12
翌日、目が覚めて、一瞬どこに居るのか分からなかった。
あぁ、王宮に泊まったんだ。常磐さんは?どこ?
隣の部屋にはいない。いつもの鍛練かな。
着替えは魔空間に入れてあるワンピースにした。
ノックが響く。返事をすると侍女さんが入ってきた。
「おはようございます。良くお休みになれましたか?あら?お着替えは御済みですか。こちらのドレスを着てみません?」
朝からドレスって。見せられたのは落ち着いたオレンジの色のドレス。鮮やかな色じゃなくて、少し茶色がかってる。
「さあさあ、こちらにどうぞ」
あっという間に着替えさせられた。メイクは薄いけど、髪は巻かれ、ハーフアップにしたあと複雑に結われた。
「おはようございます。シロヤマ様のお支度はもう少し掛かりますよ。トキワ様はこちらにお着替えください」
声が聞こえる。常磐さんも帰ってきて着替えさせられてるみたい。
「よろしゅうございますか?」
「はい」
常磐さんの答える声がした。侍女さんに連れられて、応接セットのある部屋に戻る。
常磐さんは昨日とはまた違った騎士服を着ていた。色は白。袖口に緑で刺繍がされていた。
「お二方ともお似合いですわ。並ばれると絵画のようですわね。絵師を手配して描いていただかないと」
侍女さん達がはしゃいでる。
やがて朝食の用意が整ったと、連絡が来た。
「では参りましょうか」
侍女さんに連れられてダイニングへ。そこには王太子様が居らした。
「父上も母上ももうすぐ来るよ。トキワ殿もシロヤマ嬢もよく似合ってるね。二人並んだ絵を描かせたいくらいだ」
ご冗談を仰る。テーブルに着いて少しすると王様と王妃様がおみえになった。
「ほう。これは……」
「お似合いね。絵に残したいくらい」
本当に勘弁してください。
王宮の朝食は、神殿と変わらないくらいの量があった。それでも「神殿から聞いているから」と私のは減らしてくれてあった。
「2人共、本日はいかがする?良ければ王宮を案内させるが」
王様が仰る。
2人で顔を見合わせた。
「お願い致します」
常磐さんが言った。
朝食が済んで、部屋に戻る途中で、4~5人のお嬢様方に出会った。
「昨日お話しできませんでしたから」
2人は常磐さんに言ってるけど、残りの3人の方は私に言ってくる。その中にはヴィオレット様がいらして申し訳無さそうな顔をして居る。
そのまま移動。サロンに通された。そこには4人の男の人がいた。
昨日取り囲んできた人たちだ。そう気付いた途端、その人達が頭を下げた。
「昨日は悪かった。シロヤマ嬢があまりに可憐で、気持ちが焦ってしまったんだ。許してほしい。話を聞きたかっただけなんだが、怖がらせてしまったようだ」
ヴィオレット様がすまなさそうに仰った。
「この方々ね、散会してからお父様に「お二人にお詫びしたい」って言いに来られたのよ。一人一人が神殿の押し掛けたら迷惑でしょう。だから陛下に一芝居していただいて、昨日はお二人にお泊まりいただいたの。ごめんなさいね」
そうだったんですか。
「シロヤマ嬢が顔色を悪くしているって気が付いたときの、トキワ殿は怖かったな。シロヤマ嬢を大切にしているのがわかる」
「そうね。貴方達、道を開けてたものね」
「ねぇ、それより昨日のダンスお上手でしたわ。以前からやっていらしたの?」
「私はトキワ様の肩マントの裏地が見えたとき、花吹雪が舞ったように見えたわ。見たことの無い木だったけど、あれはなんの花なの?」
質問攻めにされた。
あの木はサクラと言う事、元の世界の私達の国の象徴とされていた事を話す。
ダンスはこちらで初めて習ったといったら驚かれた。
しばらく話していると王太子様がいらした。
「ここにいたんだね。王宮の案内をしようと思ってね。みんなもどうだい?」
まさか、王太子様が直々に案内してくださるとは。
見ていると皆さん、それぞれペアになった。
「こちらの方々は皆婚約者同士でいらっしゃるのよ」
そうなんだ。ヴィオレット様は?
