第七話 ブラック給料日
勇者が奴隷たちを雇い入れてから早一月。勇者は社員達をホールに集め、日課の報告会を開いていた。この日は休みの社員も出席させられ、報告会の最後に、勇者は重要な話があると前置きをしてから茶封筒の束を机に並べた。
「よろこべっ……! これから給料を配る! 呼ばれた順に取りに来い!」
「給料……?」
「給料だって……」
「あ~、まずはニール!」
「は、はいっ!」
ニールが膨らんだ茶封筒を受け取り、戻って中身を確かめてみると、何枚もの銀貨がその中に入っていた。
「おお……」
「(くくく……)」
感嘆の声を漏らすニール。他の社員達も同様の反応を示す。それを見て勇者はほくそ笑んだ。
「(気づいてねえ気付いてねえ……馬鹿な社員共め。誰一人、給与明細がないことに気が付かねえんだからな……!)」
そう、勇者は確かに給与は払った……しかし、その内訳に関しては一切明かしていなかったのである。
「(基本給は相場の最低っ! さらにそこから食費、寮費、職員会費……いろいろ差っ引かせてもらったぜ……もちろん職員会費の使い道を決めるのは俺っ……! ククク、これが給与の節約方法よ……!)」
全員に給与を手渡し、まるで慈悲深い社長のようにふるまいながらも実際は必要経費のみならず用途不明なピンハネを行う悪辣な勇者……しかし社員達はそんなことに微塵も気づかず、まるで子供のように貰った金を数えながら、夕食のパンを食べていた。
「大銀貨が30枚……信じられるか? 奴隷の俺たちが、金を貰ったんだぜ」
「これ、私たちが使って良いのよね? ああ、勇者様……」
口々に喜ぶ社員達だったが、そもそも働いたら給与が出るというのは当たり前も当たり前の大前提、それを感謝すべきこととするのは雇用者側に都合のいい理論であり、典型的なブラック企業の詭弁なのだ。だが洗脳されてしまった社員達はそんなことにも気付くことができない。彼らが解放される日は一体いつになるのか。それは未だ、わからないままだった……
第七話 ブラック給料日 終