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翌朝。起きて上着を羽織って階下に降りる。大和さんはやっぱり居ない。今日も剣舞の練習かな?庭に出ると舞台の前で白い虎が伏せていた。その前には大和さん。あの虎って騎獣屋さんの?


「おはようございます」


横から声をかけられてビックリする。レベッカさんだ。


「おはようございます」


「ビックリしたかい?悪かったね。ちょっと大きな声を出せる雰囲気じゃないからね。で、あの兄さんは何をしてるんだい」


見ると大和さんは瞑想していた。今日は炎のような靄が全身を覆っている。


「炎だ……」


「炎?何の事だい?」


「ごめんなさい。あれは精神統一をしているんです」


「ふぅん……」


「レベッカさんはどうしたんですか?」


「あの虎が兄さんが帰ってから騒いでね。仕方ないから散歩に来たんだ」


「え?大和さん、エタンセルに会いに行ってたんですか?」


「昨日も来てたよ」


その時、緋龍(ひりゅう)が出て……戻らない!?しばらく虎さんと睨みあって戻っていった。


その後、大和さんは舞台に上がる。剣を手に取り深呼吸。『春の舞』を舞い始める。


虎さんは大人しく見ていた。


「すごいね。あの兄さんは舞い手かい?」


「お(ウチ)でやってたと聞きました。ただあれが本業ではないみたいです。剣術もやっています」


私の目にはずっと桜の大木が見えている。桜の花が花吹雪として舞い散る様子が見えている。やがて舞が終わった。大和さんは虎さんを一撫でしてこっちに来た。


「兄さん、すごいね。名のある舞い手だったのかい?」


「舞の方は本業じゃないです。今は騎士団員なので」


「もったいないねぇ。皆にも見せてやりたいよ」


「私なんてまだまだですよ。それより、白虎ですが、散歩の途中だったのでは?」


「ビャッコ?」


「白い虎という意味ですよ」


虎さんは大和さんに体を擦り付けている。ネコみたい。って、思ってたら、こっちに来た。私の前でお座りしてる。


「咲楽ちゃん、撫でてあげて。手の平を相手に見せてからね」


手の平を上向きにして首の辺りを撫でる。モフモフなのにスベスベしてる。


「兄さんはこいつの扱いもお手のもんだね。まぁ、でもそろそろ帰らないとね」


「そろそろ帰るってさ。ちゃんとご飯を食べて、マイクさんとレベッカさんの言うことを聞くんだぞ」


大和さんが虎さんにそう言うと、ガゥっと一声鳴いて虎さんは離れた。


「それじゃまた、明日待ってるよ」


そう言ってレベッカさんは帰っていく。


「どうだった?」


レベッカさん達を見送りながら大和さんが聞いた。


「瞑想の事ですよね。見たときには大和さんの全身を靄が炎のように覆ってました。その後緋龍(ひりゅう)が出てきて……」


ちょっと笑う。


「どうした?」


「あの虎さんと少し睨みあって、戻っていきました」


「睨み合ったって……」


話をしながら家に入る。


「睨み合うって言うか見つめ合うって言うか。そんな風に見えたんですよ」


「へぇ。咲楽ちゃんが見たなら間違いないんだろうな。あの白虎は聞き分けがよすぎる。どこかの守り神だったって言われても信じられるな」


大和さんはシャワーを浴びに行った。


朝食の用意をする。そう言えばヨーグルト、そのまま置いてあったな。食べなきゃ。

味見をするとかなり酸っぱい。マンゴーみたいなチョウカって果物はすごく甘かった。これを混ぜちゃおう。それからお昼用のお弁当……大和さんはどうしてるんだろう?


大和さんがキッチンに来た。コーヒーかな?


