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声が成年女性の御使者(みつかい)5人から漏れた。代表してスサンヌ様が聞いてくれた。


「侯爵様、この5人だけですか?」


「えぇ。まだ詳しくは言えませんが、成年女性の御使者(みつかい)様達だけ、途中で一度降りていただきますので」


「分かりました」


大和さん以外、エスコート役を交代して、もう一周廻る。


「大和さん以外、交代したのは何故ですか?」


「咲楽ちゃんは1日、俺が相手だから」


答えになっていない答えをもらって、階段を降りる。


「下を向かないようにするのが難しいです」


「少し位なら大丈夫ですよ。足元をずっと見ているのは駄目ですが」


サファ侯爵様に教えていただいて、少しは気が楽になったけど、やっぱり一周廻ったら、座り込んでしまう。


(わたくし)達、体力がございませんわね」


「歩くだけがこんなにキツいなんて」


「騎士様達は余裕ですよね」


「スサンヌ様、ドレスってやっぱり重さはありますよね」


「そうですわね。使う生地にも依りますが」


「おかしいな。私達、出勤時に歩いてるのに」


「緊張してるからではありませんの?」


「そうかも」


5人で話していると、アザレア先生が寄ってきた。


「今年の御使者(みつかい)様方はみんなお上手ですよ。転んで転倒するのが一人も居ないんですもの」


「でも体力が無いですよね?」


「本番はこの距離より断然短いから大丈夫。慣れて貰うためのこの距離ですからね」


「安心しました」


休憩を終えたら、今度は礼の練習。騎士様達は部屋を出ていった。大和さんはゴットハルトさんと話してると言って、部屋の外に行った。


3の鐘が鳴って、練習は終わり。


「サクラちゃん、また明日ね」


「楽しんできてね」


「また聞かせてくださいまし」


「あ、私も聞きたいです」


ローズさん達は放牧場の方に行った。


「咲楽ちゃん、行こうか」


「はい」


手を繋いで、王宮を出る。


「どこに行くんですか?」


「食事もできるカフェを教えてもらった。東地区にあるからそこに行くよ」


向かったのは市場(バザール)の一角。


「ここですか?」


さっきと違うお洒落なカフェに連れていかれた。


「ここはね、ランチが美味しいんだって。落ち着いた雰囲気で、騎士団のデートの御用達らしい」


店内は落ち着いた雰囲気で、居心地がいい。


「いい雰囲気ですね」


「あぁ。落ち着けるね」


「人に注目されないのも良いですね」


「咲楽ちゃん、有名人だから」


「大和さんもですよね」


「俺はそこまで知られていないから」


「えぇぇぇ」


「何、そのウッソだぁって感じの顔」


「私より知られてますよね?」


「咲楽ちゃんの方が有名だって」


言い合いながら、運ばれてきたランチを食べる。パスタランチか、煮込みハンバーグランチか選べたから、一つずつ頼んで分け合いっこした。運んできた人が笑ってた気がするのは気の所為(せい)だよね。


「あの、これどうぞ」


会計の時に可愛い袋に入れられたクッキーを貰った。女性客には必ず渡してるんだって。


次に連れていって貰ったのはアクセサリー屋さん。


「良いんですか?」


「欲しかったんでしょ?」


買って貰ったのは可愛い小さな手鏡。


「欲しかったですけど」


「けど?」


「高価なものじゃないですか」


「気にしないの」


「ありがとうございます」


「よろしい」


頭を撫でられた。


「黒き狼様は天使様の事を、とても愛してらっしゃいますのね」


「えぇ。大切な女性(ひと)ですから」


大和さんはお店のお姉さんとそんな会話をしていた。


4の鐘がなる頃、東地区の中でも貴族様のお屋敷が建つ一角に連れてこられた。


「ここ、どなたかのお屋敷ですか?」


「元公爵家を利用したエスパスだね」


「エスパス?」


「正確にはEspace(エスパス) de(デュ) location(ロケーション)。貸しスペースだね」


「こんなところで何をするんですか?」


「変身してのディナー」


「変身して?」


「そう。俺も着替えるよ。咲楽ちゃんはお姫様になってね」


「謁見の時みたいな感じですか?」


「そう。そんな感じ」


敷地内に足を踏み入れると、男の人が寄ってきた。


「いらっしゃいませ、トキワ様。ご案内いたします」


案内されたのは2階の眺めのいいお部屋。


「シロヤマ様はこちらへ」


違う部屋に案内されて、パステルイエローのドレスを着付けられたあと、髪を結われる。謁見の時ほど凝った結い方ではないものの、いつもはしない髪型にされた。軽くお化粧も施してもらい、外に出ると、カマーバンドとタキシードで決めた大和さんが待っていた。


