15
入り口から出てきたのは、ローズ先生?!
「シロヤマさーん。待ってたわー!!」
すごい勢いで抱きつかれた。
「施療院に来てくれるって聞いて待ってたのよ。どうぞ、案内するわ。あ、アインスタイ副団長、ありがとうございました。もうよろしいですよ」
「では私はこれで。トキワ殿、次の光の日に王宮でお待ちしております」
副団長さんは行ってしまった。
「さぁシロヤマさん、案内するわ。こっちよ」
待合室、治療室、療養室、回復室。
「それからこっちが中庭ね。みんなの憩いの場ね。といっても手入れができてないけど。みんなこういうのは苦手でね」
ローズ先生が笑う。
「先生方を紹介しましょうか。今居るのは私をいれて5人ね」
最初に紹介されたのは初老の男性。
「ここの院長のナザル様よ」
「ナザルじゃ。よろしく頼むよ」
「こっちの一見軽そうなのがライル様。軽そうに見えてものすごく真面目ね」
「なんて紹介の仕方だ、ジェイド嬢。見た目の事は言わないでくれ」
ライル様は心底嫌そうに言うと私を見て言った。
「ライルだ」
「こっちの子がルビー」
「よろしくね」
「で、この子がアリス」
「アリスでーす。よろしく~。あら?こちらの方はどなた?かぁっこ良い~」
「その人はシロヤマさんの婚約者の方よ。変な事しないのよ」
「えぇ~。アリス、変な事しませんよー。あ、でもぉ~、ちょっとお話ししたいなぁ~。ダメですかぁ~」
何この子?大和さんに触らないで欲しい。
「それは業務上の事ですか?」
低い声で大和さんが聞く。
「えぇ~。アリス、嫌われちゃいましたぁ?悲しいぃ」
泣き真似してる。
「ジェイド嬢、ここの人はこれで全員ですか?」
大和さんが聞く。
「そうね。これで全員。たまに王宮魔術師の方々が手伝いにこられたりするけどね」
「なるほど。一日に何人くらい診るんです?」
「大体一人の治癒師が1日30人。定期的に通っているのが15人くらいおるな」
ナザル所長が教えてくださる。
「ローズ先生、勤務時間はどうなっていますか?」
「ローズ、あなた、先生って言われてるのぉ?おっかしい~」
なんだか嫌な感じでアリスさんが嗤う。
「ねぇ貴女?シロヤマさんって言った?ローズの事、先生って呼んでるの?」
「アリスさんと言いましたか?」
低い声で大和さんが言う。あ、怒ってる。
「はぁ~い、なんですかぁ」
アリスさんが大和さんにすり寄る。そのアリスさんの手をかわして、大和さんが言う。
「貴女は人を診る資格がないですね。人を貶め、人を嗤う。そんな人に人を癒す資格はない。人の事を考え、人の事を想う人にこそ人を癒すことができるはずです。そうは思いませんか?」
「何よ!!アリスは優秀なのよ。こんな出来損ないよりね。光魔法も使えない人は黙ってて!!」
「ほう、優秀だと?属性が多いと言うことですか?それとも魔力量?」
「どっちもよ。私は4属性、魔力量は20000よ!!」
「なるほど。その程度が『優秀』なんですね。時にナザル殿、こちらの事情は?」
「ワシは知っております」
「それを踏まえて、今のアリス嬢の発言をどう思いましたか?」
「モノを知らないと言うのは恐ろしい、そう思ったな」
「どう言うことよ!!」
「貴女はギャンギャン吠えてれば良いと思っているのですか?少し頭を使っては?」
大和さんが薄く笑う。
「それとも使える頭もないですか?まぁ、使える頭があれば、こんなことは言わないでしょうけどね」
うわぁ仕留めにかかってる~!!アリスさんが涙目になってる。
「ちなみに貴女がギャンギャン吠えてた声は外に丸聞こえでしたよ」
「あれ?副団長さん?何故いるんですか?」
「あぁ、トキワ殿に頼まれたのですよ。この位に来てくれと」
「良いタイミングでしたよ。貴方が来たと分かってから始めましたので」
「ついでに第二王子殿下もお見えです」
あ、アリスさんが逃げた。騎士さんに捕まってる。
「ナザル殿、アリス嬢は王宮魔術師団で叩き直します」
副団長さんが言う。
「しかしなかなか辛辣だったね。アリス嬢が気の毒になったよ」
第二王子殿下が言う。
