17
次の日。楽しみすぎて、いつもより早く目が覚めてしまった。階下に降りて庭に出ると、大和さんはいなかった。あれ?
5分くらいかな。待ってたら大和さんが庭に入ってきた。
「あれ?咲楽ちゃん。早いね」
「おはようございます。楽しみで早く目が覚めちゃいました」
「俺もだよ。その分ランニングを長くしたけどね。さてと、ちょっとストレッチをしたら瞑想に入るから見ててくれる?」
「はい」
見てて、って緋龍が出現しないか、ってアレの事だよね。
そんなことを考えながら、ストレッチをしている大和さんに話しかける。
「大和さん?今朝まで瞑想ってしてなかったんですか?」
「してたよ。けど、俺には緋龍は見えないからね。自分では出来てると思っても出来ていないこともあるし。だから見てて欲しいんだ」
そう言って体を起こした大和さんが座禅を組んだ。そのまま深い呼吸をしていく。
途端に大和さんの身体を赤い靄が覆いだした。魔力と似てるような感じだけど、炎のオレンジのような色からだんだん濃くなって行く。こんなの初めて見た。
5分位で、赤い龍が飛び出していって、また大和さんの身体に戻った。今度は目は合わなかった。
やがて大和さんが座禅を解く。
「どうだった?」
聞かれて答えた。
「今まで瞑想をしているところは2回しか見てないですけど、さっきは瞑想を始めた途端に、大和さんの身体を炎のような色の靄が覆ったのが見えました。その後、5分位したら赤い龍が飛び出していって、大和さんの身体に戻っていきました」
「へぇ。靄がねぇ。魔力ではなかったんだよね」
「私も違いは良くわかんないですけど」
「ありがとう。大分感覚が戻ってきた」
家に入り、大和さんはシャワーに、私は朝食の準備。あ、そうだ。今日は大和さん、コーヒー淹れるのかな?ちょっと楽しみ。
朝食ができた頃、大和さんがキッチンに入ってきた。
「コーヒー、淹れるんですか?」
ちょっとワクワクした私に気付いたのか苦笑しながら、大和さんがコーヒーの準備を始める。
「あんまり見られてると……まぁ良いか。ではお嬢様。始めさせていただきます」
気取った感じで大和さんが一礼して、コーヒーを淹れ始める。やっぱりカッコいい。黒のベストとか着て、カフェエプロンしてたら絶対に似合う。
コーヒーを淹れ終わるとまた大和さんは気取って一礼した。思わず拍手。
「あー、柄にも無いことをした。楽しんでもらえた?」
「はい。眼福でした」
「何それ」
笑いながら、朝食をテーブルに運ぶ。1の鐘が鳴った。
「え?今、1の鐘ですか?」
「そうみたいだね」
ずいぶん早起きしてたみたい。
朝食を食べ終わったら森へ行く準備をする。昨日選んでおいた服を着て、昨日渡されたナイフを……どうやって持ったら良いの?これ。
結局ナイフは持ったまま階下へ降りる。大和さんが居たので相談してみた。
「大和さん、このナイフってどうやって持ってったら良いですか?」
「んー。レッグホルスターでもあれば良いんだけど。無かったよね。今日はベルトに付けとこうか。咲楽ちゃんって右利きだよね。鞘にベルトを通すところがあるからナイフは右に来るように付けとこう」
「大和さん、双剣にするっていってませんでしたっけ?」
「剣帯の都合でこれにした」
持っていたのは昨日持ってた剣。
私は帯剣した人なんて見たことがない。でも日本刀のイメージがあって、帯に挟むものだと思ってたけど、こういう剣って腰から下げるものなんだ。
プロクスさんが来たみたいで、大和さんがドアを開けに行った。プロクスさんも胸部のプロテクターを付けて剣を下げている。
「少し森まで距離があるので馬を手配しましたが、トキワ殿は乗れますよね。シロヤマ嬢はどうされます?馬車を借りるかも、とは家の者に言ってあるんですが」
プロクスさんが言うけど……どうしたら良いの?大和さんを見上げる。
「咲楽ちゃん、馬に乗ってみたい?それとも馬車で移動する?」
「馬って乗ったことないです」
「プロクス、馬って今から借りるのか?」
「騎獣屋まで行ってそこで借ります。話はしてあるので」
騎獣屋?