「綺麗だね。お姫様だ」


「大和さんも格好いいです」


「参りましょうか」


エスコートされて元の部屋に戻る。


お料理はイタリアンのフルコース?私にはよく分からないんだけど、大和さんが説明してくれた。


アンティパスト、プリモピアット、セコンドピアット、ドルチェ。ドルチェに出されたのはレチェフランという固めのカスタードプリン。


「レチェフランをドルチェに持ってきたのか」


「何かあるんですか?」


「帰ったら言うよ」


味は濃厚で甘いプリン。私は美味しかったんだけど、大和さんには甘すぎたみたい。半分私にくれた。


少しお庭を散策して、着替えてお暇する。


「ありがとうございました」


「楽しんでいただけましたか?」


「はい。お料理は美味しかったし、お庭は綺麗でしたし」


「ようございました」


家に帰る途中で市場(バザール)に寄って、明日の朝食のパンを買う。ヴァネッサさんのパン屋以外でパンを買うのは久しぶりだ。


家に入って、そのまま小部屋でくつろぐ。


「咲楽ちゃん、どうだった?」


ソファーに並んで座って、話をする。


「楽しかったです。色々ありがとうございました」


「最後のエスパスの感想は?」


「お着替えしてのお食事なんて、非日常って感じで、良かったです」


「それは良かった」


「全部、事前に用意してくれてたんですか?」


「仕込みはエスパスだけだけどね」


「最後のプリンで何か言ってましたよね」


「レチェフランをドルチェに持ってきたのかって言ったんだよ」


「変なんですか?」


「レチェフランはフィリピンのプリンだよ。それをイタリアンに持ってきたのかって思ったんだよね」


「何かおかしいんですか?」


「おかしくはないよ。フィリピンってかつてはスペインが宗主国だったから、食文化がそっち寄りなんだよ。イタリアンのコースでレチェフランが出たから、少し混乱した」


「大和さんって、本当に色んな事を知ってますよね」


「レチェフランは本場で食べた。今日の以上に甘かった。美味しかったけどね。フィリピン料理だったら、アドボとかプトとか、旨かった。プトって米粉の蒸しパンなんだけど、作ってくれた人は上にチーズを乗せていた」


