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異世界転移って本当にあるんですね   作者: 玲琉
眠りの月
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目が覚めたら、室内が暗かった。大和さんは居ない。昨夜の事を思い出して、朝から赤面してしまった。


キスは何度かされたことがあるけど、あんなのは知らない。目を閉じていたから大和さんの顔は見ていないけど、直前の顔は覚えている。怒ったような、悲しいような、傷付いたような、全てが混ざった感じだった。


私が何かしちゃったんだろうか。ベッドで膝を抱えていたら、寝室のドアが開いた。


「咲楽ちゃん、起きてたの?まだ早いよ」


大和さんが走りに行く時の格好で寝室に入ってきて私のそばに座る。


「目が覚めちゃいました」


「もう少し寝ていたら?」


「大和さん、昨夜の事なんですけど」


「謝らないからね」


「謝る事が先に出てくるって……そうじゃなくって、私、何かしちゃいましたか?」


「何もしてないよ」


「だって、怒った感じとか、悲しいような感じがしたから」


「自分の感情が上手く処理できなかっただけ。咲楽ちゃんは気にしなくて良い」


そう言って立ち上がると、私の額にキスを落とした。


「走りに行ってくるね。リビングに居るなら暖炉を付けていくけど」


「着替えて降ります。目が冴えちゃいました。ちょっとしたいこともあるので、暖炉は自分で付けます」


「そう?じゃあ、行ってくる」


大和さんが出ていってから、着替えてキッチンへ。粉類とバターを出してまずはバターを細かくする。粉類をふるって細かくしたバターと擦り合わせてポロポロのそぼろのような状態になったら、『ウォーター』で冷水を少しずつ加えて、一塊に。ラップはないから紙で包んで食料庫へ。作っていたのはパイ生地。パイ生地さえ作っておけば、後はフィリングを作ればパイが焼ける。


今何時頃かな?時計を見たら8の鐘と1の鐘の間、4時過ぎ位だった。


パイ生地を1時間くらい休ませたいから、その間に暖炉を付けてリビングで刺繍をする。


一時間くらいかぁ。タイマーが欲しいなって思いながら、金の刺繍を終わらせる。次は赤かな。あの奉納舞で見た赤は朱色のような感じだった。炎の色というか、あぁ、大和さんが瞑想しているときの靄の色。あんな感じだった。


赤の糸2本に黄の糸を1本加えて刺し始める。金の所とグラデーションになるように、急激に色を変えないように気を付けながら刺していく。


グラデーションの部分を終えて時計を見ると、ちょうど一時間くらい経っていた。刺繍を魔空間に入れて、手を洗ってから、パイ生地を出す。これを四角く伸ばして、折ってを何度か繰り返して、紙に包んで異空間へ。


サジー、ここではアルゴーサーのフリュイ(ジャム)は作ったことがない。フリュイ(ジャム)の作り方は知っているけど。貰ったアルゴーサー(サジー)を鍋に入れて砂糖をまぶす。これで水分が出てくれば調整して煮詰めていくだけ。アフル(リンゴ)も同じように切って砂糖をまぶす。


