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闇の日。今日から王宮での馬車への乗り方降り方、エスコートのされ方、ドレスでの動き方、神殿での祈りの仕方の練習が始まる。


エスコートのされ方が不安だ。全部不安だと言えば不安だけど。エスコートの相手が大和さんなら大丈夫。ゴットハルトさんはどうだろう。ゴットハルトさんは私が男性に対して恐怖心を持ってることを知ってる。気を使ってくれてることも知ってるけど、エスコートみたいに触れたことはない。他の人だと、たぶん確実に無理。


いくぶん不安になりながらも、起きて着替える。今日はロングスカートを穿いてくるように言われている。くるぶし丈のスパイラルスカートを穿いて、ヒールは王宮で履き替えることにする。ヒールは謁見の時に履いていたもの。ローズさんやルビーさんに相談して一応持っていくことにした。


ダイニングに降りて、ディアオズの水量を確認して、暖炉に火を入れる。


「不安そうな顔だね」


「おかえりなさい、大和さん、えぇ、不安にもなります」


「サクラ様、大丈夫ですか?」


「大丈夫ですよ。案外平気かもしれませんし、その時にならないと分からないですよね」


「それはそうですが」


「ご心配をかけまして。地下は良いんですか?」


「無理をして無いなら良いけどね」


そう言い残して、大和さんとカークさんは地下に降りていった。


私がフルールの御使者(みつかい)に正式に決まったと言った時の、カークさんの喜び方と悔しがり方は凄かった。我が事のように喜ぶって言うのはこの為に有ったんだと思わされるほどだった。悔しかったのは正式通達に立ち会いたかったかららしい。


今日は大和さんは東市場(バザール)の巡回と西から北の街門及び門外の巡回。あの騎士様達の一斉出立の事をローズさんやリディー様に話したらものすごく羨ましがっていた。だけど、大勢で押し掛けるのもなんだからって、他の人には黙ってる事になった。


今日は2人もお昼を持ってくるって昨日言っていたから、夜大和さんに伝えたら、今日、騎士団で話すって言ってた。


朝食の用意と私のお昼の準備をして、伝声管を開ける。聞こえてきたのは習曲(ならいうた)。これはカークさんの笛だ。


笛の()が消えたのを確認してから、声をかける。


「朝食の用意が出来ました」


「分かった。上がるね」


リビングの壁が開いて、大和さんとカークさんが上がってくる。


「カークさん、大丈夫ですか?」


「はい。笛を吹くっていうのは疲れるんですね」


「動かずにいても、かなりの呼吸量になるし、こんなもんだな」


「ゆっくり息を調えてください。座ってた方がいいですよ」


カークさんが椅子に座ったのを確認して、大和さんがシャワーに行く。


「お手伝いできず、申し訳ありません」


「いいえ。大丈夫ですよ」


朝食プレートを仕上げながら、話をする。


「今日は所作の練習でしたか?」


「はい。上手く出来るか心配です」


「まだ時間はありますし、すぐに出来なくても良いのでは?」


「そうなんですけどね」


「サクラ様なら、すぐに出来そうですけどね」


「そんな事言わないでくださいよ」


「楽しみですね。サクラ様の白いドレス姿」


「それは楽しみですけどね。それを着てのパレードが……」


「諦めたのではなかったのですか?」


「思った以上に諦めが悪かったみたいです」


「嫌がっておられましたからねぇ」


カークさんが立ち上がる。


「お手伝いします」


「ありがとうございます。そうは言っても、もうする事が無いんです」


「休みすぎましたね」


「休んでくださいと言ったのは私ですよ」


「気が済まないのですが」


「じゃあ、プレナート領の話を聞かせてください。私は王都から出たことがないので」


パンを温めながら、話を聞く。


「プレナート領ですか?そうですね。あそこはやや乾燥しているのですよ。領に入って少し行くと、一面に緑が見えます。それがブドウの木なんです」


「一面に?」


「えぇ。視界が全部、緑に見えます。今の時期は茶色ですけどね」


「枯れちゃうんですね」


「木は平気だそうですが、葉は落ちますね。ブドウの実る季節には、濃い紫が葉の間から覗くんです。木に実ったままにして置いて腐る寸前にまでしたブドウで、ワインを作ることもあるそうです」