「米粉の蒸しパンにチーズ?合いそうですね」


「蒸しパン自体がちょっと甘いんだよ。そこにチーズが以外とマッチするんだよね」


「食べてみたいです」


「後はカラマンシーを使った春雨サラダかな」


「カラマンシーって何ですか?」


「柑橘類だね。皮は甘いんだけど、実は酸っぱい」


「でも、身体に良さそうです。さっき『本場で食べた』って言いましたけど、何をしに行ったんですか?」


「フィリピンの友人達を送っていった。部隊の数人とね。その人達は巻き込まれただけの非戦闘員だったから護衛もかねてね」


「傭兵さんの時ですか?」


「そう。出身がセブ島の人達で、送っていったんだけど、海が綺麗だった」


「こっちの海も綺麗でしょうか?」


「ホアになったら賑わうって言ってたし、綺麗なんじゃない?海洋汚染なんかも無いだろうし」


「行ってみたいです」


「いつか行こうね。一緒に」


「はい。海にも魔物って出るんですよね?」


「出るって言ってたね。どんな魔物かな?」


「シーサーペントとか、スキュラとか、後は人魚さん?」


「会いたいのは?」


「人魚さんです。美人さんばかりってイメージなんですけど」


「マーメイドはそのイメージだよね。魔物図鑑に載ってなかったっけ?」


「持ってきましょうか?」


「咲楽ちゃんの部屋だったね」


「図鑑系とか、こっちに持ってきておこうかな」


「そうすれば?俺も見たいときがあるし」


「大和さんのお部屋って、もう危なくないですか?」


「俺の部屋が危ない?あぁ、武器類は粗方団長に返却したよ。見る?」


「良いですか?」


「ご招待しましょう」


笑って大和さんが言う。


「今から行く?寝る前にする?」


「時間も時間ですし、寝る前にします」


「OK。先に風呂に行ってくるよ」


「いってらっしゃい。ごゆっくり」


大和さんがお風呂に行ったから、明日のスープを作る。明日は何にしようかな?野菜たっぷりの塩スープにしよう。最初の頃によく作ってたスープ。


野菜を刻んで、ベーコンと一緒に炒めて、煮込んで塩コショウで味を整えて、出来上がり。


空いた時間は刺繍をする。文字の刺繍はあと少し。これが終わったら、細かい隙間埋めをして出来上がりだ。


そういえば、このベールって出来たらどうしたらいいの?ローズさんに渡せばいいのかな?


「あと少し?」


「そうですね。あと、文字と隙間埋めです」


「今月中に出来上がりそうだね」


「今月中を目標期限にしましたからね」


「無理してなかったらいいけどね」


「してませんよ」


「楽しそうだし、分かるけど。風呂、行っておいで」


「はい」


「出てきたらマッサージタイムね」


「いつもありがとうございます」


「どういたしまして。ほら、行っておいで」


あ、お部屋見せてくれないのかな?どうしても見たいって訳じゃないけど。


武器は減ったって言ってたけど、どの位あって、どの位減ったんだろう。


今日のお料理、美味しかったなぁ、大和さんも格好良かった。正式な(?)タキシードが凄く似合ってた。あのお腹に巻いてたのって、何て言ったっけ?あぁ、カマーバンドだ。あれも日常では見ないよね。


ドレスも締め付けられることもなくて、楽だった。あのドレスってどうしたんだろう。あれも再利用なのかな?私が着せて貰ったドレスのサイズもあったし、もしかしてあれって子ども用とかじゃ、無いよね。少なくても未成年者用ではあるだろうけど。


でもあぁ言うのは、非日常を体験するには良いと思う。ああいう場所はなかなか入れないし、そこで食事とか無理だし。


元公爵邸って言ってたよね。そう言えばアザレア先生がスサンヌ様が『親睦を深めたい』って言ったときに何か言ってたよね。誰でも使えるスペースが貴族街にあるとか。


髪を乾かして、寝室に行く。寝室でいいんだよね?


「どうしたの?」


「お部屋を見せてくれるって言いましたよね」


大和さんが立っていって、笑ってドアを開けてくれる。


「どうぞ、お嬢様、こちらでございます」


「笑いながら言わないでください」


「寝る前の格好で、格好つけても合わないでしょ」


大和さんの部屋はスッキリとしていた。


「本当に武器が無い」


「言ったでしょ?返却したって」


「残ってるのはどれですか?」


「長剣と、サーベルと、後はナイフ類かな。最初の時に咲楽ちゃんに貸したナイフもあるよ」


「壁に掛かってた2振りが無い」


思わず呟くと大和さんが苦笑した。


「あれは装飾用だね。刃の付いていない飾り」


「そうだったんですか?」


「さすがに抜き身の刃を飾るのは危ないよ」


「あ、そっか」


「満足したかな?マッサージしようか」


「すぐに寝ちゃいそうです」


「寝ちゃって良いって。気持ち良くなってくれたら、嬉しい」


寝室に移動して、蜜蝋(セラアルバ)を大和さんに渡す。うつ伏せになって少ししたら、大和さんの手が、足に触れた。


「今日はたくさん歩いたね」


「練習でも歩きましたし、その後も歩きましたね。でも楽しかったですよ?」


「それは良かった」


「東地区を歩いたのは初めてです」


「そうだね。咲楽ちゃんの行動範囲って、神殿地区の一部と西地区の一部と施療院だけだもんね」


「ジェイド商会もです」


「そうだね」


「狭いですよね」


「行けないところは、俺が連れていくから。あぁ、そうだ。北の街門の向こう、草原の先に湖があるよ。来月にでも行こうか?」


「湖?行きたいです」


「エタンセルに乗ってになるけど」


「はい」


「今度はピクニックデート?」


「楽しみです」


眠くなってきた。ふにゃふにゃの声で話してたら、大和さんに笑われた。


「抵抗しないで寝ちゃいなさい」


「今日は起きていようと思ったのに」


「おやすみ、咲楽ちゃん」


「おやすみなさい、大和さん」

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