気が付くと、1の鐘、少し前だった。アルゴーサー(サジー)アフル(リンゴ)の鍋を食料庫に入れて、スープの味を整えてから庭に出る。


庭には大和さん、ダニエルさん達、3人の知らない男の人達が居た。


「おはようございます、サクラ様」


「皆さん、おはようございます」


気が付けばみんな泥だらけだ。


「どうしたんですか?ずいぶん泥だらけですけど」


「トキワ様に体術の稽古を着けていただいてました。これから一旦帰って、朝食後にまた来ます」


「体術の稽古……怪我とか、気を付けてくださいね」


「言うことを守っていたら、怪我はしないよ」


大和さんがストレッチをしながら言う。


「基礎はできてるんだ。それを発展させるだけ。必要なのは筋肉量をつけるのと、柔軟性だな。後は持久力」


「持久力って、あれ以上に?」


そう聞いた男の人に、ダニエルさん達が言う。


「今日の距離はいつもより短かった」


「いつもの2/3位?」


「でもトキワ様はいつももっと走ってるよな」


「朝だったし時間もなかったから短めにした。続きは咲楽ちゃんを送った後だな」


ストレッチを終えたらしい大和さんが足を組んで座り直す。


「ダニエル達は朝食に行ってこい。あなた方はどうする?」


「ギルド長から言われてますので。朝食には行ってきますが」


「では2の鐘前にこの前に集まってください」


それだけ指示した大和さんは瞑想に入った。


「天使様、申し遅れました。私は冒険者ギルドの職員でカークと言います。ダニエル達が黒き狼殿から、稽古を付けてもらうと言っていたのを聞いたギルド長から、どんな稽古なのか体験してこいと言われまして、押し掛けました。朝から騒がしくして申し訳ありません」


「ギルド長さんから?」


「本当はギルド長本人が来たそうにしてたんですがね、副ギルド長に説教されて、私たちが来ることになったんです」


「あら。そうだったんですね」


「黒き狼殿はあのような鍛練をいつもしているんですか?」


「私はどんな事をしているかは知らないんです。でも毎朝1刻の1/3位の時間、走っているそうです」


「は?1刻の1/3の時間?天使様も冗談がお上手ですね」


「本当なんですけど」


「何の探りを入れてるかは知りませんが、本当です。これでも前よりは少なくなった方ですが」


瞑想を終えた大和さんが話しかけてきた。


「探りって……」


「ほら、お仲間が待ってますよ。朝食に行ってきて下さい」


大和さんはそれだけ言うと、舞台に向かった。


「探りを入れてる訳ではなかったんですが。今から黒き狼殿は何を?」


「剣舞です」


「あぁ、奉納舞の時の。あれは素晴らしかったです。あれ?あんな舞でした?」


「あの時とは違う剣舞です」


それっきりカークさんは黙り込んでしまった。カークさんと一緒に来た2人も身動(みじろ)ぎせずに見ている。私は他の人が見ているって事は、また抱き締められるのかな、何て考えていた。