「ヴィー」
王太子様が呼んでいる。そうか、ヴィオレット様は王太子様の婚約者なんだ。あれ?昨日ずっと私についてくれてたよね。悪いことしちゃった。
色々案内された。サロン、図書室、魔術師さん達の部屋、練兵場。
そこで、王太子様が言う。
「トキワ殿、手合わせしてみないか。今朝から体を動かしていただろう。相手は彼ではどうだい」
周りの人がどよめいた。
「殿下、本気ですの?副団長だなんて」
え?副団長?
ビックリしていると、常磐さんが苦笑して言う。
「手合わせですか。私は大したことは無いんですが」
そして上の服を脱ぐ。
「咲楽ちゃん、これ持ってて」
と私に服を渡し、練兵場へ降りていった。
私達は見学できるスペースに座る。
常磐さんが手合わせするなんて、最初に少し見ただけだ。
ヴィオレット様が横に来て謝ってくれた。
「ごめんなさいね。無理なお願いをして。全くもう、殿下ったら」
常磐さんと副団長さんの模擬戦が始まる。常磐さんは細身の剣を2本持った。
「双剣使いか」
誰かが呟く。
練兵場がピリッとした空気に包まれた。二人共動かない。空気がピリピリする。
常磐さんから目が離せない。その時2の鐘が鳴った。途端に二人が動き出す。
何が起きたのかはわからない。副団長さんの剣が常磐さんを襲って、常磐さんがそれを捌いて、今度は常磐さんの剣が副団長さんに襲いかかって、気が付いたら常磐さんが副団長さんの首に右の剣を突き付けてた。
「凄かったわね。あの副団長は剣術大会で優勝したこともあるのよ。その彼に勝っちゃうなんて」
ヴィオレット様が言う。
大きな拍手が聞こえた。お互いに礼をして、常磐さんが戻ってくる。
「咲楽ちゃん」
そう呼んでくれた常磐さんに服を手渡す。
「格好よかったです」
そう、言ってみた。
「さて、王太子殿下、この模擬戦はいつからの計画で?」
常磐さんが服を着ながら聞く。
「申し訳ない、トキワ殿。本当は神殿からの情報にあった剣舞を、と思ったんだけどね。ただペリトード神殿騎士団長から『もう少し待って欲しいと言われている』と聞いてね」
「そうですね。あれはもう少しお待ちいただきたい」
そこへ騎士さんが走ってきた。王太子様に何か囁く。
「残念。時間切れだそうだ。神殿が早く二人を返せって」
王太子様が笑う。
「エリアリール様にお説教を食らうのはボクも遠慮したいからね」
王宮の門まで皆さんが送ってくれた。
「いつでも来て良いからね。待ってるよ」
と、王太子様はいってくれたけど、さすがにそれは無理だよね。
馬車に乗り込むと、常磐さんが「危なかった」と呟く。ん?どうしたの?
「いや、あの副団長、強かったよ。咲楽ちゃんに、負けるところを見られるかと思った」
「そうなんですか?それでも格好よかったです」
馬車は進んでいく。あれ?神殿と行き先が違う?
「どこに向かっている?」
常磐さんが御者さんに聞く。
「もうすぐ着きますよ」
って、この声はプロクスさん?
やがて馬車は少し大きめの一軒家に到着した。
「どうぞ、お降りください」
プロクスさんの声がする。
馬車のドアが開いた。常磐さんに支えられて馬車を降りる。庭付きのお家。え?何ここ?
