表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
179/664

169

闇の日になった。今日はフルールの御使者(みつかい)の顔合わせの日だ。


大和さんは今日は西地区の巡回兼、西から南の街門及び門外の見廻り。そう。王宮騎士団には、王都内だけでなく門外の見廻りも先月から加わったらしい。その際には騎馬しての巡回らしく、エタンセルも一緒らしい。エタンセルが居ない時、あの魔犬、シャムスはどうしてるんだろう?他の馬達と仲良くしてると良いな。


今日は私も大和さんと一緒に王宮に行く。正直に言って、闇の日も大和さんと一緒に居られるのは、とっても嬉しい。昨日、ローズさんとルビーさんが『一緒に行きましょうね』って言ってくれた。王宮への分かれ道で待ち合わせして、そこから一緒に行く。


今朝は良い天気だ。最近は雪が積もることも少なくなってきた。少なくなってきただけで、降る事は降るんだけど。


起きて着替えて、ダイニングに降りる。ディアオズの水量を確認して、暖炉に火を入れる。大和さんが帰ってくるまでに食料庫から食材を取り出す。別に急いでないんだけど、なんだか特別な気がする。毎週続くんだけどね。


「ただいま、咲楽ちゃん」


「お帰りなさい、大和さん」


「地下に行くけど、少ししたら伝声管を開けて。笛を聞かせるから」


御鎮魂(みたましずめ)ですか?」


「今日は違う曲。楽しみにしてて」


違う曲?どんなのだろう。10分位の時間をおいて、伝声管を開けてみる。少しして聞こえてきたのは、鳥の啼き声?これって笛だよね?曲の合間に鶯のような鳥の啼き声が聞こえる。


「咲楽ちゃん、上がるよ」


「はい」


しばらくして上がってきた大和さんに聞いてみた。


「さっきの鳥の啼き声って?」


「あれも笛だよ。さっきの曲は春告げ、別名(うぐいす)。『春まだ遠き心地にて、草木(そうもく)(いま)だ眠る時、春を呼ぶ声聞こえけり、花の蕾はその声に、目覚めの時を悟るなり』って歌詞が付いてる」


「へぇ。今にぴったりですね」


「そうだね。シャワー、行ってくる」


大和さんはシャワーに行って、私は朝食と昼食の準備。今日って何時までなんだろう?顔合わせと採寸って言ってたよね。


顔合わせは15人?名前と何番馬車かって言うのと、位かな。採寸はどうなんだろう?私のサイズはジェイド商会服飾部にあるんだけど。神殿衣装部にもあるんだけど。


またヒールは履かされるんだろうか。普段履いてないから、履きたくないんだけど。今日は顔合わせと採寸って事だから、大丈夫かな。


そういえば服の指定は無かったよね?


