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闇の日。今日で練習は5回目。サファ侯爵様と、アザレア先生の話だと、ほぼほぼ合格ラインなんだけど、もう少し練習しておきましょうって事らしい。


主に礼の練習とヒールでの歩行練習。今日は仮縫いのフィッティングも待っている。『今日は1日使います、お昼は用意します』って言われている。本来はこの時が、交流会という形になるらしい。ただ、今年は御使者(みつかい)同士の仲が良いから、交流会はするんだけど、もう一度改めて企画が進んでるらしい。ライルさんが伯爵様から『それとなく話しておいてくれ』って頼まれたと笑ってた。


私は歩行練習は大丈夫だと、アザレア先生に太鼓判を押された。礼の仕方は『よく頑張りました』状態。ライルさんにも見てもらってるんだけど、足元が不安定で、礼を正した後、ふらついてしまう。リディー様はさすがというべきか、綺麗な礼を取っている。『学園でもやっておりますもの』って言われて、その場にいた全員でローズさんを見たら、目を逸らされた。


ローズさんって魔力の使い方とか、魔法関係は王宮魔術師にスカウトされるくらいなんだけど、『あそこは堅苦しいし、研究バカの変態が多いからイヤ』って拒否したんだって。施療院の施術師も一応は王宮魔術師の所属となってるんだって。『聞いてません』って言ったら『言わなかったしの』って所長に笑われた。いつの間にか私って国家公務員だったみたい。


ルビーさんのベールは先日仕上げて、ローズさんに無事渡せた。ローズさんのお花の刺繍はチューリップで、それも図案と共に渡して、後はアレクサンドラさんやリサさんが見てくれるって言うからお任せした。


起きて着替える。ロングのフレアスカートは練習着と化している。ダイニングに降りて、ディアオズの水量を確かめて、暖炉に火を入れる。


朝食にいつもオムレツを出しているんだけど、この前目玉焼きをリクエストされた。どこかのアニメみたいに、パンにハムエッグを乗せて食べたいって、大和さんに言われた。いや、あれは目玉焼きだったはず。夜に聞いてみたんだけど、大和さんはそのシーンは曖昧だって、笑ってた。その後の石が光るシーンの方が印象に残ってるんだって。


食材を出していると、大和さんとカークさんが帰ってきた。


「ただいま、咲楽ちゃん」


「おはようございます、サクラ様」


「おかえりなさい、大和さん。おはようございます、カークさん」


「今日は1日だったっけ?」


「そうですね。そう聞いてます」


「と、言うことは、放牧場は無し?」


「そうですね。行けないと思います」


「それは残念がるやつらが多いだろうな」


そう言って笑って大和さん達は地下に降りていった。


スープは作ってあるし、ハムエッグは手間もかからない。少しだけ庭に出てみた。


庭に黄色が見える。フラーが近付くと花を咲かせる、キンカリュという花だ。『フラーを呼ぶ花』と、言われているらしい。小さくて可愛いんだけど、あちこちに咲いて、踏まれちゃうから、移動して固まって咲いてくれたら良いのにって思いながら樹魔法を発動させたら一ヶ所に移動した。カークさんに『また非常識な使い方を』って呆れられたけど、これは仕方ないと思う。


家に戻って時間を見て、大和さん達を呼ぶ。


「朝食の用意が出来ました」


「分かった。上がるね」


上がってきた大和さんはシャワーに行った。


「カークさん、最近、笛が聞こえないんですけど」


「最近はそうですね。最初にやっている感じでしょうか」


「最初に?」


「えぇ。あぁ、そうだ。サクラ様に渡す物があったんです」


「渡す物?」


「西街の刀自からですよ」


渡されたのは、何かの種。


「これは?」


「ギルドで詳しい人に見て貰ったら、ラーム ドゥ ラ リュンヌの種だそうです。刀自からは『お楽しみだよ。今から撒いておいたら、コルドに咲くよ』と、言っておいてくれと言われましたけど」


