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翌日、起きて服を着替え、ダイニングに行くと、大和さんとカークさんが居た。


え?っと思って時計を見てもいつも通り1の鐘前だ。


「咲楽ちゃん、別に寝過ごしてないからね」


「おはようございます、大和さん、カークさん。どうしたんですか?」


「外を見たら分かるよ」


勝手口を開けると、銀世界だった。しかもまだまだ降り積もってる。そっとドアを閉めた。


「走れなかったってことですか?」


「そういう事」


ちょっと不満そうに大和さんが言う。


「一応玄関前だけでもと、除雪をしたのですが、早くに終わってしまいまして」


「一通りの運動も終えて、シャワーも浴びちゃったから、ヒマしてるの」


「そっか。大和さん今日はお休みでしたね」


キッチンに入って、朝食の準備を始める。


「カークさん、朝食は買ってきてるんですか?って、無理ですよね」


「そうですね」


「簡単なものでよろしければ作りますよ?」


「私は……」


ちらっと大和さんを見た。


「いただきます」


「はい。少しお待ちください」


シンっとした中、私の朝食を作る音だけがしてる。


「雪の日って静かですね」


「そうですね。子ども達がはしゃぎ出すのは、もう少ししてからでしょうか」


「そうですよね。子ども達ははしゃぎますよね」


積もったってことは、私の氷魔法の練習も始まっちゃうって事だよね。どんな事するかは知らないけれど。


「なんだか見られていると、緊張するんですけど」


「気にしなくて良いよ」


「気になります」


気にはなるけど、朝食プレートを作り上げる。


「出来ました。大和さん、コーヒーはどうします?」


「淹れる。ちょっとキッチン借りるよ」


朝食プレートをテーブルに運んで、カークさんといつものやり取り。そう、「一緒に食べましょう」「私は別室でいただきます」「カーク、いいから一緒に食べろ」のやり取り。もはやテンプレ化してるよね。