「トキワ殿は容赦がないのだな」
「お見苦しいものをお見せしました。曲がった事、納得できない事を放置するな、と言うのが家の家訓のひとつだったのですよ。特に曲がった事を正すときは男女の区別、身分の区別は一切するな、と言われておりました」
「そ、そうか。王宮では抑えてくれるとありがたいけどね」
第二王子殿下の顔が引きつってる。
「あの、私はここで働かせていただけるんでしょうか?」
話題が逸れてってしまった気がして声をかけた。
「こちらとしては是非ともお願いしたいがね」
ナザル所長がそう言われる。
大和さんを見上げる。頷いてくれた。
「よろしくお願いします」
頭を下げた。
「あの、いつから来たら良いですか?それから勤務時間とか教えてください」
「ジェイド嬢、あちらで教えてあげなさい」
ナザル院長が言う。私はローズ先生と別室に移っていろんな話を聞いた。
勤務時間は2の鐘から5の鐘まで。但し大抵は5の鐘が鳴る前に終わる。次の光の日から来て欲しい。お給料は月の終わりに王宮から届けられる、休みは闇の日、等。
「それから白衣が渡されるけど、着ても着なくても良いわ。白い上着なんだけど、可愛くないのよね」
「アレンジしても良いんですか?」
「ナザル所長くらいじゃないかしらね、そのままで着ているのって。みんなアレンジしてるわ。男性は丈を短くしたりね。私は白衣が好きじゃないから着てないの。貴女にはいつ渡せるかしらね」
そうなんですね。
「さっきのトキワ様、すごかったわね。ゾクゾクしちゃった。魔法の指導に行っているときはあんな顔、見せなかったじゃない。貴女の事を愛し気に見つめてたりしたけど。そう言えば今はどうしてるの?」
「大和さんと一緒に暮らしてます。神殿が家を用意してくださって」
「え?同棲してるってこと?」
「同居です!!」
「婚約者同士なんでしょ?同棲で良いじゃない。絶対にトキワ様が貴女を離さない気がするわ」
顔が熱くなる。話を終えて戻ると第二王子殿下から袋に入った何かを渡された。
「これ、白衣ね。施療院に行くって言ったら持たされた。3着入ってるから好きなようにアレンジして。あんまり派手なのは困るけどね。もちろん着なくても良いよ」
「ありがとうございます」
「それから母上から伝言。また遊びに来てね。だそうだ」
「気軽に行けません……」
施療院をお暇し、家に戻る。
「そう言えば大和さんの所属はどこになったんですか?」
「んー。まだはっきり決まってないな。近衛は仲間との信頼関係とかも必要だろうって言っておいたけど。もしかすると何日か交代で掛け持ちになるかも」
「そうなんですか?」
それって大変なんじゃあ……
「大丈夫だよ。体力には自信があるからね」
「でも、神殿でも『舞を』って言われてませんでした?」
「そうだ、それでお願いがあるんだ。舞を確認してくけど、最初は瞑想からはいるから、緋龍が見えたら教えて欲しい」
「あ、はい」
家に入ってざっと掃除をして、食材を確認する。大和さんは庭の確認をするって出ていった。確認って何をするんだろう。少しすると大和さんが戻ってきた。
「咲楽ちゃん、庭を少し弄って良いかな?」
「庭を?弄る?」
「うん。簡易的な舞台を作ろうと思って」
「剣舞の舞台ですか?」
「そう。大きさは覚えているからね。少しそこだけ高くして固めようと思って」
「かまいませんよ。私はほぼ庭って使ってませんし」
「ありがとう。木材とかあったら四阿とか作りたいんだけどね」
「作れるんですか?」
「うん。簡単なものならね」
「まさかそれも……」
「傭兵時代に覚えた」
どれだけ覚えてるんですか……
「じゃあちょっとやってくる」
少ししたらゴゴゴっという音が聞こえた。庭に出てみると、大和さんが地面に両手をついて向こうを向いていた。
やがて高さ50cm、幅5m位が隆起した。見てみると奥行も5m位ある。
「終わったんですか?」
「後は固めるだけなんだけどちょっとキツいかな。明日に……んー。雨が降りそうだな」
「キツいって……?」