「コーヒーですか?」


「うん。何してたの?」


「ヨーグルトを買って忘れてたので、同じ時に買ったフルーツと混ぜてました。あ、大和さん、ヨーグルト食べます?」


「いただくよ」


朝食のプレートをテーブルに運ぶ。このテーブル、テーブルランナーか、お皿を置くためのランチョンマットが欲しいな。作っちゃおうかな。


大和さんがコーヒーを持って来た。余裕が無いって昨日は言ってたけど、今日は大丈夫みたい。


「あ、そうだ、大和さん、お昼ってどうしてるんですか?」


「昨日は市場(バザール)で買って食べた。市場(バザール)の巡回の時は買って食べるみたいだね。今日もかな」


「美味しいもの、ありました?」


「シシカバブとか基本はそんな感じかな」


朝食を食べたら出勤準備。昨日と同じように準備したら家を出る。


結界具を作動させて施療院に向かう。


「今日も副団長さんは待ってるんですかね?」


私がそう言うと大和さんが分かりやすく脱力した。


「待ち伏せしてないことを祈るけどね。多分居ると思うよ」


「それは勘ですか?」


「ほぼ確信してる」


話をしながら王宮への道を過ぎてしばらく行くと……やっぱり居た。でも、いつもと感じが違う?


「トキワ殿、昨日はお疲れ様でした。その事で王太子殿下が話を聞きたいそうです」


「召還連行ですか?」


「いえ、王太子殿下は私と来ようとしたんですがね。宰相様とサファ殿に窘められて、大人しく執務室でお待ちだそうです」


「了解。咲楽ちゃんを送ったら……あぁ二人が来ましたね」


「「サクラちゃーん!!」」


「毎朝、このパターンだね。行っておいで」


「行ってきます」


挨拶をしてローズさん、ルビーさんの方へいく。


「あ、トキワ様、昨日アリスが謝りに来てくれました。トキワ様が言ってくれたって聞きました。ありがとうございました」


ローズさんが大和さんに頭を下げた。


「王宮で偶然会ったんですよ。嫌な感じが無くなってましたから声をかけました。話を聞くようになってましたね。何があったんだか……?」


大和さんは笑って副団長さんと行ってしまった。


「昨日は大変だったわね。夕べの狼人族の方が見えてるわよ」


え?


