19
今日は光の日。施療院への初出勤の日だ。朝起きて準備をする。持っていくものってアレンジした白衣と……何を持っていけば良いの?
朝食の準備のついでにパンにソーセージと野菜を挟んでホットドック風にする。それを綺麗な布で包んでお弁当にする。えぇっと、後は……
大和さんが入ってきた。
「おはようございます」
「おはよう。緊張してる?」
「緊張って言うか、何を持っていったら良いかわかんなくて……」
「それは俺もアドバイスはできないなぁ。でも昼食と筆記具位でいいんじゃない?後は少しだけ金を持っていくとか」
「お金?」
「何で要るか分からないからね。大銀貨2~3枚かな」
大和さんはシャワーに行った。けどお金かぁ。小さな巾着に入れて魔空間に閉まっとこう。
少しして大和さんがシャワーから戻ってきたんだけど……
「大和さん、髪、濡れてます」
「うん。それは分かってるんだけどね」
どうしたんだろう……。
「髪、乾かします?」
「いや、自分でやるよ」
「どうかしたんですか?」
「朝から嫌な感じが消えなくてね。何かが引っ掛かってる、って言うか、面倒事って言うか……」
「大和さん、そういう感覚が強くなってるって言ってませんでしたっけ?」
「だから気になってね。十中八九、騎士団絡みな気もするけどね。朝御飯食べちゃおうか。今日はちょっと早く出る?」
「はい。道にも慣れたいし」
「歩いてだと30分ってとこだったね」
朝御飯を食べ終えて出勤の準備。服装は華美にならないように。パンツスタイルの方がいいかなぁ?白衣をワンピースみたいにしちゃったから、うん。やっぱりパンツにしよう。
階下に降りると大和さんが待っていた。思わず見とれる。格好いい。シャツにボトムスにジャケット、っていつもと同じようなスタイルなんだけど、謁見の時のように髪を後ろに流していてすごく似合ってる。
「行こうか」
大和さんが言って結界具を作動させる。並んで歩きだした。
「私を送ってくれた後、そのまま王宮に行くんですか?」
「そうだな。あぁ、帰りも迎えにいくよ。一人でこの道を帰らせるの、俺が嫌だし」
「そんな。悪いです。一人で……」
「良いから。迎えにいくね」
結局、迎えに来てもらうことになっちゃった。
王宮への道を過ぎて少し行ったところで副団長さんが立っていた。
「おはようございます。待ってましたよ、トキワ殿」
大和さんが脱力してる。
「待ち伏せとか。逃げませんよ」
「いえいえ、たまたまですよ。待ち伏せていた訳じゃありません」
笑いながら言う副団長さん。さっき待っていたって言ったのに。副団長さんは濃い青の騎士服を着ている。
「それが制服ですか?」
「そうですよ。コラダーム国の王宮騎士団の制服です。近衛は濃い赤、王宮騎士団は濃い青、地方騎士団は濃い緑です。神殿騎士団は白ですけどね」
そうなんだ。色でどこ所属とか分かるって事?
