24
翌朝も良い天気だった。でも朝晩は寒い。パジャマをもう一段階厚めにしようかなぁ。上着を羽織って階下に降りる。
今日も椅子を持ってきてドアストッパーの代わりにする。食料庫からパンと昨日作っておいたハンバーグ、野菜を取り出してキッチンに置いておく。
庭に出ると……あれ?虎さんがいる。
「おはようございます」
「おはようございます。レベッカさん」
「あの精神統一を始めると、あの虎はあそこにいくんだよね」
「そうなんですか?」
大和さんの身体には昨日のように緋龍が巻き付いてるように見える。
組んでた足を解くと緋龍は消えた。
「さっきの状態の兄さんは近付くのが畏れ多いって感じだね」
「私はいつまでも見ていたくなります」
「あんたはホントにあの兄さんに惚れてるんだね」
舞台では大和さんがサーベルを手に『春の舞』を舞っている。
枝垂桜の前で舞う大和さんは本当に格好良くて、この光景が見られるのは私だけなんだと思うと幸せだった。
大和さんが舞台から降りると虎さんが寄っていく。纏わりついて、本当にネコみたい。
「あの子の名前、付けてあげてくれないかい?」
「でも飼えないですよ」
「うちで最後まで面倒は見るさ。名前だけ付けてあげて欲しいんだ。本当は広い場所を駆け回らせてあげたいんだけどね。こういう商売をしてるとそれも難しくてね」
気が付いたら大和さんが虎さんに押し倒されて顔を舐められてた。
「あの子は仕方がないね。こらっ!!止めないかい」
「良いですよ。ほら、もう終わりだ」
大和さんは笑って虎さんの頭を撫でる。とたんに虎さんは大人しくなって……私を見てる?もしかして次は私なの?
ゆっくり近寄ってきた虎さんは私の前で伏せをした。
「ちょっと顔を洗ってくる」
大和さんはそう言って家に入る。
頭を撫でてあげると虎さんは気持ち良さそうに目を閉じた。
「咲楽ちゃんならそいつに乗れそうだな」
家から出てきた大和さんがそう言うけど、虎って乗れるものなの?
「もともと騎獣用だったらしいけどね、この子は」
「そうなんですか?」
「『指示に従わなくてどうしようもない』って話だったけど、あっちの方が扱い方を間違えてたんだろうね。兄さん、こっちのお嬢さんにも言ったんだけどね。この子の名前、付けてあげてくれないかい?」
「ウチでは飼えないですよ」
「面倒は最後までうちで見る。名前だけ付けてあげて欲しいんだ」
しばらく考えて大和さんは頷いた。
「分かりました。ただ、明日まで時間をください。今日はこれから出勤なので」
「闇の日まで出勤って兄さんは騎士様だったのかい。そりゃあ大変だ。こっちのお嬢さんは奥さんなんだろ?昼間は家にいるのかい?」
「あの、まだ奥さんじゃないです。私は施療院で働いてます」
「治癒師様かい。驚いたね。あそこには天使様がいるって噂だけど、知ってるかい?」
「天使様……今は居ないと思います」
「一度見てみたかったけどね。あぁ、いけない。そろそろお暇するよ。この子の名前だけ頼んだよ」
レベッカさんと虎さんを見送って家に入る。
「レベッカさんが『瞑想中の大和さんには畏れ多くて近付けない』って言ってました」
「畏れ多いって……なんだそれ」
「マイクさんとか日本に居たときの人達もそんな感じだったんじゃないですか?」
「咲楽ちゃんは?」
「いつまでも見ていたくなります」
「それは嬉しいな。まぁ、シャワーを浴びてくるね」
じゃあ私は朝食と大和さんのお昼の準備。昨日のハンバーグは暖め直しておいて、フライパンで厚切りハムと卵を焼く。
昨日はキャロットラペにしたんだよね。今日はマヨソースでも作ろうかな。
卵黄とビネガーを合わせて、油はこのオリーブオイルっぽいので良いかな。臭いもしないし少しずつ注ぎながら撹拌する。モッタリしてきたら出来上がり。塩コショウで味を整えて、うん良い感じ。パンに切れ込みを入れてキャベツの千切りを敷いてマヨソースをかける。ハンバーグをおいてその上にもマヨソース。
後はハムに卵、キャロットラペで出来上がり。合わせて5個有ったら良いよね。
ついでに今晩の準備。ジャガイモ、ニンジンとキャベツは大きめに切って、同じく大きめに切ったベーコンとソーセージを入れてひと煮立ち朝御飯が終わるまでは弱火にしてコトコト煮込んでおく。
「咲楽ちゃん」
突然声をかけられてびっくりする。