「お礼を言いたいんですって」


施療院に急ぐ。更衣室で急いで着替えて待合室へ。そこには昨日の人と昨日の子どもが居た。


「先生、昨日はありがとうございました。デリックと言います。あの怪我で再び歩けるようになるとは思いませんでした」


「その後痛みとか違和感とかありませんか?」


「全くありません」


「昨日のお兄ちゃんは?」


突然子どもが聞いた。


「昨日のお兄ちゃんって、騎士のお兄ちゃんのこと?」


しゃがんで目線を合わせて聞く。


「うん。あのお兄ちゃん、お姉ちゃんの臭いがしたし、お姉ちゃんからお兄ちゃんの臭いがする」


思わず臭いを嗅いだ。


「人間には分かりませんよ」


笑ってデリックさんが言う。


「我々は嗅覚が人より鋭いのですよ」


そこにナザル所長とライルさんが出勤してきた。


「おや、デリックさん、もうよろしいのですかな?」


「先生にもお世話になりました。もうすっかり良くなりました」


「お姉ちゃん、猫人族みたいな臭いもする」


「こら!!カール。何をしてる!!女の人の臭いは嗅ぐんじゃない。失礼だろう」


デリックさんがカール君を叱った。途端に私の後ろに隠れるカール君。


2の鐘が鳴った。診察開始だ。


「ほら、お仕事の邪魔になる。帰るぞ」


デリックさんとカール君は帰っていった。


今日はナザル所長との診察。やって来た患者さんは私を見て


「貴女は昨日の天使様じゃないですか。デリックを治してくれてありがとうございます」


とお礼を言った。天使様って……。


「治療の間中、シロヤマ嬢の体が白く輝いておったぞ。多分光魔法の魔力が漏れていたんじゃな。知らない人からすれば天使と呼ばれてもおかしくはないのう」


と後からナザル所長に教えてもらった。そんなことになってるなんて知らなかった。


お昼までに来た患者さんの4割くらいの人が私を「天使」と呼んでいく。恥ずかしい。


お昼に行く前に魔力漏れのチェックをライルさんにしてもらう。


「昨日よりは少ないけど、まだ漏れてるね」


そうですか。早く魔力制御を覚えなきゃ。


お昼休みにローズさんとルビーさんの3人で、次の闇の日の計画を話し合う。


「トキワ様と一緒に居るのはミメット様でいいのね。やっぱり昼休憩が一番会いやすいかしら」


「何を差し入れするの?」


「そうねトキワ様の好きなものって何なの?」


「あの、よく分かりません。ごめんなさい」


「謝らないで。責めてる訳じゃないのよ」


「あ、でも、コーヒーは好きだって言ってました」


「コーヒーってあれでしょ?南方の苦い飲み物」


「ローズ、知ってるの?」


「ウチにちょっと前に持ち込んだ商人が居るのよ。少し味を見た両親のお裾分けで試飲したんだけど、苦かったわ。香りは良かったけど」


「コーヒーを使ったクッキーとかそこまで苦くありませんけど」


「作れるの?」


「クッキーなら紅茶葉を入れても美味しいですけど」


「作れるの!?」


「作れます。クッキーなら簡単ですし」


「「簡単?!難しいわよ!!」」


簡単だよねぇ。どこが難しいの?


「型抜きでも絞り出しでもアイスボックスでもドロップクッキーでも簡単ですよ」


「ちょっと待って。なんか色々出てきたけど、何それ?」


「クッキーの作り方による呼び名ですけど」


「ルビー、これ、1度作ってもらった方が良くない?」


「そうよね。分からないもの」


そうかなぁ?


「サクラちゃん、ウチに泊まりにいらっしゃい」


「急には無理です」


「そうよねぇ。クッキーって何が要るの?」


「型抜きなら、小麦粉、バター、砂糖、卵黄ですかね。小麦粉、バター、砂糖は10:6:4で覚えてます。卵黄は水分調整もかねてますからコーヒーを入れるなら卵黄を使わなくてもいいかも。紅茶葉はできるだけ細かいものを使います。その方が香りが出やすいし食べやすいので」


「詳しいのね」


「お料理は好きなんです」


「お料理だけじゃないでしょ。お裁縫も上手じゃない」


「裁縫は趣味なので。刺繍も、小物とか作るのも好きです。時間があったら色々したいんですけどね」


「色々って?」


「この中庭もガゼボだけだと淋しいですよね。花壇とか、ベンチとか在って良いと思うんです。私はベンチは作れませんけど」


「ベンチはウチの商会で取り扱ってるわよ」


「あぁ、ジェイド商会ならあるでしょうね」


「ローズさんのお家って商会なんですか?」


「そうよ。そうだ、ウチにいらっしゃい。色々道具もあるわよ。私には使い方が分からないのもあるけど」


「商会の娘がそんなことでいいの?」


ルビーさんがニヤニヤしてる。


「良いの!!上の兄様が後を継ぐし、私は何をしてても良いって言われてるんだもの」


話がまとまらないなぁ。


「闇の日の事、良いんですか?」


「サクラちゃん、冷静ね……闇の日の事ね。いったん施療院に集合してウチに来る?材料とか道具も揃ってるし」


「そうね。ローズの家の方がいいわね。私の家はまたの機会ってことにするわ」


「2の鐘に施療院に集合ね」


3人で診察に戻る。


昼からもスキャンをしてナザル所長が治療。時々治療を任せてもらえた。


患者さんが途切れたとき、ナザル所長が言った。


「シロヤマ嬢、元の世界はここより進んでいたのかね?」


「文明と言う意味ならそうかもしれません。ここには魔法があるからそちら方面で停滞してしまう技術もあると思います。けど、あちらではスキャンの魔法とかなかったから、全身を調べるのに大きな医療機器がありました。その部分だけ調べるにも時間がかかるんです。それに……結界具、ありますよね。ああ言うものは無かったです。せいぜい侵入者に対して音や光で追い払うぐらいです」