施療院に着いた。ローズ先生が待っててくれた。
「シロヤマさん、今日からよろしくね。更衣室に案内するわ。トキワ様、お迎えに来てくださるんでしょ?5の鐘の前に来てくださったらいいわ」
「了解。では頼みます」
大和さんは副団長さんと歩いていく。
ローズ先生と更衣室に行ってアレンジした白衣を出して着替えた。
「可愛いわね。その白衣。私も何かアレンジしようかしら?でもどうしたら良いのか分からないのよね」
ローズ先生は美人さんだから女医さん風とか似合いそう。
話しながら着替えていると、ルビーさんが出勤してきた。
「ローズ、早いのね……あぁ、なるほど。シロヤマさんはローズの教え子だから、早く来て色々教えようって訳?」
「良いじゃない」
「はいはい。ではローズ先生、シロヤマさんの指導はお任せいたします」
ルビーさんは笑って行っちゃった。
「もうっ。ルビーったら……あ、シロヤマさん、準備できた?こっちに来てね」
ローズ先生に着いていく。
「大体の流れね。患者さんが受付に来ると施療師に振り分けられるわ。受付では大体の症状を聞き取ってくれるから、それを元にまずは診察。外傷なら見て分かるけど、あの時のダーナ様のように内部の怪我は分からないから、スキャンの魔法を使うの。スキャンは手の平に極薄く魔力を集めて相手の体内の魔力を探るの。異常があるとその部分に魔力が集まってるからすぐ分かるわ。最初は誰かに着いてもらってスキャンをしてもらう感じね」
「魔力を薄く集める?」
「そう。シロヤマさんは魔力を見れるんでしょ?だったらすぐに出来るわよ。まずは魔力操作で手の平に魔力を集めてみて」
「えぇっと、手の平に魔力を集めて……」
「そう。そんな感じ。じゃあ、私の手でスキャンしてみて」
「はい」
集中してローズ先生の手をスキャンする。あれ?
「先生、手首の辺り、何か痛めたりしたことあります?」
「手首の辺り?昔痛めたことはあるけど、今は特に症状は無いわよ」
「靭帯が少し伸びているみたいです」
「そんな事分かるの?あ、ナザル所長がいらしたわね。挨拶しに行きましょうか」
ナザル所長に挨拶に行く。
「おはようございます。今日からよろしくお願いします」
「あぁ、シロヤマ嬢。今日からでしたな。今日は1日ジェイド嬢に着いてください。ジェイド嬢、スキャンの魔法は?」
「さっき教えました。すでに成功してます」
「そりゃ、凄い。そろそろ時間ですな。朝礼をしましょうか」
皆が治療室に集まってナザル所長の挨拶。
「皆、おはよう。今日は光の日だから少し患者が多いかもしれん。手分けしていくが、無理そうなら協力していくことも大切じゃ。よろしく頼む。それと今日からアリス嬢に代わってシロヤマ嬢が来てくれる事になった。今日1日はジェイド嬢に着いてもらう。シロヤマ嬢、一言良いかな?」
「今日からお世話になります。サクラ・シロヤマです。よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げる。
2の鐘が鳴った。診療開始だ。まず来たのは、あれ?神殿騎士団で見たことある人だ。えぇっと、名前は……エイベルさん。お爺さんを連れてる。
「おや?天使ちゃん。今日からここなの?」
天使ちゃん?
「あぁ、失礼。シロヤマ嬢。ジェイド嬢がここでも先生ですか?」
「エイベルさん。今日はどうしたんです?」
「今日は祖父の付き添いですよ」
「ジェイド先生、腰が痛くて堪らんのです」
「いつから?」
「4~5日前に痛めましてな。安静にして様子を見てたんじゃが、痛みが引きませんでしてな」
「ちょっと診てみますね」
ローズ先生がスキャンをかける。
「腰の骨がちょっとおかしいわね。シロヤマさんも診てみて」
「はい。失礼しますね」
腰をスキャンする。これ……ヘルニアになりかけてる?
