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第十話 ブラック人間関係


「ぶっ飛びやがれええぇぇぇぇぇ!!」



 口径120mmの榴弾が山なり弾道を描いて10秒に一発のペースで撃ち出される。小山の頂上に建てられた山賊の砦はものの数分で瓦礫の山と化した。



「よーし、終わりだな。帰るぞボルグ!」


「お、おづがれ、さま」



 勇者が新しく雇いいれた巨人、ボルグ。見た目通りの怪力は勇者の恩寵と相性が良く、これまで勇者一人では扱えなかった重装備を扱えるようになっていた。



「巨人種は、力はあるものの肉を大量に食うので割に合わないというのがもっぱらの評判なのですが……そのような種族も使いこなすとは、流石勇者様ですね」


「な~に、適材適所って奴よ。社員のマネジメントもデキる社長の仕事ってやつだからな。(生肉なんざ業務用鳥肉がグラム50円で買える……全然どうってことないぜ)」



 最近秘書業務が板についてきたユインに褒められて図に乗る勇者。しかしその足元で軋轢が生まれつつあるということには、まだ気付いていないのだった……



「勇者様、お出かけになるときはいつもボルグとね……」


「そりゃ、あいつは力もあるしな……」


「俺達も、もっと勇者様のお役に立ちたい……」



 実力主義の会社においては後から入社した社員の方が出世するということは良くある話。それ自体が悪いとは言い切れないが……それにより発生する不満を御しきれていないのでは、デキる社長とは言い難い。実のところ、ブラック企業において社員同士の人間関係は良好であることが少なくない。同じ環境に身を置く仲間意識などがそういう状況を作るとされているが、それすら無くなろうとしていた。



「ああ? お前たちも俺に同行したい?」


「はい! 私たちも勇者様のお役に立ちたいのです!」


「あ~……」



 勇者は回答を悩んだ。武器を持たせて同行させるという案は勇者も思いついていたのだが、人数分の武器弾薬となるとそれだけコストもかさみ、自分一人で対応できている現状、無駄になるだけではないかと考えていたのだ。ひとまず直訴に来たニールを下がらせ、どうしたものか考えている勇者だったが……



「勇者様、実は……」


「あん?」



 その勇者に、ユインが新たな王からの指令を告げる。



「現金輸送だ?」


「はい、隣国への債券が来月償還期限となりまして、馬車一台分の金を運び込まなければならないのです。量が量のため、護衛をしていただきたいのです」


「護衛、護衛な……」



 これまで勇者のこなしてきた指令は何かしらの敵を倒せというものばかり、護衛は初めての経験となる。常に気を張る必要上、複数人で当たるのが得策なのは明らかだった。



「よし……やってみるか」



 その日、勇者は報告会の後社員達を裏庭に集めた。そこには台に乗った自動小銃が4丁、用意されている。



「あ~、今日からこの武器……銃の特訓を行う! 来月テストをして成績が良かった4人を、次の出張に連れていくことにした! 当然出張手当も付く!」

『うおおおおおお!!』



 興奮する社員達。一見社員の意欲を上げたかのように見えるが、これにより同じ会社の中で仲間同士協力するのではなく、功を争うライバル同士になってしまう。会社は更なるブラック化の道を突き進んでいくのだった……



「違うわニール、こっちを先に動かさないと」


「ああ、そうか。難しいな……こんな物をいつも勇者様は使っているのか」


「あれ、メリアは?」


「まだ子供だから駄目だって勇者様に言われたんだって。部屋でふくれっ面してるよ」


「はは、まあしかたないか」



 仲の良い相手にだけ覚えたことを教える者、年齢で弾かれるもの、これまで曲がりなりにも平等だった社内に順位と格差が生まれようとしていた……


第十話 ブラック人間関係 終


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