大和さんが舞い終わって舞台から降りる。カークさん達は動けてない。


大和さんが両手を広げた。やっぱり。大和さんの元に歩いていって、素直に抱き締められる。


「ずいぶん素直だね」


「こうなるんじゃないかって思ってましたから」


その時、拍手が聞こえた。カークさん達だ。


「素晴らしい!!」


「完成度はまだまだですよ。朝食はいいんですか?」


「忘れてた。行こう。では黒き狼殿、2の鐘前に」


ハッと気が付いたようにカークさん達は出ていった。


「何を聞かれた?」


「いつもどんな鍛練をしているのかって聞かれたんですけど、分からないって答えました。実際に知りませんし」


「他には?」


「聞かれた事は以上です。あ、でも闇の魔力が見えました」


「闇の魔力、ね。何をしようとしてたんだか」


家の中に入って、大和さんはシャワーに、私は朝食の支度。


ついでに食料庫のアルゴーサー(サジー)アフル(リンゴ)の様子を見る。汗はかいてきているけど、水分と言うにはまだまだだ。


紙を被せ直して、蒸発を防ぐために紐で縛っておく。


「咲楽ちゃん、何してるの?」


後ろから声をかけられて、ビックリする。


「あぁ、ビックリした。昨日のアルゴーサー(サジー)アフル(リンゴ)フリュイ(ジャム)にするための下準備です」


「下準備ってどんなことをするの?」


「果物に砂糖をまぶしておくんです。水分が出たら水を足して煮詰めます。フリュイ(ジャム)にするなら潰したりしますけど、今回は形を残したいのでプレザーブになるかな」


「よく分かんないけど、アップルパイ、作ってくれるの?」


「はい。すぐには無理ですけど」


喜色満面ってこういう事を言うのかな。ニコニコの笑顔だ。


「コーヒー、どうします?」


「煎れる。キッチン借りるね」


ドリッパーの用意をしながら、大和さんが何でもないように言う。


「咲楽ちゃん、闇属性に対抗できる、例えば反射みたいな魔法、出来ない?」


「反射といったら鏡ですか。出来ると思いますけど、何かありました?」


「さっきのアイツ。闇の魔力が見えたって言ってたから、一応ね」


「ハンカチか何かにしちゃいましょうか」


「今作るの?」


「巻きかがりとちょっとした模様付けですから。少し待ってください」


白の布を取り出して、3枚の正方形を作る。1枚に大きな7芒星を輪郭のみ刺繍した。糸は使ってた金の糸。7芒星を中に挟んで巻きかがりでぐるっと縫い合わせる。


大和さんの平穏と諸々の無事を願って、針に光属性の魔力を通しながら縫っていった。大和さんが大和さんでいられますように。悪しき物から守ってくれますように。万が一闇属性を使用しての精神干渉は、使用した本人に跳ね返りますように。