「大和さん、居たんですか。ってなぜ笑ってるんです?」
「咲楽ちゃんのビックリした様子が可愛くて。気が付かなかったの?」
「全然気付きませんでした。あ、コーヒー淹れます?お湯沸かしますね」
「ありがとう。これ、お昼のお弁当?5個あるけど……」
「取られても良いようにって思って」
「分かった。頑張って死守する。あぁ、そうだ。お弁当を木の皿で持ってきてるヤツがいたな」
「あ、そっか。木のお皿があると便利ですね」
ウチには無いんだよね、木のお皿。用意してくれてあったのは、白い磁器っぽいお皿だった。
後片付けの時に火を落として鍋にホットキルトを被せておく。
後片付けの後は大和さんは出勤の、私はお出掛けの準備。
今日はどの服にしようかな。白のレーシーなトップスにチャコールグレーのフレアスカート、ロングカーディガンを羽織って。これで良いかな。
髪を整えて階下に降りる。大和さんはもう待っていた。
「咲楽ちゃん、その服、似合ってるね」
「ありがとうございます」
大和さんに誉められると嬉しい。
結界具を作動させて家を出る。数十m行ったところでジャンさんに出会った。
「あれ?騎士の兄さん、今から出勤ですか?」
「そういうジャンはどこに行くんだ?」
「西の森ですよ。木材の調達です」
「そうか。気を付けてな」
「気を付けてくださいね。いってらしゃい」
「天……お姉さんに言われると張り切っちゃいますね。行ってきます」
今、絶対天使様って言いかけた。ジャンさんの後ろ姿を見送る。
ふと、大和さんを見ると険しい顔をしていた。
「どうしたんですか?」
「あいつ、危ない目に遭ったりしないよな」
「何か感じました?」
「取り越し苦労なら良いけどな」
怖いな。大和さんの勘って当たるんだよね。
王宮への分かれ道まで来ると、そっちからローズさんが走ってきた。ライルさんも後ろから着いてきてる。
「サクラちゃんおはよう。その服、似合ってるね」
「おはようございます。ローズさんも似合ってます」
「女の子2人がきゃあきゃあ言ってるのは微笑ましいけど、もうちょっと道の端に寄った方がいいと思うよ」
ライルさんに苦言をいただきました。すみません。
大和さんはライルさんと少し話をしていた。
「それでは昼から伺います」
「お願いします」
大和さんは王宮の方に歩いていった。
「サクラちゃん、トキワ様の行動は?」
施療院に向かいながら話す。
「朝からは西地区、お昼からは施療院、そこが終わったら練兵場で訓練だそうです。だから来るなら施療院か練兵場って言われました」
「あら、バレちゃってるのね。トキワ様、勘が鋭そうだしね」
「施療院に来た方がいいんじゃないか?4の鐘まではかかるだろうし」
「そうね。そうしましょ。あら?」
あ、ルビーさんが走ってきた。
「2人とも一緒だったの?あら、ライル様おはようございます」
「僕は完全についでだね」
「もうここからローズの家に行っちゃいましょ」
「そうね。あ、サクラちゃん、トキワ様の今日の予定は?」
「朝からは西地区、お昼からは施療院、そこが終わったら練兵場で訓練だそうです。だから来るなら施療院か練兵場って言われました」
さっきと同じことを繰り返す。
「あら、バレちゃってるのね」
この台詞もローズさんと一緒。
「でね、施療院に行こうと思うのよ。騎士団の方が何人来てくれてるかわからないけど、王宮の練兵場よりは少ないと思うから」
「そうね。そっちの方がいいわね。サクラちゃん、クッキーって焼くのにどのくらいかかるの?」
「170℃で15分位でしょうか」
「案外早く焼けるのね」
「今日はコーヒークッキーは止めて、紅茶とナッツにしようと思うんです。良いですか?」
「そっちの方が作りやすいなら、それで良いわ」
3人でローズさんのお宅へ。大きな商会だった。
「自宅は裏なんだけど、先に見ていく?」
「良いですか?」
「もちろん」
お店に入ると店員さんが出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ。おや、お嬢様、何かご入り用な物でも?」
「この子が色々見たいらしいの。案内してあげて」
「かしこまりました。何をお探しですか?」
「調理器具をみたいです」
「それではこちらですね」
わぁ。すごい色々ある。あ、これってセルクル?