「腰の関節から椎間板……内部組織が出かかってます」
「治療は出来そう?」
「痛みをブロックしてから関節内に組織を戻せば大丈夫です」
「やってみる?」
「良いんですか?」
「えぇ、一応ナザル所長を呼んでくるわ」
ローズ先生が行っちゃった。
「天使ちゃん、いや、シロヤマ嬢。分かるんですか?治りますか?」
「はい、治します。それより『天使ちゃん』ってなんですか?」
エイベルさんが頭をかきながら教えてくれた。
「前にアルフォンスの治療をしたでしょう。その時からのシロヤマ嬢の神殿騎士団内でのシロヤマ嬢の呼び名ですよ」
「天使ちゃんねぇ」
ローズ先生とナザル所長が笑いながら入ってきた。
「どれ、ちょっと診せてみなさい」
ナザル所長がスキャンする。
「シロヤマ嬢の言う通りのようじゃの。シロヤマ嬢、治療してみなさい」
ローズ先生を見ると頷いてくれたので、治療を開始する。腰の組織図を頭に思い浮かべて、まずは痛みの神経をブロック。次にその神経に触れないように慎重に椎間板を腰関節内に納める。
「終わりました」
「見事なもんじゃな。完璧に治っておる。痛みはどうじゃ?」
お爺さんは恐る恐る腰を曲げて確かめると深々と頭を下げた。
「痛みが消えましたじゃ。ありがとうございました。お嬢さんは孫の言う通り天使のようじゃな」
にこにことそう言ってくれるお爺さん。天使のようって辞めてください。
お爺さんとエイベルさんは帰っていった。
「見事じゃな、シロヤマ嬢。ただなぁ……」
ナザル所長が難しい顔で考えながら言う。何か失敗したのかな?どうしよう。
「シロヤマ嬢は魔力制御をしないといけない。一言で言うと無駄な魔力を使って治療しとるんじゃ。他の時は良いみたいじゃが、治療するときだけかな?失敗はしとらんから顔を上げなさい」
顔を上げるとナザル所長とローズ先生の笑顔があった。
「まぁお昼まではスキャンに慣れなさい。魔力制御はまた教えよう」
「はい。ありがとうございます」
「あれでは騎士団の連中が天使ちゃんと呼ぶのも無理はないのう」
ナザル所長はそう言いながら出ていった。
「天使ちゃんってどうして呼ばれだしたの?」
ローズ先生に聞かれて、さっきエイベルさんに聞いた話をする。
「あぁ、あの時の……じゃあトキワ様は何て呼ばれてるのかしらね」
うふふ、と笑いながらローズ先生が言う。
その後も20人位の診察をして3の鐘が鳴った。
「今日はもう良いみたいね。たまに駆け込んでくる患者さんがいるんだけど。お昼にしちゃいましょうか。そう言えば、シロヤマさんはお昼はどうするの?」
「持ってきました。簡単なものですけど」
「じゃあ一緒に食べましょうか。ルビー、行くわよ」
「はーい、ローズ先生」
ルビーさんが笑いながら出てきた。
3人で中庭に行く。そこにあったガゼボに座りそれぞれ魔空間からお弁当を取り出す。
「あら、それだけ?少なくない?」
ルビーさんにそう聞かれた。元々あまり食べられないことを言うと、なんだか納得された。
「ねぇ、シロヤマさん、って呼びにくいんだけど、サクラちゃんって呼んで良い?私の事はルビーで良いから」
「あ、ルビー、ズルい。私もサクラちゃんって呼びたい。私もローズで良いわ。先生ってつけなくて良いからね」
ルビーさんとローズ先生にそう言われた。
「ねぇ、トキワ様ってどんな方なの?サクラちゃんの婚約者なんでしょ?」
どんなって言われても……。
「あ、この施療院内の人間は一応の事情は知ってるわよ。軽々しく言えることじゃないのも分かってる」
ローズ先……ローズさんが言ってくれる。大和さんがどんな人って……。
「大和さんは優しい人で、いつも私を気遣ってくれます。強い人です。精神的にも。いつも私は頼ってしまって……」
いつも頼ってしまってばかりで情けなくなってくる。
「良いんじゃない?」
ルビーさんが言う。
「頼られると嬉しいと思うわよ。アリスじゃないけど、狙ってる人も多そうだけど、歯牙にもかけなさそうだしね。この前来たじゃない?その時もサクラちゃんの事しか見てなかったし」
「あの、大和さんの事……」
「カッコいいとは思うわよ。でもねぇ、貴女しか見ていないのが丸分かりだったじゃない。あんなに分かりやすいのにアタックしたアリスが、ある意味スゴいって思ったもの。それに私も婚約者がいるし」
「婚約者さん、いるんですか?」
「えぇ。幼馴染みよ。トキワ様程カッコよくないけど、私には優しいの。今日も仕事終わりに迎えに来てくれるわ」
「良いわよね、二人とも。迎えに来てくれる婚約者がいて」
「ローズさんは居ないんですか?」
「いるわよ。けど今は隣の領に文官として出張中。フラーの芽生えの月に帰ってくる予定ね」
「そう言えばトキワ様の所属はどこになったの?」
「今日王宮で決めるそうです」
「だから朝からアインスタイ副団長がいらしてたのね」
お昼休みは恋バナで盛り上がった。
午後からもスキャンに慣れるためにローズさんと一緒に診察。4の鐘が鳴った辺りから患者さんの数が一気に減った。
「あら?お迎えが来てるわね」
外を見ると大和さんがいた。濃い青の騎士服を着てる。あれは王宮騎士団の騎士服?