「出来ました」


ふぅっと息を吐いて、大和さんに作ったハンカチを渡す。


「すごいスピードだね」


「時間が無いかもっていうのと、大和さんの平穏を祈っていたら、集中しちゃいました」


「俺の平穏?中の刺繍ってよく見えなかったんだけど」


「こっちは7神様がいらっしゃいますから、7芒星を縫ってみました。気休めかもしれませんけど」


「ありがとう。大切にする」


テーブルには朝食が運んでくれてあった。


「食べようか」


「はい」


「咲楽ちゃん、今日の帰りはホントに気を付けてね」


「あんまり言わないで下さい。何かのフラグが立ちそうで怖いです」


「確かに」


朝食を食べながら、話をする。


「俺の平穏って何の事?」


「闇属性って精神に干渉してくるものが多いから、大和さんが大和さんでいられますように、っていうのと悪しき物から守ってくれますように、っていう祈りを込めました」


「それで俺の平穏な訳ね」


「今回は戦闘はなさそうですけど、体術の稽古の指導なんですよね。気を付けてくださいね」


「怪我したら咲楽ちゃんの所に行くから」


「そうならないようにして下さい」


ちょっと不安になってきた。


「大丈夫だよ。今日は指導だし、指導は慣れてるから」


「日本でしてたって言ってましたね」


「初心者の指導から、上級者の鍛練の相手までね。相手の力量で加減をするのが大変だった」


「なんとか言うのも教えてたんですか?」


「なんとか?あぁ、システマとサバット?あれは教えられないね。自分流にアレンジしているし危なくて」


「危ないって」


「システマは護身術として教えてるのが多いけど、俺は軍隊格闘技として教わった。サバットは足技主体だし杖なんかも使うからね」


「一般的では無いってことですか?」


「そういう事。こっちでも教えない」


何かに誓いをたてるように宣言する。


「咲楽ちゃん、そろそろ着替えておいで」


「え?もうこんな時間ですか?」


後片付けをお任せして、急いで着替えに自室へ向かう。出勤の準備を済ませてリビングに行くと、大和さんが待っていてくれてた。


「お待たせしました」


「行こうか」


今日は外に誰も居ない。2人きりだ。手を差し出された。指を絡められて大和さんのポケットに入れられた。


「覗いてるな」


「誰がですか?」


「朝のギルド職員」


「カークさんでしたっけ」


「隠れてるけど、あの木立の所にいる。教えるの、やめようかな」


聞こえるようにか少し大きな声で大和さんが言うと、カークさん達が出てきた。


「この行動はギルド長の指示ですか?」


「申し訳ありません。ギルド長は関係ありません」


「と、なると、副ギルド長辺りか。なるほど」


大和さんが何かを企んだ気がした。


「大和さん、無理、無茶は駄目ですよ。大和さん自身も他の人達も」


「敵意を向けてくるヤツには容赦しないよ。コイツらは敵意って訳じゃなくて、情報収集が目的だろうけど」


「情報収集?」


「とりあえず、行くよ。ジェイド嬢が突撃してきそうだ」


「あ、はい」


歩き出す私達とその場で佇んでいるカークさん達。


「行かないのか?行かないならそんな所で居られると往来の迷惑になる。どこか、さっきのところにでも居てくれ」


大和さんが言うと、カークさん達も一緒に歩き出した。カークさんは大和さんの隣に、他の人は私達の後ろにいる。


少し恐怖感が襲ってきた。無意識に大和さんの手を握り締めたらしい。


「悪い。後ろの2人、少し離れてくれ」


大和さんがそう言うと、少し離れてくれた。思わず息を吐く。


「大丈夫?」


「はい。ありがとうございます」


「何かあるんですか?いえ、私が尋ねることでないのでしょうが」


「そうだな。ある意味ではお前らが原因だ」


「申し訳ありません」


「それで?目的は?」


「話さないと駄目ですか」


「ずっと家を見張られて煩わしかったと、ギルドにクレームでもつけようか?」


「それはやめてください」


「なら話せ。話せる範囲でいい。今はな」


私をちらっと見て大和さんが言う。


しばらく何かを考えていたカークさんが話し出した。


「我々は冒険者ギルドの調査部の者です。主に魔物の調査なんかをしています」


「俺は魔物か?」


大和さんが揶揄(からか)うように言う。


「いえ、そうではなくて、冒険者達が貴方を手放しで誉めるので、その、真相を探ってこい、と副ギルド長に言われました」


闇の魔力が見えた。同時に大和さんの胸辺りが光の魔力で覆われた。大和さんが私を見る。小さく頷いた。


「闇の魔力まで使って何をしようとしているのかは知らんが、やっぱりクレームは入れた方が良さそうだ」


カークさんが慌てている。


「何故お分かりに?」


「闇属性か?自分の意思と関係なく信じたいと思うんだ。おかしいと思うだろう。お前らに対して不信感しかない俺が、どうしてお前の言葉を信用したいと思う?」


「確かに……」


「簡単に認めるなよ」


大和さんが苦笑する。


「こういう諜報活動は慣れてないんです」


「いつも相手は魔物か?」


「そうですね」


「仕方がないとはいえ、人を操ろうとするな。信用も信頼も得られなくなる」


「はい。すみません」


「思ってもないのに謝るな。反省できないのならやらない方がましだ。ただし、そういう人間は成長できない」


「私は本当に……」


「お前が謝るポーズをする度に闇の魔力を感じる。それで一時的に誤魔化してきたんだろう?後ろの2人との関係は?」


「同僚です」


()()話せる範囲で良いと言ったよな。彼女を送ったら覚えとけ」


そう言ってニヤッと笑う。しばらく無言で歩いた後、大和さんが呟いた。


