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アウエイン夫人にやり方を教えて、一緒に鳥肉団子を作っていく。イリコ出汁に干キノコの戻し汁を加え、野菜を入れて煮ていく。野菜に火が通ったら鳥肉団子を入れて魚醤で味を整える。


「こんな感じなんですが」


小皿にスープと具材を一種類ずつ入れて味見をしてもらう。


「美味しいわね」


「このピリッとするのが赤キノコ?」


「はい」


「こっちのも味を見て」


「良いわね」


「美味しいわ」


2つのスープが出来た頃、ライルさんが顔を見せた。


「調子はどうですか?」


「2つとも出来てます」


「じゃあ、会議室に運ぼうか」


「はい」


私の魔空間にスープを入れて、会議室に運ぶ。異空間に入れようとしたら、ライルさんとアウエイン夫人に全力で止められた。「すぐそこだから」って。


でもね、厨房を出て右に行って階段上って左に行って……ってもうその時点で覚えられない。


「ライル様、帰りもお願いしますね」


「帰りはトキワ殿に来てもらう?」


「大和さん、覚えたんですか?」


「一通り案内したよ。今、会議室で図に起こしてもらってる」


「院内案内図でも作るつもりですか?」


「資料としてね。3年後に向けて、って思って」


「もしかして、参考にするつもりですか?」


「そうだね。シロヤマさんも考えておいた方がいいよ」


「私もですか?」


会議室に着いたらしい。ドアを開けると大和さんの他に、4人の騎士様が居た。一斉に見られてちょっと怖い。


「咲楽ちゃん」


「スープを持ってきました」


「あぁ、受けとるよ」


大和さんがこっちに来てくれた。


「大丈夫?」


「無理かもしれません」


「外に出てる?」


「はい」


「どうなさったの?」


アウエイン夫人が聞いてくれたんだけど、自分からは言いにくい。


「彼女は異性に囲まれるというのが苦手なのですよ」


大和さんが答えてくれた。


「あら。じゃあ、私達と居ましょ?彼等と一緒じゃない方がいい?」


「分かりません」


スープのお鍋は大和さんとライルさんが運んでくれた。騎士様や手伝いの人達に注ぎ分けるのは、ポーラさんとマノンさんが引き受けてくれた。


「すみません」


ライルさんと休憩室に移動する。アウエイン夫人も一緒だ。


「配慮出来なかったのは僕だからね。こっちこそごめんね」


「謝らないでください」


「トキワ殿を呼んでくる?」


「いえ。大和さんはお仕事中ですから。私の為に呼ばないでください」


「でもね……」


「お仕事を邪魔しちゃいけないんです」


「ねぇ、今はお昼休憩中でしょ?なら良いんじゃない?」


アウエイン夫人が言って、ライルさんが大和さんを呼びに行ってしまった。


「どうしよう。迷惑をかけちゃいます」


「天使様は甘えるのが下手なのねぇ」


「そうでしょうか」


「黒き狼様の事は平気なのね?」


「はい」


「良いわね。信頼してるって事だもの」


「私はいつまでも弱くて、みんなに守ってもらってて、こんな自分が情けないです」


「何があったの?」


答えられない。答えるにはいろんな事を話さなきゃいけない。だから黙って首を振った。


「そう」


「ごめんなさい」


ノックの音が響く。ライルさんの声がした。


「入っていいかな?」


「どうぞ」


アウエイン夫人が答えて、私から離れた。


「黒き狼様、お昼は召し上がったの?」


「はい」


「じゃあ、私もいただいてくるわ。天使様をよろしくね」


アウエイン夫人が出ていって、大和さんと2人になる。


「咲楽ちゃん、大丈夫?」


「ごめんなさい」


「謝らなくていいから。掃除はもうちょっとかかるね」


「そうですか。私は役に立てないですね」


「たってるよ。あのスープ、みんなが取り合いになってた。子ども達も夢中だったよ」


「良かったです」


「咲楽ちゃん、お昼を食べないと」


