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異世界転移って本当にあるんですね   作者: 玲琉
芽生えの月
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緑の日。今日から建国祭に入る。市場(バザール)で屋台を出す人たちは、今日から屋台をオープンさせるし、建国祭の為に王都を訪れる人も増える。人が増えればケンカやトラブルが増えるのはどこの世界も同じらしく、大和さん達騎士団は大忙しらしい。神殿騎士も王都の警邏に駆り出されている。施療院にもケンカをしたとかで来院する人が増えてきた。


ついでに私達を見る為()()の人も増えてきている。()()()「フルールの御使者(みつかい)なら、施療院に行けば見られますよ」と、訪れた人に教える人がいる所為(せい)だ。


はっきり言って迷惑だ。


どうやら「ただ見に来るだけの人」が多いという件は、常連さんによって王宮に複数回訴えられたらしく、対応をしてもらえることになった。とは言っても人の口に戸を立てられない以上、積極的に取り締まることも出来なかった為、ジェイド商会や市場(バザール)の皆さんに協力してもらって噂という形で、迷惑をしているという事実を流布してもらうという消極的な手段しか取れなかったらしい。その件でゾーイさんがわざわざ来て、謝罪してくれた。ゾーイさんの所為(せい)じゃないのに。


カークさんによると、他の人達の所にはそういった迷惑はかかっていないらしく、その点は安心だ。


今日は少し曇ってる。大きく天気は崩れなさそうだけど。少し風があるのか、窓がたまに鳴っている。


今日は大和さんは早番だから、すでに家を出ている。


着替えてダイニングに降りる。キッチンのスープが減っていた。大和さん、飲んでいってくれたんだ。良かった。


朝食を食べて、自分のお昼を作る。食器を洗って出勤準備を終えたら、大和さんのハンカチの刺繍をする。結局黄色の地面に立つ大和さんの剣舞のシルエットに朱色の火焔光にしてみた。今刺しているのはシルエット部分。


時間になったから、刺繍道具を仕舞って家を出る。少し向こうにゴットハルトさんが見えた。


「おはようございます、シロヤマ嬢」


「おはようございます、ゴットハルトさん。以前から気になってたんですけど、私は『ゴットハルトさん』って呼んでて良いんでしょうか?」


「一応、シロヤマ嬢は平民ですから、貴族に対しては『様』を付けた方が良いでしょうし、親しくなければ名を呼ぶ事は失礼に当たります。しかし、貴女は『天使様』ですからね。私に対しては私がそれを認めていますし、エスターも認めていましたから、その辺りは良いのではないでしょうか」


「そうなんですね。教えていただいてありがとうございます」


「他の貴族には、ちゃんと呼び名に気を付けてくださいよ?フリカーナ殿はまた別ですが」


「ライルさんも1度『ライル様』って呼んだら、すごく嫌そうな顔をされました」


「フリカーナ殿は、同じ施術師として接してほしいと言っておられましたね」


「いつ話したんですか?」


「シロヤマ嬢がジェイド嬢やルビー嬢と話している時ですよ。実はね、ヤマトにも『ライルさん、もしくはライルと呼んで欲しい』と言っていたのですが、ヤマトが頑として聞き入れませんでした。その妥協案が『ライル殿』なのですよ」


「そうだったんですか。ゴットハルトさんはずっとフリカーナ殿って呼んでますよね」


「一応私も貴族の端くれとして、爵位が上の令息に対して名前で呼び掛けるには、今までの貴族教育が邪魔をします。本来なら私から話しかけるのも不敬に当たるのですよ」


「そうなんですか?あ、そう言えば以前フリカーナ家に伺った時に『あちらが挨拶をしてから、挨拶をするように』って、大和さんに言われました」


「何をしに行かれたのですか?」


「往診です」


「オーシンとは?」


「自宅に医師を招いて診察をしてもらう事です」


「貴族家では一般的ですね。どなたの診察ですか?」


「フリカーナ家に滞在していたお客様です。本来ならお答えしませんからね?守秘義務を守りたいですし」


「失礼いたしました。しかしその程度なら良いのでは?」


「その時期に誰が滞在してたかは調べれば分かりますよね?そうしたら『誰が、どうして』が分かってしまいます。それは患者様のプライバシーに当たります。たとえ、皆が知っていることでも、自分からは言いません」


