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「シロヤマさん、何か分かる?」


「たぶん大和さんは索敵を使っています。大和さんの足の速いのは元々ですし。ナイオンと同じ位ですから」


「索敵って地属性だったよね。それで分かるの?」


「どの方向のどこに人が居るというのは、索敵で分かると言っていました」


「そのような事が出来るのですか?地属性ってハズレって言われていたけど、有用だというのは、最近言われだしましたが」


「大和さんは出来ると言っていますし、何人かに教えてその人達も出来るって言っていました。慣れてきたら魔物の位置も分かるって」


「それって彼でしょ?冒険者ギルドの調査部の」


「はい。カークさんです」


「あの、天使様が先程言ったナイオンとは?」


「虎です」


「虎?って、虎?」


「あの白い虎だね。シロヤマさんに懐いてる」


「はい」


「虎と勝負して同じ位って……」


「休憩にしようか。ってその前から休んでるっぽいが」


「大和さん、お疲れ様です」


「ライル殿、咲楽ちゃんがつきあわせましたか?」


「僕が勝手について来ただけ。トキワ殿は速いんだね」


「まぁ、この位でしたら。そろそろ時間かなと思ったのですが」


「時間?」


「おいとまの時間です。明日までと、いう訳にはいきませんし」


(うち)は良いけど?」


「ご冗談を」


「分かってるよ。明日も仕事だしね。シロヤマさんにも言ったんだけど、王立図書館の許可証、要るようなら父に言っておくけど、どうする?」


「良いですね。気になっていたのですよ」


「分かった。シロヤマさんの分と2人分、父に言っておくよ」


お屋敷に向かって歩きながら、大和さんとライルさんが話をしていた。


お屋敷に着いて、着替えたらおいとまする。4の鐘をずいぶん過ぎていた。


「シロヤマさん、これ持っていって。ジェフからだよ」


頂いたのはお料理。できたてみたいで、温かかった。


「ありがとうございます」


「またいらしてね」


フリカーナ家を辞して、家に帰る。


「咲楽ちゃん、どうだった?」


「楽しかったです。図書室でこの国の歴史書を読んでいました。歴史書っていうか、私からしたらファンタジー小説でしたけど」


「ファンタジーか。俺も読みたいね」


「王立図書館の許可証が貰えたら、連れていってください」


「もちろん」


家に着いて、少し小部屋でのんびりする。


「大和さん、疲れましたか?」


「心地いい疲労感ってところかな。今日は早く寝ちゃうかも」


「寝てください。明日の勤務は?」


「日勤だね」


「チェスの勝負はどうだったんですか?」


「勝率8割ってところかな。最後には4面指しになりそうだったけど、ライル殿が窘めてくれた」


「フリカーナ家の傾向とか、あるんですか?」


「最初は様子見で、勝機と見たら一気呵成に攻めるって感じかな。伯爵様は攻めにくいね。のらりくらりと躱されるから。クロード様は伯爵様と似た傾向にある。ナルキサス様は猪突猛進タイプ。ライル殿は策士タイプだろうね。搦め手が得意と見た」


「大和さんは?」


「俺?自分の事って分からないけど、あっちでやってた時は搦め手からの猛攻がイヤらしいって言われた」


「搦め手からの猛攻?」


「相手の弱点を突いて、そこから攻めるんだよ。建て直す暇を与えずにね」


「分かったような気はします。でもきっと分かっていません」


「咲楽ちゃんは真っ直ぐだから。俺みたいにひねくれてるのよりは良いよ」


「大和さん、ひねくれてるんですか?」


「性格がね。何でも疑わずにはいれないし、真っ直ぐに信じることも出来ない。咲楽ちゃんの事は信じているけど、他は信じきるまでに時間がかかるね」


「疑ってるって事ですか?」


「疑っているっていうか、何か裏があるんじゃないかって、勘繰ってしまうんだよ。カークも最初は疑わしかったけど、今ではそんな事は無いでしょ?でも、時々何の為に近付いた?って思ってしまう自分が居る。嫌になるね」


自嘲気味に笑う。


「でもそうしなきゃダメな場合もあるんですよね?」


「まぁ、そうだね。すべての事柄に裏があるとは言わないけれど、少しは疑った方が良いときもあるからね」


夕食にすることにした。頂いたのはミートローフかな。切ったら卵とニンジンやアスパラガスなんかで、花のようになっていた。


「面白いね」


「これって難しいんですよね。クッキーで私もよくしますけど、クッキーは別々に作って後から合わせるってことが出来るんです。だけどミートローフは合わせられる位固くしちゃうと、食べた時、食感が悪いんです。挽肉料理なのに硬いって感じになっちゃうんです」