「魔力量。一応限界は測ったからね。魔力切れの状態も経験した。あれは寝ないと戻らないみたいだね」
「どの位の固さにするんですか?」
「学校のグラウンド位かな。あの位がちょうど良い」
「やってみて良いですか?」
「そっか、咲楽ちゃんは属性に地もあったね。お願いできる?」
「はいっ!!」
頑張る。大和さんの役に立ちたい。学校のグラウンドをイメージして隆起した土を固める。魔力が抜けるのが分かった。大和さんを見ると、固さを確かめている。どうかな~。
「うん。イメージ通りだね。良い感じ。ありがとう」
良かった。
「お役に立てて良かったです」
あ、そうだ。
「これ、どこから上がるんですか?階段とかあった方が良いんじゃないですか?」
「あぁ階段な。俺は無くても上がれるけど、咲楽ちゃんも上がりたい?」
「えっと……上がって良いんですか?なんかそういう場所って女性が上がっちゃダメだって聞いた気がするんですけど」
「正式なものじゃないし良いんじゃないかな。家でも女子衆が掃除に上がったりしてたし」
「じゃあ上がりたいです」
「抱いて上がってやろうか?」
大和さんが笑いを含んだ声で言う。
「からかってますね?」
ちょっと睨んで大和さんを見ると、やっぱり笑ってた。
「そうだな。俺が居ないときでも上がれるように階段も作っとく?こっちの左側に2~3段の階段かな」
「じゃあ、作っちゃいます。幅はどのくらいですか?」
「んー。じゃあこの辺りに。幅は1m位かな」
えっと、幅1m位の2段の階段。イメージを固める。出来た。
「プロクスが来るな。神殿からの帰りか」
大和さんが言った。あ、ほんとだ。プロクスさんが木陰から見えた。
「トキワ殿、お二人で何をされていたのですか?」
「そんなところから覗いてないで入ってきたらどうだ?」
プロクスさんは庭に回ってくると、舞台を見つけて首を傾げた。
「こんなところにこんなの、在りましたっけ?」
「さっき作った。基礎は俺、仕上げは咲楽ちゃんだ」
「作ったって……」
「練習用だな、剣舞の。舞台があるのとないのでは違うから」
「そんなものですか」
「そうだ、プロクス。剣舞の奉納を、と言われたが5番ある剣舞、全てを舞うのは無理だ。舞う時期にも因るが、1番か2番だけで良いのか?」
「私も詳しいことは聞いていないのですよ。ただ、今までの奉納舞はそんなに長くはありませんでした。朝やってらしたあのくらいの長さだったと思います」
「分かった。ところで木材が欲しいんだが」
「木材ですか?買っても良いですが採ってきても良いですよ。木材から水分を抜くのは……あぁ、シロヤマ嬢がいますし大丈夫でしょう。水魔法で水分は抜けます。切るのは私がやりますが。何を作るんです?」
「四阿、こっちで言うと何になるんだ?ガゼボかな?休憩するためのちょっとした小屋だな」
「それなら大量には要りませんね。採ってきましょう。ただ、森へ行くので必ず帯剣してください。シロヤマ嬢は……」
「行きます」
「魔物が出るかもしれませんよ?危ないと思ったら必ず風魔法でご自分の周りに障壁を張ってくださいね」
「いつにする?」
「そうですね。森の管理者に話をしてからだから、次の闇の日ですか。私も休みですし」
「2日後か。分かった。なにか用意するものは?」
「木がどれくらいいるのか分かれば大丈夫です。斧は管理者の方に借りましょう」
プロクスさんと大和さんが打ち合わせをしてる。と言うか雑談?
「あのっ、私、家に入ってますね」
そう言って家の中に入る。何をしよう?あ、そうだ。手芸のお道具、確かめてない。自室に入って道具を確かめる。刺繍の枠に、これ、ハギレって言って良いの?1m位の長さの布が沢山。刺繍糸と縫い針。いろんな色の糸。
それから棚には何冊かの本。魔法の事やこの世界の宗教の事、魔物について等、この世界で生きていくのに知っておいた方が良い物の本だった。
施療院でもらった白衣を出す。うん。形は良くある白衣。お医者様が羽織ってるような白衣。これ、ちょっと腰を絞ってスカートみたいにしたら可愛いかも。シャツワンピみたいにしようかな?