「ここは王家と神殿が用意した貴方方の家ですよ。どうぞ中にお入りください」
促されて中に入る。玄関から入ってすぐのドアを開けると、ソファーと暖炉の部屋だった。
ソファーに座るとプロクスさんが話し出した。
「説明させていただきますね。ここは王家と神殿が用意しましたお二人の家です。いや~、昨日お泊まりになられると言うので、それなら、とこの計画を実行したんですよ。驚いていただけたようで嬉しいです。ちなみに計画は教主様が立てられました。
ここは私の親類の家だったんです。もっと大きい家に引っ越ししていったのですよ。で、空いていたのでお二人に、と言うわけです。新築でなくて申し訳ない。
ここを用意したのは5日前。家具は入ってます。スティーリア様が用意されました。お二人に落ち着いて欲しいと、楽しそうに用意をされてました。
これがこの家の鍵です。二つありますのでお一人ずつお持ちください。それからこれはトキワ殿に」
それは2振りの剣だった。
「王家からです。シロヤマ嬢には本と刺繍の道具がありますよ。それと……」
「ちょっと待ってください。こんなことをしていただく理由がない。お世話になっているのはこちらです。ここまでしていただくのはさすがに……」
「何故か分かりませんが、お二人は神殿のあの部屋に現れた。あそこは神聖な祈りの間です。すぐさま王家に連絡が行きました。トキワ殿は類いまれなる武を、シロヤマ嬢は魔法属性を5つも持ってらっしゃる。それだけでも保護すべきですが、極めつけはあの剣舞です。あそこまで見事な舞は見たことがない。シロヤマ嬢の刺繍の腕も素晴らしい。神殿の者は貴方方に感謝しているのです。聖なる間から現れた武と文の腕を持つお二人。そのお二人を、縛り付けたくはないのですよ。あそこに居たら神殿所属だと見られるでしょう。知らないうちに組織に組み込まれるのではなく、自ら選んで選択していただきたいのです」
そう言ってプロクスさんは頭を下げる。
二人で顔を見合わせた。
「わかりました。ご厚意をお受けします。ありがとうございます」
「良かった。では案内の続きをしますね。ここは見ての通り暖炉とソファーがあります。隣がダイニング。キッチンはその奥です。ダイニングの隣にトイレとバス。全て魔道具つきです。2階には部屋が6つ。階段を上って右がトキワ殿とシロヤマ嬢のお部屋と主寝室です。階段の左は客室です。ここまで何か質問は?」
「ありません」
「この部屋のあちらのドア、あちらから庭に出られます。庭はトキワ殿が鍛練できるようになってます。もし馬車等購入されるのであれば拡張もできますよ。
目隠しの木があるので見えませんが、庭の方向が王宮、裏手が神殿です」
そして何かの道具を取り出した。少し大きめの石の付いた四角い箱。
「それと警備関係ですがこちらが結界の魔道具です。こちらの石に魔力を込めていただくとこの家の敷地を結界が囲みます。防犯用として一般に使われているものですよ。一度魔力を一杯まで注いで一月は持ちます。後は……何かあったかな?以上ですね。この家を出て王宮方面に歩いて5軒目が私の家です。なにかあったら頼ってください。両親もお二人の顔は知っていますから」
え?何故?
「両親は神殿によく来ますからね」
ドアがノックされた。そこにいたのはデルソルさんとミュゲさん。
「お届け物よ」
差し出されたのはバスケットに入ったお料理。
「お昼御飯ですよ」
ありがたく頂いた。
「では私はこれで。また神殿にもいらしてくださいね」
3人は帰っていった。それぞれの部屋を確かめることにした。階段の右が私達の部屋と主寝室って……主寝室には大きなベッドが一つと、ドレッサーと、シーツなどが置いてある棚があった。
「どうする?」
常磐さんが聞く。
「どうするって……」
「選択肢は3つ。咲楽ちゃんがここで寝る。俺がここで寝る。二人でここで寝る」
「二人で寝るでお願いします」
「良いの?」
「常磐さんなら怖くないです」
「でもそれは……」
「それに!!常磐さんは守りたいって言ってくれました。一人にしないで下さい」
最後の方は泣きそうになった。
「……分かった」
常磐さんは次の部屋を開ける。
「こっちは咲楽ちゃんの部屋だな」
そこは備え付けの棚に本が何冊かと、机と椅子、机の上には刺繍の道具、クローゼットにはお洋服がたくさん入ってた。
「じゃあこっちが俺の部屋か」
主寝室の反対側の部屋には机と椅子、クローゼットに常磐さんの服、あの騎士服もあった。それから剣が4振り?