「こちらでは移動手段は馬だけじゃないので。いろんな種類がいますよ。行ってみますか?」
見たい。どんな種類がいるんだろう。
3人で騎獣屋さんに移動する。大きなペットショップみたいな所に着いた。
お店に入ると50歳くらいのオジさんとオバさ……お姉様がこっちを見た。
「リシアの坊っちゃん、いらっしゃい。馬は用意してあるよ。早速連れてくるかい?」
「坊っちゃんはいい加減に止めてください。トキワ殿、こちらが騎獣屋の主人、マイクさん。隣が奥様のレベッカさんです」
「はじめまして。ヤマト・トキワと言います。こちらがサクラ・シロヤマです」
「兄さん、朝早くからこの辺を走ってないかい?」
「ご存じでしたか」
「兄さんが走ってった後、興奮して手が付けられなくなるのがいるんだ。しばらくすると落ち着くけどね。ちょっと見てやってもらえないかい?リシアの坊っちゃん、時間は大丈夫かね?」
「時間はありますが。トキワ殿、よろしいですか?」
大和さんは頷いた。
「手を付けられなくなるとは、どう言うことでしょう」
「まぁ、兄さん、こっちに来てくれ」
連れていかれたのは裏手の厩舎。入口を入る前から馬の嘶きが聞こえた。
「また興奮しているな。見て貰いたいのはバトルホースなんだ。普段言うことは聞くんだが」
そこに居たのは黒い大きな馬。他の馬より少し大きい。額のところに白い模様があった。
大和さんが近付いていくと、その馬は首を伸ばしてきた。
大和さんが手を伸ばして馬の首に触れる。途端に馬は大人しくなって大和さんに顔を擦り付け始めた。
「大人しいとはいえ、バトルホースを簡単に手懐ける人は初めてだよ。リシアの坊っちゃん、普通の馬を2頭用意してたんだが、こいつを連れていってくれないかい?料金はそのままで良いから」
「でもここ、レンタル用じゃないですよね?」
「あぁ、こいつはバトルホースにしては大人しいんだが、人を選ぶようでね。世話できたのがワシだけだったから預かってたんだ。元の持ち主はどうも処分を、って考えてたらしいがな」
「良い馬ですね。乗ってみても?」
大和さんが不意に話しかけた。
「あぁ、今、馬具を持ってくる」
「すみません。お手数をお掛けします」
その間も大和さんは馬の首を撫でていて、馬は大和さんに顔を擦り付けていた。
マイクさんが持ってきた馬具を、大和さんは素早く着けていく。そして外に出るとヒラリと鐙に足をかけて飛び乗った。
「良い子だ。もう一人乗せても良いかな?大切な人なんだ」
馬がブルル、と鳴く。
「咲楽ちゃん」
手を差し出されて、その手を握る。腰の辺りを捕まえられて、気が付いたら馬の上だった。高い。思わず大和さんにしがみつく。
「大丈夫。絶対に落とさないから。俺とこの子を信じて」
プロクスさんがもう一頭の馬に乗った。
「馬車は必要無さそうですね。では出発しましょうか」
「ご主人、この子の名前は?」
「付けてやってくれ。そいつはあんたを選んだようだ」
「しかし……」
「仮の名前でも良いから」
「……分かりました」
プロクスさんと移動する。
「バトルホースを手懐けるとは思いませんでしたよ」
「向こうに居た頃に何頭か野生馬を捕まえてたからな。それに比べりゃこいつは大人しいもんだ」
私はだんだん高さにも慣れてきて、周りを見る余裕も出てきた。いつもより目線が高くて気持ちいい。1時間位で森が見えてきた。
「あぁ、見えてきましたね。あそこが目的地です」
森の手前に小屋があって小屋の前に二人の人?はっきり見えたとき、叫びだしそうになった。プロクスさんが馬から降りる。
「おい、プロクス……」
「あぁ、お二人は初めてですね。こちらが森を管理してくださってるコボルト族の方です」
コボルト?でも見た目は良くラノベとかで出てくるゴブリンだ。
「初めまして。ヤマト・トキワと言います」
大和さんが私を馬から降ろして挨拶した。
「コボルトゾクノ、ダイ、ダ。ウマハアズカル。コッチヘ」
私達の乗っていたバトルホースが暴れだした。大和さんが落ち着かせている。
「ソノウマノナマエハ?」
「まだつけてないが……」
「ハヤク、ツケテヤッタホウガイイ」
ダイさんがそう言う。
大和さんはしばらく考えて