「何考えてるの?」


不意に大和さんに聞かれた。


「雪が積もったらやらなきゃいけないことを思い出して、どうするのかな、って考えてました」


「施療院での事?」


「はい」


「お疲れ様」


「楽しみなのもあるんですよ?」


「それなら良いけどね?」


「何かあるんですか?」


「ちょっとした計画です。最終的な目的は遊んじゃおうって事なんですけどね。その準備が少し大変で」


「お手伝い、しましょうか?」


「ん~、ライルさんとかと協力しないとですし、聞いてからでいいですか?」


「えぇ。フリカーナ家のご子息と協力ですか」


「説得しました」


「咲楽ちゃんが説得ってことは、楽しんでるのは女性陣?」


「男性陣が立案して、こっちに丸投げしてきたから、説得しただけです」


「女性陣は何するの?」


「応援?」


「何故疑問形なんですか」


「だって、逃げそうですから」


「外で何かするのかな?」


「秘密です」


食べ終わって、大和さんとカークさんのお皿を洗う、洗わせないのやり取りの間に、出勤準備をする。まだ早いんだけど、準備だけしておく。


リビングに降りると、2人が居なかった。どこに行ったんだろう。


少しだけ刺繍を進めて、時間をみてから外へ出る。


玄関先に大きなスノーマンが居た。だるまさんじゃない方。3つのパーツから出来ている欧米型だ。


「作ったんですか?」


「ヒマだったから」


大和さんが得意気に答える。


「楽しかったですか?」


「雪中訓練をこれでやろうかな」


「無理だと思います」


「だよね。そろそろ時間?」


「はい」


雪は止んでいた。3人で歩き出す。


「カークさんはお仕事はいいんですか?」


「今はトキワ様にくっついているのが仕事です」


「調査ってまだ続いてたんですか?」


「調査じゃ無いですって」


「調査だろう」


大和さんが楽しそうに混ぜっ返す。


「もう、それでいいです」


カークさんが疲れたように言った。


「いいんですか?」


「調査じゃ無いですが、そう思われる事はしていますから」


「強さの秘密がどうこうって言ってましたよね」


「あの距離を走ったり、トキワ様の剣舞等、常人では続きません」


「続けてるじゃないか」


「トキワ様が一緒に走っているからですよ。付いていきたいんです」


「ダニエルさん達も一緒なんですよね?」


「一緒だよ。あいつ等も頑張ってる」


「依頼の達成率が上がってますね」


「最近会ってませんけど」


「街壁の方に回ったりしてますね」


「そういうのって言っていいんですか?」


「天使様になら、ってダニエル達に言われてますよ。むしろ言っておいて欲しいみたいに言ってました。ダニエル達も会いたいようでしたけどね、街壁の工事は朝が早いので」


「この頃たまに走っていないよな」


滑りそうになる私を支えてくれながら、大和さんが言う。


「すみません」


「慣れてないと滑るよね」


「何かコツとかあるんですか?」


「足裏全体で歩く事かな?」


「歩幅を小さくとかですか」


カークさんも教えてくれる。こんな状態で氷魔法って取得できるのかなぁ。


王宮への分かれ道には誰も居なくって、そのまま施療院まで行く。


「大和さんが休みの時ってローズさん達が居ませんけど、知らせてるんですか?」


「前日に帰る時に言ってるよ。王宮騎士団だと早番遅番が無いしね。今のところは」


「今のところ?」


「新入りに相談の対応は無理でしょ?」


「そういう事ですか」


危なっかしいからか、ずっと大和さんが手を繋いでいてくれる。


「雪は止みましたが日が照りませんね」


「溶けないでしょうか?」


「このままだと翌朝が怖いな」


「凍結とかですか?」


「そう。水溜まりとか、凍ったら危ないから」


「これって火属性の方って溶かして歩いたりって出来ないのでしょうか?」


「溶かして歩くって足から火属性をって事?出来るだろうけど、やらないだろうね。魔力量の問題もあるし」


「あ、そっか」


「面白いことを考えますね、サクラ様は」


「面白いですか?」


「足から火属性を、なんて、考えませんでした」


「そうですか?」


「他にないですか?」


カークさんがワクワクした感じで聞いてくる。


「思い付きません」


「そうですよね」


「ちょっと俺も楽しみにしてた」


「大和さんも?雪が積もったら、雪像とか作れるかな?って思うくらいですよ?」


「Snow Manとか?」


「雪うさぎとかです」


クルーラパン(カラーウサギ)を雪で作るんですか?」


「あのモコモコは再現できませんけどね」


「そういった雪像を作る人はいますが、魔物は作ってないと思いますよ」


「あの玄関前にあったスノーマンさんは?」


人形(ひとがた)の雪像は……どうでしょう?」


「大和さん、訓練だ、とかって雪合戦とかしないでくださいね」


「その手があったか。投擲の訓練にもなるし、遊びも取り入れられて一石二鳥」


「大和さんが投げたらスゴいことになりそうです」


「投擲はしてないからね。そうでもないと思うよ」


施療院まで来たら、ライルさんが待っていた。


「シロヤマさん、おはよう。みんな遅れてて、シロヤマさんが3番目だよ」


「おはようございます。ローズさんは?来てるんですよね?」


「所長とルビー嬢がまだだね」


「ライルさん、寒くないですか?」


「寒いけど、伝えなきゃいけないかもしれないからね」


「常連さんとかですか?」


「そう。開院時間までに所長とルビー嬢が遅れるようなら、それを伝えなきゃね」


「中に入っていたらどうですか?」


「見逃すといけないからね。着替えてきて」


「はい」


着替えに更衣室に行く。大和さんとカークさんはライルさんと何かを話していた。


着替えを済ませて診察室に行くと、ローズさんが壁飾りを作っていた。


「おはようございます、ローズさん」


「おはよう、サクラちゃん。積もったわね」


「そうですね。壁飾りですか?」


「そう。サクラちゃんの診察室にあるのみたいに、綺麗に出来ないのよ。どうしても端が歪んじゃう」


「引っ張りすぎると歪みますよ」


「分かってはいるのよ。でも引っ張っちゃうのよ」


「次の段に移る前に修正するしかないですね」


「やっぱりそうよね」


「所長とルビーさんが遅れてるって聞きましたけど、診察はするんですよね」


「するわよ。ただ、少ないと思うわ」


「外にでないから?」


「今は雪が止んでいるけど、いつまた降りだすか分からないし。毎年そうね」


「そうなんですね。私、ここに来るまで何回か滑りかけました」


「大丈夫?トキワ様が支えたとかでしょ?」


「はい」


「でしょうね。トキワ様が放っておくわけないもの」


「雪道の歩き方とか、分からないです」


「もう少し積もった方が歩きやすいわね。滑り止めが付けられるし。除雪は大変だけど」


「そうなんですか?」


「そうなのよ。それより、お昼まで雪が残ってたら、練習しましょ?氷魔法」


「はい。よろしくお願いします」


「と、言っても風と水を同時に使うってだけなんだけどね」


「重ねるんじゃなかったんですよね」


「そうね」


2の鐘が鳴った。患者さんはいない。


「やっぱりいないわね」


「ライルさん、寒くないでしょうか」


「寒いでしょうけど、もう入ってみえるわよ」


「今朝から大和さんが走れなかったみたいで、不満そうでした」


「トキワ様ならあの『ファイア』で一気に溶かしちゃいそうだけど」


「カークさんが一緒だったから、使わなかったのかもしれないです」


「あぁ、あの調査員。まだトキワ様を調べているの?」


「本人は調査じゃ無いって言ってますけど」


「じゃあなんなの?」


「さぁ?『今はトキワ様にくっついているのが仕事です』って言ってました」


「調査じゃない」


「ですよね」


「あー、寒い」


「ライルさん、お疲れ様です。もういいんですか?」


「トキワ殿に助言を貰って、紙に書いて張り出してきた」


「あぁ、そのやり方がありましたね」


「向こうでもそうだったの?」


「お知らせですか?小さい病院だと紙に書いて、ってありましたよ」


「小さい病院?」


「個人病院って言って、医者、施術師は1人か数人の規模の小さい病院の事です」


「もっと大きいのは?」


「総合病院とかでしょうか」


「その2つだけ?」


「それが、病床数で名称が変わるんです。20人以上の患者を入院させるためのベッドを有する、医師3名以上の施設が病院、患者を入院させるためのベッドを有しないもの、又は19人以下の患者を入院させるベッドを有する、医師1名以上の施設が診療所なんです」


