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第一話 ブラック企業始めました

 一人の男が剣と魔法の世界へ転生した。神から与えられた恩寵、国家の最重要戦力としての信認、様々なサポートを受けた上で世界のためにその力を振るう……ヒーロー、あるいは勇者。そのような称号で呼ばれる立場として。


 しかしながらその男……



「(よっしゃ異世界来たあああ! しかもチート付き! 地球じゃできないあんなことやこんなことも! 好き放題だああああ!!)」



 果たして世界はどうなってしまうのだろうか……?


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主人公


年齢(肉体):20 年齢(精神):35 性別:男 生前の職:ブラック企業の社員

身長:172cm 体重:66kg


備考:正義とかそういうのにはあんまり興味が無いようだ。


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第一章 ブラック企業始めました



「おお、割と豪華じゃねえの!」



 召喚、王との対面や事情の説明、その他儀礼的なあれこれを済ませた男はさしあたりの宿舎として用意された家を訪れた。地球で言うなら大き目の一軒家、2階建てで寝室や食堂など一通りの設備は整っていて、敷地はさらに広かった。



「さて、と……」



 居間に座って、男はこれからの行動指針を定める。男に与えられた恩寵(チート)は『取引』。この世界と地球との間で物を交換することができる。その交換レートは地球側の価値に依拠する……転生するときの『神』の説明によればざっとそんな所だった。



「まあ、言ってしまえば金が要るわけだな……」



 この世界の金は金貨、銀貨、銅貨。王様から与えられた金貨を一枚交換に使うと、地球の既製食品やら何やらが一通り手に入った。それを齧りながら、思案する。



「(よくあるのはあれだよな、胡椒とか手に入れて大儲けする。しかし……)」



 その方法には問題があると勇者は考えていた。胡椒にせよなんにせよ、高値で売れる地盤があるということはそこで儲けている者が居るという事。そこにズカズカと踏み込んでいけば……



「潰されるっ……! 間違いなく……! いくら勇者だなんだともてはやされても、俺は所詮流れて来た個人……国にずっと根付いてきたギルドやらなんやらの財力と人脈には勝てないっ……!」



 多少の後ろ盾があるとはいえ、結局のところ自分は『使われるため』呼び出された存在。損失が利益を上回ると判断されれば、切り捨てられる……男は前世のブラック企業でそんな例をいくらでも見て来た。



「……いや、そうだ、俺にはそれがあるじゃないか!」



 指針を固めた男は眠りにつく。これから始まる自らの栄光に、顔はニヤ付いたままだった……


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恩寵(チート):『取引』


 地球とこの世界の物質を交換することができる。その際のレートは地球側の価値観を基準とする。交換と言っても直接物が地球と行き来するわけではなく、いわば存在の『価値』を別の物へと変換する能力である。


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「はっはあーーー!!」



 平原に笑い声と乾いた音が響く。王都の近くに現れたゴブリン達は、5.56mm弾の嵐の前にあえなく骸と化したのだった。



「おお!」


「凄い、これが勇者の力!」



 念のためにと着いてきた王国兵たちも、その光景に感嘆を漏らす。勇者はその恩寵を持って異世界の武器を手に取り、あっという間に敵をなぎ倒した。これで懐疑派もかの勇者の力を認めざるを得ない、王の慧眼は正しかったのだ、と。



「(物だけじゃなくて知識も交換できるとはな! これは思ったより便利な力だ……!)」



 今回交換したのは突撃銃と弾薬、さらにその扱い方の知識……言うなればインストラクターのサービスを交換した形になる。王から与えられたのが金貨50枚、思わず『ドラ●エか!』と叫びたくなった男だったが、普通は金貨50枚もあれば大概のものは買えるのだ。それはこの恩寵(チート)においても同じことだった。



「さて、腕試しはこんなもんで良いか。今日はもう予定ないよな?」


「あ、はい。よろしければ折を見て城下を案内せよと命を受けていますが……」


「おお、丁度いい、行きたい所があるんだ!」



 勇者は案内を名乗り出た若い女騎士……名をユインと言う。彼女を伴って王都に戻った。広場、王立厩舎、宿屋街や商店街を案内されたが、勇者は一通りの案内を終えた後、ユインに行き先を伝えた。



「奴隷……ですか?」


「ああ、あるんだろ?」


「は、でしたら貴族御用達の高級奴隷商を……」


「いや、そういうのじゃなくてだな……」


「は……?」


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ユイン


年齢:21 性別:女 職業:王国騎士

種族:人間 身長:162cm 体重:55kg

髪の色:黒色 目の色:青色 髪型 セミロングを束ねる


備考:武技は中の上くらい。勇者の案内・世話係も兼ねる。


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 勇者がユインに案内させたのは、場末の……借金、病気、異民族、その他……とにかく流れに流れた末行きつくような、最底辺の奴隷商だった。



「臭えな……豚小屋みてえな匂いだ」


「やはり、もっとマシなところへ……」


「いやいや、良いんだ、こういう所で」



 勇者は奴隷商と対面した。成金にもなり切れていないような、下手に出るが相手を値踏みし見下すような、とにかく深く付き合いたいとは思わない男だったが……



「いらっしゃいませ、お城の騎士様がお目見えとは! 奴隷をお探しで?」


「奴隷を探しているのはこちらの方だ。では勇者様、私は席を外しましょうか?」


「いや、別にいい」


「勇者!? へへえ、噂は耳にしましたが、まさか私共のような者の所へ来られるとは! それで……その勇者様が奴隷をご所望と。うちは安くて、どのように使い潰しても文句を言われないのが売りでして……どのような奴隷をお探しで」


「くっくっく、今の言葉でがぜん買う気が増して来たぜ」



 勇者は奴隷商に奴隷を見繕わせた。10~40代、人数は8人で男女同数。その条件のもと、奴隷が連れられてくる。鎖でつながれた彼らの目に光は無く、ぼさぼさの髪とボロボロの服が待遇の悪さを物語っていた。



「よしよし、大体想像通りだ。全員買って帰るぞ!」


「毎度あり!」



 勇者は奴隷を連れて家へと戻り、ユインもまた城へと戻る。しかしその胸には勇者への疑念が渦巻いていた。ユインは心優しい女性であったが、世の中というのものをわかってはいる。奴隷を買ったとして、それは仕方ない事だと思っていた。身の回りの世話をする者は必要なのだから。しかし、安くて汚い奴隷を数多くそろえるというのは……労働以外の、別の目的があるように思えてならなかった。



「(もしや我々は、とんでもない悪漢を呼び寄せてしまったのではないだろうか?)」



 ユインはそんな危機感を胸に抱いていた。もしその危惧が当たっていれば……相応の対応が必要になるだろうとも。そしてその数日後、新たな王命を携えてユインが勇者の家を訪れる。そこで見たものは……


『よろしくおねがいしまああああああす!!!』



 全員が同じ清潔な服を着て、勇者の前に整列し、元気に声を上げている姿だった。



「おう、なんだユイン、また来たのか」


「え、ええ……勇者様、これは一体?」


「くくく……決まってんだろ、『朝礼』だ」


「朝礼?」


「ああ、良いか。おれはな……今日から『社長』だ!」




第一章 ブラック企業始めました 終


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[良い点] ブラック企業をちゃんと脱した人なら笑える [気になる点] 人によっては、トラウマが蘇るが タイトルでフィルターかかるから 多分大丈夫だと思う [一言] ブラック企業を超えるとされる 笑えな…
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