「よし、お前の名前はエタンセルだ。良いか?エタンセル。こちらの人達の言うことを聞いて待っていてくれ」
と言った。バトルホースーーエタンセルは途端に大人しくなる。
もう一人のコボルト族のテトさんが手綱を引いて裏手に連れていく。
その間に斧をダイさんに借りて私達は森に入った。
「コボルト族の方を見るのは初めてでしたでしょうが、どうしたのです?」
プロクスさんが聞く。
「俺達の世界にはああいった種族はいない。よく物語には出てくるが、大抵人類の敵役なんだ。色々悪い性格付けをされてな。だから咄嗟にそっちを思い出した」
「そうなんですね。では伐採が終わったらその辺の擦り合わせをしておきましょう」
森を歩きながら私は気になっていたことを大和さんに聞いた。
「大和さん、エタンセルってどういう意味ですか?」
「あぁ、フランス語で『輝き、煌めき』と言ったような意味だ。あの馬の額の模様が星の輝きのように見えてな」
へぇ。
「トキワ殿、この辺で伐ってしまいましょう。全部で何本でしたっけ」
「長さにもよるが……この長さと太さなら15本もありゃ足りるな」
「分かりました」
それから木を伐っていく二人を見ていた。伐った木は4~5mくらいの長さにして行く。
「あっちから何か来る」
大和さんが森の奥を指差した。現れたのは水色とピンクのカラフルなウサギ。え?でもこんなに大きいの?体長が30cm位ある。
「珍しい。クルーラパンです。警戒心が強いからめったに寄ってこないんですが」
二匹とも私の方に寄ってきてくれた。
「撫でてて良いんですか?」
「大丈夫ですよ」
プロクスさんが頷くのを待ってそっと撫でる。わぁ、ふわふわしてる。二匹ともお座りしてくれたから、大和さん達が木を切っている間、私はずっとモフモフしていた。
予定の本数を伐り終わって帰り支度をしているとき大和さんがふっと上を見た。そのままプロクスさんに言う。
「プロクス、咲楽ちゃんを連れて離脱してくれ」
シュウ、シュウと言う音が聞こえた。クルーラパンは二匹とも逃げていく。
頭上からなにかが降ってきた。10m位ある蛇。大和さんは剣を抜いて構える。
「イビルアングイス!!」
プロクスさんが叫ぶ。
「何でこれはフランス語じゃないんだよっ!!」
大和さんが見当違いの事を言ってる。
私はそれどころじゃない。体が硬直して動かない。声も出ない。プロクスさんはそんな私の前で、剣を手に守ってくれていた
大和さんは剣を振るって、蛇を追い詰めていく。最後は木を足場にして飛び上がって蛇の目と目の間に剣を突き刺していた。蛇が動かなくなった。
「お見事です。まさかイビルアングイスが出るとは思いませんでした」
「こんなに大きさの蛇は初めて見た。で?こいつはどうするんだ?」
剣を蛇から抜いて血を拭いながら大和さんが尋ねる。
「持っていってギルドに売ります。これだけ大きければ皮にしても肉にしても良い値が付きますよ」
プロクスさんはそう言って魔空間に蛇を仕舞った。
「とりあえず帰りますか」
「そうだな。咲楽ちゃん、大丈夫?」
「へ、蛇は?」
「やっつけたよ」
力が抜けた。ペタンと座り込む。
「ごめんなさい」
座り込んでしまった私を大和さんが運んでくれた。
森の入口の小屋につくと、ダイさん達が目を丸くして聞いてきた。
「ケガデモシタカ?」
「いいえ。イビルアングイスが出ました。退治しましたが。彼女は蛇が嫌いなようでして」
プロクスさんが答える。
「ヤスンデイクカ?チャデモノムカ?」
ありがたくお言葉に甘える。テトさんが淹れてくれたお茶は美味しかった。
こっちのコボルト族は森を歩くのに長けていて、森を見回って水源の管理や危険な魔物が出没していないか監視しているんだって。万が一危険な魔物がいたら冒険者や騎士団に駆除依頼をしてくれてるみたい。
「ワレワレハ、チカラガナイ。シラセルコトシカデキナイ」
「こんな事を言っていますが、知らせてくれるだけで大変助かっているんですよ。おまけに森の管理までしてくださって」
プロクスさんが言う。
ダイさんが大和さんに言った。
「アノウマ、イイウマダナ。アンタヲシュジント、ミトメテルヨウダ」
「そうですか。まだ出会って1日も経っていませんが」
「オーク族ニキケバ、モットワカル」