「そうなのか。昨日の夜、シロヤマ嬢が浄化魔法を使ったじゃろ?」


「浄化魔法?」


「無意識か?辺りを綺麗にしたじゃろう。あれで助かる患者が増えた。今までだとああ言った現場では何日か後に傷が化膿して、時には全身状態が悪くなる患者がいたんじゃ。今回はなさそうだ、と思ってな」


「あちらでは医療現場の清潔保持は基本でしたから。簡易的な滅菌ルームを作る道具もありました」


「滅菌?」


「空気中にも、こういった椅子なんかにも、常在菌というのがいるんです。中には有害な菌もいます。感染のリスクを減らすために常在菌を極力滅することを滅菌と言います。といっても、日常生活ですべてを消毒滅菌してしまうと耐性がなくなってちょっとした風邪なんかでも命の危険が、ってことになりかねませんから、その辺は注意が必要ですけどね」


「勉強になるのう」


いくら清潔を心がけて感染リスクを減らしても、防げない病気もある。それはあちらもこちらも同じだ。あちらでは感染を防ぐために過剰消毒する人と、全く考えない人がいた。


いつの間にかナザル所長の診察室にみんなが集まっていた。


「時間を忘れてしまうわね。もっと話を聞いていたいけど、そろそろ5の鐘のようよ」


ルビーさんの視線をたどるとマルクスさんが居た。


「相変わらずマルクス殿はきっちりしておるな。今日はもう患者も居なさそうじゃしこれで閉めるとするか」


5の鐘にはまだ少し時間がある。ローズさんとライルさんが一緒に待っていてくれた。


「ねぇ、サクラちゃん、誕生日っていつなの?」


「もうすぐだったはずなんですが、こっちに来た日の2~3日前に1ヶ月前って話してましたから……2週後の闇の日?かな」


「あら、お祝いしなきゃ」


「そんな。いいです」


「遠慮しないの。ねぇ、ライル様?」


「そうだな。こちらに来て初めての誕生日なんだろう。当日は闇の日で休みだから前日にすればいいんじゃないか?」


5の鐘が鳴った。


「もうすぐコルドね。雪が降ると一気に寒くなるわね。寒いのは苦手だわ」


「こっちでも雪って降るんですか?」


「たまに積もる程度にはね。そろそろ暖炉の準備もしないと。薪とかね」


「ジェイド家は商会で仕入れるから良いじゃないか」


「あの、薪とかってどうすれば良いんですか?」


「それは私も知りたいですね」


「大和さん」


「待っていただいたようで申し訳ない。薪の事については……」


「ウチで取り扱ってるわ。そうそう、次の闇の日、サクラちゃんを借りるわね」


「彼女が了承してるなら構いませんが」


「ちゃんと送っていくから大丈夫よ」


「ジェイド嬢、そろそろ帰らないと暗くなるぞ」


「そうね。じゃあサクラちゃん、また明日ね」


「はい。お疲れ様でした」


帰路につく。


「何を話してたの?」


「暖炉の薪の事とか、誕生日の事とか……」


「誕生日?いつなの?」


「10月の12日です。こっちだと2週後の闇の日です」


「そっか、ならお祝いしなくちゃね」


「大和さんはいつなんですか?」


「俺?5月21日」


へぇ。覚えておこう。


帰り道の途中で市場(バザール)に寄る。そろそろスープとか作りたいな。ちょっと肌寒くなってきたし。ポトフとかいいかもしれない。


市場(バザール)でいくつかの野菜とベーコンなんかのお肉、小麦粉を買う。


買い物の後、デリックさんとカール君に会った。


「騎士のお兄ちゃんだ!!」


「昨日は、助けていただいてありがとうございました」


「当然の事をしたまでですよ。お怪我の方はもうよろしいのですか?」


「こちらの天使様のお陰で」


「天使様って止めてください」


「分かりました。面と向かっては呼びません」


分かってない!!