主寝室の棚には清潔なシーツが何枚かと毛布が5枚。
「客室はまぁ普通だな。ん?こっちの扉は……掃除道具か」
一階は……お風呂が広い。浴槽もある。トイレと、この箱は何だろう?
「あぁ、洗濯の機械だな。朝の鍛練終わりの時に見て、聞いたらそう言ってた。使い方はほぼ全自動洗濯機だ」
こんなのもあるんだ。知らなかった。
「咲楽ちゃん、ほぼ部屋から出なかったから」
はい。すみません。
「常磐さん、これからよろしくお願いします」
プっと常磐さんが吹き出す。
「結婚初夜みたいな挨拶だな」
う~!!
「もういいです!!」
恥ずかしくなって、2階に駆け上がって部屋に閉じ籠っちゃった。
常磐さんの笑い声はしばらく聞こえた。
「咲楽ちゃん、悪かった。入るよ」
常磐さんが主寝室に入ってくる。
「悪かったって。可愛い事を言うからさ。ほら、機嫌直して」
「もう笑いませんか?」
「笑わない」
「なら許します」
「でもね……」
ん?
「嬉しかったよ。抱き締めたくなった」
顔が熱くなった。
それから頂いたお料理を食べた。あれ?手紙が入ってる。こっちは私宛、こっちは常磐さん宛。
手紙はスティーリアさんからだった。
『お二人は驚いてくれたかしら。この家は神殿と王家からのプレゼントだと思って下さい。神殿からは授業終了のお祝いです。
お二人があの聖なる間に現れた時、驚きました。あそこは本来教主様と私以外は立ち入らないのです。奥まった所だから誰かが入り込む事も出来ない。
あの時トキワ様はシロヤマ様を守るように立ってらして、絵画のようだった。
でも、シロヤマ様のお顔の色が悪くて、心配いたしました。
次の日からの授業でシロヤマ様の魔力量を見たときには、驚きました。前日の属性検査で類いまれな才能をもっていらっしゃることはわかっておりましたが、あそこまでの魔力量の持った方は見たことが無かったのです。王宮魔術師筆頭様は別格ですしね。
授業も順調にこなされ出したとき、王宮から連絡がありました。謁見の日が決まったことと、お二人についての問い合わせでございました。
お二人共順調に授業が進んでいることとエリアリール様が『あの二人は引き離してはいけない。そして、神殿にも王宮にも縛り付けられない魂をもっている』とお話しされていることをお伝えいたしましたところ、家を一軒与え、自由に過ごしてもらうことが決定いたしました。
お二人のご様子は見ていて楽しいものでした。トキワ様はシロヤマ様を守ろうとし、シロヤマ様はトキワ様を頼りにされ、こちらで初めて出会われた、とは信じられなかったです。
神殿を離れるように手配したのはこちらですけど、いつでも神殿にいらしてくださいね。歓迎いたします。』
手紙を読んで、神殿の方々の気遣いを感じて泣きそうになった。しばらく黙っていたけれど、感謝の気持ちが込み上げてきた。
「神殿に行かなきゃ」
私がそう言うと常磐さんも頷いた。
「そうだな。でもそれは明日にしよう。今日は疲れた」
4の鐘が鳴る。そう言えば……
「お夕食、どうしましょう。食材があれば作りますが」
「どうなんだろうな。キッチンを見てみるか」
キッチンに行って驚いた。何これ、システムキッチン?コンロもシンクも魔道具だよね。キッチンの隅にもう一つ扉があって、開けるとヒヤッとした冷気が。
「冷蔵庫か?」
常磐さんが驚いたように言う。それにしては大きいけど。私がすっぽり入っちゃう。
食材もあった。お肉にお野菜、パスタに小麦粉も。あれ?お魚がない。そう言えば神殿での食事に魚が出たことはなかった。
油や調味料もあった。ここにあるのはパンケース?