「そうですね、また聞いてみましょう。さて、そろそろお暇します。お世話になりました」
プロクスさんがそう言って席を立った。
「「お世話になりました」」
家を出たところにテトさんが2頭とも連れてきてくれていた。私はまた、大和さんの前に乗せてもらう。
帰り道、プロクスさんが聞いてきた。
「さっき『オーク族』と言ったとき妙な反応でしたが、もしかして?」
「そうだな。オークも大抵は敵として出てくる」
「やっぱりその辺をしっかり擦り合わせしといた方が良さそうです。お邪魔して良いですか?」
「あぁ、こちらからお願いしたい。今からのスケジュールは?」
「まずは冒険者ギルドでイビルアングイスの売却です。その後馬を返して、お宅へ、ですが。その、エタンセルはトキワ殿から離れてくれますかね?」
「どうだろうな。まぁ、エタンセルを迎えるにしろなんにしろ、今はどうにもできないからな。しばらくは騎獣屋で預かってもらうしかないだろう」
森から王宮と反対方向に馬を走らせる。大和さんとプロクスさんが何かを話してるけど、会話が頭に入ってこない。
なかなかあの蛇が頭から消えてくれない。景色を見る余裕もなくて、目を瞑ると蛇がこっちを見てる映像が浮かぶ。
大和さんはずっと片手で抱いてくれてた。プロクスさんは私が落ち着くまでずいぶん遠回りをしてくれてたみたい。
エタンセルのスピードが落ちたのに気がついて顔を上げると、そこは一面の草原だった。可愛い花も咲いている。
「少しは落ち着かれましたか?」
プロクスさんが自分の馬を近付けて聞いてくれた。
まだあの蛇の映像は浮かぶけど笑顔を作る。
「すみません。ご迷惑をかけて」
大和さんは心配そうに見ている。
「迷惑なんてかかってないよ。だから心配しないで」
プロクスさんも「しばらくここでのんびりしましょうか」何て言ってくれてる。
でもそれがかえって申し訳ない。
でもエタンセルも草を食みだしている。大和さんに降ろしてもらったんだけど、カクンと膝が折れた。力が入らない。え?
「あー、やっぱりこうなったか」
大和さんが言う。なにが起こったの?
「ずっと力が入ってたでしょ?意識しなくても足の着かない所で力が入り続けてると、足が着いたら膝が抜けたようになることがあるんだ。と、言うことで、咲楽ちゃんはこっちね」
大和さんに抱き上げられる。少し先にはプロクスさんがシートを広げてくれていた。
私はそこに下ろされた。風が気持ちいい。大和さんとプロクスさんが何か話してる。
「ではちょっと行ってきます」
プロクスさんが行っちゃった。どこに行ったの?
「プロクスにはギルドに売却に行ってもらった。俺達はここで待っていよう」
「え?でも……」
「今の咲楽ちゃんに必要なのは気分転換。だからここでノンビリしていよう」
「良いんでしょうか?」
「何が?」
「私、役に立てなくて。とっさの時も動けなくて、迷惑かけて……。今も予定を変更してくれたんですよね。なのにノンビリしてて良いんでしょうか?」
「あれは俺も驚いた。動けたのは先に気付いていたからと言うのと、前に経験があったから。咲楽ちゃんはああ言うの苦手なんでしょ?自分で言ってたし。『見たら硬直する』って。ここは魔物が居ないらしい。オーク族が管理していて、騎士団の馬を連れて来る所なんだそうだ。エタンセルも居るから大丈夫だって、プロクスが言ってた。許可は貰ってるってさ」
しばらく大和さんと座って話していたけど、エタンセルが邪魔をしに来た。「混ぜて-」って感じで。
「走りたいのか?」
大和さんがエタンセルに聞くとブルルっと答えた。
「あっ、私、大和さんが乗馬をしているところ、見たいです」
「でもそうすると、一人でここに座ってなきゃだよ?良いの?一緒に乗る?」
シートを片付けて大和さんとエタンセルに乗る。
「エタンセル、好きに走って良いぞ」
そう言われたエタンセルはすごいスピードで走り出した。30分位かな?徐々にエタンセルのスピードが落ちていく。
「満足したか?」
小川を見つけてエタンセルが水を飲んでいる間に、大和さんは鞍を外してエタンセルの身体を拭いていた。
「誰か来るな」
大和さんが指差した方から、誰かが歩いてきた。馬も数頭着いてきてる。イノシシっぽい頭の二足歩行の……。
もしかしてオーク族の人?
