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モラというのはは、古代ローマや古代ギリシア時代から何千年も続く、ハンドゲーム(奇数偶数ゲーム)だそうです。作者はやったことありませんし、ルールもよく分かってません。じゃんけんに変わるものを、と調べていて偶然知りました。ホントにどんなゲームなんだろう……。

叩きつけられる激情。思わず大和さんの手を握った。


「ディーン、落ち着け」


「ヤマトは黙ってろ!!天使様、お答えください」


「大和さんはいつも私を護ってくれるんです。全身で想いを伝えてくれるんです。私はそんな大和さんを支えたいと思ったんです。それでは駄目なんでしょうか。この答えでは納得はしていただけませんか?」


「天使様。どうしても私は選んではいただけないのでしょうか?」


「ごめんなさい」


ディーンさんが落ち着いてきた。


「申し訳ございませんでした。分かっているのです。天使様がヤマトをお好きだと言うことも、私は選ばれなかったと言う事も。それでもお聞きしたかった」


「想いは伝えられたか?」


「あぁ。悪かった。天使様も怖がらせてしまいました」


「いいえ」


「最近、自分が、自分の心が信じられないのです」


ディーンさんがポツリと言った。


「天使様を好きなのは間違いないんです。貴女のその艶やかな黒髪も、美しい新緑の瞳も、華の綻ぶような笑顔も何もかもが理想なんです」


「ありがとうございます」


「なのに他に気になる人が出来てしまいました。これは天使様に対する裏切りです。申し訳ございません」


「ディーンさん、裏切りじゃありません。それは理想と現実の違いです」


「理想と現実の違い……」


「いくら天使様と言われていようと、私は人間です。貴方は私の話を聞いて、自分の中で『天使様』を作ってしまったんです。他に気になる方が出来たのは喜ばしいことなんです」


「天使様を裏切っていないと仰る?」


「例えばの話ですけど、ディーンさんを好きだって言う人が、ディーンさんが苦手なことがあるのを許せないとか言ったら、それはおかしいと思いませんか?」


「おかしい、ですね。私は私です」


「それと同じです。私は人間です。ディーンさんが私を理想と言ってくれるのは嬉しいんですけど、それは私じゃない。ディーンさんの中で作った理想の人物が、たまたま『天使様』と一致してしまっただけなんです」


「あの人を好きでいていいのでしょうか?」


「はい。どんな方なんですか?」


「見た目は天使様と正反対です。髪を短くして働いておられます。お名前は存じません。最近お見かけしませんが」


それってダフネさん?大和さんも同じことを思ったんだろう。天井を仰いだ。


「また厄介な相手を……」


「ヤマト、なにか知ってるのか?教えてくれ」


「さっきの話で一人心当たりはあるが、その人は好きな人がいたはずだ」


「え……」


「まだ一致した訳じゃない。だから教えられないが、それでも思い続けるのか?」


「きちんと向き合って、あの人とも話をしようと思う。天使様、ありがとうございます。またお会いできますか?」


「機会があれば」


ディーンさんも退室した。


「お疲れ様」


「驚きました」


「俺も驚いた」


「あ、差し入れ、どうしましょう?」


「受付で渡せば良かったのに」


「それどころじゃなかったんです」


「今から渡す?」


「そうします」


受付でサクフワビスケットを渡すとすごく喜ばれた。


「どうする?練兵場で見てく?」


「ローズさん達は練兵場でしょうか?」


「たぶんね。一緒に行くよ」


練兵場に行くと、なんだか賑やかだった。


「団長発見」


「第2王子様ですか?」


「楽しみにしておられたからね。最近よく一緒の令嬢も居られるし、単純に会いたいだけだと思う」


「サクラちゃん、話は終わったの?」


「ルビーさん、ご用事は?」


「私達は返事を渡しただけだもの。しかも本人に渡した訳じゃないし。事務をしている文官様に託したわ」


「ローズさんは?」


「第2王子様を見る集団に巻き込まれてる」


「良いんでしょうか?」


「大丈夫でしょ。あら?」


第2王子様がこちらに来られた。


「天使様、久し振りだね」


慌てて礼を取る。


「あぁ、堅苦しい礼は必要ないよ。自由に話して欲しい」


「お久し振りでございます」


「堅苦しいね。仕方がないけど。全て終わったのかな?」


「はい」


「それなら一緒にお茶でもって母が言ってるんだけど、断っていいよ」


「はい。申し訳ありませんが」


「悪かったね。一応誘わないと、後が五月蝿いんだ」


何て返したらいいの?