「大丈夫なんですか?」


「甘いワインが出来るそうですよ」


「へぇ。飲んで……あ、ダメだ」


「サクラ様に合うと思いますけどね」


「私はお酒に弱いんです」


「そうだな。オランジュの果汁で酔ってたし」


シャワーから戻った大和さんにバラされた。


「大和さん、バラさないでください」


「オランジュの果汁って、子どもでも飲めますよ?」


「でもダメなんです。寝ちゃうんです」


「その前に普段見せないような甘え方をする」


「大和さんっ」


「本当の事でしょ?」


「覚えてません」


「サクラ様ならそういった物も料理に使いそうですが」


「そうだ。頂いたレーズンのブランデー漬けを作ってるんです。出来たらケーキを焼きますから、お仲間さんにも渡してもらっていいですか?」


「えぇ。構いませんよ。レーズンのブランデー漬けですか」


「正確にはドライフルーツとナッツのブランデー漬けですね。もう少しかかりますが、待っててください」


だいたい10日位で馴染んでくるから、その頃に焼こうと思う。


「楽しみです」


コーヒーを持った大和さんがこっちに来た。


「朝食にしようか」


「はい」


スープを注ぎ分けて、テーブルに運ぶ。大和さんが朝食プレートを運んでくれて、カークさんがパンを盛ってくれる。


「プレナート領は酒を呑むヤツには天国だな」


「飲んだくれているのは居ませんでしたけどね」


「あちらは雪はどうなんですか?」


「雪はそれなりに降るそうです。気候としては王都より暖かい感じでしょうか」


「そうなんですか」


「そのまま食べられるブドウも有るそうですよ。隣の領と協力して、フルーツの栽培も盛んです。ドライベリーなんかもありましたね」


「ドライベリー?って、ブルーベリーとかですか?」


「ブラックベリー、ブルーベリー、グリーンベリー、レッドベリー、オレンジベリーが入ってました」


グリーンベリーとかレッドベリーとかオレンジベリーって何?


「レッドベリーは別名をフレイズと言います」


「へぇ」


フレイズ?フレーズなら聞いたことがある。ガトーフレーズがイチゴのショートケーキだって聞いたけど。


カークさんが食べ終わった食器を洗ってくれている。私はエプロンを外したら、王宮に行ける格好だから、そのままダイニングにいた。


「サクラ様、あのハンカチに何かされましたか?」


「無事に帰ってこれますようにって、思いながら刺繍をしましたけど」


「他のメンバーが『行き帰りがここまで楽な調査は初めてだ』って言ってました。サクラ様の祈りが込められていたのですね」


「旅の安全は祈りましたけど、たいした事はしていませんよ」


「実はね、あのメンバーの属性を全部合わせると、全属性になるのですよ」


「カークさんが闇と地ですよね。他の方々が4属性ですか?」


「はい」


「光属性の方もいらっしゃる?」


「ルイスが光属性です。面白い光属性でしてね。治癒力は高くないんです。でもアイツが居ると明るくなる。場を盛り上げるんですよ。弱い光属性なら分かるんですが、そこまで弱くないんですよね」