「なんだか複雑ね」


「ですよね」


「じゃあ、ここは?」


「療養室はありますけど、19床も無いですよね。あちらの区分によると診療所になります」


「一応王立なんだけどね」


「全く概念が違いますから。こっちでは日数をかけて外科的治療をってそうないですし。ましてや入院してまでって無いですよね」


「そうだね。大抵はその日の内だね。シロヤマさんが来るまでは、手に負えなくてそのまま、って患者さんもいたけど」


「最初のスラムの崩壊現場もそうだし、西の森の一件もそうかしら」


話をしていたんだけど、患者さんは来ない。所長とルビーさんも来ない。


「所長とルビーさん、来ませんね」


「ルビー嬢はたぶんもうすぐ来るよ。所長はどうだろう」


「噂をすれば、ルビーが来たみたいよ」


窓からルビーさんが見えた。


「遅くなってすみません」


少ししてルビーさんが入ってきた。


「大丈夫だよ。患者さんはいないし、所長もまだだしね」


「あれかしら?いつもの」


「あれだろうね」


「あれってなんですか?」


「「ナザル所長の水のお絵かき」」


「はい?」


「ナザル所長は貴族街に住んでないけど、それなりに広い敷地の家なんだよ。それで、雪が積もると子ども達が寄ってきてね。雪に水で絵を描くの、所長が。それが大評判でね。毎年雪が積もると遅れるときがあるんだよ」


「所長、子どもがお好きですものね」


「あれ、難しいんだよ。繊細な魔力操作がいるし」


「そうでしょうね」


少し考えただけでも分かる。他に水を垂らさない様にするだけでも大変だ。


お昼までは本当に数人の患者さんしか来なかった。ヴァネッサさんも来ていない。


お昼ご飯を済ませて、氷魔法の練習。まずは魔法の同時展開から、なんだけど。


「どうしても水を先にだして、風で温度を下げるになってしまうね」


「はい。ライルさん、魔法属性って何歳くらいで分かるんですか?」


「貴族は6歳だね。庶民も6歳だけど何かの拍子に属性魔法を使ってしまって、早くに分かる子も居るらしいね」


「早くに分かると熟練度が上がりますね」


「それがそうでもなくてね。魔力操作が上手くいってないと危険だからね。属性魔法を出さないようにしながら魔力操作を練習しなきゃいけないから、結構大変らしい」


「そっか。私達は大人になってからだったし、魔法がそもそもない世界からだったから上手くいったんですね?」


「だろうね」


「やっぱり同時展開って難しいですね」


「そうだね。これは要練習かな」


「2人とも、やっておるな」


所長がご出勤。


「いやはや、今年は時間が掛かったわい。遅くなってすまんの」


「患者さんも数人です。いつも通りですね」


「遅くなったお詫びに差し入れがあるぞ。中に入りなさい」


所長と一緒に中に入ると、ローズさんとルビーさんがぬくぬくしていた。


「お帰り。上手くいった?」


「どうしても水を先にだして、風で温度を下げるになってしまいます」


「ライル様も?」


「そう言ってました」


「やっぱり難しいわよね」


「マルクスさんの木魔法の魔力を参照にしてみたんですが、上手くいきません」


「サクラちゃん、複合魔法って3ヶ月はかかるから」


「サクラちゃん、落ち込まないで」


何故かルビーさんにヨシヨシされた。


「落ち込んでませんよ?」


「したかったのよ」


「3人で何をじゃれあっておる?」


所長に見つかった。


「ほれ、差し入れじゃ」


「ありがとうございます」


渡されたのはクレープをくるくると巻いた物。10cm位の長さの物が10本位、木皿に入れられていた。


「奥様のシュトルーム!!」


「ありがとうございます!!」


「シュトルーム?」


「パンケーキを薄く焼いて、巻いた物よ」


「奥様のは味が変わったりして面白いの」


「甘辛ミックスですか?」


「今日のは半分蜂蜜、半分チーズじゃな」


「美味しいですね」


「気に入ったかの?」


「はい」


「サクラちゃんなら再現しそうよね」


「そんな期待に満ちた目で見ないでください」


「だってねぇ」


「あの食事パンケーキ、美味しかったんだもの」


「それは食べたいのう」


「所長まで?」


ワイワイ言いながら差し入れをいただいたんだけど、患者さんが来ない。


「これは明日が忙しいかも知れんのう」


「あぁ、やっぱり」


「そうですよね」


今日来なかった常連さんがこぞって来るとか、だよね。


「明日にならんと分からんがのう」







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