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「大和さんがノンアルコールのカクテルを作ってくれるって言ってて」


「他に要るものは?」


ワクワクした感じでローズさんが聞いてくる。


「他にですか?ザクロってこっちでは何て言うんでしょう?」


「どんなの?」


「赤い小さな実がたくさん入ってるんです」


「グレナデン?」


「そうかもしれません」


「あれは実りの月にならないと無理よ?」


「ですよね」


「カクテルって、トキワ殿が作るの?」


「って、言ってました」


「いつ?」


「ホアです。私の氷魔法が取得出来たら作ろうって言ってて。あの?」


「「見たい!!」」


「大和さんに聞いてください」


こればかりは私では答えられない。


王宮への分かれ道には大和さんが待っていてくれた。


「おかえり、咲楽ちゃん。お疲れ様」


「大和さんもお疲れ様です」


「トキワ殿、カクテル、作れるの?」


「あぁ、咲楽ちゃんから聞きましたか。数種類ですけどね」


「是非飲んでみたい」


「私もお願いします」


「ホアですよ?」


「待つよ」


「数種類しか作れませんよ?」


「それで良いよ」


「材料は?」


「用意するよ」


若干苦笑しながら大和さんが気取って礼をする。


「承りました」


「本当にそういう所作が似合うね」


ライルさん、ローズさんと別れて、帰路に付く。


「カクテルの事、言ったの?」


「はい。ごめんなさい」


「良いよ。咲楽ちゃんに作ってあげたいしね」


「炭酸水の事、聞きました。有るそうです。どこかの領の名産で芽生えの月に王都に集まるんですって」


「へぇ。じゃあ色々作れるよ。グレナデンシロップでもあれば綺麗なんだけど」


「グレナデンシロップは分かりませんけど、ザクロはあるって言ってました。実りの月に入るようです」


「グレナデンシロップの事、何故聞いたの?」


「何故でしょう?ザクロを何故聞いたかも分かってないんです。フッと頭に浮かびました」


「不思議だね」


「はい。ノンアルコールのカクテルってどんなのがあるんですか?」


「シンデレラとかプッシーキャットとか、ヴァージン・ピニャ・コラーダとかかな」


「名前だけでは分かりませんね」


「咲楽ちゃんに作るならシンデレラかな?オレンジジュースとレモンジュースとパイナップルジュースで作るの」


「美味しそうです」


食材は有るから、そのまま家に帰る。


「氷魔法はどんな感じ?」


「シャーベット状までは行くんですけど。完全に凍りません。雪もフワッと浮き上がって終わりです」


「何だろうね?」


「気長に練習します。簡単に出来るものじゃないって言われてますし」


「ライル殿に?」


「みんなにです。大和さん、ライルさんに頼んでくれたんですね」


「ライル殿の『お兄様』発言が聞きたくて。ちっとも気が付かないから楽しい」


「からかうのはやめてあげてください」


「咲楽ちゃんの事を頼みたいのもあるんだよ」


「でも聞きたいんですよね?」


「咲楽ちゃんの事を本当に気に掛けてくれているのが分かるね。その最中に『お兄様』って単語が入るから、楽しい」


心底楽しそうに笑う。


「全く話は変わるんですけど、寒い時期に飲みたいスープって何ですか?」


「クリームスープ系」


「即答ですね」


「施療院の大掃除の話?」


「はい」


「今日聞いたよ。その日は俺も行くから」


「騎士様は10人で合ってますか?」


「正規に行くのは10人。押し掛け手伝いが3人くらい居るかな?」


「なんですか?それ」


「ジェイド嬢とルビー嬢と天使様のファン代表」


「はい?」


「邪魔をすることはないよ」


「えっと、意味が分からないんですけど?」


「手伝いの騎士達は、副団長の指名だったんだけど、その選に漏れたのが何か騒いでて、昼休みに集まって相談してて、副団長に何かを言いに行って、そういう事になってた。王宮騎士団の施療院3人娘のファン代表だって言ってた」