もう一人の優しそうな男の人と話してた。
「あれは王宮騎士団の騎士服ね。所属が王宮騎士団に決まったのかしら?」
5の鐘が鳴った。
ナザル所長が来てくれた。
「シロヤマ嬢、初日お疲れ様でしたな。明日から魔力制御の訓練もしていきましょう」
「はい、お疲れ様でした。お先に失礼します」
ローズさん、ルビーさんと一緒に更衣室で着替えて施療院を出る。
「大和さん、お待たせしました」
「咲楽ちゃん、お疲れ様。ではマルクス殿、失礼します」
会釈して二人で歩き出す。
「今日はどうだった?」
「1日スキャンをしてました。治療したのは数人です。ローズさんにずっと付いてました」
「スキャン?」
「魔力でCTスキャンみたいに診るんです。悪いところに魔力が集まってるからどこがどう悪いとか分かるんですよ」
「スゴいな、それは。医療機器要らずって訳か」
「大和さん、所属はどこになったんですか?王宮騎士団の騎士服を着てますけど」
「1ヶ月は王宮騎士団で次の月は神殿騎士団だな。要するに掛け持ちだ。で、出来れば奉納舞は眠りの月までにして欲しいと話があった。あと1ヶ月くらいだな」
「掛け持ちって大変じゃないんですか?」
「まぁ、1ヶ月交代だからまだ楽かな。ちょっとした事情で週に3ヶ所の掛け持ちをした事もあるけど、あれは大変だった。正式に働いた訳じゃなくて、指導兼手伝いって感じだったけど」
ちょっと遠い目をする大和さん。週に3ヵ所って頭がこんがらがりそう。
途中で市場に寄って香辛料を見る。
ターメリック、クミンシード、コリアンダー、レッドペッパー、ガーリック、ジンジャー……あれ?これってカレーが作れるんじゃ?
「大和さん、辛いのは得意ですか?」
「ある程度ならね。激辛は無理だけど」
私はカレーは中辛なんだよね。スパイスからカレーを作ったこともあるけどあの時もレッドペッパーを控えめにした。
カレーを作るならフルーツも入れちゃおう。マンゴーみたいなチョウカってフルーツとヨーグルトを購入。後はお肉かな?