「そちらは抜き型ですね。簡単な型なら加工いたしますよ」
「加工もしてもらえるんですか?」
「はい。何か図案などあればご要望にもお答えできますが」
「ハートとか星とか熊さん型とかできます?」
「熊、ですか?ウルージュのような」
「もっと可愛くしたいんです。えっと、こんな感じで」
「出来るでしょう。しかしこれをどうするんです?」
「別にリスとかでも良いんですけど、クッキーの型にしたいんです。ここにナッツをおいて腕を曲げて焼けば動物がナッツを抱えてるように見えますよね」
「と、言うことは森の動物の方がいいですよね。加工担当者に話してみます。後はハートと言うのは?」
「こんな形のです」
「これには意味はあるのですか?」
「これは人の心を現してます」
「ほう。大切な人への贈り物に良いですね。後は星ですか。その3つで良いですか?」
「そうですねそれでお願い……」
「サクラちゃん、サクラの花の形は良いの?」
「花びら型ですか?何の花か分からなかったら意味がありません。分かりやすい形が良いんです」
「あら、そう」
「ローズ、負けたわね」
後は小さい泡立て器とスパチュラも購入。木のお皿はなかった。
「もう良いの?」
「はい。ありがとうございました」
「型は加工ができたらウチに回してちょうだい。後、ナッツは市場の方がいいかしら?」
「そうですね。そちらの方が種類はあるかと」
「じゃあそっちに回ってみるわ」
「ありがとうございました」
店員さんに見送られて店を出る。
「サクラちゃんってこう言うの、すごくイキイキするのね」
「すみません」
「なぜ謝るの?でもアイデアもすごいわね。あの型とかってあっちにもあったの?」
「もっと種類がありました。文字の形とかも有ったし、動物型も色々と。あちらには魔物はいませんでしたから、動物も可愛くデフォルメされたりしてました」
「そうなのね。あ、こっちよ」
東の市場は整然としていた。
「ずいぶん雰囲気が違うんですね」
「サクラちゃんはどこの市場に行くの?」
「神殿の近くです」
「お家は神殿地区?」
「神殿地区って?」
「神殿の近くってことよ。神殿関係者が多くすんでるから、神殿地区って呼ばれてるの」
「ローズの家は東地区でしょ。私の家は西地区。東は別名貴族街。貴族様がお屋敷を構えてることが多いわね。西地区は別名庶民街。パワフルな人が多いわよ」
「後、スラムがあるけどこの前行ったわね。そう言えばスラムも変わるらしいわよ」
「でも働き口とかないじゃない。あそこの人たちは文字が書けない人も多いし」
「教育とかは神殿主導で、働き口は冒険者ギルド主導で動くみたいです」
「そうなの?もしかしてトキワ様のアイデアかしら?」
「内政担当の貴族様のアイデアだって大和さんが言ってました」
「あら、そうなのね。良い方に動きそうじゃない」
「でも住むところはどうするの?」
「そっちは国の主導で家を建てて、値段を分割にして売り出すそうです。スラムの人でも払いやすい値段で。なん家族かでシェアしても良いし」
「シェア?」
「分け合うと言う意味です。一軒の家を部屋を分けあって住むんです。そうすればお金も少なくてすみますよね」
「なるほどね。あ、ここね。ウチの商会の店よ」
ホールナッツも色々ある。アーモンド、ピーカンナッツ、クルミ、カシューナッツ他、色々。
「すいません。これって煎ってありますか?」
「はい。生の方がよければこちらですね」
「この煎ってあるアーモンドを100g、クラッシュのクルミとアーモンドを50gずつ混ぜてもらう事って出来ますか?」
「50gずつでよろしかったでしょうか」
「はい。お願いします」
それぞれ包んでもらってる間にローズさんに聞く。
「紅茶葉はどうします?」
「ウチに幾つかあるわ。店から持ってこさせても良いし」
「出来るだけ細かい茶葉が良いんです」
「その辺は大丈夫よ」
「ローズさん、木のお皿ってこの辺に売ってますか?」
「木のお皿?あったかしら?ちょっと!!」
「これはお嬢様。何かご用でしょうか?」
「この辺りに木のお皿って売っていたかしら?」
「それなら、あちらの5軒ほど向こうのあの店ですね。あそこにならあると思います」