「ファン代表だって言うのが訳が分かりませんけど」


「俺と一番対戦数が多いのが、天使様のファンね。毎度毎度絡まれて、投げ飛ばしてる。満更でもなさそうだけど」


「Mさんですか?」


「たぶん違う。他の奴等とやるときにはそこそこの成績だし」


「その事、みんなに言っておいた方がいいですか?」


「どうだろうね」


家に着いて、着替えに上がる。降りてきたら、大和さんが暖炉に火を入れてくれていた。


今日のお夕飯はせっかく魚醤があるんだからと、寄せ鍋風。青首大根は無いから蕪で代用。白菜も見当たらなかったからキャベツを使った。ポロゥというポロ葱みたいなのを見つけたから、それも入れてみた。後は豚っぽい肉の薄切りと鳥の挽肉で作った鳥団子。


「匂いは和風だね」


「本当に匂いだけですね。でも味は魚醤ですからどうでしょう?」


「味も旨そう」


キッチンに入ってきて、鍋を覗き込む大和さん。


「生姜がないのが残念です」


「何に使うの?」


「鳥団子に入れます」


「そうなんだ」


「みじん切りにして入れても、すりおろして入れても美味しいんですよ」


「生姜って有ると思うんだけどね」


「ですよね。ジンジャーエールとかありますし」


「だよね」


鍋を大和さんが運んでくれた。


「こういった風のスープも良いかもね」


「大掃除の時ですか?」


「そう」


「作れるのが私だけになりそうです」


「あ、そっか。咲楽ちゃんが大変だね」


「明日、一緒に作ってくださる近所の奥様方が来るから、相談して決めるらしいです。その時、一緒に持っていこうかな?」


「味見用って事?」


「はい」


「これ、少し取り分けとく?」


「良いですか?」


了解を得て、小鍋にスープと蕪やキャベツを取り分けて異空間に入れる。すいとん風にするために、小麦粉も異空間に入れた。


「お待たせしました」


「食べようか」


久し振りに寄せ鍋を口にした。


「こういうのも良いね」


「はい。意外と合います」


「聞きにくいんだけど」


「はい。誰と食べてたかですか?友人です」


「だよね」


「もっとも寄せ鍋って言うかこういうお料理は……何年ぶりかな?」


「友達と食べてたんじゃないの?」


「こういうのって大抵夜に食べるじゃないですか?高校卒業辺りからみんな忙しくなってきて、集まれなくなったんです。葵ちゃんともう1人位でした」


「受験とかあるから?」


「はい」


「俺は一人鍋状態だった」


「ご家族と一緒だったんじゃないんですか?」


「男ばかりの家族の食事を舐めちゃいけない。鍋なんて戦争状態だよ。主に親父が横暴になるから、女子衆(おなごし)が強引に一人鍋にした」


想像してみた。騒々しいけど温かい家族の風景だ。


「なんだか温かいですね」


「温かい?」


「仲良しって感じです」


「こうやって好きな()と好きな()の作った料理を食べる方が、幸せを感じるけどね」


「幸せって……」


「幸せだよ。大好きな咲楽ちゃんと一緒に暮らせる」


「あの、私も幸せです」


顔が熱い。


「真っ赤だね」


「好きって言われたらこうなります」


「咲楽ちゃんも言ってみる?」


「す……食べちゃいましょう!!」


「あ、ごまかした」


にっこり笑う。


「大和さんみたいに自然に言えないです」


「ま、今はそれで良いか」


「今は?」


「咲楽ちゃんはわりと好きって言ってくれているのに、いざ改めてってなると、照れるんだね」


「言わなきゃって思うとダメなんです」


「身構えちゃうのか」


「はい」


大和さんの事を好きなのは自覚があるけど、自分の口で大和さんに言うって思っちゃうと、言えなくなる。


「食べないの?全部食べちゃうよ?」


「食べます」


気が付いたらずいぶん減っていた。


「締めの何かが無いんですよね」


「仕方がないでしょ」


「トマトソースじゃなくて、ホールトマトとかがあったら、パスタを入れたりできたんですけど」


「何それ、旨そう」


「トマトソースパスタみたいになるらしいです」


「あ、そうか。それまでの野菜の旨味なんかも出てるから」


「ホールトマトを見つけたら、やってみましょうか?」


「食べたいね」


「分かりました」


いつも通り、大和さんが食器を洗ってくれる。私は刺繍道具を取り出してクレナの花の続きを刺し始める。