お肉のコーナーで私は固まった。蛇肉が売ってる!!顔がディスプレイされてるっ!!大和さんが動いて視線を遮ってくれた。なんとか鶏肉っぽいのを買って、帰路に着く。
「大丈夫?不意打ちだったな」
「はい。生きてるのよりは平気です。けど、あれ、食べるんですか?」
「食べるねぇ。南米行ったときに出てきた」
食べた事あるの!?そう言えばプロクスさんが『これだけ大きければ皮にしても肉にしても良い値が付きますよ』って言ってた気が……。まさかあれって……。
幻影を振り払いながら家に帰って着替えてから夕食の準備。大和さんは今日も目に入るところで居てくれる。
「大和さん、所属が掛け持ちって決まったって言ってましたけど、近衛は何か言わなかったんですか?」
「近衛の出席はなかった。第二王子はいたけどな。第二王子は今は王宮騎士団所属らしい。近衛は王宮騎士団から選出されるらしいな。第二王子を一応団長に据えてるから実質副団長がトップなんだってさ」
「へぇ。そうなんですね。あれ?第二王子殿下って近衛入りを表明してるって言ってませんでしたっけ?」
「あぁ、近衛は一旦王宮騎士団に所属して5年以上と言う決まりがあるらしくてな。第二王子と言えどもその決まりを守っているらしい」
話をしながらお夕飯を食べる。
「大和さんの騎士服、カッコよかったです」
ポソっと呟くと思わぬ反撃が来た。
「そう?俺は咲楽ちゃんの白衣姿を見たかったけど。見せてくれないの?」
あ、からかわれてる。だって恥ずかしいし。食べ終わって後片付けをしてたら、誰か来たみたい。
「ん?プロクスか?」
大和さんがドアを開けに行った。
部屋に入ってきたのはプロクスさんと、もう一人は誰?
「失礼します。トキワ殿、お久しぶりです。お嬢さん初めまして」
「こちらは私の幼馴染みでして。今は王宮騎士団所属のパーシヴァル・ミメットです」
「パーシヴァル・ミメットです。よろしくお見知りおきを」
「王宮のあの時以来ですね。改めましてヤマト・トキワです」
大和さん、この人とお知り合いだったの?
「初めまして。サクラ・シロヤマです」
「昼過ぎにペリトード団長が王宮から帰ってきて、トキワ殿を王宮騎士団に取られた、何て言うものですからあちら所属になったんだと思ってたんですよ。よく聞くと神殿と王宮の掛け持ちだというじゃないですか。で、5の鐘前にパーシヴァルが私を訪ねてきましてね。トキワ殿と話がしたいがなんとかならないか、と言ってきたのですよ。遅い時間でしたが、こうして連れてきた、と言うわけです」
「突然申し訳ない。トキワ殿は私の隊に入っていただく事になりました。会議は紛糾しましたよ。神殿騎士団に友人がいるのは私だけじゃ無いですから。それぞれトキワ殿の事を聞いてきてましてね。どこに組み入れるのがいいかが白熱しまして。結局面識のある私の第2隊に組み込まれることになりました」
「ちょっと待ってください。昼からの会議ってそれだったんですか?それはともかく王宮騎士団って第何隊まであるんです?」
「あぁ、やっぱり副団長はその辺を説明しませんでしたか。それを説明に来たのです。いつもなら入団後に副団長が説明をするのですがね。王宮騎士団は第5隊までです。王都内の東の巡回、西の巡回、市場の巡回に2部隊、休みの部隊とローテーションが組まれています。大体5日に1度休みになりますね。これが今月の第2隊のシフト表です」
1枚の紙が大和さんに渡される。
そこには東、西、市場(東)市場(西)、公、自という文字が書かれてあった。公って何?