「芯となる物の配置と、包む物の固さのバランスって事かな?」


「そうです」


「咲楽ちゃんは作れる?」


「こんなに綺麗に出来ませんよ?」


「それでも作れるんだ?」


「作れますけど。食べたいんですか?」


「うん。また作って?」


「分かりました」


「咲楽ちゃんと一緒だと食べたことの無い物も、美味しく食べられるね」


「ここでは和食が作れないのが、残念です」


「調味料の壁だね」


「はい」


夕食後、再び小部屋で寛いでいた。


「咲楽ちゃん、こっちにおいで」


「こっちにおいでって言われる時は、たいてい乗っけられるんですが」


「以前は抱き締めてたけど、やっぱり進化しなきゃね」


「進化?」


「進化でしょ。なかなか向かい合わせに進化してくれないけどね」


「向かい合わせだと、大和さんを跨がなきゃいけないじゃないですか」


「そうだよ?」


「恥ずかしいです」


「咲楽ちゃんは、スキンシップにもうちょっと慣れが必要だね」


「慣れなんでしょうか?」


「慣れでしょ」


「大和さんってこういう事をするお付き合いって、したことがあるんですか?」


「また、痛い所を突くね」


「あるんですか?」


「ありません。そんな純粋な眼で見ないで。自分が(けが)れてるって思っちゃうから」


「でも、大和さんって恋愛経験も豊富な気がします」


「そんな物、豊富じゃないよ」


「そうですか?キスの仕方とか慣れているじゃないですか」


「そこはまぁ、傭兵時代に色々とね」


「色々とって何ですか?」


「聞きたいの?面白い話じゃないよ?」


「聞きたいです」


「そんな好奇心一杯の眼で見つめられると、照れるね」


たぶん大和さんは話したくないんだろうな。ため息を1つ吐いた。


「話したくないんですよね?」


「と、言うより、言ったら咲楽ちゃんに不快な思いをさせる気がする」


「それって聞かないと分かりませんよね?」


「そうなんだけどね。嫌われないかっていうのもあるんだよ」


「嫌う?大和さんをですか?」


「男なら、まぁ分かってくれると思うけどね。女性にはやっぱりね」


「大和さん?」


「……傭兵時代にね、毎週末、歓楽街に連れていかれてたんだよ」


「歓楽街?」


「日本で言ったら、歌舞伎町、ススキノ、中洲、といった感じだね」


「繁華街?」


「夜の街って感じかな?」


「私の苦手分野ですね?」


「そういうこと。そういった場所に毎週末行ってたんだよ」


「ごめんなさい。分かりました」


「分かってくれた?」


「たぶん……。自信はありません」


「ま、良いや。今は咲楽ちゃん一筋だからね」


「大和さん」


頭にスリスリされながら、気になったことを聞いてみた。


「ん?何?」


「王都にも歓楽街ってあるんでしょうか?」


「あるよ。騎士がたまに行くって言ってるのも聞くし、巡回で行くしね。場所は知ってるよ」


「どんな場所か興味はありますけど、行かない方が良いんですよね?」


「それはね。当たり前だよね」


「当たり前ですか?」


「男の欲望が渦巻く所に、恋人を送り出したい男は居ないんじゃないかな」


「そういう場所ですよね。知識としては分かるんです。でも現実味がいまいち無いんです」


「女性は知らない方がいいと思うし、俺は咲楽ちゃんに知って欲しくない」


相変わらず私の頭にスリスリしながら、たまにキスを落としながら大和さんが言う。


「知って欲しくない、ですか」


「俺は咲楽ちゃんだけでいいし、咲楽ちゃんには俺だけを見ていて欲しい。独占欲だね」


「私は大和さんだけしか無理です」


「嬉しいね」


「でも、大和さんに、色々我慢させてるんじゃないかって思って……」


「またそんな事を言う。我慢なんかしていないって言ったよね?」


「聞きましたけど、やっぱり不安で」


「じゃあ、こうしよう。咲楽ちゃんが向かい合わせで俺の膝に座れるようになったら、考えるよ」


良い事を思い付いたって顔でそう言って、私をソファーに降ろすと、大和さんは立ち上がった。


「風呂に行ってくるよ」


「はい。部屋に上がっていますね」


大和さんがお風呂に行って少しだけ小部屋にいた。


向かい合わせで大和さんの膝に座る?恥ずかしいって言ったけど、それ以前に抵抗がある。大和さんがって訳じゃなくて、自分からっていう事がたぶん一番の抵抗。