朝食プレートを仕上げて、パンを温める。


「咲楽ちゃん、コーヒー、淹れて良い?」


「どうぞ。お湯は沸かしてあります」


「咲楽ちゃんは、良い奥さんだね」


「なにも出ませんよ?」


「出ないか」


「仕方がないから、ウィンナー、一本あげます」


「わー、嬉しいなー」


「棒読みですね」


朝食を食べながら今日の話をする。


「今日は顔合わせと採寸だっけ?」


「はい。そう聞いてます」


「俺達が必要になるのはもうちょっと先かな?」


「エスコートの練習ですね?」


「どうなるかな?」


「楽しそうですね」


「エスコートの練習に付き合うなんて初めてだからね。たぶん俺等もエスコートの練習をするんじゃないかな?」


「俺等って事は、大和さんは護衛騎士に選ばれてるんですか?」


「さぁね」


「教えてくださいよ」


「まだ業務機密だね」


「業務機密って言葉、有ったんですか?」


「さぁ?」


「造語ですか?」


「業務上の機密だから、業務機密で良いんじゃない?」


「そうですけどね」


「直接の護衛騎士が15人と、周りでの騎乗しての護衛が5人ずつだから全部で40人かな?」


「そんなに……要りますね。周りの護衛は5人ですか?」


「そう聞いてる。前に1人、両脇に1人ずつ、その外に1人ずつだから1台5人だね」


「それは機密に当たらないんですか?」


「人数は良いでしょ」


「騎乗してですか。乗馬技術も要りますね」


「オープン馬車を見せてもらったけど、かなり大型だったよ」


「そんなに?」


「特注らしい。御使者(みつかい)3人と、護衛騎士が3人、魔術師2人、お世話役の女性が階下に2人って言ったかな?」


「階下?2階建てですか?」


「ダブルデッカーだね」


「階段で上がるんですよね?」


「その辺は護衛騎士を信じてね」


「はい」


朝食後は大和さんが洗うと言って聞いてくれず、先に自室に上がって決めておいたワンピースに着替える。


髪は纏めていって良いよね。練り香水はやめて、蜜蝋(セラアルバ)で纏めたら、ダイニングに降りる。


「もう着替えたんですか?」


「うん。行こうか」


騎士服の大和さんと歩くのはいつもの事なんだけど、出勤じゃないって言うのが落ち着かない。


「落ち着かなそうだね」


「出勤じゃないのに騎士服の大和さんと歩くのが、そわそわします」


「そわそわ?違和感じゃなくて良かった」


「違和感はないんです。今日はお休みだよね?って落ち着かないのと、騎士服の大和さんと歩いてるっていうそわそわがあるんです」


「闇の日のこの時間に騎士服で一緒に歩くっていうのは、初めてかな?」


「そうですね」


闇の日に騎士服の大和さんの隣に居る。闇の日じゃ無かったらいつもの事だ。なのに『闇の日』ってだけで特別な気になる。


「サクラちゃん」


「ルビーさん。おはようございます。その方は?」


「驚いたね。天使様?それと、黒き狼かい」


「ファティマさんよ。知ってる?」


「淑女世代の?」


「淑女ってガラじゃないけどね」


「行きませんか?」


大和さんが声をかけて、再び歩き始める。


「この後、ローズも合流よね」


「はい。昨日言ってましたね」


「女性ばかりの中に男が1人。どうだい?黒き狼様」


「離れたいのが半分、咲楽ちゃんの側に居たいのが半分ですね」


「この先、増えるけどね」


「私の事は護衛とでも思ってもらえれば」


「無理だろうね」


「バッサリ言いましたね」


「気になるかい?」


「いいえ。私のように取り繕うよりは、自然ではないかと」


「ん?普段と話し方を変えてるのかい?」


「礼儀ですから」


「へぇ。貴族様かと思ったら違うんだね」


「違いますね」


ん?大和さんがちょっとイライラしてきてる?自分の事、探られるのは嫌だって言ってたし。


「大和さん、先に行ってます?」


「どうせ一緒の方向だし、副団長も待ってるし。このままで良いよ」


「副団長さん、待ってみえるんですか?」


「王宮まで不慣れな人も居るだろうからって、何人か分かれ道で待ってるよ」


「あぁ、そういえば、貴族様って全部で5人でしたね」


「黒き狼様は私に対する時と、天使様に対する時と、全く態度が違うんだね。良いねぇ。こういう人は信頼できる。天使様、良い男を捕まえたね」


「ファティマさん、違うのよ。天使様が黒き狼様に捕まっちゃったの」


「そうなのかい?良い男に捕まったね」


「ごめん。ファティマさん。捕まったとか捕まえたとか、適切な表現じゃなかったわ。この2人は寄り添い合ったのよ」


「ルビーさんは詩人だね。寄り添い合ったか。そういえば、ルビーさんも結婚するんだろ?」


「えぇ。アウトゥにね」


「楽しみだねぇ」


「ん?ゴットハルト?」


大和さんが呟いた。


「どうしたんですか?ゴットハルトさんがいらっしゃるんですか?」


「ゴットハルトだけじゃない。団長まで居る」


「案内役でしょうか?」