「なるほど。そう言われると、もっともな答えですね」


神殿への分かれ道まで来た。


「では、シロヤマ嬢、私はここで。失礼します」


「はい。失礼します。お怪我など、気を付けてくださいね」


「ありがとうございます」


ゴットハルトさんと別れて、施療院へと向かう。チコさん達が走ってくるのが見えた。


「おはようございます、シロヤマさん」


「おはようございます」


「今日から建国祭期間ですね」


「そうですね。皆さんは騎士団対抗武技魔闘技会の時は、どうしてるんですか?」


「我々はヤマト教官が1試合でもいいから見るようにと言いまして、雑用係として行きます。見ることも訓練に当たるって言われたんですけど」


「自分だったらここでこうするとかイメージを増やすんですね。この場合はこうすればいいとか。実際に動くのも大切ですけど、頭の中で動かしてイメージするのも大切ですから」


「そういう事ですか。何故見るのかって聞いても『自分で考えてみろ』だったので」


「あら、悪いことをしちゃいました。考える過程が大切なんですよね」


「ヤマト教官には正直に言います」


「ごめんなさいね」


「いいえ。あの、天使様も救護室にいるって聞きました。何かあったら行っても良いですか?」


「えぇ。もちろんです」


「では失礼します」


「はい。いってらっしゃい。怪我など気を付けてくださいね」


チコさん達と別れて少し行くと、ローズさんが走ってくるのはお馴染みの光景だ。


「サクラちゃん、おはよう」


「ローズさん、おはようございます」


「王宮からの道にいくつか屋台が出てたわ」


「もうですか?早いですね」


「そうよね。魔道具とかも置いてたわ。クリストフ様も戻ってらっしゃるわよ」


「イライジャ先生もご一緒でしょうか?」


「そうね。ご一緒らしいわよ。クリストフ様はいつもの所で待ってらっしゃるわ」


「えっ?待ってらっしゃるんですか?」


「えぇ。だからひと足先に来たの」


えっへんという効果音が聞こえそうなどや顔をしてるけど……。


「それと走ってきたのは、関係ないですよね?」


「関係あるわよ。早くサクラちゃんに知らせないとね」


「私を言い訳に使わないでくださいよ」


「良いじゃない」


「良くないです」


言い合ってる間に王宮への分かれ道に着いた。


「おはよう、天使様。久しぶり」


「おはようございます、クリストフ様。お久しぶりです。イライジャ先生もご一緒だって聞きました」


「うん。天使様に治してもらって、元気になったからね。建国祭に行きたくなったんだってさ」


「お元気になられて良かったです」


「イライジャ先生は魔道具の屋台の用意をしてるよ。ボクは天使様に挨拶をしてこいってお願いされたんだ」


「そうなんですか。クリストフ様にご挨拶できて良かったです。イライジャ先生にもよろしくお伝えください」


「うん。天使様は今から仕事でしょ?頑張ってね」


「はい。ありがとうございます」


ローズさんとライルさんと施療院に向かう。今はリディー様はマソン家の馬車で施療院に来ている。通勤途中に突撃してくる事は今まで無いけれど、何があるか分からないから、ライルさんと所長とマソン家が話し合って決めていた。