「ラーム ドゥ ラ リュンヌって、月の雫ですよね。星見の祭(ステラフェスト)の時に見ました。神秘的ですよね」


「芽吹かせてみますか?」


「草木の種は、根が折れちゃうと怖いので、撒いてからにします」


「花壇が要りますね」


「手伝ってくださいね」


「お任せください」


「どんな花壇にしましょう?」


「どんなって、四角いのじゃないんですか?」


「形じゃないですよ」


笑って言うと、カークさんも笑っていた。


「何を笑っているの?」


「大和さん、おかえりなさい。西街の本屋のおばあ様から、花の種を頂きました」


「あのばあ様、よほど咲楽ちゃんを気に入ったんだね」


朝食用に、ハムエッグを作る。


「黄身はトロトロと、半熟と、硬め、どれが良いですか?」


「半熟」


「あ、私も半熟で」


私も半熟なんだよね。半熟のハムエッグを3つ仕上げて、1つをスライスしたパンに乗せる。


「大和さん、これで良いですか?」


「旨そう。ありがとう」


「カークさんはどうします?大和さんのみたいにしますか?」


「普通に皿に下さい」


「はい」


私の分もお皿に乗せて、朝食を食べる。


「うまく半熟にするねぇ」


「自分ですると、良い感じに出来ないんですよね」


「どの位って、体感しかないんですよね」


本当は時間を計ると良いんだけど、ここには分単位が無いんだよね。


「今日は魔物講座は無かったの?」


「無かったですね。花壇を作ろうって話してたので」


「さっき笑ってたのって何だったの?」


「それは……」


「サクラ様、構いませんよ」


「良いんですか?」


「えぇ。花壇の形を勘違いしただけですから」


「形?」


「種を貰ったって言いましたよね。花壇を作ろうって言ってて、どんな花壇にしようかって言ったら、カークさんが四角いのじゃないんですかって言って。それで笑ってたんです」