「そう。ありがと。サクラちゃん、行きましょ」
「すみません。ありがとうございました」
5軒隣の店は木工品を扱ってるお店だった。
「すみません。木のお皿ってありますか?」
「この辺だね。サイズは?」
「えっとこのくらいで」
「何枚いるんだい?」
「2枚ください」
「他には?」
「木のコップは?」
「こっちだね」
「じゃあこれも2個ください」
「これだけかい?」
「はい。お願いします」
「これだけだと小銀貨5枚だね。皿が1枚100キャラ、コップは1個150キャラだよ」
「じゃあこれでお願いします」
大銀貨1枚を渡す。
「お釣り小銀貨5枚だね」
「ありがとうございました」
お礼を言ってお店を出る。
「もう良いの?」
「はい。お待たせしました」
「そのお皿、どうするの?」
「大和さんのお昼の入れ物にしようと思って」
「そう。トキワ様のお昼ってどんなのを持ってってるの?」
「パンに切れ込みを入れてお肉とか野菜とか挟んでます」
「あら、サクラちゃんと一緒なの?」
「量が違うだけです」
「良いわねぇ。そういうの。私もできるかしら?」
ルビーさんが言う。
「あら、いよいよ?」
「来年には、って感じね」
「サクラちゃんは?」
「まだまだです。そこまで考えられなくって」
「そうなの?良い雰囲気だと思うけど」
「まだ出会って1ヶ月経ってないんですよ。大和さんに自分が相応しいのかな、とか考えちゃって……」
「お似合いだと思うけどね。このまま同棲してたら考え方も変わるわよ」
話をしながらローズさんの家に戻る。
「帰ったわ。お客様も一緒よ」
「おかえりなさいませ、お嬢様。いらっしゃいませルビー様。こちらのお嬢様は初めてでございますね。家令のジェスターと申します」
「初めまして。サクラ・シロヤマです。よろしくお願いします」
「いらっしゃいませ。今日は厨房を使われると聞いております。家政婦のアルマでございます」
「ウチは下級貴族だからね。後メイドが2人いるだけなの。応接室より私の部屋の方がいいかしらね。案内するわ。こっちよ」
途中でメイドさんのルルさんとララさんに会った。
「ルルとララよ。双子なの。たまに間違えるわ」
「ルルです」
「ララです」
「「よろしくお願いします」」
「こちらこそお願いします。サクラ・シロヤマです」
挨拶をしてローズさんの部屋に向かう。
「さぁ、ようこそ。適当に座ってね」
「ローズ、クッキー作らないと」
「そうよね」
「あ、エプロン持ってきました。使ってください」
「これ、どうしたの?」
「ちょっと前に作りました」
「作った?」
「このパターンは簡単なので」
「色々と足りなさすぎね、私達」
「そうよね。エプロン何て思い付かなかった」
「あの時間とかもありますし、始めませんか?」
「そうね。移動しましょうか」
3人で厨房に移動する。厨房ではアルマさんが待っていてくれた。
「今日はクッキーでしたね。材料はこちらにご用意しておきました。道具はこちらです。それからこちらが先程届きました」
クッキーの抜き型は、ハートと6芒星の星とかわいいリスさんだった。
「あ、可愛い」
「本当ね」
「これでクッキーを作るんですか?」
アルマさんが聞く。
「こっちのクッキーってどんなのなんですか?」
「丸か四角ね。可愛くないわ」
まずは手洗い。材料を計って混ぜていく。まずはプレーンから。プレーンにはリスの抜き型を使ってアーモンドを抱かせるように成形。
「可愛うございますね。これを焼いたらよろしいですか?」
「はい。お願いします」
次はプレーンのハートと星形。型で抜いて天板に並べていく。いつの間にか私が生地係、ローズさんとルビーさんが型で抜く係になってた。
「案外楽しいわね」
「成形作業って楽しいんですよ」
アルマさんがオーブンの様子を見てくれて1度目のクッキーの出来上がり。ちゃんとリスがアーモンドを抱いていた。
アルマさんがクッキーをまじまじと見て、私に言った。
「シロヤマ様、これを旦那様がたと店の者に見せても良いでしょうか?」
「材料さえあればまた作れますから、大丈夫ですよ」
「このアーモンドを使わせていただけるなら同じのを作ります」
「アルマ、今回は手作りのクッキーを差し入れしたいから。サクラちゃん、もう一回作る?」