「何故居るんだか……」


「誰がですか?」


「副団長」


「えっ?」


カークさんが驚いてる。


「どこにですか?副団長って王宮の?」


「あぁ、もうすぐ王宮への分かれ道だろう。そこに居る」


「何故分かるんです?」


「地属性の魔力を使う。地属性は?」


「あの、地属性は一般的にハズレ属性と言われていまして」


「だから出来ないんだな。自分に授かった能力を伸ばそうとしないから、何も出来なくなる」


「はぁ……」


「あぁ、信じられないか。咲楽ちゃん、ジェイド嬢が走ってくる」


「またですか」


「それを追いかけて、ライル殿もこっちへ来るね」


ローズさんが見えた。


「ホントに来た」


カークさんが呆然と呟く。


「飛び付いてくる気ですよね」


「だろうね」


「サクラちゃーん」


大和さんが手を離して、私の後ろに回る。ローズさんに飛びついて抱き付かれた。


「あら?どなた?」


「ローズさん、おはようございます」


「ジェイド嬢、おはようございます」


「おはよう、サクラちゃん、おはようございます、トキワ様。それでこの人達は?」


「それはライル殿がみえてから話します。その際、咲楽ちゃんをお願いしてもいいですか?」


「えぇ、もちろん」


「ジェイド嬢、バタバタと走らない。あ、トキワ殿、おはようございます」


「おはようございます。アインスタイ副団長が一緒でしたね」


「えぇ。トキワ殿に話がある、と。この人達は?」


「冒険者ギルドの職員らしいです」


「らしい?」


「歩きながら話しましょう」


「それで、らしいとは?」


「我々は冒険者ギルドの調査部の者です」


カークさん達がプレートをライルさんに見せながら言う。


「本物のようですね」


大和さんをちらっと見て、ライルさんが言う。


「初めまして。ライル・フリカーナです」


「フリカーナ……ってフリカーナ伯爵の?」


「えぇ。4男です」


「失礼しました!!」


カークさん達が固まった。


「こうなるからフリカーナの名は使いたくないんだよ」


「すみません、利用させてもらいました」


ちっとも悪いと思ってない口調で、大和さんがライルさんに言う。


「了承はしているよ」


王宮への分かれ道で、副団長さんが待っていた。


「おはようございます、トキワ殿、シロヤマ嬢」


「おはようございます。待ち伏せしてまで何か喫緊(きっきん)の御用でも?」


「彼等は……あぁ、冒険者ギルドの」


「えぇ、なにやら私を調査中だそうです」


「トキワ殿を?」


「それで、何か御用ですか?」


「王太子殿下と第2王子殿下がお会いしたいと」


「今日は無理ですね。明日は休みですが」


「では明日ですか」


「登城せよとの命令ではないのですね?」


「騎士団本部で話がしたいと仰っておいでです」


「では明日、咲楽ちゃんを送ってから、お伺いします」


「今日は無理というのは勤務形態ですか?」


「えぇ。遅番勤務なので。3の鐘までは親しい冒険者に、体術の指導を頼まれましたので」


模擬戦、という単語が出る前になのか、大和さんがいくぶん急いで言う。


「そうなのですね。仕方がない。諦めます。明日は逃がしませんからね」


「お手柔らかに」


副団長さんは王宮の方に歩いていった。


「行きましょう」


大和さんがみんなを促す。カークさん達も付いてきた。


「黒き狼殿……あ、トキワ殿、アインスタイ副団長殿の『明日は逃がさない』とは?」


「模擬戦の相手だな。明日は何人とやらされるやら」


「サクラちゃん?」


その声で大和さんが私を覗き込んだ。


「咲楽ちゃん、無理そう?」


こくこくと頷く。ローズさんが居てくれて、いくぶん和らいでいるけど、恐怖感が消えない。


「ジェイド嬢、申し訳ない。彼女を連れて少し先に行ってください」


「えぇ。サクラちゃん、行きましょ」


ローズさんが私を連れて、みんなから少し離れてくれた。後ろから大和さんの声が聞こえる。


「ライル殿、明日時間があれば説明します」


「分かった。時間、あるのかな?」


「ペリトード団長まで王宮に来たら、時間は無いでしょうね。あの2人が1度ずつで終わらせると思いませんし。第2王子殿下の総当たり戦の方が楽ですよ」


「何故?」


「各人1度で済みますから」


大和さん、明日は模擬戦があるんだ。冷静にそう思う自分と恐怖感が同居していて思考がバラバラになりそう。


「サクラちゃん、ルビーだわ」


前からルビーさんが来るのが見えた。


「トキワ様、ルビーは一緒でいい?」


「女性なら恐らくは大丈夫です」


「サクラちゃん、ローズ、おはよう」


「おはようございます、ルビーさん」


「サクラちゃん、どうかしたの?」


「更衣室で話します」


ルビーさんとローズさんに挟まれる形になって、だいぶ恐怖感が無くなってきた。こんな所でも私は守られている。


施療院が見えてきた。誰かが立っている。


「あら?」


ナザル所長と、女の人が居た。


「ナザル所長の奥様だわ。どうなさったのかしら。滅多に表に出られないのに」


「表に出られない?」


「足を痛めてらしたはずよ」


「おはよう、シロヤマさん」


「おはようございます、所長」


「あらあら可愛らしいお嬢さんね。この子が天使様?黒き狼様はあの背の高い方?フリカーナの坊っちゃんと一緒に居る」


「これ、挨拶くらいせんか」


「初めまして天使様。エリーザ・シュツルントです。一応ナザルの妻ね」



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