「じゃあね。また来てあげて。貴女が来ると団員の士気が上がる。もちろんそちらのお嬢さんも一緒にね」


「はい」


「騎士トキワ。4の鐘からの対戦を楽しみにしてるよ」


「参加なさいますか?」


「私は見物だよ、いつも通り」


第2王子様は去っていった。


「緊張したわ」


「緊張しました」


「サクラちゃん」


「ローズさん」


「あ、トキワ様。説明していただけますわよね」


「先に2人を入れたのは、貴女方が一緒だと分かったからですよ。事前に協議して決めてあったのです」


「あの2人の問題は解決したの?」


「えぇ。バリーは無事に。ディーンは本人の問題ですね。『天使様』への想いは解決してますよ」


「それならいいわ。サクラちゃんに害がないなら。そろそろ行きましょうか。『4の鐘からの対戦』を見たい気もするけど」


「また後で来ましょうよ」


「じゃあね、トキワ様」


練兵場を後にする。


「サクラちゃん、ディーン様だけ遅かったけど」


「バリー様はスッキリしたお顔だったわね」


「何かあったの?」


「何もありません。きちんと納得していただきました」


「なら良いけど」


「ねぇ、お昼どうする?」


「家に来ればいいわ」


「ローズのお家?」


市場(バザール)でお昼を買って、ローズさん家へ。


ローズさんの部屋に入ると、お昼を食べながら話をする。


「あの後、どうなったの?」


「お断りしただけですよ」


「だってバリー様はスッキリしたお顔ですぐに出てみえたけど、ディーン様は時間がかかったじゃない。何かあったの?」


「何もありません」


「これは言わないわね」


「トキワ様も無理そうだったわね」


「気になっちゃうわね」


「ポロっと喋らないかしら」


「お2人とも、いい加減にしてください」


「サクラちゃんが怒ったわ」


「貴女の所為(せい)よ、ルビー」


「ローズ、人の所為(せい)にしないでよ」


ケンカをしながら、チラチラこっちを見てくる。鬱陶しくなってきた。


「食べたら帰ります」


「イヤぁ、本気で怒ったぁ」


「ごめんなさいごめんなさい。もう聞かないから」


「怒らないで、お願い」


「人のプライベートな事は他に漏らさない。鉄則です。知らないところで自分の秘密をバラされて嬉しい人なんていないでしょう?ローズさん、ルビーさんが、そうされて嬉しいのなら、患者さんや相談してきた人、偶然知ってしまった秘密を他に漏らせばいい。私は絶対に言いません。人の秘密は死んでも話しません」


「はい。ごめんなさい」


「私達は容易に人の秘密を知ることの出来る立場です。だからこそ忘れちゃいけないんです」


「はい」


2人がいいお返事をしてくれたから、この辺りでやめておいた。


私は日本で『個人情報保護』を教え込まれた。教えてくれたのが元官僚の方で、どうしてダメなのか、どういう事ならいいか、どこからダメなのか。それをきっちり説明して教えてくれた。その人の名前を出すのはダメ。個人が特定できる情報はダメ。今回で言うと、私がディーンさん、バリーさんと話したことはみんなが知っている。特にディーンさんとの話が長かったことも。その状態で個人名を出さずに話したとしても、容易にディーンさんの事だと分かってしまう。だからあの話し合いは人に言わない。


「本当にサクラちゃんってこういう事に厳しいわよね」


「あちらにあった『個人情報保護法』って法律を教え込まれたので。どうしてもその辺りは厳しくなっちゃうんです」


「法律はないけど、よく所長も言ってるわよね。他所に漏らすなって」


「今、どういう事か分かった気がするわ」


「情報を共有するのはいいんです。ただ共有する人が増えると、秘密も漏れやすくなります。例えばこういう症例があった。その治療はこう行った。それは共有すべき情報です。ですから症例集がありますよね。あそこには特定できる情報は一切載っていません。大まかな年齢、性別くらいです」


