそれどころじゃなさそうです。私の所為(せい)ですけど」


(ランク)も上がったんでしょ?ラルジャ()(ランク)になると貴族の護衛依頼も受けられる。彼等はちょっと違うようだけどね」


「違うって、どう言うことですか?」


「僕も詳しくは知らないよ。でも、カーク君達は調査員でしょ?彼等の本業は魔物の調査だ。護衛中に緊急の調査依頼が入ったら、そっちを優先させなきゃいけない。冒険者ギルドはテストケースだと言ったらしいじゃない?今回は通常の護衛依頼で昇級試験にしたけど、たぶんこれからどうすれば良いかを話し合って、調査員専用の(ランク)と試験を整えるんだと思うよ。カーク君達はその裁定の一員だろうね。冒険者ギルド本部がそれに相応しいと認めたんだよ」


「ライルさんって詳しいですね」


「僕の親しい薬師が、色々相談されたらしくてね」


「相談ですか?」


「疲労回復の薬草茶(ハーブティ)を買いに来て、話していったんだって。その話と知っている情報からの推測だよ」


「トキワ様みたいね」


「トキワ殿なら、たぶん聞いたその時に考えているだろうね。僕はまだまだだよ」


「十分凄いと思いますけど」


施療院に着いた。更衣室で着替える。


「ねぇ、ルビー。実りの月の最初にサクラちゃんが学園に行くでしょ?その時にリディアーヌ様に手紙を渡さない?」


「貴族様の手紙の書き方とか、あるんじゃないの?そんなのは分からないわよ?」


「施療院全員からって事にしようって、ライル様が提案してくれたから、任せておけば良いわよ」


「ライル様なら安心ね」


「どういう風にするかは、話し合って決めましょ」


「そうね。考えておかなきゃね」


「そこで私を見つめるのはやめてください」


「だってねぇ。サクラちゃんなら色々思い付きそうだしねぇ」


「お2人も考えてくださいよ?」


「もちろんよ」


本当かなぁ?


待合室を通る時は緊張する。大丈夫、大丈夫って唱えて、魔石を使わずに診察室に着いた。


「シロヤマさん、おはよう。今日も暑いね」


「マックス先生、おはようございます。今日もよろしくお願いします」


「はいはーい。それじゃあ、最初の患者の診察を始めようか」


順々に患者さんの治療をして行く。数人で入ってくる人も居るけど、状況説明だけしたら患者さん1人を残して、診察室を出ていってくれる。


少し患者さんが途切れた。


「ここまでは大丈夫かな?」


「はい。大丈夫です」


「朝は魔石を使ったの?」


「使っていないですね。今日は朝から使っていません」


「何かあったらすぐに使うんだよ?」


「はい」


マックス先生と話していると、患者さんが入ってきた。身体の大きい男の人、2人。あそこで暴力を振るってきた冒険者に背格好が似ている。そう気付いたとたんに恐怖が全身を貫いた気がした。心臓が早鐘を打ち始める。足がすくんで動けない。身体が言うことを聞いてくれない。足元がなくなったような心地に陥る。呼吸が早くなる。魔石を使おうとしたその時、診察室に飛び込んできた人がいた。


「サクラ様っ。サクラ様、大丈夫です。息を吐いて、吸って、吐いて、吸って……。大丈夫ですよ」


「カークさん……」


「大丈夫です。大丈夫ですよ。コイツらは姿(なり)は大きいですが、サクラ様に危害を加えることはしません。大丈夫ですよ」


「カークさん」


「闇属性を使いますか?」


「お願いします」


「アレス・イン・オルド(貴女は大丈夫です)ヌング」


優しくて暖かいカークさんの闇属性が入ってくる。


「カーク、すまない」


「いや。大丈夫だ。とりあえず治療をしてもらった方がいい」


カークさんに謝った患者さんは、右腕に布を巻いていた。その布を取ると、傷が現れる。20cm程の引き裂かれたような大きな傷だ。傷の周囲が紫色に腫れ上がっていた。


「シロヤマさん、僕が治癒術をかけようか?」


「大丈夫です。やれます」


「でも、これ、初めて見たでしょ?」


「はい」


「この傷はフウェアンタ(鞭の腕)だね。いつやられたの?」


「昨日です。正確には昨日の4の鐘辺りです。北の湖の湖畔の森の中で遭遇しました。討伐済みです」


「シロヤマさん、フウェアンタ(鞭の腕)は王都の周辺にはほとんど出たという報告がない。地方にはたまに居るんだけどね。詳しい生態はカーク君に聞いてね。フウェアンタ(鞭の腕)の傷の厄介なところは、遅効性の毒液なんだ。だから浄化が必要になる。それから傷の修復だね。やってみる?」


「はい」


浄化をかけながら傷の修復をする。かぎ裂きになっているところがたくさんある。集中して傷の修復をしていく。マックス先生はカークさんと何かを話し合っていた。


傷の修復が終わると、患者さんは帰っていった。


「カーク君、ごめんね。ちょっと注意が遅れた」


「間に合って良かったです」


「ずいぶんタイミングよく現れたね。どうしたの?」


「ギルドで魔物の講習をしていたのです。そこにフウェアンタ(鞭の腕)を討伐したという報告が入りまして。怪我人が施療院に向かったと聞きましたので、嫌な予感がして飛んできたのです」


「シロヤマさん、魔石は使わなかったの?」


「カークさんが来てくれたのが、使おうとしたその時で。助かりました」



















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