「ソコデナニヲ……モシカシテトキワドノカ?」
「はい。ヤマト・トキワと言います」
「アァ、キイテイル。ソッチノガ……」
「サクラ・シロヤマです。初めまして」
「ワタシハ、ピガール、トイウ。ソノウマハイイウマダナ」
「エタンセルです。まだ正確には私の馬ではないのですが」
「スデニトキワドノヲ、シュジントサダメテイルゾ」
「それはコボルト族の方にも言われました。ただ、まだ迎えてやる準備ができていないのですよ」
「ソレハイケナイ。ソノアタリハキチント……ダレカキタナ」
「トキワ殿、お待たせしました。あれ?ピガールさん。お久しぶりです。昨日お伺いした時、居ませんでしたよね」
プロクスさんが戻ってきた。
「アノウマニツイテ、ハナシヲシテイタ」
見るとエタンセルの回りに3頭の馬がいた。
「メスガヨッテイッテルナ」
ピガールさんが笑う。エタンセル、モテモテだね。
エタンセルを呼び寄せて再び騎乗。お暇して騎獣屋さんに戻ることになった。
「プロクスさん、素敵なところに連れてきていただいて、ありがとうございました」
「トキワ殿に頼まれていたのですよ。どこか眺めの良い所は無いか、出来ればそこに連れていってほしい、と」
振り向いて大和さんを見上げたら、にっこりと笑われた。
「あの事が無くても、気分転換は必要だと思って。俺達はまだ、神殿、王宮、市場、施療院しか知らないからプロクスに頼んでおいた」
そうだったんだ。
「今はアウトゥですから花はそこまで咲いてませんが、木々が色付く森もあってそこにしようかとも思ったのですよ。ただ、あんなことがあったので、しばらく森は嫌かと思いまして。騎乗して通ることはできるので、あそこまで深い森ではないのですが」
騎獣屋さんに着いた。そう言えばいろんな騎獣がいるって言ってたよね。
大和さんがマイクさんと話してる間にレベッカさんに色んな動物を見せてもらった。
まずは馬。牛。イノシシ?え?イノシシにも乗るの?
「それはノジーって言うんだ。乗ると言うより溝掘り要員だね。鼻先で溝を掘ってくれるから農家がレンタルしに来るよ」
次に居たのはトカゲさん?大きいけど。得意じゃないのよね。でもこの大きさは現実離れしてるから大丈夫……かな?
「そっちのは地トカゲ、ソイルレガード。そいつは足が早いよ」
ダチョウ?でも胴体がフワフワして気持ち良さそう。
「ピヨーリだね。コイツも足が早い。で、こっちにいるのがピヨーリのヒナ」
モコモコ、フワフワだ!!30cm位の毛玉が動いてる。
その奥を見ると厳重に檻の中に入れられた白っぽい動物がいる。白い虎?
「その子ね。酷い扱いをしていた所から引き取ったんだ。肉食獣だけど、もう元気がなくてね。可哀想だけどこのまま見てるしかないね」
そこに大和さんがやって来た。
「お話、終わったんですか?」
「エタンセルはここでしばらく預かってもらうことにした。まだ俺の所属が決まってないからね。それよりあの……白虎?」
大和さんがそう言うと虎が近寄ってきた。
「大和さん、虎に遭遇したことは?」
「サバンナでならね。流石にこの距離では無い」
話ながら移動すると虎さんも着いてくる。
「あのな、お前を連れてはいけないんだ。また見に来るから」
そう大和さんが言うと虎は大人しくもとの場所に行って寝てしまった。
「兄さん、すごいな。あいつは弱ってるのに言うことを聞かなくてな。あんなに大人しく言うことを聞いたのは初めてだ」
マイクさんが興奮して言ってる。