「ライルさん、今朝、ゴットハルトさんと話していたんですけど、言葉遣いが気になってきました」


「どういう事?」


「私は貴族様への接し方なんて分からなくて、今はあっちでの言葉遣いで話しているんです。それで、これでいいのかな?って思って」


「いいと思うよ。シロヤマさんは言葉遣いも綺麗だし、マナーもきちんと出来てる。何かあってバタバタ走っていく事もないし」


チラッとローズさんを見ながらライルさんが言う。


「仕方がないじゃないですか。サクラちゃんに早く会いたいんですもの」


「ですから、走る理由に私を使わないでください」


「あら、サクラちゃんは会いたいと思ってくれないの?」


くすんと泣き真似をしながら、ローズさんは私を見た。


「泣き真似は止めてください」


「サクラちゃんが冷たい」


「シロヤマさん、大変だね」


「ライルさんの苦労が分かります」


「言っても聞かないんだよ」


「ローズさんって最初、来てもらった時に、スゴく魅力的な女性って印象だったんですけど」


「あの頃ね。シロヤマさんに会うまではもっとよそよそしい感じだったよ。シロヤマさんに会ったその日に施療院に飛び込んできて『凄い()だわ。才能もあるし、親しみやすいの!!』って捲し立ててて、驚いた」


「凄い()って何が凄かったんでしょう?」


「あの時はとにかく『シロヤマさんがこうだった』『シロヤマさんがこうした』ばかりだったね。イメージ力があるって言ってた」


「イメージは私達は持ってるんですよ。そういう文化があったので」


「そうなんだね」


「どういう文化なの?」


「物語を絵で表しているんです。絵の方がイメージが直接頭に入りやすいですし」


漫画やアニメってそう考えると凄いと思う。イメージが固定されるから文章だけの方がいいって意見もあるけど。


活字中毒ぎみだった私は、小説、雑誌、マンガ、何でも読んでいた。アニメは映像でダイレクトに視覚に訴えかけるから、想像力が損なわれるっていってる人がいたなぁ。でもそれを元にした想像力もバカにできないよね。


施療院に着くと、ちょうどリディー様も到着した所だった。


「天使様、おはようございます」


「おはようございます、リディー様」


今日の待合室待機は侍女さんみたい。控えめに礼をされた。


更衣室にはルビーさんが居た。


「おはよう、ローズ、サクラちゃん、リディー様」


「おはよう、ルビー」


「おはようございます、ルビーさん」


「おはようございます、ルビーさん」


「今日も見物人、来るのかしらね」


「来るんじゃない?診察室には来ないで欲しいけど」


「騒がないでいてくれると、嬉しいです」


「昨日、診察室を出た天使様を拝んでいる人を見ましたわ」


「私、拝まれてたんですか?」


「白い法衣(ほうい)を着ていましたわ。こちらに気付いたのか、すぐに去っていかれましたけど」


「気味が悪いわね」


「昨日だったら誰か見てるんじゃない?白い法衣(ほうい)って目立つじゃない」


「でも、常連さん達からはそんな話は聞いていないわよ?」


「私も聞いてません」


「白い法衣(ほうい)かどうかは分からないけど、白い服の人が入ってきたのを見たって言う人は居たわよ。その人は待合室に居たんだけど、すぐに診察室の方に歩いていったって」


「受付を通らなかったって事?ルビー」


「そこまでは聞いていないわ。私はサクラちゃんと違って話をしながら治療するって出来ないし」


「やっぱり、話をしながらは無理なんですか?」


「無理よ。サクラちゃん位じゃない?」


「集中しているから、話をしながらは無理ね」


「私が集中していないみたいじゃないですか」


「そんな事、言ってないわよ」


「サクラちゃんはほら、魔力が多いから。魔術師筆頭様もスキャンの応用で、箱の中身が分かるとか、魔力の見分けが付くって話がなかった?」


「聞いた事があるわ、その話。アリスも似たようなことが出来るって言ってたわね。何が入ってるかは分からないけど、ボンヤリとした形が分かるって」


何?その、箱の中身当てゲームの常勝の状態。確か平安時代の陰陽師が出来たって聞いたことがあるけど。私も出来るのかな?

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