「大和さん、公って何ですか?」
「公休、休みって事かな。合ってます?」
「その通りです。今月はありませんが公式行事の際には『式』が入ります。トキワ殿の奉納舞の時は『式』ですね」
「はい?何故に公式行事扱いなんです?」
「王族の方々が楽しみにしていますからね」
「そうですか。この『自』と言うのは?」
「それは個人的な休みの事です。トキワ殿なら月に5日、自分のための休みが使えます。申請していただければ、ですけどね」
「あ、神殿騎士団とシフト表記はほぼ共通です。神殿騎士団の場合は『早、遅、昼、公、自、式』ですね」
プロクスさんが言う。
「トキワ殿はしばらく、と言うかこの月は、私とバディを組みます。王都内の事を覚えていただくためです。明日は東の市場ですね。市場の場合は私服での巡回になりますので、私服を持参してください。今日みたいな服で良いですよ。出退勤は濃青の騎士服です。私服に着替えての出動となります。市場の巡回は概ね出勤後から5の鐘前まで。後は明日、お話ししますね」
「もうひとつ教えてください。私たちの事情は?」
「王宮騎士団は部隊長以上は知っています」
「神殿騎士団は団長、私とデルソル、アルフォンスの4名ですね」
「お伝えすることは以上です。あ、そうそう、トキワ殿、プロクスからバトルホースを手にいれた、と聞いたのですが、どこにいるんです?」
「準備が整っていないので、騎獣屋に預けてます」
「見たかったなぁ。バトルホースは憧れです。私はバトルホースには認めてもらえませんでしたから、普通の馬なんですよ」
「パーシヴァル、その辺で止めとけ。すみません、トキワ殿、パーシヴァルは馬バカなんですよ。休みの日は騎士団の馬の管理場に行って、馬を眺めているんです」
「自分の馬は?」
「もちろんいます。鹿毛の馬でしてね。可愛いんですよ」
部隊長さんはニコニコしている。よっぽど好きなんだろうな。
「あ、そうだ。ピガール殿からエタンセルの受け入れ準備ができた、と連絡がありましたよ」
プロクスさんが言う。
「いつ連れていけば良い?」
部隊長ーーパーシヴァルさんがシフト表を見る。
「一番早いのは3日後ですね。私も一緒に行って良いですか?」
「パーシヴァル、バトルホースを見たいだけだろう」
「当たり前だ。ついでに管理場までご案内しますよ」
「ではお願いしても?」
「任せてください!!」
ニコニコしてる。本当に馬が好きなんだろうな。
「お二人とも、紅茶でもいかがですか?」
「いただいて良いですか」
立っていってキッチンでお湯を沸かす。その間にカップの用意。ソーサーも出して、あ、お茶菓子が無い。茶葉は……大和さん、どうするんだろう。
「大和さん、紅茶にします?コーヒーを淹れます?」
「紅茶、貰える?」
「はい」
茶葉は4人分。紅茶を淹れ終わると大和さんが来て運んでくれた。
「シロヤマ嬢はトキワ殿とまだ結婚していない、婚約者の状態なんですよね」
パーシヴァルさんに聞かれて噎せそうになった。
「いきなりどうしたんです?」
大和さんが聞く。
「なんと言うか、自分の婚約者と比べてしまいました。いけませんね、こんなことじゃ」
「婚約者と比べるな」
「部隊長の婚約者ってプロクスの知り合いか?」
「そうなんですよ。仲が良くってね」
えぇっと、婚約者を他の女性と比べちゃダメだと思う。
「婚約者を他の女性と比べるなんて、その婚約者に悪いでしょう」
大和さんが窘めた。
「あ、そうだ。家にも遊びに来てください。両親が楽しみにしているんです」
え?どうして?
「たぶん私がトキワ殿の事を話すからでしょう。事情については話してませんが」
「俺と咲楽ちゃんとプロクスの休みが合えば、だな」
「なんなら合わせるようにシフトを組むけど」
「公私混同はダメでしょう」
大和さんが笑ってる。
「そろそろお暇します。長い間お邪魔してしまいました」
プロクスさんがそう言ってパーシヴァルさんを促して立った。
「では、明日」
二人は帰っていった。
家の中に入って後片付けをしてたら6の鐘が鳴った。
お風呂に入って、寝室へ。
「パーシヴァルさんって面白い人ですね」
「そうだな」
「今朝言ってた『嫌な感じ』ってなんだったんですか?」
「あぁ、あれ?多分行ってすぐに団長と副団長相手に模擬戦させられた事かな。二人だけじゃなく全部で5回戦させられた。その中に第二王子も入ってた」
えぇ!?
「だから帰りは王宮騎士団の騎士服だったんだよ」
「そうだったんですか。お疲れ様です」
「咲楽ちゃんの顔見たら、疲れなんて吹き飛ぶけどね」
あはははは~。
ーー異世界転移17日目終了ーー