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第四話 ブラックパワーハラスメント


「くたばれえぇ!!」



 ロケット推進により秒速295mまで加速した対人破片榴弾はトロールの厚い皮膚を貫き、その体内で爆発する。体の中の諸々をぶちまけたトロールはその場で即死し、王命はあっさりと達成された。




「はっ、ちょろいもんだぜ」


「流石勇者様! 王もお喜びになるでしょう」



 そして帰ってきた勇者は王に報告に赴く。白亜の城の玉座に座った老人に笑顔を浮かべ、勇者は教わった通りの作法でもって報告を済ませた。



「見事なり勇者よ。時に……」


「は、何でしょうか」


「うむ。その方、商売を始めたとか聞く。金が要り用ならば我が国が提供するというのに、なぜだ?」


「はは~っ。ありがたきお申し出……しかし、私はまだこの世界に来て間もない身。そのような私が大金を授かれば、他の者からの反発も大きいでしょう。まずは自ら生計を立て、この国の一員として認められることを目指そうかと……」


「ううむ、そうか……何とも殊勝な心掛け! 痛み入ったぞ勇者よ。ならば何も言うまい。だがもし何か助けが居るならば遠慮なく申すが良いぞ」


「ありがたき幸せ……」



 謁見を終え、王城を出た勇者は周りに騎士や兵士が居ないのを確認してから、作っていた表情を崩す。



「はあ~……馬鹿がっ。誰がお前らの金なんか当てにするか……! そんな事すりゃ首輪をつけられたも同然じゃねえか……!」



 勇者は王に対し敬意や忠誠と言った物を全く持ち合わせていなかった。勿論それを表に出せばまずい事になるくらいはわきまえているため、地球のブラック勤めで培った作り笑顔で対応しているのだが。



「わざわざ呼び出してどうでもいい話を……王様もブラック社長も同じだな! まあ、今は雌伏の時って奴だ……そのうち、王だろうと何も言えねえような大物になってやるぜ……!」



 大それた野望を胸に抱き、まずはその第一歩たる社員8人のもとへと戻る勇者。当然、全員での出迎えと出張中に稼いだ金が出迎えると思っていたのだが……勇者を出迎えたのは、疲弊し、今にも倒れそうになった社員たちの姿だった。



「……何だこりゃ? おい、ニール! 留守はお前に任せたよな? どうなってる!?」


「少しでも勇者様のお役に立とうと、皆で仕事を増やそうと思いまして……夜の間にできる仕事を探し、寝る時間を半分にして……」


「働かせたのか?」


「はい……」


「この、馬鹿野郎があ!」


「ひっ……!」



 勇者は怒りを爆発させ、リーダーに任命したニールの胸ぐらをつかむ。



「俺はお前に言ったよな!? 一日一人ずつやすめってなあ!?」


「は、はい! 言いつけ通り一日一人ずつ……」


「馬鹿かてめえは!? 言ったことの意味を考えろよ! 1日休んだところで後の7日の睡眠時間が半分じゃ意味ねえだろうが!」


「も、申し訳ありません!」


「目先の事だけ考えてんじゃねえ! もっと大局を見て考えろ! ったく……明日は全員仕事無しだ! 一日休め!」


「は、はい!」


「ちっ……!」



 勇者は足音荒く自室へと戻る。残された社員たちがそれを見送る中、ニールは膝をついた。



「お、俺、勇者様のお役に立とうと……」


「大丈夫よニール。勇者様も言ったでしょ? みんな休みなさいって。言葉遣いは乱暴でも、私たちの事を思ってくださっているのよ」


「そうだよ、ちょっと頑張りすぎただけさ。ゆっくり休んで肩の力を抜こう? また明後日から、頑張ってとり返せばいいんだよ!」


「ああ、ああ……済まない、皆……」



 ニールは涙し、他の社員も厳しくも社員達を思っての言葉に、勇者の器の大きさを感じ取ったのだが……そもそも入って数日の人間にシフト管理をさせること自体が間違いであり、ほかの社員の前で説教をしたばかりか、一時の感情に任せて仕事を一日止めるなど、CEOとして不適格も(はなは)だしい行為、その尻ぬぐいも当然社員にやらせるつもりのため、結局勇者自身がニールと同じようなことをしているということに社員は誰も気づかないのだった。


第四話 ブラックパワーハラスメント 終

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