「あれってそういった事しか載っていないのね」


「読んだことは?」


「ないわよ」


「無いわね」


「1度読んでみてください」


「ああ言うのって読んでると、眠くなっちゃうんだもの」


「サクラちゃんは読んでたわね、そういえば」


「眠くならないの?」


「自分に必要な事ですから。施術師をしていく以上、知っておいた方がいい知識は多い方がいいです」


「分かってはいるのよ。でも王都を離れなければ問題ないでしょう?」


「王都を離れることはないと、確約出来ますか?ローズさんはお相手が文官さんでしょう?異動になる事は?」


「無いとは言えないわね」


「ルビーさんも、将来的になにかで王都を離れることもあり得ます」


「分かってるわよぉ」


4の鐘が鳴った。


「4の鐘ね。どうする?練兵場に行く?」


「私は見たいわね」


「行きましょうか」


「そうね。行きましょ」


「お2人とも、イキイキしてますね」


「だって楽しみじゃない。サクラちゃんも楽しみでしょ?」


ワイワイと話ながら再び練兵場に着くと、人集りが出来ていた。スペースを見つけて3人で座る。


「何人かの班に別れて、その中の代表者が戦うのね」


「闘技会みたいね」


「闘技会?」


「芽生えの月の最終日の闇の日が騎士団の武闘大会なのよ。正式名は何て言ったかしら?」


「騎士団対抗武技魔闘技会だったわね」


「そう。それ。長いからみんな、闘技会とか武闘大会とか言っているのよ」


「魔闘技ってことは、属性魔法もありですか?」


「そうね。さすがに殺傷能力の高い攻撃魔法はダメよ」


「その日は私達も借り出されるのよね」


「王宮施術師だけじゃ足りないものね」


「あぁ、代表者が決まったみたいね」


「当然のようにトキワ様は居るわね」


「代表者は8人?」


「トーナメントなのね」


「あら?トキワ様って双剣じゃなかった?」


「双剣だと1本しか使えないときに不利になるからって、両方使えるようにしているそうです」


「両方って1本でも2本でもって事?」


「1本でも2本でも右でも左でも、です。何があるか分からないからって言ってました」


「何て言うか、トキワ様の剣って、舞ってるみたいよね」


「綺麗よね」


「そう思っているのは多そうよ」


「サクラちゃん、まだ剣舞ってしているんでしょ?」


声を潜めて、ルビーさんが言う。


「今はおやすみ中です」


「あら、何故?」


「見ている方が寒いだろうって。今は体力作りを主にしているみたいです」


「見ている方がってトキワ様は?」


「あちらでコルドに屋外で行ってたそうですから」


「コルドに屋外で?」


「神々に捧げるものだからって、外でしていたそうです。詳しくは分かりません」


「決勝ね。相手は……アインスタイ副団長様?!良いの?あれって」


「大和さんに言わせると、いつもの事らしいです」


「さすがにスゴいわね」


「サクラちゃん、2人とも属性剣を使ってないんじゃない?」


「使ってないようです」


剣にはなんの属性も纏っていない。


「純粋な剣技ってこと?」


「でも2人とも楽しそうね」


「ちょっといいですか?」


突然後ろから声をかけられた。


「警戒しないで……って無理ですよね。ジェイド嬢とルビー嬢と天使様ですよね。王宮内政部の者です。後でお話があるのですが」


「それを信じろと仰る?」


「あぁ、どうしよう。あ、ライル殿を連れてきます。お待ちください」


声をかけてきた男の人は慌ただしく走ってどこかに行ってしまった。


「ライル様?王宮にいらっしゃるの?」


中央では決着が着いていた。大和さんが汗だくだ。副団長さんは座り込んでいる。大和さんが副団長さんに手を伸ばして、副団長さんがその手を掴んで立った。とたんに上がるきゃあぁぁ!!という黄色い悲鳴。