「味見をして、ある程度は大丈夫なんですが」


「駄目。ちゃんと食べなさい」


「はい」


しぶしぶパンを取り出す。一番小さいのを出した。


「それだけ?まぁいいか。ちゃんと夕飯は食べてね?一応クリームスープを貰ってきた」


トン、っと器を置かれた。


「咲楽ちゃんの分ね」


「ありがとうございます」


お昼を食べてると、頬杖を付きながら大和さんがじっと見てきた。


「見られてると食べにくいんですけど」


「恐怖感は収まったみたいだね」


「収まりましたけど、あそこに行く勇気はないです」


「俺が付いてたら?」


「たぶん大丈夫だと思います」


「じゃあ、一緒に行く?」


「えっと、何故ですか?」


「天使様を見たいって言うのは結構居るんだよ。その中でも天使様のファンのあいつは会いたいってさ」


「会いたいって……」


「2人でって訳じゃない。ちゃんとあいつにも了解は得てある」


「一緒に居てくれますか?」


「隣に居た方がいい?少し離れたところに居ようと思ってたんだけど」


「私の視界に入るところなら、たぶん大丈夫だと思います」


「分かった。そうする」


「すみません」


休憩室を出て会議室に向かう。会議室に入るとローズさんとルビーさんは騎士様に群がられていた。ライルさんは奥様方に、所長は子ども達に囲まれている。


「どういう状況でしょうか?」


「騎士達はこうなるって予想できてたけど、ライル殿とナザル所長は予想外だね」


入口で大和さんと話していたら2人の騎士様が寄ってきた。


「もう大丈夫ですか?天使様」


「はい。ご迷惑をおかけしました」


「迷惑はかかってませんが。あぁ、こいつが話をしたいと」


大和さんがさりげなく移動しようとしたけど、もう一人の騎士様に引き留められていた。


「握手をしていただきたいところですが、狼が見てますのでそれは止めておきます。はじめまして。アレクサンドロスです。長いのでアレックスと呼ばれています」


「ついでに私はバルトロメウス、長いのでバルと呼ばれています」


「こいつら騎士団内の名前が長い1位2位ね」


「ヤマトに分かるかっ。両親には感謝してるが名前だけは何とかして欲しかった」


バルトロメウスさんが大袈裟に嘆く。


「アレックスの方がファン代表ね」


「投げ飛ばされてるっていう人ですか?」


バルトロメウスさんが笑い出した。大和さんも笑いをこらえてる。


「そうそう。それであってる」


「笑っちゃ失礼です。大和さん」


アレクサンドロスさんの方を向いて挨拶をする。


「サクラ・シロヤマです。よろしくお願いします」


「天使様はお幾つですか?」


「アレックス、女性に年を聞くな。失礼だろう」


「そんなことを言うなよ、バル。ヤマトが教えてくれないんだから、仕方がないだろう」


「直接、咲楽ちゃんに聞けと言っただけだ」


「あの、私は22歳です」


「え?17~18位かと思ってた……。失礼しました」


「幼く見られるのは慣れてますから」


「さっき、何があったのですか?」


「さっき、ですか」


思わず大和さんを仰ぎ見る。


「自分で話すのはキツい?」


「ごめんなさい」


「気にしないの」


頭をポンポンされた。


「咲楽ちゃんはちょっと事情があって、異性に囲まれたり、複数人の異性に一斉に見られるのが苦手なんだ。苦手というか、恐怖を感じるらしい」


「どうしても思い出してしまうんです。そうじゃないって分かってるんですけど」


「心の傷は治りにくいですからね」


「おまけに自己評価が低い。天使様だなんて呼ばれるのは、変だとか思ってるらしい」


「大和さん、バラさないでください。仕方がないじゃないですか。そこまでの事はしている自覚がなかったし、あんな風になってるなんて思ってなかったんですから」


「あんな風って?」


アレクサンドロスさんに聞かれた。


「あれですか?輝いて癒したという」


バルトロメウスさんが答えてくれたけど、なぜ知ってるの?