「はい」
もう一回プレーンの生地作り。アルマさんが型で抜いてアーモンドを抱かせていく。
次は紅茶入り。紅茶葉はアルマさんが出してきてくれた。
「これでよろしゅうございますか」
「良い香りですね。茶葉の大きさもちょうど良いです。使わせてもらっても?」
「お使いください」
生地に紅茶葉を混ぜて伸ばして型抜き。相変わらず型抜きはローズさんとルビーさん。
次はクラッシュナッツを使うんだけど混ぜ込むと型で抜き難いんだよね。型で抜いた後ナッツを表面に付けちゃおう。
「次はナッツを使うんですが、混ぜ込むと抜き難くなるのでまずは普通に生地を型で抜いてください。その後ナッツを抜いた生地に付けていきます」
「じゃあ、私はナッツを付ける係をやるわ」
「ローズ、センスがいるわよ」
ワイワイ言いながらクッキーを量産。すべて焼いたらアルマさんがリスのクッキーを商会に届けていた。
私達は買った木皿にクッキーを乗せてきれいな布で包む。
商会の人が走り込んできた。
「お嬢様、先程の方は……」
「落ち着きなさい。サクラちゃん」
呼ばれて前に出る。
「あのリスのクッキーのアイデアを使わせてくれませんか?」
「別に構いませんが……」
そう言うと手を握られた。怖いと言うよりビックリした。
「商品化できましたらアイデア料をお払いします」
「え?そんな良いです。要らないです」
「貰っときなさい。こう言うのはちゃんとしないとね」
ローズさんに言われた。結局書類を作成して、アイデア料を貰うことになっちゃった。
3の鐘は鳴っていたのでお昼をいただく。
「今、前を騎士の方が10人くらい通っていきましたよ。1人見かけない人もいましたけど背が高くて格好良かったです」
ララさんが、そう報告してくれた。
「トキワ様ね」
「間違いないわね」
「ララ、あの方はトキワ様、サクラちゃんの婚約者の方よ」
「ズルいです。シロヤマ様は可愛くて勝ち目が……そうだ、他に誰かいないかしら。シロヤマ様、紹介してください」
「ララ?何言ってるの?」
あ、ルルさんに怒られてる。
ジェイド家の皆さんは優しくて私にも気軽に接してくれた。
少し休憩して出かける準備をする。
施療院の給湯設備を使わせてもらって紅茶を淹れることにした。
「でもカップはあるんですか?」
「大丈夫よ。15セットくらいなら持っていけるから」
「運ぶ台はあったしね」
ティーポットは10人分淹れられるものをお借りする。紅茶葉もジェイド家の物を頂いた。良いのかなぁ。ローズさんのお父様が「持ってってください」って言ってくれたんだけど。ついでに我が家用のも何種類かいただいちゃった。魔空間にポット、紅茶葉、ティーセット、クッキーをそれぞれ入れて施療院に出発。
「喜んでもらえるでしょうか?」
「トキワ様?嬉しいに決まってるわよ」
「騎士の皆さんとか」
「嬉しいんじゃないの?あの方々も婚約者や奥さまのいらっしゃる方ばかりじゃないし」
「ナザル所長とか」
「どうしたの?なにか不安?」
「こういう差し入れって初めてで……邪魔なんじゃないか、って考えちゃって……」
「こういう時はトキワ様の出番なんだけどね」
「良いじゃない。役得よ、役得」
ローズさんとルビーさんは2人で何か話している。
施療院が見えてきた。あれ?副団長さん?でも私服だ。
「おや、シロヤマ嬢、ジェイド嬢にルビー嬢まで。どうなさったのです?」
「アインスタイ副団長こそ。私達はちょっと差し入れに」
「私は作業が気になってね。差し入れって何ですか?」
「お茶とクッキーです」
「私も頂きたいですねぇ」
3人で顔を見合わせる。
「良いんじゃない?」
「そうよね。騎士の方々も嫌とは言わないでしょうし」
なんだか失礼なことを言ってる気がするのは私だけ?
4人で施療院に向かう。と言っても見えてたんだけど。あ、作業中の騎士さんに気付かれた。
「アインスタイ副団長?どうなさったんです?綺麗所を三人も引き連れて」
「こちらの優しいお嬢様方がみんなに差し入れだそうだ」
「あ、給湯室だけ使わせてくださいね」
「分かりました。ナザル所長、差し入れだそうです」
「おや3人共、来てくれたのか。嬉しいのう。休憩にしましょうかの」