「そんな感じでした。明るい方だなって思いましたもの」


「私と正反対ですね」


「正反対ですか?」


「私は口下手でしてね。何もない時に話題を、と言われても、上手く言葉が出てこないんです」


「お待たせ。何を話してたの?」


「カークさんのパーティーメンバーの方の話です」


「あぁ、後4人居たな」


「5人で全属性になるんですって」


「面白いな」


家を出ると、カークさんが言った。


「では、失礼します。サクラ様、頑張ってくださいね」


「ありがとうございます。カークさんもお気を付けて」


カークさんを見送って、大和さんと歩き出す。


「今日は所作の練習だったね」


「はい」


「謁見の時を思い出したら、大丈夫じゃない?」


「そうなんですけどね」


「練習が終わったら、放牧場に来るんだよね」


「一応4人ですね」


「アイツ等の張り切る様が目に浮かぶ」


「大和さんは?」


「咲楽ちゃんだけに見せたい。正直に言うと咲楽ちゃんだけでいい」


「大和さんこの前、事実婚状態だって気付いたって言ったじゃないですか」


「言ったね」


「それって結婚しても今と変わらないって事ですよね?」


「おおむね変わらないね」


「おおむね?」


「咲楽ちゃんは名字が変わって、平気?」


「はい」


「常磐 咲楽になって、平気?」


「はい」


「それは聞いておきたかったんだよ。まぁ、ここは異世界で、しきたりだのなんだの関係ないけどね。ここだと別姓も選べるらしいよ」


「嫌です。大和さんと一緒がいいです」


「可愛い事を言ってくれるね」


「そうですか?」


「嬉しい事って言い換えた方が良かった?」


「大和さんも嬉しいって思ってくれますか?」


「当たり前だよ」


「良かったです」


「正式に申し込まないとね」


大和さんがボソッと何かを言った。


「なんですか?」


「なんでもないよ」


ギュっと握ってくれる手が暖かい。そんなことを考えていたからか、ルビーさん、ファティマさん、アンリさん、ノラさんが後ろから付いてきてるのに気が付かなかった。


王宮への道に来て、気が付く。


「あれ?ルビーさん達はまだですか?」


そこにいた騎士様達とローズさん、リディー様が笑いをこらえてる。


「咲楽ちゃん、後ろを見てごらん」


そこにはルビーさん、ファティマさん、アンリさん、ノラさんともう一人の5人が肩を震わせていた。


「声を掛けてくださいよ」


「黒き狼様は知ってたよ」


「天使様は一生懸命、黒き狼様に話しかけてたね」


「大和さん、知ってたんですか?」


「いつ気が付くかな?って思ってたんだけどね。まさかここまで気が付かないとは」


「言ってくださいよ」


ゴットハルトさんが笑いながら寄ってきた。


「ヤマト、今日は以上か?」


「そうだな」


「今の内に紹介しておくよ。彼女が成年女性の部のユーフェちゃん」


ノラさんが紹介してくれた。ユーフェさんは慌てて挨拶をする。


「ユーフェです。成年女性の部の5番馬車です。よろしくお願いします」


「サクラ・シロヤマです。お願いします」


「ローズ・ジェイドよ。よろしくね」


「ルビーです。仲良くしましょうね」


「後は成年女性の部は2番馬車の方だけですね」


「あぁ、たぶん淑女世代の貴族女性の方々といらっしゃるわ。スサンナ・ヘームスケルク様。伯爵様のご令嬢ね」


「ライルさんが言っていましたね」


「参りましょうか」


大和さんに促されて歩き出す。大和さんとゴットハルトさんの他に団長さんも付いてきた。


「団長、良いんですか?」


「後は未成年の部の4人だ。カイルと彼等が居たら大丈夫だろう」


「それなら良いのですが、面白そうだからって付いてきた訳じゃないですよね?」


「何を言う。一応団長だぞ」


「一応、そうですね」


「ゴットハルト、ヤマトに性格が似てきたな」


「団長、私はここまで言いませんよ」


「ヤマトとゴットハルトが揃うと、いつもこうだ。酷いと思わないか?御使者(みつかい)様方」


「赤毛の団長さんが形無しだね」


「ほんとだね」


「神殿で見たときは、もっと厳しい人だと思っていたけどね」


「団長さんはこんな感じでしたけど」


「シロヤマ嬢はこの団長しか知りませんからね」


「サクラちゃん、赤毛の団長と言えば、泣く子も黙る炎の剣の使い手よ」


「そうそう。サクラちゃんと話してるのを見て、ビックリしたもの」


「そうなんですか?」


リディー様がテテテって感じで近付いてきた。


「天使様、ローズ様、ルビー様、おはようございます」


「リディー様……」


「今日はいいんじゃない?ルビー」


「今日は許してくださいまし、ルビー様」


「仕方ないわね」


「ルビーさん、ルビー様なんて呼ばれてんのかい?」


「リディー様は今、施療院で光属性の練習をしているんです。その時はルビーさんって呼んでくれるんですよ?」


「なんだか、施療院組は姉妹みたいだね」


「サクラちゃんは施療院の末っ子の妹よ」


「天使様が一番落ち着いて見えるけどね」


「ファティマさん、ひど~い」


王宮に着くと、大和さん、ゴットハルトさん、団長さんとはお別れ。ポールさんが走ってきて、前回の部屋に案内された。


「どこに座ります?」


「真ん中辺りでよろしいのでは?」


「そうしておこうか」


「こうやって座ってて、貴族様が見えたら立ったらいいんじゃないかい?」


「そうだね」


ファティマさん達はそんな風に話しているけど、ローズさんとリディー様も貴族様だって忘れてる?2人がそう扱って欲しいって言ってたから良いのかな。


話をしていると、スサンナ・ヘームスケルク様とエリザベート・デマントイド様と、ジュリエッタ・フルオラ様が揃って入ってらした。


「皆様ごきげんよう」


「おはようございます」


「今日はまずは歩き方からと伺いましたが、ヒールを履いてきた方はいらっしゃいます?」


「リディアーヌ様は?」


「持って参りましたわ」


「ローズさんは?」


「持って来たわよ、ルビーのも」


「ユーフェさんはどうですか?」


「私は持っていないです」


ユーフェさん、ファティマさん、アンリさん、ノラさんは持ってきていないと言うことだった。


「なら、4名様はこちらにいらして?ヒールを貸し出しますわ」


「履き替えておいた方がよろしいでしょうか?」


「そうですわね」


魔空間からヒールを出して、履き替える。


「サクラちゃん、ヒールが高いわね」


「それってあの時の?」


「はい。これしか持ってませんし」


やっぱりヒールは履いていて落ち着かない。


その内未成年の部の4人も入ってきて、その子達もヒールを借りていた。


みんなのヒールは5cm位。私だけ8cmのヒールだ。


「では、まずは立ち方から、と言いたいのですけど、先生がまだですわね」


ジュリエッタ様がそう仰った。


やがて、3人の女性が姿を見せた。



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