「騎士様の名前をうかがってもよろしいですか?」


「あぁ、これは名乗らず失礼しました。私はヤマト・トキワと申します」


「サクラ・シロヤマです」


突然ヴォルフさんが跪いた。


「私はトキワ様とシロヤマ様に命を救われました。この命、いかようにもお使いください」


えっと……。


「立ってください。そこまでの事じゃないですよ。カール君が元気に育つことこそが、一番の恩返しです。それには貴方が元気でなくちゃいけない。そうでしょう?」


「それでは気がすみません!!」


「では、私に向けてくれるその心を、他の人に分けてやってください。どんな小さな事でも構いません。不便を感じている人の手助けでも、自分の手に負えないことでしたら、騎士団に届けていただく、そんな事でも構いません」


「私は字が書けません。騎士団に届けるのは無理です」


「口頭でいいんですよ。受付の人間が文章にしてくれますから」


「それで良いんですか?」


「えぇ。それでいいんです」


デリックさんは何度も頭を下げて帰っていった。


「そう言えば昨日の崩壊現場、どうなったんですか?」


「片付けの依頼を冒険者ギルドに出した。ついでに新しく家を建てるそうだ。費用は分割にする。スラムの者でも無理のない金額でね」


「それって公営住宅みたい」


「提案したら通った。違うのは買い取りになるってことかな。スラム街を無くすために職業斡旋は冒険者ギルドが、読み書きを教えるのは神殿が協力することになった」


それって大変そう……。


「勉強は最初は子どもからだね。文字や計算を覚えたら希望者には家事や戦い方も教える。孤児院でやってることをスラムでもするんだよ。大人も希望者には教えるけどね」


「それも大和さんが?」


「これは何人かの貴族から。普段内政に携わっている方々で、なんとかできないかって思ってたらしいよ。エリアリール様も賛同されていた」


「大和さん、クッキーとかって食べます?」


「うん。多くは食べないけどね」


「何のクッキーが好きですか?」


「何でも食べるよ、ってかそんなに種類って有ったっけ?」


「うーん、ナッツとか無いかなぁ」


「今すぐ要るの?そうじゃないなら明日考えたら?」


「そうします」


「今日は何を作るの?」


「ピカタとかですかね。そのまま焼いてもいいけど」


家に着いて着替えて夕食の準備。大和さんは何かの計算?