「進んだね」


「マルクスさんの瞳を覗き込む訳にいかないから、色が心配です」


「こんな色だったと思うよ」


「良かった」


クレマチスって私の覚えている色は紫っぽい色だったと思うんだけど、この世界では濃い青色らしい。サファイアのような色だ。


「クレマチスってこんな色だったっけ?青紫とか赤紫とか白だったと思ったけど」


「そうですよね。この世界ではこんな色らしいんです」


「青い花ってそう無かったと思うけど、この世界なら青い薔薇とかもありそうだね」


「青い薔薇って無かったですよね?」


「花弁が青色の薔薇は自然界には存在しなかったから、品種改良でも鮮やかな青色がなかなか出せなかったんだよ。「不可能」「存在しないもの」の例として使われてたよ。日本と海外の企業が共同開発して出来たんだよね」


「へぇ。勉強になります、先生」


ふざけて言ったら、大和さんの目が光った気がした。


「そういうプレイ、希望?」


「プレイって……え?」


「うん。分かってたよ。ふざけただけだよね」


「はい……?」


「分からなくて大丈夫。風呂、行ってくるね」


「はい」


大和さんがお風呂に行ってる間に明日のスープの仕込み。スープが出来たら、刺繍の続き。クレナの花弁の2枚目が出来たところで、大和さんが上がってきた。


「咲楽ちゃん、行っておいで」


「はい。行ってきます」


生姜が欲しかったなぁ。でも生姜ってこっちで何て言うんだろう?


生姜って身体を暖めてくれるし、この時期に積極的に使いたいんだけど。ライルさんやローズさんに聞いて分かるかな?


ガーリックはあるのは知ってる。その他のスパイスもたくさん有ったけど……あそこに無いかな?大和さんに連れていってもらおう。自分で行く自信はない。


唐辛子(ロコト)も身体を暖めてくれる。寒い時期には積極的に取りたいけど、入れすぎると味のバランスが崩れる。激辛料理は味覚に影響を与えるし。


髪の毛を乾かして、寝室に上がる。


「おかえり」


「戻りました」


ベッドに上がると、大和さんに抱き寄せられた。


「大和さん、そういうプレイって何ですか?」


大和さんの手が止まった。


「大和さん?」


「えぇっとね、ごっこ遊びだと思ってたら良いよ」


「ままごとみたいな?」


「ちょっと違うかな」


「じゃあ、何ですか?」


「説明は難しいね。結婚したら教えるよ」


「結婚したら……って……」


想像したら顔が熱くなった。そういう事だよね。


「意識してくれてるのは嬉しいけどね。離したら逃げそうだね」


「質問したのは私ですけど、逃げたいです」


「駄目。逃がさない」


「大和さん」


「何?」


「逃げません。逃げませんけど、ちょっと離してください」


「ヤだ」


「離して、ください」


強調して言うと、しぶしぶといった感じで離してくれた。


体勢を直して、大和さんに身体を預ける。


「咲楽ちゃん?」


「この体勢の方が楽です」


「こっちの方がいい?」


「はい」


「ちょっと強引だったかな?ごめんね」


「いいんです。私の所為(せい)ですよね?」


「よく分かってなさそうだけどね」


フッと笑われた。


「すみません」


「謝らなくていいよ」


「私はそういった事が怖かったって言うのもあって、よく分からないんです」


「俺がゆっくり教えるって言ったでしょ?」


「いつですか?」


「忘れちゃった?西の森の時、咲楽ちゃんの魔力が少なくなって、しばらく休んだときに、神殿に行った時の事」


「あの時ですか?」


「衣装部で……覚えてない?」


「衣装部でリリアさんと大和さんが話してて、不安になったのは覚えてます。けど、何かしちゃいましたか?」


「覚えてないか……」


「あやふやっていうか、自分がよく分からなくて、ナイオンがずっといてくれて、落ち着けたのは覚えてます」


「その、自分が分からなくなったときかな。咲楽ちゃんに言ったんだよ。俺がゆっくり教えていくからって。キスから順番にね」


「順番……」


「焦らなくていいよ。咲楽ちゃんが怖がったら、絶対に無理強いはしないから」


「はい」


「今日はここまでだね。寝ようか」


「はい。おやすみなさい、大和さん」


「おやすみ、咲楽ちゃん」

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