結界具を確認して自室に上がる。自室で何かをしようと思ったんだけど、何も手につかない。机に突っ伏していた。何もしたくないなぁ。


部屋でぼぉっとしていたら、ノックが響いて、大和さんが顔を出した。


「咲楽ちゃん、風呂に行っておいで。どうしたの?」


「なんだか何もしたくなくなっちゃって」


「気が抜けちゃったかな?」


「そうかもしれません」


「まぁ、風呂に行っておいで。その後、話でも何でもしたら良いんだから」


「はい」


お風呂に……。パジャマをどうしよう。あのロングTシャツみたいな部屋着は頂いちゃったんだよね。さすがにワンピースは遠慮した。ロングTシャツはすごく楽だったんだよね。伸縮性はそこまでなかったけど、ダボっとしたシルエットで、部屋着としてはすごく好き。この下にパジャマのズボンを履いたら、恥ずかしくないかな。


お風呂に行っても何も考える気が起きなかった。何だろう?気が抜けたって大和さんが言っていたけど、そうなのかな?伯爵邸で1泊なんて慣れない事だったから、緊張しちゃってた?


お風呂でリラックスするのは好き。こんな風にゆったりできるのは、こっちに来てからだけど。


こっちって温泉とか無いんだろうか?火山があるならあると思うんだけど、その辺りの知識は無い。大和さんなら知っているかな?


そんな事を考えたのは、行ってみたい場所の1つだったから。海、温泉、遮る物の無い地平線、自然の豊かな場所は憧れだった。


お風呂から出て、寝室に上がる。


「戻りました」


「おかえり」


手招きする大和さんに近付いたら、胡座に座らされた。


「落ち着いた?」


「はい。やっぱり気が抜けちゃってたんでしょうか?」


「知らない内に緊張してたんじゃない?」


「かもしれません」


「Tシャツ、気に入ったの?」


「ダボっとしたシルエットで、楽なんです」


「それね、ジャンヌ様と奥様がさんざん迷っていたらしいよ。ネグリジェの方がいいとかって言ってたって、飲みながらフリカーナ家の男性陣がポロポロ溢してた。最終的にライル殿の『シロヤマさんに心理的な無理はさせるな』の一言でそのTシャツになったらしい」


「そんな事を言ってたんですか?」


「言った本人達に記憶があるかどうかは別だけどね。伯爵様はその後結構すぐに寝ちゃったし」


「一番お酒が強かったのは……大和さんですよね?」


「ほろ酔いにはなってたよ。最終的にクロード様が寝落ちしちゃって、片付けようとしたら、フェリクスさんに止められた。客にそんな事をさせる訳にいかないって」


「そんな状態でチェスをしてたんですか?」


「そうだね。だからチェスの勝負は正確なところではないね」


ぎゅうっと私を抱き締めて、幸せそうに大和さんが笑った。


「大和さん、お風呂で考えてたんですけど、この国って温泉とかあるんでしょうか?」


「温泉?あるらしいよ。行きたい?」


「行きたいですけど、そんなすぐに行けるものですか?」


「場所的には馬車で1日って言ってたかな。スルステルって街がそのまま温泉街らしい。ここは王都の飛び地扱いで誰かの領地というよりは、王家の保養所がある街って所かな」


「そうなんですか。あるんですね」


hot spring(ホットスプリング)というより、spa(スパ)って感じだね」


「両者の違いは?」


hot spring(ホットスプリング)は地熱で地下水が熱せられた、いわゆる源泉掛け流しの状態、spa(スパ)は加熱したり人工的に手を加えた物も含まれるって感じかな。スルステルは火山から離れてるんだけど、30℃位のお湯が自然噴出しているらしい。30℃だと温すぎるから、加熱してるんだろうね。王都の人間もたまに小旅行みたいな感じで行くって聞いたよ」


「温泉って行った事がないんですよね」


「そうだろうと思った。必ず行こうね」


「はい」


浴衣(よくい)を貸してくれるから安心らしいし」


浴衣(よくい)?」


「ユカタじゃなくて、そのままでお湯に入れる専用の服。甚平みたいな形とか、VネックのTシャツみたいなのとか、形態は色々あるけどね。こっちのはどんなのかな?」


「それなら恥ずかしくないですか?」


「たぶんね」


そう言って大和さんが私を足の上から降ろした。


「ごめん。もう寝るよ」


「気がつかなくて。ごめんなさい」


「いいよ。俺も話したかったんだし。おやすみ、咲楽ちゃん」


「おやすみなさい、大和さん」




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