「何してるんですか?」


「奉納舞の日時の計算。いつにしようかと思ってね。神殿と王宮の希望は闇の日だそうだよ」


「奉納舞って神殿でするんですよね」


「うん。4週後かな。ちょうど休みだし」


「絶対に見に行きます」


「ん?咲楽ちゃんには見届けてもらわないと。『見に行きます』じゃなくて来てもらわないと困る」


「それってこの眼のせいですか?」


「違うよ。最初のきっかけが『咲楽ちゃんに見せたい』だったからね。きちんと完成した舞いを見てほしい」


「今朝……」


「ん?」


「ずっと桜が見えてました。花が舞い散るのが見えてました」


「そうか。見えてたか」


嬉しそうに大和さんが言う。


出来た夕食をテーブルに運んで……あ、そうだ。


「大和さんの好きな色って何色ですか?」


「何?突然」


「ランチョンマットとかテーブルランナーとか作ろうと思って。ランチョンマットはやっぱり好きな色の方が良いじゃないですか」


「そう言うことね。そう言うことなら……」


意味ありげに私を見て笑った。


「サクラ色かな」


「からかってますね?」


「ははっ。悪い悪い」


一頻り笑った大和さんは笑いを収めるとしばらく考えてから言った。


「好きな色ね。水縹(みずはなだ)とか好きだったな」


水縹(みずはなだ)?」


「緑と青の中間色かな。中間色が好きなんだ」


緑と青の中間色かぁ。


「咲楽ちゃんはどんな色が好きなの?」


「桜色です」


「ネタじゃなくて?」


「ネタだと思われるんですけど、ほんとに好きなんです」


「桜色って可愛い色だよね。花も桜が好きなの?」


「はい。あ、でも枝垂桜が1番好きです」


「枝垂桜ってちょっと濃いピンクだよね」


「大和さんは好きな花とか無いんですか?」


「梅かな。白梅が好きだな。紅梅も、臘梅も好きだけどね」


なんか似合ってる気がする。あ、でも……。


「なぜ『春の舞』は桜なんでしょう?」


「ん?」


「春って色んな花が咲くじゃないですか。なのに私に見えるのは枝垂桜なんです。なぜなんでしょう?」


「そりゃあ、その人の心象風景だから。あの舞を『春』と認識した人のイメージする春の象徴が見える、らしい」


「人によって違うってことですか?」


「うん、そう」


食べながら話をしていたらいつもより遅くなっちゃった。


後片付けをして2階に上がる。その後、大和さんはお風呂に、私はランチョンマットの布を選んだ。大和さんは緑と青の中間色だったよね。どれがいいかなぁ?


これ、大和さんに選んでもらった方が良いかも。何種類か布を出しておく。


私は、薄いピンク……無いなぁ。ちょっと濃い目だけどこれでいいかな。でもこの色、ちょっとオレンジ掛かってて綺麗。


「咲楽ちゃん、空いたよ」


「はい。あ、大和さん、この色の中でどれがいいですか?」


「ちょっとお邪魔するよ。どれ?」


「この中で、です」


「この中なら、これかな」


大和さんが選んだのはピーコックブルー。


「咲楽ちゃんはどの色にするの?」


「これです」


「これってパパラチア?」


「そんな名前なんですか?」


「1度しか見たことないけどね。こんな色だったと思う」


「へぇ。また教えてください」


お風呂で考える。ランチョンマットは色は決まった。テーブルランナーはどうしよう。


テーブルが木目をいかした暖かい色だから引き締めた方が良い?いっそ季節によって色を変えちゃおうかな。


お風呂から上がって寝室へ。


あ、そうだ光球の制御の訓練をしなきゃ。


「大和さん、ちょっと明かりを消して良いですか?」


「なにするの?」


「魔力制御の訓練です」


明かりを消して、光球を出す。最初から小さく、ピンポン球位にして……。


「綺麗だな」


大和さんが呟いた。


「大和さん、私が初めてアルフォンスさんの治療をしたとき、もしかして私、光ってました?」


「光ってたよ。だから騎士団の連中が咲楽ちゃんの事を『天使ちゃん』なんて呼んでた」


恥ずかしい……。


「大和さんはなんて呼ばれてたんですか?」


「さぁ?そんな二つ名みたいなのは聞いてないけど」


「絶対にありますよね、二つ名」


「無いって。あっても呼ばせない」


「ズルい……」


「って言われてもね」


「じゃあ、あっちにいるとき、あだ名とか無かったんですか?」


「あだ名ねぇ。傭兵時代はリュコスだったな」


「リュコス?どうして?」


「恥ずかしいから教えてあげない」


「意地悪です……」


「咲楽ちゃんはあだ名とか無かったの?」


「無かったです。そのままサクラって呼ばれてました」


ベッドに横になる。光球の維持って疲れる。


「大丈夫?」


「これ、結構疲れます。あ、そうだ。大和さん、魔力の回復方法って睡眠だけじゃないみたいです」


「そうなの?」


「接触して魔力を流してもらっても良いって」


「それって同性とか親しい人とか家族限定だね」


「どうして?」


「咲楽ちゃん、魔力切れになったとき、知らない男の人に手を握られて平気?」


「無理です!!あぁ、そう言うことですか」


「そう言うこと」


そう言うと、大和さんは私の方に手を伸ばした。


「俺は?平気?」


「はい。大和さんは怖くないです」


「そう。良かった。でも俺は咲楽ちゃんの魔力タンクにはなれないな。魔力量が違いすぎる」


え?


「だからいざというときは手を握っているしかできない」


「手を握ってくれるだけで、安心できます」


私も大和さんに手を伸ばす。大和さんなら安心できる。大和さんでないと安心できない。


光球を消す。


その夜は大和さんと手を握りあって眠った。



ーー異世界転移19日目終了ーー

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