「神殿でスティーリアさんが教えてくれたことは、本当にこの世界の常識の、初歩の初歩だったんだな」
常磐さんが言う。
「一般庶民の事は、おいおい覚えていけばいいか」
そうですね。
「常磐さん、これだけあったらお料理、作れます。ここにあるものだと、パスタになりますけど。何か好き嫌いはありますか?」
「特に無いな」
「じゃあ、作っちゃいます」
「もう少しあとでもいいんじゃない?」
常磐さんが言う。まぁそうですけど。
「こっちに来て。話がしたい」
なんでしょう。
「この状態から見るに、俺達はカップルと見られていると思う。近所の認識がどうだかわからないけどな。俺の気持ちは前に言ったことと変わっていない。咲楽ちゃんを護りたい。咲楽ちゃんに笑っていてほしい。咲楽ちゃんの側にいたい。
咲楽ちゃんがどう思ってるのか知りたい。別に胡散臭いとか、オジさんぽいとかでも構わないから、気持ちを聞かせて」
少しだけ迷った。私は自分の気持ちを伝えるのが下手だ。でも、正直に伝えることにした。
「常磐さんが護りたいって言ってくれたとき、嬉しかったです。この世界に来たときには男の人は怖かった。でも、常磐さんの事を知っていくうちに、常磐さんは怖くなくなりました。私の事を考えてくれて、私を護りたいって言ってくれて、実際に護ってくれて。嬉しかったです。
あの、さっき『これからよろしくお願いします』って言ったけど、これだけは言わなきゃって思ったんです。私は何の役にもたてなくて、常磐さんに頼りっぱなしです。でも、『冬の舞』の時、抱き締められて『心が凍ったようになる』って言われた時『この人を支えたい』って思って。まだまだ私は頼りないけど、心を支えたいって思ったんです」
うまく伝わったかな。でも本心だ。
「ありがとう」
常磐さんがそう言った。
それからしばらく二人で座ってた。ソファーで横に並んで、黙ったまま座っていた。
どれくらい時間がたっただろう。5の鐘が聞こえた。常磐さんが立って行って灯りの魔道具に触れる。部屋の中が明るくなった。
「一応結界の魔道具も作動させとくか」
「あ、私にさせてください」
常磐さんから魔道具を受け取り、魔力を込める。魔道具はほんわりと青く輝いた。
「えぇっと、作動させたいときにはスイッチをオンにすればいいみたいだな。ん?設定が色々ある」
覗き込むと確かに設定が出ていた。
「ふーん。出入りする人の設定か。就寝中は誰も入れないとかできるんだな。それは安心だ。特定の人を登録することもできる。これはハイテクだな。ハイテクというよりハイマジカルか?」
へー。凄い。
「とりあえずさ、夕食、作ってくれない?」
あ、忘れてた。
夕食はパスタにする。チーズもあったし、お肉を薄切りにしてにんにくと一緒に炒めて一旦お皿にとっておく。野菜はニンジンとアスパラ、薄切りにした玉ねぎを炒めて、パスタが茹で上がったら野菜と絡めて、お肉も戻して。味を整えたら出来上がり。
飲み物は冷蔵庫にワインが入ってるけど、どうしよう。私はお水でいいんだけど。
「常磐さん、お飲み物どうします?」
「何があったっけ?」
常磐さんがキッチンに入ってくる。
「お水かワインですかね。私はお酒は飲めないんです」
「じゃあ、ワイン、いや、水にしておこう」
ん?ワインでなくて良いの?
「酔っぱらうとまずいからね」
えぇっと、じゃあ、お水で。
コップにお水を『ウォーター』で入れてみた。疲れがなくなりますようにって願いながら。
二人でパスタを食べて、お風呂に行って(この時順番でもめた。結局先に常磐さんに行ってもらったけど)寝室へ。
まだ寝るには早い時間だったんだけど、精神的に疲れていたからか、横になりたかった。
ベッドに常磐さんと並んで横になる。
常磐さんが一応真ん中にシーツで線を引いてくれた。
「これで安心でしょ?」
安心って言うか、一応の境界線ですよね。
でも常磐さんと一緒ってことがなんだか恥ずかしい。
「おやすみ」
その声はひどく安心できた。
「おやすみなさい」
ーー異世界転移12日目終了ーー