白い布もあったからベルトみたいにして縫い付ける。ボタンも、あった。これを飾りボタンにして、でもこれ肩幅とか絶対に合わないよね。サイズ調整もしなきゃ。
コンコン
ノックの音がした。振り返ると寝室のドアから大和さんが覗いてた。
「ずいぶん楽しそうだね。ちょっと市場に行ってこようと思うんだけど、一緒に行く?プロクスも一緒だけど」
「行きます。片付けるので待ってください」
手早く片付けて部屋を出る。と、頭に大和さんの手が伸びてきた。
「糸屑ついてる」
「ありがとうございます」
ちょっと恥ずかしい。階下に降りるとプロクスさんが待っていた。
「待たせたか?」
「いいえ。では行きましょうか」
家を出てから気付く。私、プロクスさんにお茶も出してない。
「どうした?」
俯いた私に気付いて、大和さんが聞く。
「あの、私、プロクスさんにお茶も出してないって思って……」
「お茶?」
プロクスさんが不思議そうな顔をする。
「正式な招待だったりしたら紅茶でもてなしたりしますが、今日は私が押し掛けましたからねぇ」
「あっちでは、家に来た客には飲み物を出して、寛いでもらうって言うのが主流だったんだよ。こっちでは違うのか?」
「そうですね。急な来客の場合は準備してない事が多いですから、そういった場合にもてなしをするのは貴族家位ですね」
そうなんだ。
「ですから気にしないでくださいね」
「はい。ありがとうございます」
市場に着いた。
「大和さん、何が欲しいんですか?」
「大工道具に紙とペン」
「大工道具は分かります。紙とペン?」
プロクスさんが聞く。
「簡単な設計図と木材の概算を出すのに欲しい」
「大和さん、設計図描けるんですか?」
「一応ね。設計図無しで四阿を作るほど器用じゃないからね」
「小屋を一人で作れるって言っている人は器用だと思います」
「そうかな?」
大工道具の店に着いた。こんな店もあるんだ。
「いらっしゃいませ。こちらは主に大工用具を扱っています。戦斧や戦槌はあちらへどうぞ」
戦斧?戦槌?頭にハテナマークを浮かべている私にプロクスさんが説明してくれた。
「戦斧や戦槌というのは武器ですね。そういった武器を得意とする人もいますので」
そうなんだ。大和さんはここで釘と金づちと小さいノコギリを買った。
「そんなもの、要りませんよ、木材に加工するのは風魔法でやっちゃいますから」
プロクスさんが呆れてた。
次に行ったのは文房具屋さん。あれ?紙とペンとインク位しかないけど。
私は隣にあったボタン類が一杯の店で止まってしまった。
「欲しいの?」
大和さんが聞く。
「買っちゃえば?」
「良いんですか?」
私は嬉々として見始めた。これも可愛いし、あっちのは綺麗。あ、こんな色もある。結局何種類かのボタンを買っちゃった。
「お待たせしました」
あれ?プロクスさんは?
「プロクスは迷子を見つけて詰所に連れてった。しばらくこの辺でいてください。だそうだよ」
3軒隣にお酒を売っている店があった。
「そういや咲楽ちゃんはお酒は飲まないんだっけ?」
「はい。飲んだことありません。大和さんは飲めるんですよね」
「あぁ。入団初日にテキーラとウォッカを飲まされたしね」
「え?それってスッゴクきついお酒じゃなかったでしたっけ?」
「まぁ、家でも祭の直会で飲んでたけど」
「何歳から?」
「一番最初は中学生の時だったな。その頃は一升が限度だったけど」
一升ってどの位?分からないけど飲んじゃダメ!!
「ダメですよ。そんな年齢から飲むなんて!!病気になっちゃったらどうするんですか!!」
「大丈夫だよ。そういうのは年に2回だけだったし」
大和さんはそう言ったけど、心配なものは心配です。
プロクスさんが戻ってきた。
「お待たせしました。……どうしたんですか?」
「飲酒について咲楽ちゃんから怒られてた」
大和さんが笑う。
「お二人とも、他に欲しいものはないですか?」
「あの、食材とか見たいです」
「なら、こっちですね」
そこにはお肉の塊、ハムなんかの加工品、野菜が並べられていた。
「魚はないんですか?」
そう聞いた私にお店のオバ……お姉さまが教えてくれた。
「魚はね、大抵は塩漬けかカチカチの干物だね。たまに生の魚も入るけど、運が良くないとね。お嬢さん、魚が欲しいのかい?」
「あったら良いなって感じですので。ありがとうございました」
塊肉とウインナーと野菜を買っていく。ジャガイモとかニンジン、玉ねぎも。明日はシチューにしようかな。
「持つよ。これで何を作ってくれるの?」
「明日のお楽しみにしてください」
「分かった。楽しみにしとく」
大和さんが嬉しそうに笑う。
「そろそろ帰りましょうか」
「そうだな」
プロクスさんは家まで送ってくれた。
少し大和さんと話をして帰っていく。
夕食の準備をしながら明日の下拵え。
「大和さん、このワイン、お料理に使っちゃって良いですか?」
「今のところ飲まないしね。良いんじゃない?」
「お酒飲みたくならないんですか?」
「別に日本では毎日飲んでた訳じゃないし、今はいいかな」
そうなんだ。
「なんとなく大和さんってウイスキーとか飲んでそう」
そう言ったら笑われた。
「ウイスキーも飲むよ。日本酒も飲むし、焼酎とかワインもブランデーもテキーラ、ウォッカも飲む。けどね。飲まなきゃダメって訳でもないしね。傭兵時代はワインが水代わりの人達ばかりだったから付き合って飲んでたけどね。戻ってきてからはそんなに飲んでなかったな」
そう言って大和さんは庭に行った。何しに行ったんだろう?