「どんな種類のって考えてたら、カークが形と勘違いしたわけか」


「そうですね」


「どんな花壇にって、意味が2つあるからなぁ」


「そうなんですよね。するとしたら、花の月に入ってからになりそうですけど」


「咲楽ちゃんが忙しいもんね」


「芽生えの月に出来るかもしれませんけど」


「合格できそう?」


「礼の仕方が、『もう少し頑張りましょう』か『よく頑張りました』って感じですね」


「サクラ様は御自分に厳しいですからねぇ」


「そうですか?」


「また、この()は自覚が無いよ」


「それがサクラ様ですよね」


「でも、本当にふらついちゃうんですよ」


「片足だけで、しかも膝を曲げて、前傾姿勢でしょ?ふらつくのは当然でしょ」


「出来ている人も居るんですよ?」


「それって貴族様じゃないの?」


「そうですけど」


「咲楽ちゃんは一般人でしょ?今までしてなかった事をこの短時間で出来るようになってるんだから、ふらつくだけって言うのは凄いと思うよ」


「そうでしょうか」


「そうだよ」


朝食を食べ終わって、大和さんは着替えに行った。


「サクラ様、花壇を作るのなら、何か種を仕入れておきましょうか?」


カークさんが、食器を洗ってくれながら言ってくれた。


「そうですね。あのバラも植えてあげたいんですよね」


「あのベリーはどうするんです?」


「フラワーポットに植えたままでも良いですけど、庭に植えてあげたいって気もするんですよね」


「どうされます?」


「少し考えます」


「そういえばプラント系の魔物もいますよ」


「えっ」


「王都には居ないと思いますよ」


「どんな魔物なんですか?」


「歩くんです」


「はい?」


「ですから、歩くんですよ」


「歩くって、樹が?」


「はい。ローバオムと言います」


「どうして歩いちゃうんですか?」


「プロポーズの為です」


「えっと?」


「ローバオムは基本的に一本一本、離れた所に居るんですよ。ある程度成長すると、どうやら伴侶を探し出すようなんですよね。その際にまっすぐ進んじゃうんです」


「それで、被害甚大?」


「はい。伴侶と出会えると、そこから動かなくなります」


「会わせてあげたい気もしますけど、被害があると、そういう訳にいきませんね」


「ローバオムの実は高級果物ですよ」


「そうなんですか?」


「ローバオム自体、動かなければ、他の樹と変わりませんからね。見つけにくいんです」


「希少だから高級ですか」


「味も美味しいらしいですよ。私は食べた事がありませんが」


「お待たせ。どうしたの?」


「歩いちゃう樹が居るって教えてもらってました。ローバオムって言うんですって」


「は?歩くのか?樹が?」


「はい根を足のように使って。歩みは遅いですけどね」


「遅いって?どの位だ?」


「1刻で5km程です」


「それは遅いな。でも、確実に動いてるって分かるな」


えっと、時速2㎞いかない位だよね。人が普通に歩く速さが4.5Km/hって聞いたことがあるから、その半分以下の速さなんだ。


「咲楽ちゃん、行くよ」


「はい」


私が考えてる間に大和さんが出勤準備を終えてた。


家を出ると、カークさんと別れる。


「行って参ります」


「あぁ、気を付けてな」


「いってらっしゃい。気を付けてくださいね」


私達も王宮に歩き出す。


「さっきのローバオムだっけ。歩くって何が目的なんだろうね」


「プロポーズだそうです」


「プロポーズ?」


「一本一本が離れてるから、ある程度成長したら、伴侶を探すそうなんです。その時にまっすぐしか進まないんですって」


「被害甚大で、魔物認定か」


「そうらしいです」


「気の毒というか、はた迷惑というか、微妙な樹だね」


「植物系だったら、トレントって居ませんでしたっけ?」


「あぁ、よく出てきてたよね。人面樹(じんめんじゅ)


人面樹(じんめんじゅ)って」


人面樹(じんめんじゅ)は、俺が言ってるだけだけど。確か、元はエントって魔物だったはずだよ。魔物というか、樹の精」


「別物じゃないんですか?」


「版権云々って書いてあった気がする」


「あぁ、そういうのがあるんですね」


「ファンタジーも世知辛いって思ったね」


「そんな風に考えると、空しくなりません?」


「事実は事実として、受け入れないとね」


「そうなんですけどね」


「確かめるのは、まずはセイレーンかな?」


「あの時、カークさん、鱗と思われるとかって言ってませんでしたっけ」


「言ってたね」


「結局どっちなんでしょうね?」


「さぁね?百聞は一見にしかずだよ」


「英語じゃない……」


「出そうになるのを、抑えたのに」


「英語だと何て言うんですか?」


「Seeing is believing.見ることが信じることだという意味だね」


「なんだか安心してしまうのは、何故なんでしょう」


「安心?」


「ことわざが英語で出て、あぁ、いつもの大和さんだって思ったんです」


「俺の評価って……」


口調は落ち込んでる感じだけど、大和さんは楽しそうだ。


「サクラちゃん」


「あ、皆さん、おはようございます」


「おはよう、天使様」


「相変わらず、仲が良いね」


「サクラさん、今日は1日って言ってましたよね?」


ユーフェさんに聞かれた。


「えぇ。仮縫いの仮合わせがあるらしいですし」


「そうですよね」


「どうしたんですか?」


「いいえ。昼食は要らないんですよね?」


「そう聞いています。交流会だって言ってましたよね?どうしたんですか?」


「えっと……ルビーさんが、その……」


「忘れてたのよ。お昼を持ってきちゃったわ」


けろっと、笑顔で言うルビーさん。


「持ってきたお昼はどうするんですか?」


「どうしようかしら」


「考えてなかったんですか?」


私の異空間に入れておけば、たぶん大丈夫なんだけど。


「終わってから食べるわ。無駄にしちゃうのもね、どうかと思うし」


「大丈夫ですか?」


「大丈夫でしょ。なんとかなるわよ」


王宮への道で、みんなが待っていた。


「おはようございます」


「今日はみんなが勢揃いだね」


「一緒で良いですか?」





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