「スラム街の狼人族の治療を見ていたのが、聞かせてくれたんですよ。潰れているような足を光輝いて癒していたと」


「見てみたいって言って、アインスタイ副団長に叱られて、ヤマトに睨まれてたな」


「それを見たいって言うのは、誰かが大怪我をしないかって望むのと同じだしな」


「後で聞いて納得した。騎士として最低な考えだよな。あの時は落ち込んだよ」


騎士様の誰かが、向こうで呼んだ。時間らしい。


「もう時間ですか。あぁ、これを渡してくれと頼まれました。貴女への手紙です」


「多いな」


大和さんがボソッっと言ったけど、確かに多い。15~16通ある。


「中には施療院女性施術師全員のファンも居ますからね。1/4はその類いです」


「これどうすればいいですか?お返事とか要りますか?」


「一言一句同じ文章を返してやれば?」


大和さんが楽しそうに言う。


「さすがにそれは失礼に当たります。書けたら大和さんに渡せばいいですか?」


「それを俺が配るの?」


「まだ沈静化してないですか?」


「してるけど、再燃が怖い」


「あぁ……どうしましょう?」


「考えるよ」


「はい」


「では天使様、頑張ってきます」


「無理はなさらないでくださいね」


アレクサンドロスさんとバルトロメウスさんと大和さんは騎士様の方に歩いていった。


「サクラちゃん、大丈夫?」


「はい。ご心配をおかけしました」


「ここからはアウエイン夫人とマノンさんとポーラさんはお掃除に回ってもらうわ。片付けが終わったら、私達もお掃除よ」


「はい」


空になった鍋に、食器類を纏めて入れて、厨房に運ぶ。


「スープ、美味しかったわ」


「子ども達と騎士様が取り合いしてたわね」


「取り合いっていうか、最後は騎士様が子ども達にわざと負けてあげてたけど」


「それが普通よ」


「鳥肉団子も美味しかったわね」


「ピリッとしたのがアクセントになって、いくらでも食べられたわ」


「所長がかなり気に入ってたわね」


「アウエイン夫人に手に入らないか、聞きに行ってたものね」


食器を洗いながら2人のおしゃべりは続く。


「片付けが終わったらどこのお掃除ですか?」


「更衣室と物品庫ね。先に更衣室をやっちゃいましょ。物品庫はその後ね」


「外壁は所長と水属性使いがやるわ。ライル様も参加するわよ。見に行きましょうね」


「後は各自の診察室ね。一応個人的な物もあるでしょ?」


「ねぇ、サクラちゃん、よく浄化を使ってるけど、それで汚れを落とすことは可能?」


「可能だと思います。けど、ある程度は落としておかないと、たぶん大変です」


「そう上手くいかないわよね」


「地道にやる方が楽なのよね。結局は」


「そうですね」


片付けを終えて、更衣室の掃除。魔法でパパッとやってもいいんだけど、ある程度は手作業で掃除をして行く。


「ここって更衣棚が余ってますね」


「元はもっとたくさん施術師が居たんじゃない?」


「回復室とか療養室もあるしね」


「そうそう。サクラちゃん、ホールもあったわよ。ダンスホールみたいなのが」


「従者用の部屋もあったわね。結構広い部屋が使われてないって惜しいわね」


「あら、あれらって有事の際の避難所だって聞いたわよ」


「有事って戦争とか災害って事?」


「さぁ?そういえばトキワ様がライル様に案内されてたけど?」


「ほら、トキワ様って通った所は忘れないって言ってらしたじゃない?だから見取図を書いてもらうように頼んだようよ」


「何の為に?」


「新しく作る施療院の為よ。何が要って何が要らないかの意見が欲しいって言ってたわ。所長が」


「サクラちゃん、お願いね」


「私に丸投げしないでください」


「私は分からないもの」


「でも、泊まれるところがあると良いわよね」


「防犯面は考えないと駄目ですけどね」


「そうね」


「屋上は欲しいです」


「あら?どうして?」


「眺めが良い所ってリラックス効果が得られますし」


「転落だけ気を付けないとね」


「そこは転落防止柵とか」


「でも良いわね。夜空とか見てみたいわ」


「ユリウス様と?」


「そうね。って何を言わせるのよ」


更衣室の掃除は終わり。


「次は物品庫?」


「そうね。一旦全部出しちゃう?」


「それが良いわね」


「そのあと整理整頓ですね?」


「そうなるわね」


物品庫に移動して、一度私の魔空間に全部の物品をしまう。


「サクラちゃんが居ると楽ねぇ」


「去年はそのセリフをアリスに言ってたわね」


「アリスはどうしてるかしらね?」


「あぁ、この前商会に来たらしいわよ。魔術師の方と」


「男の方?」


「えぇ。よくその方と来るらしいわ」


「ペアにでもさせられてるのかしらね?」


「休みの日にでも来れば良いのに」


「私達は王宮魔術師団には行きにくいしね」


「何かあるんですか?」


「独特の雰囲気というか、ね」


「何かしらね?」


「私は、行った事というか、見た事がないんですけど」


「知ってるはずよ。王宮の尖塔よ。魔術師塔って」


王宮のひときわ高い尖塔を思い出す。


「あそこですか?登るのが大変そうです」


「3階以上には動く階段があるって話だけど」


エスカレーター?どうやって動かしてるの?


物品庫の片付けをしていたら、ライルさんに呼ばれた。


「そろそろ外壁の洗浄を始めるよ。見に来る?」


「行きます」


3人でみんなが集まってる所に移動する。そこにはお手伝いの人や、騎士団の人以外にも見物客がたくさん居た。


「こんなにたくさん、どこから?」


「ご近所さんとか関係者とかね。あら?」


ルビーさんが見た方を見たら、アリスさんが居た。知らない男の人と一緒だ。



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