戻ってきた大和さんに聞いてみた。
「何をしに行ってたんですか?」
「歩測で大体の幅とか測ってた」
「歩測……あぁ聞いたこと、あります。伊能忠敬が日本地図を歩測で測ったって」
「そうそう、その歩測ね」
「で、今から設計図ですか?」
「そう。壁がないんだけどどうしようか、と思ってね。ガゼボだと多角形になるし、四阿でいいか」
違いが分かりません。
「どっちも壁の無い屋根だけの建物だね。ガゼボだと多角形が多い。8角形とかね。四阿は日本庭園なんかに多いかな。造りやすいのは四阿かな」
5の鐘が鳴った。
「もうすぐお夕飯できますけど、食べます?」
「そうだな、いただこうか。ちょっとこれ、置いてくる」
そう言って大和さんは紙とペンを自室に置きに行った。
その間に盛り付け。ホントに調味料が欲しい。市場に行ったときに見ればよかった。
ご飯を食べて、後片付けを大和さんにしてもらって、ソファーに移動。
大和さんがもう一度紙とペンを持ってくる。
「それ、魔空間に入れといたら良かったんじゃないですか?」
「うん。今気がついた」
あははと大和さんが笑う。
「でもここだと書けませんよね」
「計算はできるけどね」
ソウデスネ。
「まぁ、でも設計図と言うか完成予想図がないとね」
「私、完成予想図が想像つきません」
「あぁ、そっか。んー。こんな感じかな」
そう言ってさらさらっと大和さんが書いてくれた絵は凄く上手だった。
「大和さんって絵も上手いんですね」
「こういう絵ならね」
ん?こういう絵?
「人物画とか生き物は苦手。生きてるものは苦手かな」
そう言って大和さんは立ち上がる。
「風呂に行って、そのまま部屋で仕上げてしまうよ」
大和さんは行ってしまった。これは……あのとき言ってた「お話」は無くなったと見て良いのかな。
それなら良いんだけど。
私も部屋に戻って、白衣のアレンジの続きをする。さっき市場に行ったときに買ったボタンを元々付いてたボタンと付け替える。大きさが同じ位の違うデザインのボタンにするのも可愛いよね。
と、寝室で音がする。大和さんがお風呂から上がったのかな。あれ?でも部屋で四阿の絵を仕上げるって言ってたよね?結界具はさっき作動させたし、なんの音?
ざっと机の上を片付けて寝室のドアをノックする。
「大和さん?上がったんですか?開けますよ」
声をかけてドアを開ける。そこには大和さんが居た。
「あれ?部屋で絵を仕上げるって言ってませんでしたっけ?」
ベッドに横になっていた大和さんは、起き上がって私を見ると笑顔になったんだけど、何か変な感じがする。
「咲楽ちゃん。お話を忘れてた」
忘れて貰って良かったんです!!
そのまま手招きされてベッドに行く。
「そこまで緊張しなくても」
大和さんに笑われて、そのまま引き寄せられて抱き締められる。
「や、大和さんっ!!私、お風呂行ってきますっ」
慌ててそう言って大和さんの腕から抜け出す。
「お話」の内容が気になる。ちょっと急いでお風呂から上がる。
二階に上がって寝室に行く。大和さんはベッドで……寝てる?気になって覗き込もうとすると、急に起き上がって腕を掴まれた。
大和さんは私だと確認できたのか力を抜いた。
「悪い。どこか痛くしなかったか?」
「大丈夫ですけど、ビックリしました」
でも、大和さんが眠ってるのを見たのは2回目だ。
「あの、大和さん、疲れてるんじゃ?」
「そう見える?」
大和さんはそのままベッドに寝転んでしまった。
気になって大和さんに近づく。
「大丈夫だよ。魔力切れの症状だから」
「眠くなるんですか?」
「眠くなるって言うか怠くなる」
怠くなるんだ。
「ごめんね、今日はもう寝るね」
大和さんは片腕で顔を覆ってそう言う。
「大和さん、お布団掛けた方が……」
ホントに怠そう。何か出来ないのかな?ベッドに投げ出された大和さんの手を、思わず握る。さっき腕を掴まれた時も思ったけど、大和さんだと怖くない。昼間に団長さんに触られただけでも怖かったのに。
そのまましばらく大和さんの手を握ってたけどそのまま私も寝てしまった。
今日は色々あって疲れた。
ーー異世界転移14日目終了ーー