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第八話 ブラック社内恋愛

 社員達を仕事に送りだしたら、今度は自分の仕事……大体は領内に現れた魔物を始末すること、を済ませて王城で報告するのが、勇者のルーチンワークとなっていた。



「あ~、今日も済んだ済んだ……」



 洞窟に巣を作ったコボルド達を3kgのC4爆薬で生き埋めにし、帰還した勇者。街を歩いていると、知った顔を見かけた。



「ありゃあ……ニールじゃねえか。あっちはリンダか?」



 社員達のグループリーダーであるニール。彼と一緒にいるのは同じく社員であるリンダ。2人は随分と親密そうに、腕を組んで歩いている。シフトの都合上今日はこの2人が休みなのは知っていたが、その関係についてまでは勇者は把握していなかった。



「何だあいつら……まさか……」



 勇者は二人の後をつけることにした。もっとも、地球の服を着たままの勇者は目立ち、周囲からは尾行がバレバレだったのだが……ニール達はお互いの事に集中しているのか、勇者には気付かないままだった。



「あ~……こいつぁ……」



 2人は屋台の物を共に食べさせあい、公園で語らい、小高い丘で景色を眺めながら肩をよせていた。勇者は疑念を確信に変え、屋敷へ戻ることにした……


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


名前:リンダ


年齢:45 性別:女 職業:勇者の会社員

種族:エルフ 身長:156cm 体重:45kg

髪の色:亜麻色 目の色:琥珀色


特記事項:人間の倍近い寿命を持つ種族。若い期間が長いが、内臓が弱いため人間と比べ環境適応力が低い。そのため肉体労働力としては人間の7掛け程度で扱われる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「なんで呼び出されたかわかるか?」


「は、はい、その……」



 数日後の報告会後、勇者はニールとリンダを呼び出した。勇者の前に並ばされた二人は俯き、怯えたような表情を浮かべている。



「お前ら、この前町で2人そろって遊んでたよな? 付き合ってんのか?」


「そ、それは……」


「申し訳ありません勇者様! 俺が彼女を誘いました! 彼女は……とても魅力的で! 奴隷の身でありながら、気持ちを抑えることができませんでした! 罰するなら、どうか俺だけを!」


「いえ! 私が断るべきでした! どうか私を……!」


「あ~……何を言ってるのかわかんねえが。お前らがイチャつくのを他の奴らが見たらどう思うか、ちったあ考えろよ。お前らはこの家から出てもらう」


「は、はい……」



 ニールとリンダは勇者の屋敷を出ることになった。そして数日後、例によって魔物を片付けた勇者は城でユインと会う。



「勇者様、聞きましたよ。奴隷……いえ、社員の2人に家を用意したとか」


「家って程でもねえよ、ただのアパートだ。家賃はきっちり給料から引くがな」


「ふふ……」


「それにだ。もしあの2人がくっ付いて子供でも生まれて見ろ……もう2人とも逃げるに逃げられなくなるからな……たっぷりとこき使えるってもんだ、楽しみだぜ……!」


「ええ、そうですね」



 ユインは苦笑する。話によれば二人分の『給料』は家賃を賄うには十分な物。奴隷に給料を払い、愛し合う男女に家を用意する勇者。もはやユインは、勇者は照れ隠しに悪ぶっているだけなのだろうとしか思わなくなっていた。

 

 しかし忘れてはならないのは、社員のプライベートを社長が自ら暴いたあげく、それを理由に会社として一方的な処分を下すなど決して許されてはならないということである。ましてやそれにより社員に金銭負担を強いるようにするなど会社の立場を利用した弾圧に等しい行為。その被害者たる2人は……



「ニール、その……ええと……」


「えっと、俺……頑張るよ、仕事も、なんていうか……他の事も! だから……よろしく、お願いします」


「ええ、こちらこそ……よろしくお願いします」



 自分達が被害者であるということすら、気づいていない様子だった。恋は盲目とは言うが、自分の置かれている状況すら正しく把握できないのでは、ブラック企業からの脱出は当分叶いそうになかった……


第八話 ブラック社内恋愛 終

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