「聞いてない。王宮になったから、聞かされなかったかな?」


こそこそと話してる後ろから、「仲が良いねぇ」「あれがいつもの事ね」「そうなのかい?」って会話が聞こえてきた。


「大和さん……」


「後ろの会話が気になる?」


「はい」


「気にしなくて良いよ。さっき先に行ってるか聞いたのって、気遣ってくれたんでしょ?」


「少しイライラしてる気がしたので」


「ありがとう」


「いいえ」


頭をくしゃくしゃってされた。


「髪が乱れます」


「ごめんごめん」


手櫛でさっと直して、大和さんを見ると、スゴく優しい顔で私を見ていた。


「今日は練り香水って付けてないね?」


「はい。今日は止めておきました」


「代わりにちょっと甘い香りがするって事は、蜜蝋(セラアルバ)?」


「はい。ハンドクリーム代わりに付けてきました。香り、します?」


「髪の毛からハチミツっぽい甘い香りがした。他の人は分からないと思うよ」


王宮への分かれ道には、副団長さんと団長さんとゴットハルトさんと、後、数人の騎士様が待っていた。


「おぅ、ヤマト、美人に囲まれてるな」


団長さんがニヤニヤしながら言う。


「ジェイド嬢はみえてませんか?」


「来ていないが」


「ここで待ち合わせだったんだよね?」


「あー、トキワ様、ローズの家まで行ってみます。寝坊は無いでしょうけど、何かで遅れて……あら?」


「ルビー、サクラちゃん、おはよう。なんだか大人数ね」


「おはよう、ローズ。紹介するわ。こちらがファティマさんよ」


「この方が……。はじめまして。ローズ・ジェイドと申します。施術師をしております」


「これはご丁寧に。ファティマです。ルビーさん、ジェイド商会の令嬢かい?どう話せば良いんだい?」


「どうぞ、お気軽に話して下さい。ルビーと同じで構いません」


「そうかい?それなら、気は楽になったけどね」


「ここでの合流は以上でよろしいですか?」


大和さんとゴットハルトさんが近寄ってきた。


「おはようございます、シロヤマ嬢、ルビー嬢、ジェイド嬢。はじめまして、ファティマ様、おはようございます。ゴットハルト・ヘリオドールと申します。ここから騎士トキワと共に王宮までご案内させていただきます」


「ゴットハルトさん、おはようございます」


「ヘリオドール様、もう1人、一緒に行きたい方がいらっしゃるの。お家に寄って頂いてもよろしいかしら?」


「はい。どちらのご令嬢でいらっしゃいますか?」


「リディアーヌ・マソン様ですわ」


「ヤマト、家は?」


「把握している」


「分かりました。寄って参りましょう」


なんだか余所行(よそい)きな、ローズさんとゴットハルトさんの会話を聞いていた。


「ゴットハルト、ファティマさんが緊張してるぞ。言葉遣いをもう少し砕いた方がいい」


「それは難しいんだ」


王宮に向かいながら、大和さんとゴットハルトさんが話している。


「貴族様の会話は慣れないね」


ポツリとファティマさんが呟いた。


「ゴットハルトさんは貴族様って言っても、気さくな方ですから、普段通りで大丈夫だと思いますよ」


「黒き狼様のように、口調は変えた方が良いんじゃないかね?」


「貴族様用の口調っていうより、敬語を使えばいいと思いますけど」


「敬語ねぇ。普段から使ってないんだよ」


「そうなんですか?」


「私はこんな口調が普通だからね。ガサツな人間なんだ。天使様達みたいにお上品に出来てないんだよ」


「お上品ですか」


「気を悪くしたかい?下町の生まれだし、洗練されてないって言いたかったんだよ」


「私のは単に自衛のためって感じですけどね」


「自衛?」


「なんでもありません」


少し行くと、待ってる人が居た。待ってるっていうか、集団になってこっちを見ている。


「きゃあ~。あの方達ね」


「リディー、貴女も行くんでしょ?」


「天使様はどこ?」


「あの方が淑女世代の方かしら?」


「施療院のお姉様方も居るわ」


「素敵」


きゃあきゃあと騒いでいる。大和さんがリディー様の前で礼をした。


「リディアーヌ・マソン様。参りましょうか」


「はい。では皆様、ごきげんよう」


リディー様はこっちに来ると、笑顔で駆け寄ってきた。


「天使様、ごきげんよう」


思わず苦笑して答える。


「おはようございます。リディー様」


「そちらの方がよろしいですか?」


「そうですね。おはようございますの方が、一般的ではないでしょうか」


「頑張ります」


「リディー様、ご紹介しますね。こちらの方が、ファティマさん。淑女世代の方ですよ」


「まぁ。はじめまして、リディアーヌ・マソンと申します。ファティマ様でいらっしゃいますか?」


「ファティマです。様なんて付けられると、困っちまうよ」


「困っちまう?ですの?」


「えっと、どうすりゃ良いんだい」


「困ってしまう、と言ってらっしゃるんですよ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