「なんだか分かっちゃうわね」


「今の2人って独特の色気があるわね」


「何が分かるの?」


あ、ライルさん。


「ライル様、王宮にいらしたの?」


「文官の彼が焦ってたよ。警戒されてしまいますって。話だけ、聞いてあげて?」


案内されたのは王宮内の一室。


「ここは王宮内政部の応接室だね。天使様が居るってなったら父が来るかな?」


「フリカーナ伯爵様が?」


「ライル様は内容を知ってらっしゃるの?」


「知ってるよ。ジェイド嬢とルビー嬢は毎年の事だから分かるよね」


「あぁ。あれですか。でも毎年施療院に説明の方がみえてらしたじゃないですか。こんな風に王宮に呼ばれるなんてなかったけど」


「みんながここに来るって知ってたからね」


「所長は?」


「昨日、話してるよ。あぁ来たみたいだね」


ドアが開いて現れたのは、さっきの男の人と知らないおば様と、フリカーナ伯爵様。そして始まる親子ゲンカ。


「この場に父上は必要ありませんでしょう?」


「いやいや、ライルよ。こういう時こそ私が出なくてどうする」


「説明なら文官だけで十分です。現場を混乱させないでください」


「大切な事だぞ。こういうのは()()同席せねばいかん」


「例年、施療院に文官が説明に来て終わりです。後は所長との打ち合わせ位でしょう」


それを全くのスルー状態のおば様と男性。


「あちらは放っておいて、説明いたします。(わたくし)、王宮内政部の公式行事の担当をしております、ゾーイと申します」


「先程は名乗らずすみませんでした。ポールです」


「ジェイド様とルビー様はご存知でしょうが、年迎えの前日の闇の日に行われる『騎士団対抗武技魔闘技会』の施術師の応援要請です。要請とは言っても断っていただいて構いません。王宮にも施術師は居りますが、例年足りなくなりますので、お声掛けをさせていただいてます」


「毎年の事ですし。先程も話していたところでしたので要請をお受けします」


「ありがとうございます」


「あの、お2人を放っておいて良いんですか?」


いまだに何か、言い合いをしているフリカーナ伯爵様とライルさん。


「お気になさらず。良くあることですので」


「今の内です。どうぞご退室ください」


「はい。ありがとうございます」


王宮の外まで案内された。大和さんが待っていてくれた。


「話は終わった?」


「待っていてくださったんですか?」


「俺だけじゃないよ。ジェイド嬢とルビー嬢も送っていくって、待ってるのがそこに」


そこにいたのは女性の騎士さんと遠巻きに見ている騎士様3名。


「女性騎士様?」


「この人達も剣技は優秀だよ」


「何を仰います。私共は魔技主体です。剣技では男性騎士に劣ります」


「魔技?」


「それは秘密。この人達は主に女性を守る為に訓練してる。今日はジェイド嬢とルビー嬢を送っていくって譲らなくて、勝負をして勝ち取ってた」


大和さんがみんなを促して、歩き出した。


「天使様には騎士トキワが付いていますから。あ、天使様、ビスケット、美味しかったです」


「私共はああいった事は不得手でして」


「この人達は味は良いんだよ。刃物を扱わせると危なっかしい」


「大和さんと反対ですね」


「そうだね」


「勝負って何をしたんですか?」


「クジを引いただけですよ」


にっこり笑われた。


「何の話だったの?」


「騎士団対抗武技魔闘技会の施術師の応援要請です」


「あぁ、あれ、俺も出るから」


「出場されるんですか?」


「あの後打診を受けた。でも俺の扱いって王宮?神殿?」


「トキワ殿は王宮です。アインスタイ副団長様がペリトード団長様とのモラの勝負で、勝ちましたから」


「もう1つの企画も皆さんを推薦しておきますね」


「もう1つの企画?」


「しなくていいわよ」


「サクラちゃんも目立ちたくないわよね」


「はい」


「天使様はおそらく満場一致かと」


「後は4名様です」


ジェイド商会に着いた。


「じゃあね、サクラちゃん、ルビー。また明日」


「今日はありがとうございました」


「また明日ね」


ローズさんと別れて、王宮との分かれ道に来て、そこでルビーさんとも別れる。


「推薦とかって何か知ってますか?」


「フルールの御使者(みつかい)って言って、オープンタイプの馬車、あっちで言ったらフロート車とか山車に乗って花びらを撒くらしい。実際には風属性使いが一緒に乗って、属性魔法で舞い上げるらしいけど。未成年と成人女性と淑女世代の3人が1つのオープン馬車に乗るらしい」

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