名乗りしおっさん
一難去ってまた一難とはよく言ったものだ。
タヌキを倒したおっさんだったが、またもや周辺からガサガサと聞こえる。
(こ、今度はなんだよ…!)
おっさんは疲れた身体をもう一度起こして折れた枝を構える。
「この辺りから声が聞こえた気がしたが…」
おっさんの緊張が再び高まる。
ガサッ!
再び、大きな音を立てて草むらから出てきたのは二本の角を生やした人型の生物、つまり魔族だ。
またもや流れる静寂。それを破ったのは魔族だった。
「人間風情がこんなところで何をやっている…?」
怪訝そうにそう言う魔族だが、表情は怪訝というより怒りが滲み出ている。
おっさんは内心死んだと思っていた。現れたのが魔族だったからだ。
「答えろ!」
魔族は怒りを露わにして怒鳴る。
「わ、私は…えと…あの…そ、そうだ!レイシス!…さまに召喚され、魔族として生きる事を誓った者です!」
「レイシス様に召喚された…?もう少しまともな嘘をついたらどうだ?」
おっさんは最初こそどもったが我ながら良く舌が回った、などと思ったが魔族に一蹴されてしまった。
しかし、
「だが人間風情、しかもどう見ても雑魚がレイシス様の名前を知っているのもおかしな話だ。本当に魔族ならば背中に紋章が刻まれているハズだ。」
魔族はそう言った。
(背中に…紋章…?そんなもの刻んでもらってない…!)
万事休す、そう言われても背中に紋章を刻まれた記憶など無いおっさんは死を覚悟して背中を見せる。
「…!な、なんだと…!まさか、本当に刻まれているとは…!しかもレイシス様直々の刻印…!階級は…下級か。」
おっさんは訳がわからなかった。紋章が刻印された記憶など無かったのだから。
(まさかあの時か…?)
おっさんはこの世界に来る直前、背中に鈍い痛みと強烈な熱さを感じて倒れたのを思い出した。
「疑った事を謝るつもりなど無いが仲間を殺すつもりもない。名を聞かせろ。」
魔族の言葉におっさんはハッと我にかえる。
「あ…私の名前は海斗、天音海斗です。年は48、召喚されたばかりで何もわかりません。」
48のおっさんの名前にしてはカッコよかった。
「カイトか、俺はアステル、この森の管理を任されている者だ。とそれは置いといて、仲間として迎え入れる以上お前にも働いてもらわなければならない。お前の能力を教えてくれ。能力の見方は自分に対して意識を集中するだけだ。」
アステルの森の管理者アステル。それは実質この森の魔族の最高権力者だ。カイトはまたも運の良い出会いをしたのだ。
カイトはアステルに言われた通り自分に意識を集中し、自分の能力を知るのだった。
おっさんを遂に名乗らせました。